ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。
ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。
ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。
出生前の段階では、ダウン症候群は超音波検査や母親の血液検査の結果から疑われ、絨毛採取や羊水穿刺という検査で確定されます。
出生後の診断としては、身体的な外見から疑われ、余分な21番染色体が(通常は血液サンプルの検査で)認められれば確定されます。
ダウン症候群の小児の大半は、死亡することなく成人になります。
ダウン症候群には根治的な治療法がありませんが、この症候群によって生じる具体的な症状や異常の一部は、治療することができます。
(染色体異常症の概要も参照のこと。)
染色体は、細胞の中にあってDNAや多くの遺伝子が格納されている構造体です。遺伝子とは、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域で、物質としてはDNA(デオキシリボ核酸)で構成されています(遺伝学についての考察は see page 遺伝子と染色体)。遺伝子には、体がどのような外観や機能をするかを定めた詳細な指示が記録されています。
ある染色体が1本余分に存在し、同じ番号の染色体が(正常の2本ではなく)合計で3本になった状態をトリソミーといいます( see also page 染色体異常症と遺伝子疾患の概要)。新生児で最もよくみられるトリソミーは、21トリソミー(ヒトで最も小さい染色体である21番染色体が3本ある状態)です。胚の段階では、あらゆる染色体でトリソミーが起きる可能性がありますが、余分な染色体が大きいほど、最終的に流産や死産につながる可能性が高くなります。ダウン症候群の症例の約95%は21トリソミーが原因です。そのため、ダウン症候群の人のほとんどは正常の46本より多い、47本の染色体をもっています。ダウン症候群の人の約3%は、46本の染色体をもっていますが、21番染色体の余分にある部分が他の染色体と結合する異常(転座といいます)のため、異常ではあるものの過剰ではない染色体が形成されています。
余分な染色体が父親から受け継がれることはまれで、1組のカップルに余分な染色体をもつ子どもができるリスクは、母親の年齢とともに徐々に高くなっていきます。しかし、比較的低い年齢での出産が大半を占めているため、ダウン症候群の乳児のうち35歳以上の女性が出産した乳児の割合は20%ほどしかありません。ダウン症候群の女性が妊娠する子どもは、50%の確率でダウン症候群となります。しかし、この症候群をもつ胎児の多くは自然流産になります。ダウン症候群の男性は、モザイク型のダウン症候群である場合を除き、生殖能力がありません。モザイク型のダウン症候群の人は、2種類の細胞を併せもっています。具体的には、通常通り46本の染色体をもつ細胞と、47本の染色体をもつ細胞が混在しています。染色体の数が47本の細胞には、余分な21番染色体が1本含まれています。
ダウン症候群の合併症
ダウン症候群では、体の多くの部分が影響を受けます。必ずしもすべての合併症が起きるわけではありません。
ダウン症候群の症状
ダウン症候群では、一般的に身体と精神の発達が遅れます。
身体的な発達
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ダウン症候群の乳児は、おとなしく受動的な傾向があり、めったに泣きません。多くの乳児に心臓と消化器の先天異常がみられ、筋肉の緊張が若干低下しています。ダウン症候群の小児は頭が小さく、顔は広く扁平で、つり上がった眼と低い鼻をもつ傾向があります。しかし、出生時には正常に見え、幼児期に特徴的な顔つきになる場合もあります。舌が大きいこともあります。舌が大きいことに加えて、顔の筋肉の緊張が低いため、しばしば口を開いたままになります。首の後ろの皮膚が余っていることもあります(項部皮膚のたるみ)。耳が小さくて丸く、頭部の低い位置に付いています。
手は一般的に短く幅広で、手のひらを横切る1本のしわがみられます。指は短く、第5指の関節は3つではなく2つしかないことが多く、内側に曲がっています。足趾の第1趾と第2趾の間が広くなっています(サンダルギャップ)。ダウン症候群の小児はしばしば低身長で、肥満になるリスクが高いです。
ダウン症候群の小児の約半数では、出生時から心臓の異常がみられ、中でも特に多いのが心室中隔欠損症と房室中隔欠損症です。約5%の小児では消化管の問題がみられます。ヒルシュスプルング病とセリアック病も、この症候群の小児で通常より多くみられます。難聴がみられることもあり、耳の感染症を繰り返す傾向があります。また、視覚障害を起こす傾向もあり、白内障がみられることもあります。首の関節が不安定になっていることもあり、それにより脊髄が圧迫される結果、歩き方と腕や手の使い方に変化が生じたり、排便や排尿の機能障害、筋力の低下などが起きたりします。ダウン症候群の人の多くが甲状腺疾患(甲状腺機能低下症など)と糖尿病を発症します。また、感染症や白血病の発生リスクも高く、さらに閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症リスクもはるかに高いです。
精神的な発達
ダウン症候群の診断
出生前:胎児の超音波検査または母親の血液検査
絨毛採取、羊水穿刺、またはその両方
出生後:乳児の外見と乳児の血液検査
(次世代シークエンシング技術も参照のこと。)
出生前の段階では、胎児の超音波検査で認められた異常や、妊娠15~16週目の母親の血液検査で認められた特定のタンパク質やホルモンの異常値から、ダウン症候群が疑われることがあります。母親の血液中に含まれる胎児のDNA(デオキシリボ核酸)を検出する検査を行うこともでき、そのDNAを分析して、ダウン症候群のリスクが高いかどうかを判断することもできます。この検査は非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)やセルフリー胎児DNA分析と呼ばれています。これらのスクリーニング検査の結果からダウン症候群が疑われたら、多くの場合、絨毛採取、羊水穿刺、またはその両方を行って診断を確定します( see page 染色体異常と遺伝子異常の検査)。
妊娠20週より前にダウン症候群のスクリーニングと診断検査を受けることが、年齢にかかわらず、すべての女性に推奨されています。
出生後、ダウン症候群の乳児には診断を示唆する特徴的な外見が一般的に認められます。通常は診断を確定するために、乳児の血液で検査を行います。
診断が確定したら、専門医による診察のほか、心臓の超音波検査(心エコー検査)や血液検査などを行ってダウン症候群に合併する異常がないか調べます。発見された異常を治療することで、それによる健康障害を予防できる場合も多くあります。そのため、この症候群の小児には甲状腺の病気、視覚障害、聴覚の異常について定期的にスクリーニングを行うべきです。
ダウン症候群の小児用に特別に考案された成長曲線を用い、小児健診のたびに身長、体重、頭囲を記録します。閉塞性睡眠時無呼吸症候群についても評価を行います。首の痛みや神経痛、筋力低下、その他の神経症状がみられる場合は、頸椎のX線検査を行って、頸椎が不安定になっていないか確認します。スペシャルオリンピックスなどのスポーツ行事への参加を希望するダウン症候群の小児と成人も、頸椎のX線検査を受ける必要があります。
ダウン症候群の予後(経過の見通し)
ダウン症候群の予後は、過剰な染色体によって引き起こされる他の病気(18トリソミーや13トリソミーなど)の大半と比べて良好です。
老化が普通より早く進むと考えられていますが、ダウン症候群の小児の大半が成人になります。平均余命は約60歳で、一部の患者は80代まで生存します。アルツハイマー病に似た記憶障害、さらなる知能低下、人格の変化といった認知症の症状が、比較的低い年齢で現れることがあります。心臓の異常はしばしば薬剤や手術で治療できます。ダウン症候群の人の死因の大半を占めるのは、心臓の病気と白血病です。
最近の研究結果から、ダウン症候群の黒人は白人と比べて寿命がかなり短いことが示されています。この知見は、医療、教育、その他の支援サービスを十分に受けられていないことの結果である可能性があります。
ダウン症候群の治療
具体的な症状や異常に対する治療
遺伝カウンセリング
ダウン症候群には根治的な治療法がありません。しかし、この症候群によって生じる具体的な症状や異常の一部は、治療することができます。心臓と消化器の異常には、手術で修復できるものがあります。甲状腺機能低下症がみられる人には甲状腺ホルモン補充療法を行います。
ダウン症候群の人に対するケアの一貫として、家族に対する遺伝カウンセリング、社会的支援、および知的機能の水準に合わせた教育プログラムの作成を行うべきです(知的能力障害の治療を参照)。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
最新の研究や基金情報、専門家や一般向けのトレーニング、教材、関連トピックへのリンクをはじめ、包括的な情報については、以下のサイトを参照してください。
全米ダウン症候群会議(National Down Syndrome Congress [NDSC])
全米ダウン症候群協会(National Down Syndrome Society [NDSS])