小児の成長ホルモン欠損症

執筆者:Andrew Calabria, MD, The Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2024年 4月
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やさしくわかる病気事典

成長ホルモン欠損症は、下垂体から十分な成長ホルモンがつくられない場合に起こります。

  • 成長ホルモン欠損症は、最もよくみられる下垂体ホルモン欠損症で、全般的な発育不良と低身長を伴います。

  • 成長ホルモン欠損症のその他の症状は、小児の年齢と欠損症の原因によって異なります。

  • 成長ホルモン欠損症の原因は特定されないことがほとんどですが、ときに先天性疾患や脳腫瘍が原因のことがあります。

  • 診断は身体診察、小児の成長曲線の確認のほか、X線検査、血液検査、遺伝子検査、刺激試験、画像検査などの検査に基づいて下されます。

  • 治療は、一般的にはホルモン補充療法を含みます。

ホルモンとは、体の他の部分の働きに影響を与える化学伝達物質のことです。成長ホルモンは、脳の基底部にある下垂体から分泌され、体の成長と発達を調節します。

下垂体:内分泌中枢

下垂体は、脳の底部にあるエンドウマメ大の腺で、いくつかのホルモンをつくっています。これらのホルモンは、それぞれ体の特定部位(標的器官または標的組織)に影響を及ぼします。下垂体は体内の様々な内分泌腺機能を制御するため、しばしば内分泌中枢と呼ばれます。

ホルモン

標的器官または組織

副腎皮質刺激ホルモンACTH

副腎

ベータメラノサイト刺激ホルモン

皮膚

エンドルフィン

脳と免疫系

エンケファリン

卵胞刺激ホルモン

卵巣または精巣

成長ホルモン

筋肉と骨

黄体形成ホルモン

卵巣または精巣

オキシトシン*

子宮と乳腺

プロラクチン

乳腺

甲状腺刺激ホルモン

甲状腺

バソプレシン(抗利尿ホルモン)*

腎臓

*これらのホルモンは視床下部でつくられますが、下垂体が貯蔵および分泌を担っています。

下垂体から分泌される成長ホルモン量が少なすぎると、成長が異常に遅くなって低身長となります。成長ホルモンが不足している小児では、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンなどの他の下垂体ホルモンも不足していることがあり、この病気は下垂体機能低下症と呼ばれています。

低身長とは、身長が年齢相当の身長(年齢と身長の標準成長曲線に基づきます)の3パーセンタイル未満の場合と定義されます。低身長は、成長ホルモンの不足だけでなく、他の理由で起こることもあります。例えば、低身長の小児および青年のほとんどは、家系的に低身長であるか、成長スパートが正常な成長期の終盤に起こったために低身長になったケースです。体重増加不良や栄養不良、または甲状腺、心臓、肺、腎臓、腸などを侵す特定の慢性疾患が原因で低身長となる小児もいます。例えば、ターナー症候群骨系統疾患など、骨成長に影響を及ぼす遺伝性疾患が原因の場合もあります。

他のホルモン異常を伴わず、成長ホルモンの運筆量が不足する原因は、ほとんどの場合不明です。しかし、約25%の症例では以下のような原因が特定されます。

  • 遺伝子の異常

  • 脳の異常、腫瘍、感染症(髄膜炎など)、または損傷

  • 治療に用いられる放射線

  • 組織球症(肺の病気)

成長ホルモン欠損症の症状

成長ホルモン欠損症の症状は、年齢や原因など様々な要因によって異なります。

全体的に成長が遅くなります。通常は成長のペースが4歳未満では年間6センチメートル未満、4~8歳では年間5センチメートル未満、思春期前では年間4センチメートル未満となります。大半が低身長となりますが、上半身と下半身のプロポーションは正常です。一部の小児では歯の発達に遅れがみられることがあります。

成長ホルモン欠損症の原因に応じて、他の異常も認められることがあります。成長ホルモン欠損症の新生児では、血糖値の低下(低血糖)、黄疸(高ビリルビン血症)、または小さい陰茎(小陰茎、男児の場合)や顔面の異常(口蓋裂など)といった先天異常がみられることがあります。小児期には思春期が始まらなかったり、思春期の遅れがみられたりする場合があり、体重の増加が成長と不釣り合いで、結果として肥満になることがあります。中枢性甲状腺機能低下症など、他のホルモン欠乏症の症状がみられることもあります。

成長ホルモン欠損症の診断

  • 医師による成長基準に照らした身長の評価と、成長の遅延を引き起こすことが知られている病気の既往歴

  • X線検査

  • 血液検査および他の臨床検査

  • ときに遺伝子検査

  • MRI検査

  • 一般的には、刺激試験

血液中の成長ホルモン濃度は大きく変動するため、小児の成長が遅延している理由を特定する上で、他のホルモン濃度のようには役に立ちません。このため、医師は様々な所見を総合的にみて診断します。

医師はまず小児の身長と体重を測定し、測定値を年齢別の成長曲線に当てはめて、成長が遅延しているかどうかを判断します。その後、しばしば手の骨のX線検査(X線画像による骨年齢評価)を行います。このようなX線検査では、小児の骨が年齢にふさわしい正常な発達をしているかどうかを見ることができます。ただ単に身長が低い小児は、年齢に応じた正常な骨の発達を示します。成長ホルモン欠損症の小児は、骨の発達が遅れています。骨の発達の遅れは、甲状腺機能低下症思春期の遅れなど、他の状況でも起こる可能性があります。

成長ホルモンの分泌量の評価は、分泌量が1日の中で変動するため、困難です。その結果、随時に測定した成長ホルモン濃度はしばしば役に立ちません。その代わり、医師は成長ホルモンによって刺激を受ける他の物質の血中濃度を血液検査で測定します。このような物質には、インスリン様成長因子1やインスリン様成長因子結合タンパク質3などがあります。しかし、これらの物質は甲状腺機能低下症セリアック病低栄養などの他の病態によっても影響を受けることがあるため、それらの病態の可能性を否定するための検査を行うこともあります。

発育不良の他の原因(甲状腺疾患、血液疾患、腎疾患、炎症性疾患、免疫疾患など)を探すために他の臨床検査を行います。小児が特定の病気(ターナー症候群など)にかかっているのではないかと医師が疑った場合、遺伝子検査も行われることがあります。

検査の結果、下垂体の病気が示唆された場合、MRIによる脳の画像検査を行い、下垂体に構造的異常や腫瘍がみられないかを確認することがあります。

発育不良の他の原因がなく、成長ホルモンの値が低い場合、医師は一般的には刺激試験を行います。刺激試験では、医師は成長ホルモン分泌を刺激する薬剤を投与し、成長ホルモン濃度を数時間にわたって測定します。

成長ホルモン欠損症の治療

  • 成長ホルモン補充療法

  • ときに他のホルモンの補充

小児に合成成長ホルモンを注射します。注射は通常1日1回行いますが、新しいタイプの成長ホルモンは週1回注射します。ホルモンの補充は、小児が受容できる身長に達するか、小児の身長の伸びが1年に約2.5センチメートルを超えなくなるまで続けます。治療の最初の1年間に、身長が10~12センチメートル伸びる小児もいますが、反応は個人によって異なります。

通常、成長ホルモン療法の副作用はありませんが、一部の小児では脚の軽度のむくみ(通常は速やかに消失します)がみられたり、まれに脳内の圧力の上昇(特発性頭蓋内圧亢進症)や大腿骨頭すべり症(膝や股関節の痛みや跛行として現れる大腿骨上部の異常)などのより重篤な副作用がみられたりする場合もあります。

下垂体が正常に機能していても、低身長の小児の身長を伸ばすために成長ホルモンを用いる場合がありますが、これには賛否両論があります。低身長を病気だと考える親もいますが、多くの医師は身長が低いという理由だけでは成長ホルモンの投与を承諾しません。低身長の原因が何であれ、成長ホルモンが効果を発揮するのは、骨が成長を終える前に投与した場合に限られます。

脳腫瘍が特定された場合、手術によって取り除くことが可能な場合もありますが、手術によって下垂体が損傷するおそれがあるため、小児が下垂体機能低下症を発症するリスクが高くなります。下垂体機能低下症の小児には、不足しているホルモンを補充するためにホルモンが投与されます(下垂体機能低下症の治療を参照)。

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