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小児と青年における糖尿病

執筆者:Andrew Calabria, MD, The Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2024年 4月
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やさしくわかる病気事典

糖尿病は、体が必要とするインスリンが十分に産生されない、または産生されたインスリンに体が正常に反応しないため、血糖値が異常に高くなる病気です。

本ページのリソース

  • 糖尿病とは、インスリンの生産量低下、またはインスリンの効果低下、あるいはその両方が原因で、血糖値が上昇(高血糖)し、それに伴って生じる一連の病態のことをいいます。

  • 診断時の典型的な症状として、強いのどの渇き、排尿の増加、体重の減少などがあります。

  • 診断は症状や尿と血液の検査結果に基づきます。

  • 治療法は糖尿病の種類によって異なりますが、インスリン注射またはその他の薬剤、選択する食品の変更、運動、減量(過体重の場合)などを行います。

糖尿病の症状、診断、治療は、小児も成人もほぼ同じです。しかし、小児では、糖尿病の管理がより複雑になる場合があります。小児の身体面や精神面の成熟度に応じて、また常に変化する食物の摂取量、身体活動、ストレスなどに応じて、管理方法を変えなければなりません。

血糖値

糖尿病では血液中の糖の量に問題が生じます。

糖には多くの種類があり、2種類の単純な糖(単糖)が結合したものもあります。通常、料理に使われたり、コーヒーや紅茶に加えられたりする白い顆粒状の糖はショ糖(スクロース)です。ショ糖は、サトウキビやビートなどに含まれている天然の物質です。ショ糖はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)という2種類の単糖からできています。また別の種類の糖である乳糖(ラクトース)は、ミルクに含まれています。乳糖はブドウ糖とガラクトースという2種類の単糖からできています。

ショ糖と乳糖は、単糖に分解されないと、腸で吸収されません。ブドウ糖は体のエネルギー源として主要な糖であり、ほとんどの糖が吸収過程や吸収後にブドウ糖に変換されます。そのため、医師が血糖について説明する場合、実際には血液中のブドウ糖のことを話しています。

正常であれば、血液中のブドウ糖の量(血糖値)は1日を通して変動します。血糖値は食後に上昇し、食後約2時間以内に食事前の値に戻ります。血糖値が食事前の値に戻ると、インスリン生産量が低下します。通常の血糖値の変動幅は狭く、健康な人で約70~110mg/dL(3.9~6.1mmol/L)です。炭水化物を大量に摂取した場合、血糖値はより高くなります。

インスリン

インスリン膵臓から分泌されるホルモンです。インスリンは血液中のブドウ糖の量を調節し、ブドウ糖が血液から細胞に取り込まれるようにします。インスリンの量が十分でないと、ブドウ糖は細胞内に取り込まれず、血中に蓄積します。血中のブドウ糖の濃度が上昇すると、ブドウ糖が尿中にみられるようになります。尿中のブドウ糖によってより多くの水分が尿に取り込まれることになり、結果、尿量が増加します(多尿)。そして、のどが渇き、たくさんの水分をとるようになります(多飲症)。インスリンがないと、電解質の問題脱水が起こる可能性があります。また、インスリンが欠乏すると、脂肪とタンパク質の分解が進みます。

小児と青年における糖尿病の種類

小児の糖尿病の種類は、成人の糖尿病と同じです。糖尿病の種類には以下のものがあります。

  • 前糖尿病状態(prediabetes)

  • 1型糖尿病

  • 2型糖尿病

前糖尿病状態(prediabetes)

前糖尿病状態(prediabetes)と呼ばれる病態は、血糖値が正常よりは高いものの、糖尿病とされるほど高くはない状態です。小児科領域では、前糖尿病状態(prediabetes)は肥満の青年に多くみられます。青年の半数では一時的なものですが、残りの半数は糖尿病を発症し、特に体重の増加が持続した青年でその傾向が強くみられます。

1型糖尿病

1型糖尿病は、膵臓がインスリンをほとんど作れないか、あるいはまったく作れない場合に起こります。1型糖尿病は、小児の糖尿病で最もよくみられる種類で、全症例の約3分の2が1型糖尿病です。また1型糖尿病は、小児の慢性疾患で最もよくみられるものの1つでもあります。18歳までに、300人に1人の小児で1型糖尿病が発生します。

1型糖尿病は小児期を通じていつでも発生する可能性があり、乳児が発症することさえありますが、通常は4~6歳または10~14歳に現れます。

1型糖尿病の原因は、インスリンを作る膵臓の細胞(膵島細胞)が免疫系から攻撃を受けて破壊され、そのため十分な量のインスリンが作られないことにあります。このような免疫系からの攻撃は、糖尿病を発症しやすくなる特定の遺伝子を受け継いだ人が、様々な環境因子から影響を受けることで誘発される可能性があります。このような遺伝子は特定の民族(スカンジナビア人やサルデーニャ人など)でより多くみられます。

1型糖尿病患者の近親者では、糖尿病の発生リスクが高くなります。兄弟姉妹のリスクは約6%で、一卵性双生児のリスクは50%を上回ります。両親とも1型糖尿病である小児が糖尿病になるリスクは、父親が1型糖尿病の場合は約4~9%、母親の場合は約1~4%です。

1型糖尿病の小児では、いくつかの自己免疫疾患(免疫系が自分の体を攻撃してしまう病気)を併発するリスクがあり、特にある種の甲状腺の病気セリアック病のリスクが高くなります。

2型糖尿病

2型糖尿病は、体の細胞がインスリンに十分に反応しない(インスリン抵抗性と呼ばれます)ために起こります。1型糖尿病とは違って、膵臓はインスリンを作ることはできますが、インスリン抵抗性に対抗するだけの十分な量のインスリンを産生できません。この欠乏は、1型糖尿病でみられる絶対的欠乏に対し、相対的インスリン欠乏としばしば呼ばれます。

小児の2型糖尿病は主に青年に発生しますが、過体重(体重が年齢、性別、身長が同程度の小児の上位85%以上に入る状態)や肥満(体重が年齢、性別、身長が同程度の小児の上位95%に入る以上)の幼児でも、ますます多くみられるようになってきています。1990年代までは、糖尿病を発症する小児の95%以上が1型糖尿病でしたが、現在では糖尿病と新たに診断される小児の3分の1は2型糖尿病であり、その主な原因としては、過体重や肥満の小児の数が増えていることがあげられます。

2型糖尿病は通常、思春期が始まってから発症します。小児の多くが10~14歳の間に2型糖尿病を発症しますが、最も発症率が高いのは15~19歳の青年期後半です(青年期の肥満を参照)。2型糖尿病の小児の大半では、第1度近親者(親、兄弟姉妹)または第2度近親者(父親または母親のどちらか一方のみが異なる兄弟姉妹、おば、おじ、祖父母)に2型糖尿病の人がいる可能性が、1型糖尿病の小児と比べてはるか高いです。

小児の2型糖尿病の増加は、特にアメリカ先住民、黒人、ヒスパニック系、アジア系アメリカ人、太平洋諸島系の間で顕著にみられます。

2型糖尿病の発生リスクが高いその他の小児は、以下のような小児です。

知っていますか?

  • 2型糖尿病は肥満の人に発生するのが一般的です。

小児と青年における糖尿病の症状

高血糖によって、様々な直接的症状や長期的な合併症が引き起こされます。

1型糖尿病

1型糖尿病では症状が迅速に進行し(通常は数日から数週間)、しかも、かなり典型的な症状が現れる傾向があります。高血糖になった小児は尿量が増加します。夜尿症を起こしたり、日中に膀胱をコントロールできなくなったりします。トイレトレーニングを受けていない小児では、おむつの濡れる回数や重さが増える場合があります。これにより水分が失われるため、のどの渇きを訴え、飲みものの摂取量が増えます。

患児の約半数で体重が低下し、成長障害がみられます。

脱水状態になって、筋力低下、疲労、頻脈がみられることもあります。血中のケトン体(脂肪が分解されるときの副産物)により吐き気や嘔吐(おうと)が生じることもあります。目がかすむこともあります。

症状が糖尿病によるものであると気づかれずに、治療を受けないと、糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる生命を脅かす病気を発症する可能性があります。

2型糖尿病

多くの小児で症状が現れないか、症状があっても軽度であるため、血液または尿の検査を別の理由で(スポーツやキャンプの前の健康診断などで)行ったときに初めて2型糖尿病が発見される場合があります。

2型糖尿病の小児の症状は1型糖尿病よりも軽く、進行はゆっくりしています。のどの渇きや尿量の増加、または疲労感のようなあまりはっきりとしない症状に親が気づくことがあります。

2型糖尿病の小児がケトアシドーシスを発症する可能性は1型糖尿病の小児より低いですが、ケトアシドーシスや高浸透圧性高血糖状態(重度の脱水と錯乱がみられる病態)はやはり発生する可能性があります。

小児と青年における糖尿病の合併症

糖尿病により、直接的な合併症と長期的な合併症が起こる可能性があります。最も重篤な直接的合併症は糖尿病性ケトアシドーシスです。

長期的合併症は、通常はメンタルヘルスの問題によって起こるか、血管の障害が原因で起こります。血管の障害が起こるには何年もかかりますが、糖尿病の管理がうまくいけば、合併症が現れる可能性もそれだけ低くなります。

糖尿病性ケトアシドーシス

DKAは1型糖尿病では最大4分の1の小児で診断時に認められ、ときに2型糖尿病の小児でも診断時に認められます。

DKAは、過去に1型糖尿病と診断された小児でも多くみられます。毎年、1型糖尿病の小児の約1~10%で発生し、通常は処方されたインスリンを使用していないことが原因です。過去にDKAを発症したことのある小児、困難な社会的状況に直面している小児、うつ病や他のメンタルヘルスの問題を抱えている小児にもDKAが発生する可能性があり、糖尿病の管理方針に影響を及ぼす場合があります。インスリン投与の問題(例えば、インスリンポンプの故障)は、急速にDKAの発生につながる可能性があります。またDKAは、糖尿病の小児が病気になったときに十分な量のインスリンが投与されなかった場合にも発生する可能性があります(病気にかかったときはインスリンの必要量が増えます)。

インスリンがないと、細胞は血液中にあるブドウ糖を利用できません。そのため、細胞は予備のメカニズムに切り替え、脂肪を分解してエネルギーを作り出しますが、そのときに副産物としてケトンと呼ばれる化合物が生産されます。

ケトンは血液を酸性にし(ケトアシドーシス)、吐き気や嘔吐、疲労感、腹痛を引き起こします。このケトンによって、患児の息はマニキュアの除光液のような匂いを発します。体が血液の酸性度を正常に戻そうとするため、呼吸が深く速くなります(酸塩基平衡の概要を参照)。頭痛が起こったり、錯乱や注意力の低下が起こる場合もあります。このような症状は、脳内に水分がたまる脳浮腫によって生じている可能性があります。

DKAの治療をしないと、進行して昏睡に陥り、死亡することもあります。DKAの小児では脱水状態もみられ、また血液中の他の化学物質の均衡もしばしば乱れ、カリウムやナトリウムなどが異常値を示します。

メンタルヘルスの問題

糖尿病の小児では、メンタルヘルスの問題(支援を参照)がよくみられます。最大で半数の患児で、うつ病や不安などの心理的問題(小児と青年における精神疾患の概要を参照)が起こります。

インスリンによって体重が増加するため、青年では摂食症が極めて深刻な問題となり、体重をコントロールしようと青年がインスリン投与をときに抜かすことがあります。

メンタルヘルスの問題は、患児が食事や投薬の計画を遵守する能力に影響を及ぼすことがあり、その結果、血糖コントロールが不良となります。

血管への影響

糖尿病により、最終的には細い血管と太い血管に狭窄が生じます。血管の狭窄により、多くの様々な臓器が障害を受ける可能性があります。血管の狭窄は糖尿病が発生してから数年以内に起こり始めますが、臓器の障害が明らかになるには通常、何年もかかり、小児期に認められることはまれです。

細い血管の損傷による影響は、眼、腎臓、神経で最も多くみられます。糖尿病によって眼の血管が損傷する(糖尿病網膜症)と、視力障害が起こることがあります。腎臓に損傷が生じると(糖尿病性腎症)、結果として腎不全が起こる可能性があります。神経の損傷(糖尿病性神経障害)により、腕や脚にしびれ、ピリピリ感、灼熱痛が起こる場合もあります。これらの問題は1型糖尿病より2型糖尿病の小児に多くみられます。2型糖尿病の小児では、これらの問題が診断時やそれより前からみられることもあります。

太い血管の損傷としては、心臓と脳の動脈の損傷が最も多くみられます。糖尿病の小児にみられる血管の変化は高血圧につながると考えられています。冠動脈(心臓自体に血液を供給する動脈)の狭窄により心臓発作が起こる可能性があります。脳に血液を送る動脈が狭窄すると、脳卒中が生じます。心臓発作や脳卒中は、小児期には通常みられませんが、後年に発生する可能性があります。

小児と青年における糖尿病の診断

  • 血糖値検査

  • ヘモグロビンA1c(HbA1c)検査

  • ときに経口ブドウ糖負荷試験

  • 糖尿病の種類(1型、2型)の判定

糖尿病の診断には2つの段階があります。医師はまず小児が糖尿病かどうかを判定し、その後に糖尿病の種類を特定します。合併症が疑われる小児には、その他の検査も行います。

小児における糖尿病の診断

糖尿病の典型的な症状がみられる場合や、通常の健康診断時に行った尿検査で糖が検出された場合に、医師は糖尿病を疑います。血糖値を測定して、診断を確定します。

血糖値の測定は、朝食をとる前か(空腹時血糖値と呼ばれます)、または食事をとるタイミングに関係なく(随時血糖値と呼ばれます)行うことができます。小児に糖尿病の典型的な症状がみられ、かつ血糖値が高い場合に糖尿病であると判断されます。2回の検査で空腹時血糖値が126mg/dL(7.0mmol/L)以上であれば、その小児は糖尿病ということなります。任意の時点で測定した血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)以上であれば、おそらく糖尿病ですが、空腹時血糖値を測定して確認する必要があります。

医師はまた、血液中に含まれるヘモグロビンA1c(HbA1c)というタンパク質の濃度も測定します。ヘモグロビンは、赤血球内にある赤色の物質で、酸素を運びます。一定期間にわたって血糖値の高い状態が続くと、ブドウ糖がヘモグロビンに結合し、HbA1cが形成されます。HbA1cは形成と分解に比較的長い期間を要するため、血糖値のように分毎に変化するのではなく、数週間から数カ月間の期間で濃度が変化します。このため、HbA1c値は2~3カ月間の血糖値を反映します。HbA1c値が6.5%以上の小児は、糖尿病とみなされます。HbA1cの測定値は、典型的な症状を示していない2型糖尿病の小児の診断で特に助けになります。

もう1つの血液検査は、経口ブドウ糖負荷試験と呼ばれ、小児に症状がみられないか、あっても軽度か非典型的な場合に実施されることがあります。この検査では、まず絶食状態の小児から採血して空腹時血糖値を測定し、次に、多量のブドウ糖が含まれる特殊な溶液を飲ませます。医師は2時間後に血糖値を測定します。血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)以上であれば、小児は糖尿病であると判断されます。この検査は、妊婦が妊娠糖尿病であるかどうかを判断するために行う検査に似ています。

糖尿病の種類および病期の診断

1型糖尿病を2型糖尿病を鑑別するには、血液検査を行って、膵臓のインスリン分泌細胞が生産する様々なタンパク質に対する抗体を検出します。抗体は微生物などの異物を撃退する上で重要な物質ですが、ときに正常な細胞を攻撃することがあります。糖尿病の場合、攻撃を受ける可能性がある正常な細胞の例として、インスリンインスリンに関連する他の化学物質を生産する細胞が挙げられます。1型糖尿病の小児では通常このような抗体が認められますが、2型糖尿病の小児で認められることはまれです。1型糖尿病は自己免疫疾患の一種です。

1型糖尿病と診断したら、病期を特定することができます。1型糖尿病は以下の段階を経て進行していきます。

  • 1期:糖尿病に特異的な抗体(抗体は血液検査で測定します)が2つ以上認められますが、血糖値は正常で、糖尿病の症状はみられません。

  • 2期:糖尿病に特異的な抗体が2つ以上認められ、血糖値に異常がみられますが、糖尿病の症状は通常みられません。

  • 3期:糖尿病に特異的な抗体が2つ以上認められ、血糖値が高く、糖尿病の症状がみられます。

  • 4期:重度の症状(タンパク尿を伴う腎臓の機能障害など)を伴った1型糖尿病です。

診断後の検査

1型糖尿病と診断された小児では、セリアック病甲状腺疾患など他の自己免疫疾患がないか調べるため、通常は他の血液検査も行われます。これらの検査は診断時と、その後1~2年毎に行われます。

副腎の病気(アジソン病)、関節や筋肉の病気(若年性特発性関節炎など)、その他の消化管疾患(炎症性腸疾患など)など、他の問題がないか調べる検査も行われることがあります。

2型糖尿病と診断された小児 では、肝臓と腎臓の機能を調べるための血液検査が行われるほか、尿検査も行われます。2型糖尿病の小児では高血圧血中脂質(脂肪)高値脂肪肝などの他の問題もよくみられるため、このような問題についても2型糖尿病の診断時に検査が行われます。その他の検査は症状に応じて行います。例えば、日中の眠気や睡眠中のいびきがみられる小児には閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検査が、また体毛が多く、にきびがあるか、月経不順がみられる青年期の女子には多嚢胞性卵巣症候群の検査が行われます。

小児と青年における糖尿病の治療

  • 食事療法と運動療法

  • 1型糖尿病には、インスリン注射

  • 2型糖尿病には、メトホルミンに加えて、ときにインスリンまたはその他の薬剤

糖尿病治療の主な目的は、安全に行える範囲で血糖値を正常範囲に近い値に保つことです。しかしながら、血糖値を完全に正常な状態に維持する治療法はありません。血糖値を正常値と同じ程度に保とうと過剰に努力すると、血糖値がときに低くなりすぎるリスクが増加してしまいます。血糖値が低い状態は低血糖と呼ばれ、危険となる可能性があります。

糖尿病に関連するテクノロジーの進歩により、ケアの質や血糖コントロールが改善されていますが、すべての人が恩恵を受けているわけではありません。米国では、白人または非ヒスパニック系の小児が合併症を発症したり不良な経過をたどったりすることは比較的少なくなっています。糖尿病の小児が血糖コントロールに成功するかどうかに寄与する他の要因の例として、人種、民族、社会経済的地位、近隣環境および物理的環境、健康的な食品へのアクセス、医療へのアクセスなどがあります。

糖尿病の小児は、糖尿病であることが救急医療の従事者に伝わるように、医療情報を記したブレスレットやタグなどを常に携帯しておくべきです。この情報により、医療従事者は救命処置を迅速に始めることができ、特にけがや精神状態の変化がある場合に役に立ちます。

食事療法および運動療法

いずれの種類の糖尿病でも、以下のことが必要です。

  • 健康的な食事の選択

  • 過体重の場合は体重の減量

  • 定期的な運動

すべての糖尿病の小児にとって、全般的な栄養の管理や栄養についての教育が特に重要です。糖尿病の小児に対する食事の推奨は、すべての小児に対する健康的な食事の推奨に基づいており、その目的は、理想体重と最大限の成長を維持しつつ、糖尿病の短期と長期の合併症を予防することにあります。

いずれの小児も定期的な食事をとる必要があり、食事を抜かしてはいけません。ほとんどの食事療法では炭水化物の摂取と食事をとる時間にはある程度の柔軟性が許されていますが、血糖値の最適なコントロールを達成するためには、食事と予定されたおやつを毎日ほぼ同じ時間に食べ、これらに含まれる炭水化物の量を同程度とすることが重要です。食物中の炭水化物は体内でブドウ糖に変換されるため、炭水化物の摂取量が変わると血糖値も変化します。

健康的な食事を選ぶことは、血糖値をコントロールし、心臓の病気を防ぐ上で有用です。意識して果物、野菜、全粒粉、高繊維質の食品(例えば、1サービング当たり3グラム以上の食物繊維が含まれている食品)を食べるよう努めるべきです。食品には、高度に加工された(精製された)炭水化物が多く含まれていないようにし、特にキャンディ、焼き菓子(クッキー、ドーナッツ、ペストリーなど)、甘味飲料は控えます。100%のフルーツジュースを1日当たり120~240ミリリットル以上飲んではいけません。また、ソーダ、加糖アイスティー、レモネード、フルーツポンチ、スポーツドリンクはどれも一切飲まないようにすべきです。また、飽和脂肪酸を含んだ食品、例えば焼き菓子、スナック(ポテトチップ、コーントルティーヤチップなど)、揚げ物(フレンチポテトなど)、ファストフードも控える必要があります。特定の市販の食品によく含まれる成分であるトランス脂肪酸は心臓病のリスクの増大と関連することが示されているため、除去する動きがあるのですが、上記のような食品の一部にはまだトランス脂肪酸が含まれている可能性があります。

1型糖尿病では、親と年長の小児に対して、どのように食品の炭水化物含有量を知り、どうやって食事計画を立てるのかを教えます。1型糖尿病のほとんどの小児では、食事に関する厳格な規定はないため、小児の通常の食事パターンに基づいて食べものを摂取し、インスリンの用量は実際の炭水化物摂取量に合わせます。乳児や未就学児では、摂食量が一定ではなく、また低血糖を起こす可能性があるものの親に低血糖の症状を伝えることができないため、親にとって難しい状況となりえます。

2型糖尿病では、大半の小児で体重に焦点を置いた生活習慣の改善を行います。選択する食事を改善し、摂食量を管理するために、甘味飲料の禁止、1回の食事量のコントロール、低脂肪食への切替えを行うほか、果物と野菜を多く食べて食物繊維の量を増やすようにします。

また、定期的に運動することも重要です。定期的な運動により、血糖値コントロールが改善し、体重の減量がより容易になります。激しい運動を行うと、血糖値が著しく低下する可能性があることから、1型糖尿病の小児の中には、運動の前または運動中に炭水化物を余分に摂取する必要がある小児もいます。

血糖値のモニタリング

モニタリングの頻度は糖尿病の種類によって異なります。

1型糖尿病では、血糖値を1日6~10回測定する必要があり、具体的には毎食の前と夜間の軽食の前のほか、病気の間や低血糖または高血糖の症状がみられる場合にも測定するべきです。血糖値のモニタリングには、指先採血によって血糖測定を行う自己モニタリングが最もよく用いられます。たいていの血糖測定器では、まずランセット(穿刺針)と呼ばれる小さな器具で指先を軽く刺し、血液を1滴採取します。ランセットは指先を突く小さな針のことで、バネ仕掛けになっていて、素早く皮膚を突くことができます。血液を試験紙に垂らし、測定器(血糖値計)で試験紙を読み取ります。結果は測定器のデジタルディスプレーに表示されます。運動を行うと血糖値が最長24時間にわたって低下する可能性があるため、小児が運動をする日やより活動的な日には、血糖値測定を頻繁に行う必要があります。ときには、夜間にも血糖値を測定する必要があります。

2型糖尿病では、血糖値を定期的に測定する必要がありますが、一般的には1型糖尿病患者ほど頻繁に測定はしません。自己モニタリングの頻度は、食間および食後の小児の血糖値など、いくつかの要因によって決まります。モニタリングの頻度は、小児の血糖値が良好にコントロールされていない場合や、病気の間、また低血糖や高血糖の症状が感じられた場合には、少なくとも1日3回まで増やす必要があります。血糖値がコントロールされたら、家庭での検査は1週間当たり数回の食間および食後の血糖値測定に限定されます。

親と多くの小児は、いったん慣れれば、血糖値の最適な管理に必要なインスリンの用量を適宜調節することができるようになります。一般に、小児は10歳までに、自身の血糖値を検査してインスリンを自分で注射することに興味をもち始めます。親はこのような自立を促すべきですが、小児が責任をもって行っていることを確認しなければなりません。医師は、ほとんどの小児に対して、自宅で記録した血糖値のパターンに応じてインスリンの用量を調節する方法を教えます。

親は日誌、アプリ、スプレッドシート、スマートメーター、またはクラウドベースのプログラムを使用して、血糖値、インスリンの投与時刻と投与量、炭水化物の摂取量、身体活動、その他の関連因子(例えば、病気、遅い軽食、インスリン投与忘れ)など、血糖コントロールに影響しうるすべての要因について、詳細な記録を毎日つけるべきです。

いずれの種類の糖尿病でも、一般的に小児は主治医の診察を年に数回受けます。医師は小児の成長や発達程度を評価し、親が記録するか測定器で測定した血糖値を確認して、栄養についての指導とカウンセリングを行うとともに、糖化ヘモグロビン値(ヘモグロビンA1c)を測定します。また医師は通常、長期的な糖尿病の合併症がないかを、尿中タンパク質の測定、甲状腺機能の評価(甲状腺機能検査)、神経の損傷を調べる検査、眼の検査を行って調べます。スクリーニング検査は、年1回などの間隔で定期的に行われます。

持続血糖測定(CGM)システムが、血糖値をモニタリングする方法としてますます一般的になってきており、一部の小児ではルーチンの血糖自己測定の代わりに利用できます。CGMシステムでは、皮下に留置した小さなグルコースセンサーで血糖値を1~5分毎、1日24時間測定します。そして血糖値のリアルタイムの結果を、インスリンポンプに組み込まれた装置、ベルトに装着できる無線モニター、またはスマートフォンやスマートウォッチのアプリに無線で転送します。また、このシステムには医師が後で確認できるように結果も記録されます。CGMシステムは血糖値が過剰に下がったり、上がったりした場合にアラームが鳴るよう設定できるため、1型糖尿病の場合、血糖値に懸念される変化が起きたことを速やかに把握することができ、直ちに治療を開始できます。CGMシステムの使用は、HbA1c値を低下させるのに役立つ可能性があります。

現在利用できるCGMシステムには、リアルタイムCGMと間欠スキャンCGMの2種類があります。

リアルタイムCGMは2歳以上の小児で使用できます。このシステムは、連続的な一連の血糖値データをリアルタイムかつ自動的にユーザーに送信し、アラート/アラーム機能を備え、さらに血糖値データをレシーバー、スマートウォッチ、スマートフォンに送信します。リアルタイムCGMは、最大限の便益を得るために、可能な限りほぼ毎日使用するべきです。

間欠的スキャンCGMは4歳以上の小児で使用できます。このシステムでは、リアルタイムCGMと同様の血糖値データが得られますが、そのためにはユーザーが意図的にセンサーをスキャンして情報を取得する必要があります。間欠的なスキャンが可能な新しいCGMシステムには、アラートとアラームの機能がオプションで備えられています。間欠的スキャンCGMは頻繁に、少なくとも8時間毎に操作すべきです。CGM装置を使用する小児は、モニターを較正し、症状と一致しない場合は血糖値を確認するために、指先で血糖値を測定できるようになる必要があります。

CGM装置はいずれのインスリン療法とも併用することが可能ですが、一般的にはインスリンポンプの使用者が装着します。インスリンポンプと併用する場合、この組合せはSAP(sensor-augmented pump:センサー付きポンプ)療法として知られています。この方法では、CGMのデータに基づいてインスリンの用量を手動で調整する必要があります。

ポンプと一体化しているCGMシステムもあり、血糖値が低下しすぎた場合には、インスリンの用量を減らすこともできます。一体化させることによって、SAP療法と比較した場合でも、血糖値が低下しすぎてしまうエピソードの数を減らすことができます。

クローズドループインスリンポンプは2歳以上の小児で使用できます。スマートフォンなどの機器に搭載された高度なコンピュータアルゴリズムを利用して適切な量のインスリンを自動的に供給するとともに、CGMセンサーをインスリンポンプに接続して血糖値を測定し、インスリンの送達を制御します。現在のクローズドループシステムは、ユーザーが食事および間食の際に手動でインスリンを供給し、運動の際には調整を行う必要があるため、真に自動化されているわけではありません。このシステムは、インスリン投与量の厳密なコントロールや、インスリンの血中濃度が高すぎたり低すぎたりするエピソードの制限に役立ちます。完全自動化されたクローズドループシステムは人工膵臓としても知られていますが、現在も評価が続けられており、まだ市販されていません。

知っていますか?

  • 1型糖尿病の小児には、体重の減量と健康的な食事に努めているかどうかにかかわらず、常にインスリンの注射が必要です。

1型糖尿病の治療

血糖値を管理するために、1型糖尿病の小児にはインスリンを注射投与します。

1型糖尿病と初めて診断された場合、通常は小児を入院させます。1型糖尿病の小児には、脱水症状の治療として補液を行い、インスリンを投与します。 効果的な治療がほかにないため、インスリンが常に必要です。診断時に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)がみられなければ、一般的にはインスリンを1日2回以上注射投与します。インスリンによる治療は、通常、入院して開始します。これにより血糖値を頻繁に検査して医師がその結果に応じてインスリンの用量を調整することができます。

診断後には、インスリンを定期的に投与する必要があります。医師は小児および家族と話し合いながら、どのインスリン療法が最適であるかを判断します。

インスリン療法には、いくつかの種類があります。

  • 基礎・追加(basal-bolus)レジメンを用いる1日頻回注射(MDI)療法

  • インスリンポンプ療法

  • 用量固定型のMDI療法または混合型インスリン療法(比較的まれ)

1型糖尿病の小児の大半では、MDI療法またはインスリンポンプ療法での治療が必要です。

基礎・追加療法が望ましいMDI療法です。この治療法では、持続時間のより長いインスリンを毎日1回注射投与し(基礎用量)、これとは別に速効型インスリンの追加注射投与を食事の直前に行います(追加用量)。各追加用量は、小児がどのくらいの量の食事をする予定なのか、またその時点の血糖値がどの程度なのかに応じて異なる可能性があります。

基礎・追加インスリン療法の利点は、食事をいつどれぐらいの量を食べるかという点で柔軟性が許されることにあります。

インスリンポンプ療法では、皮膚に刺したままにした細い柔軟なチューブ(カテーテル)を介して基礎用量のインスリンを送り込みます。食事時に投与したり、高血糖を補正したりするための追加用量は、インスリンポンプを用いて別の注射として超速効型インスリンを投与します。

インスリンポンプ療法は小児でますます使用されるようになっています。得られうる利益としては、MDIレジメンと比較した場合の血糖コントロールの改善、安全性の向上、使用者の満足度の向上などがあります。この治療法は歩き始めの幼児や就学前の小児で好まれ、全体として多くの小児でコントロールの程度が増します。

固定用量のMDI療法はあまり一般的には用いられません。基礎・追加インスリン療法が選択肢にない場合(例えば、学校や保育所で注射をする成人がいないなどの理由で十分な監視ができない場合)には、固定用量のMDI療法が選択肢となります。この治療法では通常、小児は速効型インスリンを朝食前と夕食前に(固定された)一定の用量で、また就寝時には持続時間のより長いインスリンを固定された用量で投与されます。

固定用量の療法は柔軟性が低く、決められた食事スケジュールに毎日従う必要があり、可能であればほとんどが基礎・追加インスリン療法に置き換わりつつあります。

混合型インスリン療法では2つのタイプのインスリンを混ぜたもの、すなわち1つは速やかに作用し数時間のみ効果をもたらすもの、もう1つは効き始めるまでには時間がかかるものの長時間にわたって作用が持続するものを固定用量で混ぜた製剤を使用します。一般的なインスリンの混合割合は、70/30(持続時間が長いもの70%と速く効き始めるもの30%)または75/25です。小児には、朝食時と夕食時にそれぞれ1回注射投与します。

混合型インスリン療法の利点は、必要とされる注射回数が少ないこと、および管理が簡単なことです。しかしながら、混合型インスリン療法は、食事の時間と量に関して柔軟性が低く、頻回に調節することができません。このため、混合型インスリン療法では、他の治療法ほどには血糖値を良好にコントロールできません。

インスリンの投与方法

インスリンは、以下のような投与方法があります。

  • バイアルと注射器

  • インスリンペン

  • インスリンポンプ

バイアルと注射器を用いる方法では、インスリンの各用量をバイアルから注射器に吸引し、通常は、腕、大腿部、腹壁の皮膚の下に注射します。用いられる小型注射器は非常に針が細く、注射をしてもほとんど痛みを感じません。注射器に吸引するインスリンの量は、それぞれの注射で必要とされるインスリンの量に応じて異なります。幼児では、インスリンの用量をより小刻みに調整できるよう、目盛が1/2単位で付いている注射器をしばしば使用します。

インスリンペンは、インスリンを携帯して使用する上で多くの小児にとって便利な方法であり、特に家の外で複数回にわたって注射する必要がある小児には便利な方法です。ペンのカートリッジには複数回の投与に十分な量のインスリンが入っています。各注射で注入される用量は、ペンの上部を回して調節します。

インスリンポンプは、皮膚に刺したままにしたカテーテルを通してインスリンをタンクからポンプで自動的かつ連続的に送り込む装置です。チューブを装着する部位は2~3日毎に変える必要があります。インスリンポンプを使用する小児の数は、幼児を含めて、ますます増えています。ポンプによる補充は、体内で本来インスリンが分泌される方法により近いものです。ポンプはインスリンを少しずつ24時間にわたって継続的に放出するようプログラムされており(基礎用量)、食事や高血糖に対する処置として追加のインスリン(追加用量)を手動で放出ことも可能です。その他の方法とは異なり、インスリンポンプでは速効型インスリンのみを使用します。小児は、基礎用量として少量のインスリンの投与を継続的に受けているため、持続時間のより長いインスリンの投与の必要はありません。ポンプをプログラムして、昼夜の異なる時間に異なる量のインスリンを投与することも可能です。

インスリンポンプを持続血糖測定システム(持続血糖測定[CGM]システムを参照)と併用し、1日を通した血糖値の傾向をより正確に追跡することもできます。またインスリンポンプと持続血糖測定システムが1つの装置に組み込まれた、新型のインスリンポンプも開発されています。

ポンプを使うことで血糖を良好にコントロールできる小児もいますが、ポンプの装着が不便だという小児や、チューブの装着部位にただれや感染症を起こす小児もいます。リポハイパートロフィーの発生を避けるため、注射部位とポンプ留置部位はずらしていく必要があります。リポハイパートロフィーは、皮膚の下の組織に脂肪のかたまり(しこり)ができるものです。このしこりは、インスリンを何度も注射した部位に生じ、インスリンの一定の吸収を妨げるため、血糖値の変動をもたらすことがあります。

2型糖尿病の治療

2型糖尿病の小児は、重度の糖尿病でない限り、一般に入院して治療を受けることはありません。通常、定期的に医師を受診する際に血糖値を下げる薬剤(血糖降下薬)を処方されます。糖尿病が重症の小児では、インスリン療法を開始するために入院が必要とされることもあります。2型糖尿病の小児では、重度の脱水症状や、1型糖尿病でのような糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)はあまりみられません。

メトホルミンは、18歳未満の小児や青年に最初に使用されることが最も多い薬剤で、経口で投与されます。メトホルミンは低用量で開始し、しばしば数週間かけて高用量へと増量されます。吐き気と腹痛を予防するため、食後に服用するか、徐放剤として使用することができます。

ケトーシス、DKA、または高浸透圧高血糖状態のために入院している小児には、インスリンが投与されます。インスリンは、メトホルミンによる治療で血糖値が正常に戻れば、数週間後には中止できることもしばしばあります。メトホルミンだけで2型糖尿病をコントロールできない小児には、インスリンリラグルチドという別の薬剤が投与されます。2型糖尿病の青年の約半数は、最終的にインスリンを必要とします。

リラグルチドエキセナチド、およびデュラグルチドは、2型糖尿病の10歳以上の小児に使用することができる注射薬です。セマグルチドは、2型糖尿病の管理と肥満の治療を目的として12歳以上の人に使用できる別の注射薬です。これらの薬剤はGLP-1作動薬として知られています。GLP-1は体内でいくつかの役割を果たすホルモンで、血流に多くのブドウ糖が入るのを防いだり、胃が空になるのを遅らせたり、空腹感と満腹感を処理する脳の領域に作用したりします。GLP-1作動薬は、GLP-1ホルモンのように振る舞うことで効果を発揮するため、膵臓からのインスリンの分泌量を増加させるとともに、食欲と空腹感を軽減して体重を減少させることで、血糖の管理に役立ちます。GLP-1作動薬は、HbA1c値を低下させるのにも役立ちます。メトホルミンを服用しているにもかかわらずHbA1c値が目標とする範囲内に及ばない小児に投与することも、メトホルミンに耐えられない小児にメトホルミンの代わりに投与することもできます。

エンパグリフロジンは、2型糖尿病の10歳以上の小児に使用できる経口薬です。これはナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬という種類の薬剤です。エンパグリフロジンは尿中に排泄されるグルコースの量を増加させることによって血糖値を低下させるのに役立ちます。重度の腎臓病がある人や透析を受けている人には使用できません。DKAのリスクを増大させる可能性があり、また尿路感染症(UTI)や性器の真菌感染症を引き起こすことがあります。

2型糖尿病の成人に対して使用される他の薬剤も一部の青年で役立つ可能性がありますが、費用がかかる上に、小児に対するこれらの薬剤の使用を裏付ける科学的根拠は限られています。

減量して、選択する食事の改善や定期的な運動を行っている小児では、薬剤の服用を中止できる場合もあります。

糖尿病合併症の治療

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は通常、集中治療室で治療されます。脱水を緩和するため、静脈内投与による水分補給がしばしば必要です。また、低カリウム値を是正するため、カリウム溶液の静脈内投与が必要とされることも多くあります。インスリンの静脈内投与もしばしば必要とされます。

糖尿病性ケトアシドーシスの発生を予防し、入院の必要性を最小限に抑えるため、ケトン試験紙を使用して血液中または尿中のケトンをチェックする必要があります。比較的若年の小児、また尿のサンプルを得ることが難しい小児や、糖尿病性ケトアシドーシスが頻回に起こる小児、インスリンポンプを使用している小児では、血液の検査を行う方が望ましい場合があります。ケトン検査は、小児の具合が悪くなった時(血糖値にかかわらず)、または血糖値が上昇した場合には常に実施すべきです。ケトン値が高い場合、糖尿病性ケトアシドーシスを示唆している可能性があり、特に小児に腹痛、嘔吐、眠気、呼吸数の増加がみられる場合にはその可能性があります。

低血糖症とは血糖値が低い状態のことで、インスリンや血糖降下薬を過剰に使用した場合や、食事を規則的にとらないか、激しい運動を長時間にわたって行った場合に発生します。警戒すべき症状として、混乱などの異常な行動がみられます。また、低血糖の小児は、しばしば皮膚が青白くなったり発汗したりすることがあります。

低血糖の治療は、ブドウ糖の錠剤、キャンディ、ブドウ糖補給ゼリー、甘い飲みもの(例えば、コップ1杯のフルーツジュース)など、どんな形でも糖分を小児に摂取させることです。小児が食べたり飲み込んだりできない場合(例えば、錯乱している、見当識障害がある、けいれん発作を起こしている、意識がないなどの理由で)は、グルカゴンの注射を行います。

治療をしなければ、重度の低血糖により、脱力感、錯乱が起こり、ときには昏睡や死亡につながることがあります。

成人、青年、年長児では、低血糖により長期的な障害が現れることはほとんどありません。しかし、5歳未満の小児が低血糖を繰り返すと、知能の発達が損なわれることがあります。また、幼児では、低血糖の警戒すべき症状に気づかない場合もあります。低血糖になる可能性を最小限に抑えるために、医師と親は糖尿病の幼児を特に厳重にモニタリングして、目標とする血糖値の範囲をやや高めに設定できます。持続血糖測定システムは、血糖値が所定の範囲を下回るとアラーム音を鳴らすため、助けになる可能性があります。

糖尿病の青年

小児の中には、治療経過が非常によく、必要以上の努力や心の葛藤もなく糖尿病を管理している小児もいます。一方、糖尿病が家族内で日常的なストレス源になり、糖尿病の管理がうまくいかなくなる小児もいます。青年期の患者では、以下の理由で、特に血糖値の管理に問題が生じることがあります。

  • 思春期のホルモンの変化:これらの変化は、インスリンに対する体の反応に影響を及ぼします。そのため、この時期には一般的により高用量のインスリンが必要とされます。

  • 青年期のライフスタイル:仲間からの圧力、行動範囲の拡大、不規則な生活、自分の体に対するイメージ(身体像)、摂食症などが、指示された治療、特に食事療法を妨げることがあります。

  • 飲酒、喫煙、違法薬物の誘惑:これらの物質を試みる青年期の患者は、糖尿病の治療計画を軽視することがあり、糖尿病の合併症(低血糖症や糖尿病性ケトアシドーシスなど)のリスクが増大する可能性があります。

  • 親や権威者との対立:このような対立により、青年期の患者が糖尿病の治療計画に進んで従おうとしなくなることがあります。

したがって、一部の青年では、親や他の成人がこれらの問題を認識し、それについて青年と医療専門職が話し合う機会を与えることが必要です。医療専門職は、患者が血糖値を維持することに十分集中しているかを確認する手助けができます。親と医療専門職は、血糖値を頻繁にチェックするように患者を促すべきです。

医師が解決策を押しつけるのではなく、患者の希望するスケジュールや活動に配慮しつつ、協力して問題を解決していく柔軟な姿勢を示すことが患者の利益になります。

支援

メンタルヘルスの問題は、糖尿病の小児や家族に影響を与えます。この病気が一生治らないという現実を知ると、悲しみや憤りを感じる小児もおり、ときには病気であることを否定する場合さえあります。親はこうした感情に対処して、小児が食事療法、運動療法、血糖値検査、薬剤の服用など、必要な治療を継続するのを助けることができる医師、心理士、カウンセラーを探すことができます。メンタルヘルスの問題に対処しなければ、血糖値の管理は難しくなります。

糖尿病の小児向けのサマーキャンプに参加すれば、小児たちは同じ病気をもつ他の小児と体験を共有しながら、この病気にもっと自ら向き合えるようになるにはどうしたらよいかを学ぶことができます。

糖尿病の治療では、小児のかかりつけ医は他の専門家チームの助けを借りることが一般的です。そのような専門家としては、小児内分泌科医、栄養士、糖尿病療養指導士、ソーシャルワーカー、心理士などが考えられます。また、家族支援団体も助けになります。学校の職員に彼らの役割を理解してもらうために、学校へもって行く情報を医師が親に提供することもあります。

小児と青年における糖尿病のスクリーニングと予防

1型糖尿病

1型糖尿病では、症状が現れる段階まで進行する可能性が高い一方、症状が現れるまでの期間が長いことから、1型糖尿病の発症(3期)を予防または遅らせるための治療法が研究されています。

モノクローナル抗体のテプリズマブ(teplizumab)は、まだ糖尿病の症状がみられない(つまり2期の)8歳以上の人において、1型糖尿病の発症を遅らせることができます。テプリズマブ(teplizumab)の点滴を1日1回、14日間行います。最初の5日間に発熱、吐き気、疲労、および頭痛を引き起こすことがあり、またリンパ球と呼ばれる白血球の減少(リンパ球減少症)を引き起こすこともあります。テプリズマブ(teplizumab)は、1型糖尿病の症状の出現を約2年間遅らせることができます。

2型糖尿病

2型糖尿病の発症を防いだり、遅らせたりする上で、選択する食品の変更や運動量の増加、体重の減量といった対策をすぐに講じることが有効であるため、2型糖尿病のリスクのある小児は血液検査でヘモグロビンA1c値を測定するスクリーニングを受けるべきです。この検査は小児が10歳になるか、思春期がそれより早く始まった場合には思春期が始まったときに最初に行い、正常であればその後は3年毎に繰り返し行う必要があります。

2型糖尿病の危険因子の一部は予防できます。例えば、肥満の小児は体重を減らす必要があり、すべての小児は定期的に運動するべきです(食事療法および運動療法を参照)。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国糖尿病協会(American Diabetes Association):糖尿病とともに生きる上で役立つ資料など、糖尿病に関する包括的な情報

  2. JDRF(かつての国際若年性糖尿病研究財団[Juvenile Diabetes Research Foundation]):1型糖尿病に関する一般的な情報

  3. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases):最新の研究や地域社会への支援プログラムなど、糖尿病に関する一般的な情報

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