同じ在胎期間で生まれた新生児の90%が占める体重分布よりも体重が軽い(10パーセンタイル未満)新生児は、在胎期間に比べて小さい(在胎不当過小)とみなされます。
両親が小柄である、胎盤が正常に機能しなかった、母親に病気がある、母親が薬を飲んでいる、母親が妊娠中に喫煙した、飲酒したなどの場合に、新生児の体重が小さくなります。
感染症や遺伝性疾患がない限り、在胎不当過小の新生児のほとんどは、ほかには症状がみられず健康です。
小さな新生児の一部は、成人になっても小さいままです。
在胎期間とは、胎児が子宮の中にいた期間のことです。母親の最終月経開始日と分娩日の間の週数を表します。この期間は多くの場合、例えば妊娠期間に関してさらなる情報が得られる初期の超音波検査の結果など、医師が得るその他の情報に基づいて調整されます。在胎期間が40週間になる日が、出産予定日です。
在胎40週時点で、体重が約3キログラム未満の男児は在胎不当過小です。体重が約2.8キログラム未満の女児も在胎不当過小です。その他の在胎期間の新生児の評価には、公開されている成長曲線やコンピュータのアプリケーションが用いられます。
(新生児の一般的な問題の概要も参照のこと。)
在胎不当過小の原因
在胎期間に比してやや小さい新生児の大半は、たまたま小柄なだけで健康です。しかし、なかには様々な要因により子宮内で発育不全が起きたために、小柄になった新生児もいます。発育不全とは、子宮内の胎児が期待通りに発育しない場合です。
発育不全は以下のように分類できます。
対称性:新生児が相対的に小さい。すなわち体重、身長、頭囲が同程度に低いか小さい。
非対称性:体重、身長、頭囲への影響が等しくない(たとえば、頭囲は期待通りに大きくなり続けているが、体重または身長は期待より低い場合)。
対称性の発育不全の原因はおそらく妊娠の早期に生じたもので、この時期には新生児の身体のあらゆる細胞が影響を受けます。非対称性の発育不全は、より後で生じた問題が原因ですが、それは組織のなかにはほかの組織よりも早く発達するものがあり、すべての組織が同等に影響を受けるわけではないからです。
子宮内で発育が制限された乳児のすべてが在胎不当過小児であるとは限りません。
発育不全の危険因子としては、母親の基礎的な健康状態が関わるものや、妊娠または胎児が関わるものがあります。
母体の危険因子
妊娠に関わる危険因子
胎児の危険因子
在胎不当過小児の症状
在胎不当過小の新生児は通常、その大きさにもかかわらず、同程度の在胎期間で生まれた正常な大きさの新生児と同じように見え、同様の活動をします。在胎不当過小の新生児では、筋肉と脂肪の量が少なく、やせて見えたり、やせこけた顔貌(「しわくちゃの顔」と呼ばれます)がみられたりすることがあります。臍帯は細くて小さく見えることがあります。
直接的な合併症
妊娠中には、発育不全の胎児では流産または死産のリスクが高くなります。出生時には、在胎不当過小の正期産児では、同じ大きさの早産児にみられる器官系の未熟性に関連した合併症はありません。しかし、以下のような異常のリスクが高くなっています。
周産期仮死:この合併症は、分娩前、分娩中、または分娩直後における胎児組織への血流の減少、または胎児の血液中の酸素の減少です。分娩前または分娩中の胎盤の問題から生じる可能性があります。
胎便吸引:発育不全の胎児は羊水中に胎便(出生前に胎児の腸でつくられる濃い緑色の便)を排泄し、激しくあえいで胎便を含んだ羊水を肺に吸い込んでしまうことがあります。
低血糖:この合併症はしばしば生後数時間から数日間に生じますが、これは小さな新生児はエネルギーに使うための炭水化物を十分に蓄えておらず、蓄えている炭水化物も十分に処理できないからです。
赤血球の過剰な増加(赤血球増多症):在胎不当過小の新生児は通常より血球数が多く、過剰な赤血球により血液の粘度が高くなり、血液の流れが遅くなることがあります。赤血球増多症がある新生児は、皮膚の色が赤みがかり、動きや反応が鈍くなります。赤血球増多症は低血糖、呼吸窮迫、高ビリルビン血症(黄疸を引き起こし、皮膚が黄色になります)の一因になる可能性もあります。
体温調節の困難:この合併症は、在胎不当過小児は脂肪や体重が少なく、エネルギーにするための炭水化物を十分に保有していないために、体を暖かく保てないことで起きます。
感染症のリスク上昇:在胎不当過小の新生児は免疫系に機能障害があることがあり、その場合は病院で感染症を発症するリスクが高まっています。
長期的な合併症
最近の研究では、子宮内胎児発育不全により成人期に心疾患、高血圧、脳卒中などの問題の可能性が高まることが示唆されています。
在胎不当過小児の診断
出生前には、子宮の測定および超音波検査
出生後には、在胎期間の評価および新生児の大きさと体重
妊娠中には、恥骨の上端から子宮の上端(子宮底)までの妊婦の腹部を測定します。これを子宮底長の測定といい、値はおおむね妊娠週数と一致します。例えば、妊娠32週の妊婦の正常な子宮底長は約30~34センチメートルです。妊娠週数に対して測定値が小さい場合には、胎児が予想されるより小さい可能性があります。
在胎不当過小の診断を確定するには、超音波検査を行って胎児の大きさを評価し、体重を推定することができます。超音波検査はまた、発育不全の原因や、それが胎児にどのように影響しているかを特定するのにも役立つ可能性があります。所見によっては、基礎にある原因を特定するために遺伝子検査やMRI検査を行うこともあります。
出生後には、在胎期間の評価および新生児の体重により、在胎不当過小を診断します。新生児の身長および頭囲を測定し、発育不全を対称性または非対称性に分類します。発育不全の原因を特定するために、超音波検査、X線検査、MRI検査、感染症の検査、血液検査、遺伝子検査などの診断検査が必要になる場合があります。
在胎不当過小児の予後(経過の見通し)
乳児が在胎不当過小となった原因および合併症が発生しているかどうかにより、予後は大きく異なります。
出生体重がやや低い乳児では通常、感染症、遺伝性疾患、周産期仮死がない限り経過は良好です。ほとんどの場合、生後1年間で成長が追いつき、成人身長は正常になります。
母親の病気のために特に小さい乳児には合併症のリスクがありますが、通常、経過は良好です。小さな乳児は、成人しても小さいままのこともあれば、正常範囲内になることもあります。
母親が妊娠中に飲酒したために発育不全となった乳児では、長期にわたる発達面および行動面の問題が生じる可能性が高くなります。
妊娠中に違法薬物にさらされた在胎不当過小の乳児の経過は複雑です。違法薬物を使用する妊婦にはしばしば、子どもの発達に影響を及ぼすほかの社会的、経済的問題があるため、経過の見通しを予測することは難しくなります。
在胎不当過小児の治療
基礎にある原因と合併症の治療
在胎不当過小の新生児に対する特定の治療はありませんが、基礎疾患と合併症は必要に応じて治療します。2~4歳になっても非常に小さいままである特定の在胎不当過小の乳児に対し、ときに成長ホルモンの注射が行われることがあります。この治療は数年間行わなければならず、症例毎に検討する必要があります。
赤血球増多症がある新生児には輸液を行い、低血糖がある新生児は早期(出生後1時間以内)または頻繁に授乳をするか、ブドウ糖を静脈から投与することで治療します。
すべての妊婦は良好な出生前ケアを受け、妊娠中はアルコール、タバコ、および違法薬物(コカインやヘロインなど)を避けるべきです。