下痢

執筆者:Jonathan Gotfried, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2022年 1月
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便の60~90%は水分である。欧米では,便の量は健康な成人で100~200g/日,乳児で10g/kg/日で,非吸収性食物(主に炭水化物)の量によって異なる。下痢は,排便量が1日当たり200gを超える場合と定義される。しかしながら,多くの人は便の流動性が高まることを下痢と考えている。これに対して,食物繊維を摂取した多くの人が体積の大きな有形の便を出すが,それを下痢とみなすことはない。

しぶり腹(便意切迫)がある患者にみられるような少量の便の頻回の排泄は,下痢と鑑別すべきである。同様に,便失禁も下痢と混同されることがある。しかし,下痢は便失禁を著しく悪化させる可能性がある。

See also page 吸収不良の概要および see chapter 炎症性腸疾患の概要小児の下痢については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。)

下痢の合併症

病因にかかわらず下痢により合併症が起こりうる。体液喪失による脱水,電解質喪失(ナトリウム,カリウム,マグネシウム,塩化物)に加えて,血管虚脱もときに起こる。虚脱は,重症の下痢患者(例,コレラ患者),非常に若い患者,極めて高齢の患者,衰弱した患者では,急速に起こりうる。重炭酸塩の喪失は,代謝性アシドーシスを引き起こす可能性がある。低カリウム血症は,重症または慢性下痢患者,もしくは便に過剰な粘液が含まれている場合に起こりうる。長期下痢後の低マグネシウム血症はテタニーを引き起こしうる。

下痢の病因

正常では,小腸と大腸で経口摂取および消化管分泌物に由来する水分の99%が吸収される(1日当たりの全水分負荷量10L中の約9L)。したがって,腸管での水分吸収に少量の減少(例,1%)が生じても,また分泌量が増加しても,下痢を引き起こすのに十分な水分含量の増加につながる。

下痢にはいくつかの原因がある( see table 下痢の主な原因*)。いくつかの基礎的な機序が臨床的に重大な下痢の大半を引き起こしている。最も一般的なものは,浸透圧負荷の上昇,分泌の増加/吸収の減少,および腸粘膜の接触時間/表面積の減少の3つである。多くの疾患では,複数の機序が影響を及ぼしている。例えば,炎症性腸疾患でみられる下痢は,粘膜の炎症,壁内への滲出,および腸細胞機能に影響を及ぼす複数の分泌促進物質および細菌毒素によって引き起こされる。

浸透圧負荷

下痢は,非吸収性の水溶性溶質が腸内に残留して水分を貯留させる場合に起こる。そのような溶質としては,ポリエチレングリコール,マグネシウム塩(水酸化マグネシウムおよび硫酸マグネシウム),リン酸ナトリウムなどがあり,これらは緩下薬として使用される。浸透圧性下痢は糖不耐症(例,ラクターゼの欠乏による乳糖不耐症)で起こる。ヘキシトール(例,ソルビトール,マンニトール,キシリトール)または高果糖コーンシロップは,キャンディー,ガム,およびフルーツジュースに砂糖の代用品として使用されているが,吸収されにくいため,大量に摂取すると浸透圧性下痢が起こる。緩下薬として使用されているラクツロースも同様の機序により下痢を引き起こす。特定の食品( see table 下痢の主な原因*)の過剰摂取によって浸透圧性下痢が起こることがある。

分泌物の増加/吸収の減少

下痢は,腸管の電解質と水分の分泌が吸収を上回った場合に起こる。分泌物増加の原因としては,感染,未吸収の脂肪,特定の薬物,各種の内因性および外因性分泌促進物質などがある。

感染症(例,胃腸炎)は分泌性下痢の最も一般的な原因である。食中毒を合併した感染症は,急性下痢(持続期間4日未満)の最も一般的な原因である。大半のエンテロトキシンは,小腸および大腸における水分吸収の重要な推進力であるナトリウムとカリウムの交換を阻害する。

食物中の吸収されなかった脂肪および胆汁酸(吸収不良症候群および回腸切除後など)は結腸の分泌を刺激し,下痢を引き起こす。

薬物は,小腸の分泌を直接(例,キニジン,キニーネ,コルヒチン,アントラキノン系下剤,ヒマシ油,プロスタグランジン)または脂肪吸収を阻害することによって間接的に(例,オルリスタット)刺激する。

様々な内分泌腫瘍が分泌促進物質を産生し,そのような腫瘍としてはVIPoma(血管作動性腸管ペプチド),ガストリノーマ(ガストリン),肥満細胞症(ヒスタミン),甲状腺髄様癌カルシトニン,プロスタグランジン),カルチノイド腫瘍(ヒスタミン,セロトニン,ポリペプチド)などがある。これらのメディエーターのいくつか(例,プロスタグランジン,セロトニン,関連化合物)も小腸の通過,大腸の通過,またはその両方を促進する。

胆汁酸塩の吸収障害は,いくつかの疾患を引き起こす可能性があり,また,水分および電解質の分泌を刺激することで下痢の原因となりうる。便は緑色またはオレンジ色を呈する。

接触時間/表面積の減少

腸管内容の急速な通過と腸管の表面積の減少は水分の吸収を阻害し,下痢の原因となる。一般的な原因としては,小腸または大腸の切除またはバイパス術,胃切除術,炎症性腸疾患などがある。その他の原因としては,顕微鏡的大腸炎(膠原性またはリンパ球性大腸炎)やセリアック病などがある。甲状腺機能亢進症は,腸管内容の急速な通過による下痢を引き起こすことがある。

薬物による腸管収縮の亢進(例,マグネシウム含有制酸薬,緩下薬,コリンエステラーゼ阻害薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬)または液性因子の投与(例,プロスタグランジン,セロトニン)による刺激も通過を促進する。

表&コラム
表&コラム
表&コラム
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下痢の評価

病歴

現病歴の聴取では,下痢の持続期間および重症度,発生の状況(最近の旅行,摂取した食物,水の供給源),薬物の使用(過去3カ月以内の抗菌薬の使用を含む),腹痛または嘔吐,排便の回数およびタイミング,便の特徴の変化(例,血液,膿,または粘液の存在,色または硬さの変化,脂肪便の所見),関連する体重または食欲の変化,および便意切迫またはしぶり腹について確認すべきである。濃厚な接触者における下痢の同時発生について確認すべきである。下痢を引き起こす可能性がある薬剤に変更がなかったかを具体的に尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,考えられる原因を示唆する症状がないか検討すべきであり,具体的には関節痛(炎症性腸疾患,セリアック病),紅潮(カルチノイド,VIPoma,肥満細胞症),慢性腹痛(過敏性腸症候群,炎症性腸疾患,ガストリノーマ),消化管出血(潰瘍性大腸炎,腫瘍)などがある。

既往歴の聴取では,下痢の既知の危険因子を同定すべきであり,具体的には炎症性腸疾患,過敏性腸症候群,HIV感染症,消化管手術の既往(例,腸管または胃のバイパス術または切除,膵切除術)などがある。家族歴および社会歴の聴取では,濃厚な接触者における下痢の同時発生について尋ねるべきである。

身体診察

体液および水分補給の状態を評価すべきである。腹部に焦点を置いた全身の診察,括約筋の機能を調べる直腸指診,便潜血検査が重要である。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見を認める場合には,下痢の病因として器質的な病態や重篤な病態の疑いが高まる:

  • 便中の血液または膿

  • 発熱

  • 脱水の徴候

  • 慢性下痢

  • 体重減少

所見の解釈

その他の点では健康な人における急性の水様性下痢は,感染性の病因である可能性が高く,特に旅行(おそらく汚染された食物),または発生源が1点のアウトブレイクが関与する場合にその可能性が高い。

その他の点では健康な人の急性の血性下痢は,血行動態不安定の合併の有無にかかわらず,腸管侵入性の感染を示唆する。憩室出血および虚血性大腸炎も急性の血性下痢を呈する。若年者にみられる血性下痢の反復性発作は炎症性腸疾患を示唆する。

緩下薬の使用がない状況での大量の下痢(例,1日当たりの便量が1L/日超)は,消化管の解剖が正常な患者では内分泌腫瘍を強く示唆する。便中の油滴の既往は,特に体重減少を伴う場合,吸収不良を示唆する。

特定の食物(例,脂肪)を摂取した後に常にみられる下痢は,食物不耐症を示唆する。抗菌薬の最近の使用歴がある場合は,Clostridioides difficile大腸炎(かつてのClostridium difficile大腸炎)を含めた抗菌薬関連下痢症を疑うべきである。

緑色またはオレンジ色の便を伴う下痢は,胆汁酸塩の吸収障害を示唆する。

腸管の罹患部位を同定するのに,症状が参考になる場合がある。一般に,小腸疾患では,便は多量で,水様便または脂肪便である。大腸疾患では,排便回数が多く,便の量はときに少なく,場合によっては血液,粘液,膿,腹部不快感を伴う。

過敏性腸症候群(IBS)では,腹痛に排便との関連がみられ,排便回数,便の硬さ,またはその両方の変化を伴っている。しかしながら,これらの症状だけではIBSを他の疾患(例,炎症性腸疾患)と鑑別できない。機能性下痢は,診断の6カ月以上前に発症して,直近の3カ月間持続している軟便または水様便を特徴とする。患者はIBSの基準を満たさず,腹痛および/または腹部膨満を呈することがあるが,これらは主要な症状ではない(1)。ときに急性腸管感染症の後に,下痢を伴うIBSが発生することがある(感染後IBS)。

病因を示唆する腹部以外の所見として,皮膚病変または紅潮(肥満細胞症),甲状腺結節(甲状腺髄様癌),右心雑音(カルチノイド),リンパ節腫脹(リンパ腫AIDS),関節炎(炎症性腸疾患,セリアック病)などがある。

検査

急性下痢(4日未満)は典型的には検査を必要としない。例外は,脱水の徴候,血便,発熱,重度の疼痛,低血圧,または毒性の特徴を有する患者,特に非常に若い患者または非常に高齢の患者である。これらの患者では,血算と電解質,血中尿素窒素,およびクレアチニンの測定を行うべきである。鏡検および培養のために,また抗菌薬を最近使用していた場合はC. difficile毒素検査用として,便検体を採取すべきである。

慢性下痢(4週間を超える)の場合,またはこれより短期間(1~3週間)の下痢でも易感染性患者または顕著に重度の様相を呈する患者では,評価を行う必要がある。診断のための評価は,可能であれば病歴聴取と身体診察の結果を参考にすべきである。このアプローチで診断も方向性も得られない場合は,より広範なアプローチが必要である。最初の検査には,便潜血,脂肪(ズダン染色または便中エラスターゼによる),電解質(便の浸透圧ギャップを算出するため),およびジアルジア(Giardia)抗原またはPCR検査;血算と白血球分画;セリアック病の血清学的検査(IgA組織トランスグルタミナーゼ);甲状腺刺激ホルモン(TSH)および遊離サイロキシン(T4);ならびに便中カルプロテクチンまたは便中ラクトフェリン(炎症性腸疾患[IBD]のスクリーニングのため)を含めるべきである。American Gastroenterological Associationの機能性下痢および下痢型IBS(IBS-D)の臨床検査評価に関する2019年版のガイドラインでは,IBDに対する感度を最適化するために,便中カルプロテクチンの閾値を50μg/g,便中ラクトフェリンの範囲を4.0~7.25μg/gとすることが推奨されている。高リスク地域への最近の旅行歴がある患者と高リスク地域から最近移住してきた患者には,寄生虫の虫卵および虫体を検索するための顕微鏡検査を行うべきである。最近抗菌薬を使用した患者とC. difficile感染症が疑われる患者では,C. difficileに対する便検査を行うべきである。続いて,炎症の原因を検索するために,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査と生検を行うべきである。

診断が不明確で,ズダン染色または便中エラスターゼで脂肪陽性と判定された場合は,便中脂肪排泄量を測定すべきである。追加検査として,CTエンテログラフィー(器質的疾患)と小腸内視鏡検査による生検(粘膜疾患)を考慮することができる(例,症状が長引いているか,体重減少などが重度である場合)。評価で依然として陰性所見が確認される場合は,原因不明の脂肪便を呈する患者に対して膵臓の構造および機能の評価( see page 臨床検査)を考慮する必要がある。まれに,カプセル内視鏡検査で,他の診断法では同定できなかった病変,主にクローン病または非ステロイド系抗炎症薬による腸症の病変を発見することがある。

便の浸透圧ギャップは,290 2 ×(便中ナトリウム + 便中カリウム)という数式で計算され,下痢が分泌性か浸透圧性かを示す。浸透圧ギャップが50mEq/L未満の場合は分泌性下痢,それよりも大きなギャップは浸透圧性下痢であることが示唆される。浸透圧性下痢患者では,マグネシウム緩下薬の隠れた摂取(便中マグネシウム濃度によって検出可能)または炭水化物吸収不良(水素呼気試験,ラクターゼアッセイ,食事のレビューによって診断)を有している可能性がある。

診断未確定の分泌性下痢は,内分泌に関連した原因を調べる検査(例,血漿ガストリン,カルシトニン,血管作動性腸管ペプチド濃度,ヒスタミン,尿中5-ヒドロキシインドール酢酸[5-HIAA])を行う必要がある。副腎皮質機能低下症の症状の評価を行うべきである。密かに下剤を乱用している可能性も考慮しなければならず,これは便の緩下薬の測定で除外できる。

評価に関する参考文献

  1. 1.Lacy BE, Mearin F, Chang L, et al: Bowel disorders.Gastroenterology 150(6):1393–1407, 2016.doi: 10.1053/j.gastro.2016.02.031

下痢の治療

  • 脱水に対して水分および電解質

  • 全身毒性を認めない非血性下痢の患者にはときに止瀉薬

重度の下痢では,脱水,電解質平衡異常,アシドーシスを是正するために,輸液および電解質の補給を行う必要がある。一般に,塩化ナトリウム,塩化カリウム,ブドウ糖含有の輸液が必要である。血清重炭酸濃度が15mEq/L(15mmol/L)未満の場合は,アシドーシスを是正する塩(乳酸ナトリウム,酢酸,重炭酸塩)の投与が適応となりうる。下痢が重度でなく,悪心および嘔吐がほとんどない場合は,ブドウ糖電解質液を経口投与できる( see page 溶液)。水分と電解質を大量に補給する必要がある場合(例,コレラ)には,ときに経口補液と輸液が同時に投与される。

下痢は症状である。可能であれば,基礎疾患を治療すべきであるが,しばしば対症療法が必要になる。下痢は経口ロペラミド2~4mg,1日3回もしくは1日4回(食事前30分の投与が望ましい),ジフェノキシラート(diphenoxylate)2.5~5mg(錠剤または液剤),1日3回もしくは1日4回,経口リン酸コデイン15~30mg,1日2回もしくは1日3回,またはパレゴリック(樟脳アヘンチンキ)経口液5~10mL,1日1回~1日4回の投与により緩和することがある。

止瀉薬の使用によって,C. difficile大腸炎の悪化や,志賀(Shiga)毒素産生性大腸菌(Escherichia coli)感染症での溶血性尿毒症症候群の可能性増大がもたらされる恐れがあるため,原因不明の血性下痢に対して止瀉薬を使用してはならない。止瀉薬は全身毒性の徴候が認められない水様性下痢患者に限定して使用すべきである。一方,かつて懸念されていた止瀉薬による病原細菌の排泄期間の延長については,それを正当化するだけのエビデンスはほとんどない。

オオバコまたはメチルセルロース化合物は便の容量を増加させる。膨張性下剤は,通常,便秘に対して処方されるが,少量では液状便の流動性を低下させる。カオリン,ペクチン,および活性アタパルジャイトは液体を吸着する。浸透圧に影響を及ぼす食物中の物質(下痢を悪化させることがある食事性因子の表を参照)および刺激性薬物は避けるべきである。

エルクサドリン(eluxadoline)は,μオピオイド受容体作動薬とδオピオイド受容体拮抗薬の両作用を有し,下痢型IBSの治療に使用できる。用量は100mg,経口,1日2回(100mgで耐えられない場合は75mg,1日2回)である。胆嚢摘出術または膵炎の既往がある患者に使用してはならない。下痢型IBSの患者には,抗菌薬のリファキシミンを550mg,経口,1日3回,14日間で投与してもよい。

要点

  • 急性下痢の患者については,症状が遷延している(すなわち1週間以上続いている)か,レッドフラグサインがあるか,非常に若年であるか,非常に高齢である患者にのみ検査が必要となる。

  • C. difficile大腸炎,サルモネラ(Salmonella)感染症,または細菌性赤痢の可能性がある場合,止瀉薬は慎重に使用する。

  • 急性感染性腸炎後に患者の10%で感染後過敏性腸症候群が発生する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Gastroenterological Association: Guidelines on the laboratory evaluation of functional diarrhea and diarrhea-predominant irritable bowel syndrome in adults (IBS-D) (2019)

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