急性膵炎

執筆者:Michael Bartel, MD, PhD, Fox Chase Cancer Center, Temple University
レビュー/改訂 2022年 3月
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急性膵炎は,膵臓(および,ときに隣接組織)の急性炎症である。最も頻度が高い誘因は胆石および飲酒である。急性膵炎の重症度は,局所合併症および一過性または持続性の臓器不全の有無に基づいて,軽症,中等症,重症に区分される。診断は臨床像,血清アミラーゼおよびリパーゼ値,ならびに画像検査に基づく。治療は支持療法であり,輸液,鎮痛薬,栄養サポートを行う。急性膵炎の全死亡率は低いが,重症例における合併症発生率および死亡率はかなり高い。

膵炎の概要も参照のこと。)

急性膵炎は頻度の高い疾患であり,健康管理上の大きな問題である。

急性膵炎の病因

急性膵炎症例の70%以上が胆石または飲酒を原因とするものである。残りの症例は多数の原因に由来する( see table 急性膵炎の主な原因)。

表&コラム
表&コラム

胆石

急性膵炎の最も頻度の高い病因は胆石である。胆石性膵炎の正確な機序は不明であるが,胆石あるいは胆石の追加によって生じる浮腫による膨大部の閉塞によって生じる膵管内圧の上昇が関与している可能性が高い。膵管内圧の上昇は,腺房細胞から出る消化酵素の異常活性化をもたらす。胆汁酸自体が腺房細胞に与える毒性作用も機序の1つと考えられている。妊娠中の胆石性膵炎がまれにみられ,これは第3トリメスターにおいて生じる頻度が最も高い。

アルコール

急性膵炎の2番目に頻度の高い病因は飲酒である。膵炎の発生リスクは飲酒量の増加(男性では1日4~7ドリンク,女性は1日3ドリンク以上)に伴い高まる;以前は飲酒期間に比例してリスクが高まると考えられていたが,感受性の高い患者では短期間の大量飲酒後に急性膵炎発作が起きることがある【訳注:1ドリンクはエタノール量14g】。軽度または中等度の飲酒は,急性膵炎から慢性膵炎への進行に関連する。しかしながら,長期飲酒者のうち急性膵炎を発症する割合は10%未満であることから,膵炎の発生にはさらなる誘因ないし補助因子が必要であることが示唆される。

膵腺房細胞は酸化を伴う経路と酸化を伴わない経路の両方を介してアルコールを毒性代謝物に代謝するが,この代謝物の作用により,代謝した細胞は自己融解を起こしやすくなり,膵臓は壊死,炎症,および細胞死を起こしやすくなる。これらの作用には,酵素含有量の増加,ライソゾーム顆粒およびチモーゲン顆粒の不安定化,過剰なカルシウムの継続的増加,膵星細胞の活性化などがある。別の説によると,アルコールは,結石を形成するタンパク質の濃度を変化させ,膵分泌物の粘稠度を高めることにより,膵管内におけるタンパク質栓形成の傾向を高め,それにより閉塞,ひいては腺房萎縮症を引き起こすということである。

その他の原因

膵炎の素因である遺伝子変異がいくつか同定されている。カチオン性トリプシノーゲン遺伝子の常染色体顕性(優性)変異は,保持者の80%において膵炎を引き起こし,この場合明らかな家族性のパターンが認められる。他の突然変異は浸透度がより低く,遺伝子検査を行わない限り,臨床的には簡単にわからない。嚢胞性線維症遺伝子は,慢性膵炎に加え,再発性急性膵炎のリスクを増加させる。

急性膵炎は,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)後に約5%の患者で発生する合併症である。

急性膵炎の発生機序

病因にかかわらず,急性膵炎の発生過程早期に起きる事象は,膵酵素(トリプシン,ホスホリパーゼA2,エラスターゼなど)が腺房内で活性化し,分泌腺自体の自己分解損傷につながることである。活性化膵酵素は組織を損傷し,補体系および炎症カスケードを活性化することが可能で,その結果サイトカインが産生され,炎症と浮腫が生じる。少数の症例では,この過程で壊死が起こる。急性膵炎は,腸壁を損ない腸内腔から循環への細菌移動を誘導することで感染のリスクを高める。

腹腔内に入った活性化酵素およびサイトカインは,化学的熱傷や体液のサードスペースへの移行を引き起こし,体循環に入った場合には全身性炎症反応を惹起し,急性呼吸窮迫症候群急性腎障害をもたらす可能性がある。全身作用は主に毛細血管透過性亢進および血管緊張低下の結果であり,これらは放出されたサイトカインおよびケモカインによって引き起こされる。ホスホリパーゼA2は,肺胞膜を損傷すると考えられる。

急性膵炎の分類

2012年版の改訂Atlanta分類(1)では,急性膵炎は病型と重症度で分類されている。

膵炎の病型

急性膵炎の病型としては以下のものがある:

  • 間質性膵炎

  • 壊死性膵炎

間質性膵炎は,画像検査で膵腫大を認める場合と定義されている。膵周囲にstranding(索状高エコー像)がみられることがあり,これは炎症の徴候である。大半の患者がこの種の膵炎を発症する。大半の症例は自然に軽快する。

壊死性膵炎は,膵壊死および/または膵周囲壊死を認める場合と定義されている。造影剤を用いた断層撮影像で最もよく観察される。壊死性膵炎は,約5~10%の急性膵炎患者に発生し,長期でより重度の疾患経過と関連する。

膵炎の重症度

急性膵炎の重症度は以下のように分類できる:

  • 軽症

  • 中等症

  • 重症

軽症の急性膵炎では,炎症が膵臓とその周辺までに限局する。臓器不全または全身性もしくは局所の合併症は生じない。死亡はまれである。

中等症の急性膵炎では,局所または全身の合併症があるものの,臓器不全はないか,あっても一過性(48時間以内に消失する)である。

重症の急性膵炎では,持続性(48時間以上続く)の臓器不全または多臓器不全がみられる。大半の患者で少なくとも1つの局所合併症がみられる。死亡率は30%超である。

分類に関する参考文献

  1. 1.Banks PA, Bollen TL, Dervenis C, et al: Classification of acute pancreatitis 2012: Revision of the Atlanta classification and definitions by international consensus.Gut 62:102–111, 2013.doi: 10.1136/gutjnl-2012-302779

急性膵炎の合併症

急性膵炎の合併症は以下のように分類できる(1)

  • 局所:膵内または膵周囲における液貯留,脾静脈血栓症,仮性動脈瘤形成,および幽門部の機能障害

  • 全身:ショック,臓器不全

酵素を豊富に含む体液の膵内または膵周囲への貯留が疾患経過の早期に生じる可能性がある。貯留物の内容は,液体のみの場合もあれば,液体と壊死性物質を含んでいる場合もある。貯留物の大半は自然消退するが,約4週間経過しても消退しない場合には,断層撮影像で観察できる線維性被膜を形成する。被膜に覆われた貯留物は,その内容物に応じて膵仮性嚢胞または被包化壊死(walled-off necrosis)と呼ばれ,膵仮性嚢胞には液体のみが,被包化壊死には液体と固体の壊死性物質の両方が含まれる。約3分の1の仮性嚢胞は自然消退する。約3分の1の膵壊死患者では腸内細菌が貯留液に感染し,そうなると合併症発生率と死亡率が非常に高くなる。

全身合併症としては,単一または複数臓器の急性臓器不全(例,循環および/または呼吸不全,急性腎障害)やショックなどがある。併存症および/または持続性の全身性炎症反応症候群(SIRS)が基礎にある患者では,リスクが高まる。

SIRSは,特定臨床状況において,以下の2つ以上に該当する場合と定義されている:

  • 体温 >38.3℃または < 36.0℃

  • 心拍数 > 90/分

  • 呼吸数 > 20回/分またはPACO2 < 32mmHg

  • 白血球数 > 12,000/μL(12 × 109/L),< 4,000/μL(4 × 109/L)または桿状核球 > 10%

臓器不全は改変Marshallスコア判定システムを用いて定義されており(Modified Marshall Organ Failure Scoreの表を参照;1),呼吸障害,腎障害,および循環障害に関する臨床検査およびバイタルサインの指標に基づく。

表&コラム
表&コラム

急性膵炎の早期(1週間以内)における死亡は通常,多臓器不全に起因するが,後期(1週間経過後)における死亡は通常,多臓器不全,膵壊死部感染,手術および内視鏡手技の合併症などの因子が組み合わさった結果として生じる。

合併症に関する参考文献

  1. 1.Banks PA, Bollen TL, Dervenis C, et al: Classification of acute pancreatitis 2012: Revision of the Atlanta classification and definitions by international consensus.Gut 62:102–111, 2013.doi: 10.1136/gutjnl-2012-302779

急性膵炎の症状と徴候

急性膵炎発作は,上腹部に持続性の刺すような痛みを引き起こし,疼痛は典型的にはオピオイドの非経口(parenteral)投与を必要とするほど重度である。疼痛は約50%の患者で背部に放散する。胆石性膵炎では,疼痛は通常突然に発生するが,アルコール性膵炎では数日間かけて徐々に現れる。疼痛は通常,数日間持続する。疼痛は座位および前傾姿勢で軽減しうるが,咳嗽,活発な動作,深呼吸で強まることがある。悪心および嘔吐がよくみられる。

病状は急速に悪化し,発汗がみられる傾向がある。脈拍数は通常,上昇する(例,100~140/分)。呼吸は浅く速い。血圧は一過性の上昇または低下を認め,有意な起立性低血圧を伴う。体温は,最初正常で,場合によっては正常以下であることもあるが,数時間以内に37.7~38.3℃まで上昇しうる。意識は昏蒙のレベルまで鈍化することがある。膵頭部の胆石または炎症および腫脹による胆管閉塞のため,ときに強膜の黄疸が現れる。肺は,横隔膜運動制限および無気肺の所見を認めることがある。

患者はイレウスを生じ,腸音減弱および腹部膨隆に至ることがある。著明な腹部圧痛がみられ,その大半は上腹部に生じる。まれに,重度の腹膜刺激の結果として,腹部は板状硬を呈する。膵管断裂によって腹水(膵性腹水)が生じることがある。グレイ・ターナー徴候(側腹部の斑状出血)およびカレン徴候(臍領域の斑状出血)は,出血性滲出液の血管外遊出を示唆するが,これは1%未満の症例で発生し,予後不良の兆しとなる。

発熱および白血球数増加を伴い全身に重症感(toxic appearance)を認める場合,または最初の安定期の後に悪化した場合には,膵内または隣接液体貯留部での感染を疑うべきである。重症患者では多臓器不全(心血管,腎臓,および呼吸器)が発生する可能性がある。

急性膵炎の診断

  • 血清マーカー(アミラーゼ,リパーゼ)

  • 画像検査

原因不明の重度の腹痛がみられる場合,特に過度の飲酒または胆石がある患者では,常に膵炎が疑われる。

急性膵炎の診断は,以下のうち少なくとも2つがみられる場合に確定される:

  • 本症と一致する腹痛

  • 正常上限の3倍を上回る血清アミラーゼおよび/またはリパーゼ値(アミラーゼおよびリパーゼ値の正常範囲は検査法によって異なる可能性がある)

  • 造影剤を用いた断層撮影画像における特徴的所見

急性膵炎の症状の鑑別診断としては以下のものがある:

腹痛の他の原因を除外し急性膵炎の代謝性合併症を診断するために,初期評価において通常幅広い検査を行う。それには臨床検査および画像検査が含まれる。

臨床検査

血清アミラーゼおよびリパーゼ値は,急性膵炎の初日に上昇して3~7日で正常に戻る。リパーゼの方が膵炎に対して特異的であるが,両酵素とも腎不全および様々な腹部疾患(例,穿孔性潰瘍,腸間膜血管閉塞,腸閉塞)において上昇することがある。血清アミラーゼ上昇の他の原因として,唾液腺機能不全,マクロアミラーゼ血症,アミラーゼを産生する腫瘍などがある。血清総アミラーゼを膵型(p型)イソアミラーゼと唾液腺型(s型)イソアミラーゼに分画することにより,血清アミラーゼの精度が上昇する。腺房組織が過去の発作時に破壊されているため十分な量の酵素を分泌できない場合,アミラーゼとリパーゼはいずれも正常値を維持することがある。アミラーゼおよびリパーゼ値の正常範囲は検査法によって異なる可能性がある。高トリグリセリド血症を有する患者の血清には,循環している阻害物質が含まれている可能性があり,血清アミラーゼ濃度の上昇を検出できるようにするには,先にこれを希釈しなければならない。

マクロアミラーゼ血症では,血清アミラーゼ濃度が慢性的に上昇することがあるが,これはアミラーゼが血清免疫グロブリンに結合し,この複合体が腎臓で血液から濾過されるのに時間がかかるためである。アミラーゼ:クレアチニンクリアランス比は,膵炎を診断する上で十分な感度または特異度を有していない。同比は一般に膵炎が存在しない状況でマクロアミラーゼ血症を診断するために用いられる。

トリプシノーゲン-2の尿試験紙検査は,急性膵炎に対する感度および特異度が90%を超える

白血球数は通常,1万2000~2万/μL(12~20 × 109/L)に増加する。サードスペースへの体液移行によってヘマトクリットが50~55%にまで上昇し,血中尿素窒素(BUN)値が上昇することがあり,これらは重度の炎症を示唆する。大量輸液後も続くBUN値の上昇は,合併症発生率および死亡率の上昇を示唆する指標である。高血糖および低カルシウム血症が起こることもある。胆管内の遺残結石あるいは膵浮腫による胆管圧迫により,血清ビリルビン高値など異常な肝機能検査結果が出ることがある。ショック状態の患者は,アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスやその他の電解質異常を来すこともある。低カルシウム血症のある患者では,低マグネシウム血症を除外する必要がある。

画像検査

急性膵炎の診断確定と局所合併症の評価では,静注造影剤を用いるCTが第1選択の画像検査法である。急性膵炎の診断が不確実な場合や,認められる症状について他の原因を除外する場合には,疾患経過の早期に施行する。また,膵炎と診断された後では,特に腹部症状が持続する場合,壊死,液体貯留,仮性嚢胞などの急性膵炎の合併症を同定するために,疾患経過のより後期にCTを施行する。膵臓の壊死組織は静注造影剤を投与しても増強されない。一般に,MRIは総胆管結石症および膵壊死の検出においてCTよりも優れており,総胆管結石症を確認する他の検査の結果が不確定である患者や,膵臓のドレナージ処置が必要になる可能性が高いと考えられる患者では,MRIを施行すべきである。

Acute necrotizing collection
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静注および経口造影剤を使用したこのCT像では,壊死性膵炎の発症後4週間未満で膵組織の大部分が大きなacute necrotizing collection(矢印)に置換されたことが示されている。
Image courtesy of Sonam Rosberger, MD.

胆石性膵炎が疑われる場合(かつ別の明らかな病因がない場合)には,胆石または総胆管の拡張(胆道閉塞を示唆する)を検出するために,腹部超音波検査を施行すべきである。膵臓の浮腫は視認できることもあるが,上を覆うガスで膵臓は不明瞭なことが多い。

腹部単純X線を施行した場合は,膵管内石灰化(過去の炎症,すなわち慢性膵炎の所見),石灰化した胆石,左上腹部または腹部中央の小腸部分に限局したイレウス(「sentinel loop」),またはより重度の疾患ではcolon cutoff sign(左結腸曲または下行結腸におけるガスの途絶)が認められることがある。しかしながら,腹部X線をルーチンに行うことの価値については議論がある。

胸部X線を行うべきであり,無気肺または重症疾患の徴候である胸水(通常は左胸水または両側胸水であるが,まれに右胸腔に限局する)が明らかになることがある。

急性膵炎では超音波内視鏡検査の役割は限定的である。超音波内視鏡検査は総胆管結石の検出については磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)と同等の感度を有するが,MRCPには非侵襲的であるという利点がある。MRCPは,肝機能検査値(特に直接ビリルビンとアラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT])がベースラインから上昇していて,腹部超音波検査を行っても胆石性急性膵炎の病因として総胆管内の胆石を除外できない場合に施行する。

血清ビリルビン値の上昇と胆管炎の徴候がみられる胆石性膵炎の患者では,胆管閉塞を軽減するための内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を迅速に行うべきである。

急性膵炎の予後

急性膵炎の重症度は,臓器不全の存在,局所合併症および全身性合併症,またはそれらの組合せで決まる。患者関連の危険因子を検討して疾患経過の早い段階で重症度を評価することが,臓器不全やその他の合併症の発生リスクが高い患者を同定するのに役立つ。そうすることで,それらの患者では発症時から最大限の支持療法を行うことができ,予後が改善し,合併症の発生率と死亡率を低減することが可能になる。

最初のリスク評価として,重度の経過を予測する患者関連の危険因子としては以下のものがある:

  • 年齢60歳以上

  • 併存する健康問題

  • BMI(body mass index)が30を上回る肥満

  • 長期の大量飲酒

  • 全身性炎症反応症候群(SIRS)の存在

  • 循環血液量減少を示す検査マーカー(例,BUN高値,ヘマトクリット高値)

  • 入院時胸部X線での胸水および/または浸潤影の所見

  • 精神状態の変化

重症度スコアリングシステムの使用には複数回の評価が必要であり,それにより適切な管理が遅れることがある。入院時に施行でき患者のトリアージに役立つ検査もあれば,初診後48~72時間まで正確性を欠く検査もある。

  • Ransonスコア:このスコアリングシステムは煩雑であり,算出に48時間のデータを要するが,陰性適中率が良好である。

  • APACHE IIスコア:このシステムは用いるには複雑かつ煩雑であるが,陰性適中率は良好である。

  • 全身性炎症反応症候群スコア:これは安価で容易に利用可能であり,ベッドサイドで実施できる。

  • BISAP(Bedside Index of Severity in Acute Pancreatitis)スコア:このスコアは単純で,最初の24時間で算出される。

  • HAPS(Harmless Acute Pancreatitis Score):このスコアは単純で,入院から30分以内に算出される。

  • 臓器不全に基づくスコア:このスコアは急性膵炎の重症度を直接判定するものではない。

  • CT重症度指数(Balthazarスコア):このスコアはCTにおける壊死の程度,炎症の程度,および液体貯留の有無に基づいている。

急性膵炎発症後の長期的リスクとして,発作の再発や慢性膵炎への進行のリスクがある。危険因子には,その病因に加えて,急性膵炎発症当初の膵壊死の重症度および規模が含まれ,長期の大量飲酒と喫煙は慢性膵炎の発生リスクを高める。

急性膵炎の治療

  • 支持療法

  • 重症急性膵炎および合併症に対しては,必要に応じて抗菌薬および治療的介入を用いる。

急性膵炎の治療は典型的には,支持治療である。合併症を発症した患者には個別の追加治療が必要になることがある。(American College of Gastroenterologyが2013年に公開した急性膵炎の管理に関するガイドラインも参照のこと。)

急性膵炎の基本的な治療法としては,以下のものがある:

  • 早期からの目標指向型輸液(goal-directed fluid)

  • 鎮痛

  • 栄養サポート

American College of Gastroenterology(ACG)の2013年版ガイドラインでは,心血管,腎臓,その他の関連する併存因子による禁忌がない限り,全ての患者に対し,最初の12~24時間に等張の電解質輸液(理想的には乳酸リンゲル液)250~500mL/hを投与する積極的な初期輸液が推奨されている。補液が十分であるか否かは,最初の24時間でヘマトクリットおよび血中尿素窒素値がどれだけ低下するかによって評価でき,特に発症時にこれらの値が高かった場合には有用な指標となる。他のパラメータとしては,バイタルサインの改善や十分な尿量の維持などがある。ACGのガイドラインでは,入院当初6時間およびその後24~48時間は頻繁な間隔で輸液の必要量を再評価することも推奨している。大量輸液を行っている患者に対しては,パルスオキシメトリーの結果を継続的にモニタリングし,必要に応じて酸素投与を行い,水分の摂取量および排出量を厳密にモニタリングするべきである。

適切な疼痛緩和には,ヒドロモルフォンまたはフェンタニルのような非経口(parenteral)オピオイドが必要であり,十分な量を投与すべきである。モルヒネは理論的にOddi括約筋の内圧を上昇させる可能性があるため,通常はモルヒネよりヒドロモルフォンの方が望ましい。悪心や嘔吐を軽減するために制吐薬を投与するべきである。

栄養再開を遅らせた場合や栄養なしの場合と比べて合併症発生率が低下することから,早期の経腸栄養が推奨される。軽症膵炎の患者は,経口摂食による低残渣,低脂肪の軟食を,耐えられるようになり次第開始することができる。疾患経過の早期に経口栄養を再開できない場合は,静脈栄養に感染性合併症や臓器不全のリスク上昇との関連がみられるため,完全静脈栄養よりも経腸栄養が望ましい。

重症急性膵炎および合併症

重症急性膵炎および合併症の治療法としては以下のものがある:

  • 集中治療室(ICU)でのケア*

  • 経腸栄養の方が静脈栄養より望ましい

  • 膵臓外感染症と感染性壊死に対する抗菌薬

  • 感染性壊死に対するネクロセクトミー(壊死組織の除去)

  • 急性膵炎および併発した急性胆管炎に対する内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)

  • 仮性嚢胞のドレナージ

重症急性膵炎およびその合併症の患者管理は,内視鏡治療専門医,IVR専門医(interventional radiologist),および外科医を含む集学的アプローチを用いて個別に行うべきである。重症急性膵炎の患者は最初の24~48時間はICUで注意深くモニタリングするべきである。状態の悪化または介入を要する広範な局所合併症のある患者は,(利用可能であれば)膵疾患に特化した卓越した拠点に移送するべきである。

重症急性膵炎の患者には人工的な栄養サポートが必要なことがあるが,栄養補給の最適な開始時期および期間は依然として不明である。American College of Gastroenterology(ACG)の2013年版ガイドラインでは,経腸栄養が推奨されており,静脈栄養は経腸経路が確保できない場合,患者が耐えられない場合,または必要量のカロリーを確保できない場合にのみ行うよう推奨されている。経腸経路は以下の理由で望ましい:

  • 腸粘膜バリアの維持を助ける

  • 長期間の腸管安静で生じうる腸萎縮を予防する(同時に膵臓壊死組織の播種につながる可能性がある細菌の移行の予防に役立つ)

  • 中心静脈カテーテルの感染リスクを回避する

  • より安価である

トライツ靱帯の先まで経鼻空腸栄養管を設置すれば,胃における消化プロセスの刺激を避ける助けとなりうるが,設置にはX線透視下または内視鏡下の誘導が必要である。経鼻空腸栄養管の設置が不可能な場合は,経鼻胃栄養を開始するべきである。どちらの場合も,誤嚥のリスクを下げるため,患者には座位をとらせるべきである。ACGのガイドラインでは,効力および安全性において経鼻胃栄養と経鼻空腸栄養は同等とされている。

2013年版のACGガイドラインおよび2018年版のAmerican College of Gastroenterologyによる急性膵炎の初期管理に関するガイドラインによると,急性膵炎の患者に対しては,疾患の種類や重症度に関係なく,抗菌薬の予防的投与は推奨されない。しかしながら,患者が膵臓外感染(例,胆管炎,肺炎,血流感染症,尿路感染症)または膵壊死を発症した場合には,抗菌薬投与を開始するべきである。

悪化の徴候(例,発熱,高血圧,頻脈,意識変容,白血球数増加)がみられる患者または7~10日間の入院後も改善がみられない患者については,感染症(膵臓または膵臓以外)を疑うべきである。膵壊死での感染の大半は腸からの単一菌種の細菌を原因としている。最も一般的な原因菌はグラム陰性細菌であり,グラム陽性細菌と真菌はまれである。感染壊死の患者では,カルバペネム系薬剤,フルオロキノロン系薬剤,メトロニダゾールのように膵壊死部に浸透することで知られる抗菌薬が推奨される。

ネクロセクトミー(壊死組織の除去)については,外科手術アプローチよりも低侵襲アプローチが望ましく,最初に試みるべきである。2013年版のACGガイドラインでは,感染性壊死のドレナージ(X線透視下,内視鏡下,または外科的アプローチ)は,内容物を液状化させ壊死周囲に線維性の被膜を形成させる(被包化壊死[walled-off necrosis])ことから延期する(安定した患者では4週間以上が望ましい)よう推奨している。

胆石性膵炎患者の80%以上は,結石が自然に通過するため,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を必要としない。急性膵炎および急性胆管炎を併発している患者は早期ERCPを実施すべきである。自然に回復する中等症の胆石性膵炎患者は,再発を予防するため退院前に胆嚢摘出術を実施すべきである。

仮性嚢胞に急速な増大,感染,または出血を認めるか,破裂の可能性が高い場合にはドレナージが必要である。ドレナージを経皮的,外科的,または超音波ガイド下の内視鏡的嚢胞胃吻合術のいずれの方法で行うかは,仮性嚢胞の部位と医療機関の熟練度に依存する。

要点

  • 急性膵炎には多くの原因があるが,最も頻度が高いのは,胆石と飲酒である。

  • 炎症は軽症例では膵臓に限局しているが,重症度が高まるにつれて重度の全身性炎症反応が起きるようになり,ショックや臓器不全に至ることもある。

  • 膵炎の診断がついた段階で,患者をより集中的な治療や積極的治療に適切にトリアージし,予後の推定に役立てるために,臨床基準とスコアリングシステムを用いてリスクを評価する。

  • 治療は輸液蘇生(fluid resuscitation),疼痛コントロール,および栄養サポートによる。

  • 仮性嚢胞および感染性膵壊死などの合併症は,同定し適切に治療(例,仮性嚢胞のドレナージ,ネクロセクトミー)する必要がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Gastroenterology: Guidelines for the management of acute pancreatitis (2013)

  2. American Gastroenterological Association: Guidelines on the initial management of acute pancreatitis (2018)

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