消化管内のClostridioides difficileが産生する毒素により,偽膜性大腸炎が引き起こされるが,典型的には抗菌薬の使用後に発生する。症状は下痢(ときに血性)であり,まれに進行して中毒性巨大結腸症,大腸穿孔,敗血症,および急性腹症を来す。診断は便中のC. difficile毒素の同定による。第1選択の治療は,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与である。
(嫌気性細菌の概要およびクロストリジウム感染症の概要も参照のこと。)
C. difficileは抗菌薬関連大腸炎の最も一般的な原因菌であり,典型的には院内感染であるが,市中感染症例が増加している。C. difficile関連下痢症
C. difficile関連下痢症の危険因子としては以下のものがある:
極めて若年または極めて高齢
長期の入院
介護施設での居住
重度の基礎疾患
プロトンポンプ阻害薬およびH2受容体拮抗薬の使用
C. difficileは,健康成人の4~15%,成人入院患者の最大21%,長期療養施設居住者の15~30%において無症候性に保菌されている(1)。環境中(例,土壌,水,ペット)によくみられる。この疾患は,腸管に内在するC. difficileの異常繁殖から生じる場合と,外部からの感染に続発する場合がある。医療従事者がしばしば伝播を媒介する。
強毒株BI/NAP1/027型(binary/North American pulsed-field type 1 [NAP1]/ribotype 027)が院内アウトブレイクで注目を集めるようになっている。この菌株は,他と比べて毒素の産生量がかなり多く,引き起こす疾患はより重度であり,再発率も高く,また感染力が強く,抗菌薬治療にあまり反応しない。
参考文献
1.Kelly CR, Fischer M, Allegretti JR, et al: ACG Clinical Guidelines: Prevention, diagnosis, and treatment of Clostridioides difficile infections. Am J Gastroenterol 116(6):1124–1147, 2021.doi: 10.14309/ajg.0000000000001278.Clarification and additional information.Am J Gastroenterol 117(2):358, 2022.
Clostridioides difficile関連下痢症の病態生理
抗菌薬投与による消化管内細菌叢の変化が主な素因である。多くの抗菌薬に関連が指摘されているが,最もリスクが高いのは以下のものである:
セファロスポリン系(特に第3世代)
ペニシリン系(特にアンピシリンとアモキシシリン)
クリンダマイシン
フルオロキノロン系
C. difficile大腸炎は,特定の抗腫瘍薬の使用後にも発生することがある。
この細菌はエンテロトキシンと細胞毒素(一般にA型毒素およびB型毒素と呼ばれる)の両方を分泌する。ただし,全てのC. difficile株が毒素を産生するわけではなく,また無症状者が毒素産生株を保菌している場合もある。毒素の主な作用は結腸に影響を及ぼし,そこから液体が分泌されて特徴的な偽膜(容易に除去できる不連続な黄白色の隆起物)が形成される。重症例では偽膜が融合することがある。
中毒性巨大結腸症は,まれにしか発生しないが,腸運動抑制薬の使用後には可能性がいくらか高まるようである。敗血症および急性腹症と同様に,限局性の組織内播種が極めてまれに起こる。C. difficile関連下痢症に続いて反応性関節炎を発症した症例がまれに報告されている。
Clostridioides difficile関連下痢症の症状と徴候
C. difficile関連下痢症の症状は典型例では抗菌薬開始5~10日後に始まるが,初日から発症する場合もあれば,最長で2カ月経過してから発症した例もある。下痢は軽度で半固形のこともあれば,頻回で水様のこともあり,ときに血性のことさえある。痙攣または疼痛はよくみられるが,悪心および嘔吐はまれである。腹部に軽度の圧痛を認めることがある。
結腸の重度の急性炎症と全身毒性を特徴とする劇症大腸炎(fulminant colitis)を来した患者では,疼痛がより強く,頻脈と腹部の膨隆および圧痛が生じて,より重症に見える。大腸穿孔が起こると,腹膜刺激徴候がみられる。
Clostridioides difficile関連下痢症の診断
グルタミン酸脱水素酵素(GDH)抗原およびC. difficileの毒素に対する便検査ならびに毒素遺伝子に対するPCR検査
ときにS状結腸鏡検査
抗菌薬使用開始後2カ月以内または入院後72時間以内に下痢を発症した患者では,全例でC. difficile関連下痢症を疑うべきである。
グルタミン酸脱水素酵素(GDH)抗原は,全てのC. difficile株によって産生される。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は感度が高く,非常に迅速に施行できる。しかしながら,陽性判定はこの微生物の存在を意味するだけで,毒素産生の有無は判断できない(1)。
ELISAを用いた毒素検査も迅速に施行でき,活動性疾患の診断に非常に特異度が高いが,感度が特に高いわけではないため,かなりの数の偽陰性が生じる。
PCR法で毒素遺伝子を調べる核酸増幅検査(NAAT)は,毒素産生株に対して非常に感度が高いが,毒素を活発に産生しているか否かは判断できない。この検査は,治療が成功した後も陽性のままになることが多いため,以前にこの疾患に罹患したことのある患者では解釈が難しくなる可能性がある。
保菌状態の可能性もあるため,検査は通常,症状のある患者(すなわち,液状便が複数回あった患者)にのみ行われる。検査の特性上,これらの検査のうちいくつかまたは全てが同時にまたは順次に施行される。まずGDHと毒素検査を行うのが1つの戦略である。2つの検査結果に矛盾がなければ(すなわち,両者ともに陽性または陰性であれば),診断は確定または除外されたとみなされる。検査結果に矛盾があれば(すなわち,片方が陽性でもう片方が陰性であれば),NAAT検査の結果に基づいて診断が下される(1)。
通常は1つの便検体で十分である。最初の検体で陰性と判定された場合は,臨床的変化が認められ,疑いが強い場合を除き,最低7日間は検体の再提出を控えるべきである。しばしば便中に白血球が認められるが,特異的ではない。
イレウスを起こしている場合と毒素検査で診断がつかない場合は,偽膜の存在を確認できるS状結腸鏡検査を施行すべきである。
劇症大腸炎,穿孔,または巨大結腸症が疑われる場合には,通常は腹部X線,CT,またはその両方を施行する。
診断に関する参考文献
1.Kelly CR, Fischer M, Allegretti JR, et al: ACG Clinical Guidelines: Prevention, diagnosis, and treatment of Clostridioides difficile infections. Am J Gastroenterol 116(6):1124–1147, 2021.doi: 10.14309/ajg.0000000000001278.Clarification and additional information.Am J Gastroenterol 117(2):358, 2022.
Clostridioides difficile関連下痢症の治療
経口バンコマイシンまたは経口フィダキソマイシン
American College of Gastroenterologyは,重症以外のC. difficile関連下痢症の初回エピソードに対する治療として,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与を推奨している(1)。
Infectious Diseases Society of America(IDSA)およびSociety for Healthcare Epidemiology of America(SHEA)は,C. difficile感染症に対する第1選択薬としてフィダキソマイシン200mg,経口,12時間毎,10日間を推奨している(2)。フィダキソマイシンはバンコマイシンより再発リスクの低減効果が高い。バンコマイシン125mg,経口,1日4回,10日間が代替の選択肢である(2)。
メトロニダゾールは,もはやC. difficile関連下痢症の第1選択の治療として推奨されていない。ただし,バンコマイシンおよびフィダキソマイシンが使用できない場合は,経口メトロニダゾールを使用できる。
ISDA/SHEAは,イレウスのない劇症例に対して,バンコマイシン500mg,経口または経鼻胃管,1日4回とメトロニダゾール500mg,静注,8時間毎の投与を推奨している。
イレウスがある場合は,生理食塩水10mLにバンコマイシン500mgを溶解した停留浣腸を1日4回経直腸投与することができる(1)。
原因となりうる抗菌薬を使用している場合は,できるだけ早く中止するか,C. difficile関連下痢症を引き起こしにくい抗菌薬のレジメンに切り替えるべきである。
コレスチラミン樹脂,酵母Saccharomyces boulardii,およびプロバイオティクスの有益性は証明されていないものの,しばしば治療に追加される。
ニタゾキサニド(nitazoxanide)はバンコマイシン(vancomycin)の服用と同等とみられるが,米国ではあまり使用されていない。
少数の患者には治癒を得るために結腸全摘術が必要になる。
再発例の治療
C. difficile関連下痢症は15~20%の患者で再発するが,再発時期は典型的には治療中止から数週間以内である。再発は再感染(同一または別の菌株によるもの)が原因であることが多いが,最初の感染から生き残った芽胞が関与する症例もあると考えられる。再発例に対しては,ISDAのガイドラインは,標準コースのバンコマイシンではなく,フィダキソマイシン(標準または長期パルスレジメン)を推奨している。初回再発時の代替治療として,パルス・漸減療法または標準コースによるバンコマイシン投与がある。再発を繰り返している患者には,フィダキソマイシンに加えて,バンコマイシンのパルス・漸減療法,バンコマイシンとその後のリファキシミン,および糞便微生物叢移植が選択肢となる(2)。
頻回に重度の再発を繰り返す患者にドナー便を注入(便移植,通常は大腸内視鏡下で施行)することで解消の可能性が高くなるが,その機序はおそらく正常な便細菌叢の復旧と考えられる。便は約200~300mL使用し,ドナーには腸内および全身性病原菌について検査を実施する。便は経鼻十二指腸管,大腸内視鏡,または浣腸器を用いて注入することができるが,至適な方法はまだ特定されていない。経口カプセルによる糞便微生物叢移植は安全であり,同等に効果的である。
ヒトモノクローナル抗体であるベゾロトクスマブ(10mg/kgを静注で単回投与する)は,C. difficile毒素Bに結合して,これを中和する;過去6カ月以内に再発がみられた患者に対して,C. difficile関連下痢症の再発予防を目的として標準治療とともに使用することができる。
感染拡大の予防
患者間および医療従事者間でのC. difficileの感染拡大を防止するために,感染制御対策が不可欠である。
治療に関する参考文献
1.Kelly CR, Fischer M, Allegretti JR, et al: ACG Clinical Guidelines: Prevention, diagnosis, and treatment of Clostridioides difficile infections. Am J Gastroenterol 116(6):1124–1147, 2021.doi: 10.14309/ajg.0000000000001278.Clarification and additional information.Am J Gastroenterol 117(2):358, 2022.
2.Johnson S, Lavergne V, Skinner AM, et al: Clinical practice guideline by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA): 2021 Focused update guidelines on management of Clostridioides difficile infection in adults. Clin Infect Dis 73(5):e1029–e1044, 2021.doi: 10.1093/cid/ciab549
要点
抗菌薬が投与されると,腸管内で毒素産生性のC. difficileが過剰増殖することで,重症かつ難治性の偽膜性大腸炎が引き起こされることがある。
セファロスポリン系(特に第3世代),ペニシリン系,クリンダマイシン,およびフルオロキノロン系が最もリスクの高い薬剤である。
便中のC. difficile抗原および毒素の検出により診断し,ときに毒素遺伝子のPCR検査も用いる。
経口のバンコマイシンまたはフィダキソマイシンで治療する。
再発がよくみられるが,その場合は抗菌薬で再治療を行い,治療抵抗性の再発例には便移植またはベズロトクスマブを考慮する。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American College of Gastroenterology (ACG): ACG Clinical Guidelines: Prevention, diagnosis, and treatment of Clostridioides difficile infections (2021)
Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA): Clinical practice guideline: 2021 Focused update guidelines on management of Clostridioides difficile infection in adults (2021)