核酸検出法では,微生物から抽出した特異的なDNAまたはRNA配列を検出する。配列をin vitroで増幅する場合と増幅しない場合がある。
核酸法を用いる同定法(分子生物学的同定法)は臨床現場に広く普及しており,結果として可能になった迅速同定により,現在では特異的な抗菌薬療法を行うことができ,ときに不適切な薬剤を使用する経験的な長期管理を回避することが可能になっている。
核酸検出法は通常,特異的で感度が高く,あらゆる分類の微生物に利用できる。結果は迅速に得られる。典型的には1回の検査は1種類の微生物に特異的であることから,臨床医は診断の可能性を認識して,然るべき検査を依頼しなければならない。例えば,インフルエンザを示唆する症状がみられるものの,インフルエンザシーズンは終わっている場合には,他のウイルス(例,パラインフルエンザ,アデノウイルス)が原因である可能性があるため,特異的なインフルエンザ検査よりも,より範囲の広いウイルス診断検査(例,ウイルス培養)を施行する方がよい。
近年の進歩により,1回の核酸検査で複数の原因微生物を同定および鑑別できる複合アッセイが開発された。現在では,生物兵器,SARS-CoV-2変異株,および特定の呼吸器病原体の検出用に複合アッセイ(すなわち,RSウイルス[RSV],アデノウイルス,インフルエンザ,パラインフルエンザなどの一連の呼吸器系ウイルスに加えて肺炎球菌,マイコプラズマ,クラミジアなどの非ウイルス性病原体を対象とする複合アッセイ)が利用可能になっている。複合アッセイは単一標的アッセイと同程度の感度・特異度を有するが,大半が定性的であり,個々の患者での解釈がより難しくなる場合がある。
核酸検査は定性検査であるが,限られた数(現在も増えてはいる)の感染症(例,B型肝炎,C型肝炎,HIV,サイトメガロウイルス,ヒトT細胞白血病ウイルス[ヒトTリンパ球向性ウイルス])に対しては定量的な方法があり,それらの方法は診断のほか,治療効果のモニタリングにも有用となりうる。
増幅を必要としない検査法
核酸配列を標的とするが増幅を必要としない方法は,微生物があらかじめ培養されている状況と検体中に微生物が高濃度で存在する場合(例,A群レンサ球菌[Streptococcus]による咽頭炎,Chlamydia trachomatisまたは淋菌による性器感染症)に限定されるのが通常である。
核酸増幅法
核酸増幅法(NAAT)は微量のDNAまたはRNAを補足して何度も複製する技術であり,培養を要することなく検体中の微量の微生物を検出することができる。この手法は特に,培養や他の方法による同定が困難である微生物(例,ウイルス,偏性細胞内寄生病原体,真菌,抗酸菌,その他の細菌)や,存在量の少ない微生物に有用である。
これらの検査では以下を行う:
標的の増幅(例,PCR,逆転写PCR[RT-PCR],SDA[strand displacement amplification]法,転写増幅法)
シグナルの増幅(例,branched DNA assay,ハイブリッドキャプチャー法)
プローブの増幅(例,リガーゼ連鎖反応法,cleavaseを用いるインベーダー法,サイクリンプローブ法)
増幅後の分析(例,増幅産物の配列決定,マイクロアレイ解析,リアルタイムPCRで行われる融解曲線解析)
分子生物学的検査を行う検査室に到着するまでの検体の採取と保存が適切になされることが重要である。増幅法はあまりに感度が高いため,検体や機器の微量の汚染によって容易に偽陽性が生じうる。
感度が高いにもかかわらず,ときに偽陰性となる場合もあり,これは症状がみられる場合にすら起こりうる(例,ウエストナイルウイルス感染症)。偽陰性は以下の対策で最小限に抑えることができる:
軸が木製または先端が綿のスワブは使用しない(増幅検査用として妥当性が確認されたスワブを使用しなければならない)
検体を迅速に輸送する
輸送時間が2時間を超える可能性が高い場合は,検体を凍結または冷蔵する
核酸増幅検査では凍結が一般的な保存方法である。ただし,不安定なウイルス(例,水痘帯状疱疹ウイルス,インフルエンザウイルス,HIV-2)が疑われる場合またはウイルス培養も行う予定がある場合(標準の培養には凍結検体を使用できないことがある)には,検体は冷凍ではなく冷蔵するべきである。