VIPoma

(Werner-Morrison症候群)

執筆者:Minhhuyen Nguyen, MD, Fox Chase Cancer Center, Temple University
レビュー/改訂 2021年 3月
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VIPomaは,血管作動性腸管ペプチド(VIP)を分泌する非β膵島細胞腫瘍で,水様性下痢,低カリウム血症,および無酸症を呈する症候群(WDHA症候群)を来す。診断は血清VIP濃度による。腫瘍の局在診断はCTおよび超音波内視鏡検査による。治療は外科的切除である。

VIPomaは,膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種である。これらの腫瘍のうち50~75%は悪性で,診断時に極めて大きい(7cm)ものもある。VIPomaの約6%は,多発性内分泌腫瘍症の一部として発生する。

膵内分泌腫瘍の概要も参照のこと。)

VIPomaの症状と徴候

VIPomaの主な症状は長引く大量の水様性下痢(絶食時便量は750~1000mL/日を超え,非絶食時便量は3000mL/日を上回る)と,低カリウム血症代謝性アシドーシス,および脱水の症状である。患者の半数で下痢が持続し,残り半数では下痢の重症度は経時的に変化する。診断までの下痢の罹病期間は,患者の約33%では1年未満であるが,25%では5年以上である。

嗜眠,筋力低下,悪心,嘔吐,および痙攣性の腹痛がしばしば起こる。

下痢発作時には,患者の20%においてカルチノイド症候群に似た紅潮が生じる。

VIPomaの診断

  • 分泌性下痢の確認

  • 血清血管作動性腸管ペプチド(VIP)濃度

  • 超音波内視鏡検査,PET,またはシンチグラフィーで局在の特定が可能

VIPomaの診断には分泌性下痢の証明が必要である(便の浸透圧が血漿浸透圧とほぼ同じで,便中のナトリウムおよびカリウム濃度の合計の2倍が,測定された便の浸透圧に当たる)。分泌性下痢の他の原因,特に下剤乱用を除外する必要がある(下痢の検査を参照)。そのような患者では,血清VIP濃度を測定すべきである(理想的には下痢発作時)。著明な高値を示せば診断確定となるが,軽度の上昇は短腸症候群や炎症性疾患でも起こることがある。VIP高値の患者では,腫瘍の局在検査として超音波内視鏡検査,PET,オクトレオチドシンチグラフィーなどを施行するか,転移部位を同定するための動脈造影を行うべきである。

電解質測定と血算を行うべきである。50%以下の患者では高血糖と耐糖能障害が生じる。また,50%の患者で高カルシウム血症が生じる。

VIPomaの治療

  • 水分および電解質の補給

  • オクトレオチド

  • 限局例には外科的切除

まず,水分および電解質を補給する必要がある。便中喪失を補い,アシドーシスを避けるために重炭酸塩を投与する必要がある。水分補給とともに水分および電解質の便中喪失が増加するため,持続的経静脈補給が困難になることがある。

オクトレオチドは通常,下痢を抑制するが,高用量が必要になることがある。奏効例では,長時間作用型オクトレオチド製剤20~30mg,筋注,月1回の投与が有益となりうる。オクトレオチドは膵酵素の分泌を抑制するため,オクトレオチドを使用する患者には膵酵素剤の服用も必要になることがある。

限局性腫瘍患者の50%は腫瘍切除術で治癒する。転移性腫瘍のある患者では,肉眼で見える全ての腫瘍の切除により,症状が一時的に緩和することがある。ストレプトゾシンとドキソルビシンの併用は,客観的反応がみられれば(50~60%),下痢を軽減し,腫瘍を縮小させることができる。VIPomaを対象に検討されている新規の化学療法として,テモゾロミドをベースとするレジメン,エベロリムス,スニチニブなどがある。化学療法では治癒は得られない。

要点

  • VIPomaの半数以上は悪性である。

  • 大量の水様性下痢(しばしば1日1~3L)がよくみられ,しばしば電解質異常および/または脱水を引き起こす。

  • 水様性下痢が確認された患者では,血清血管作動性腸管ペプチド(VIP)濃度を測定すべきである(理想的には下痢発作時)。

  • 超音波内視鏡検査,PET,オクトレオチドシンチグラフィー,または動脈造影により腫瘍の局在を同定する。

  • 腫瘍は可能であれば外科的に切除し,下痢はオクトレオチドで抑制する。

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