グルカゴノーマは,グルカゴンを分泌する膵α細胞の腫瘍であり,高血糖と特徴的な発疹を引き起こす。診断はグルカゴン高値および画像検査による。腫瘍はCTおよび超音波内視鏡検査により局在診断する。治療は外科的切除である。
(膵内分泌腫瘍の概要も参照のこと。)
グルカゴンは,正常時において,血糖値が低下したときに膵臓から分泌されるホルモンである。グルカゴンは,肝臓でのグリコーゲン分解を促進することにより血糖値を上昇させる。グルカゴノーマは,膵α細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種である。グルカゴノーマは非常にまれであるが,原発病変および転移病変が緩徐に増殖するという点で他の膵島細胞腫瘍と似ており,15年生存もよくみられる。グルカゴノーマの80%は悪性である。症状発生時の平均年齢は50歳で,80%の患者が女性である。少数の患者では多発性内分泌腫瘍症1型が認められる。
グルカゴノーマの症状と徴候
グルカゴノーマは血糖値を上昇させるグルカゴンを産生するため,症状は糖尿病の症状と同じである。しばしば体重減少,正色素性貧血,低アミノ酸血症,および低脂血症が認められるが,最も顕著な臨床的特徴は四肢の慢性発疹で,滑らかで光沢のある朱色の舌と口唇炎がしばしば関連する。表皮壊死を伴う茶褐色の剥脱性紅斑性病変は壊死性遊走性紅斑と呼ばれる。
グルカゴノーマの診断
血清グルカゴン値
CTおよび超音波内視鏡検査による局在診断
グルカゴノーマ患者の大半でグルカゴン値は1000pg/mL(1000ng/L)を超える(正常値は200pg/mL[200ng/L]未満)。一方,中等度の上昇は腎機能不全,急性膵炎,重度のストレス,および空腹時でも起こる。症状との相関関係が必要である。
腹部CTとそれに続いて超音波内視鏡検査を行うべきであり,CTで判明しない場合には,MRIまたはPETを行ってもよい。
グルカゴノーマの治療
限局例には外科的切除
転移例には化学療法
オクトレオチドによるグルカゴン産生の抑制
腫瘍の切除により全ての症状が軽減する。
切除不能例,転移例,および再発例については,ストレプトゾシンとドキソルビシンの併用により治療し,それにより免疫活性を有するグルカゴンの血中濃度が低下し,症状が軽減し,奏効率(50%)が改善する可能性があるが,生存率が改善する可能性は低い。グルカゴノーマを対象に検討されている新規の化学療法として,テモゾロミドをベースとするレジメン,エベロリムス,スニチニブなどがある。
オクトレオチドを注射すれば,グルカゴン産生が部分的に抑制され,紅斑が軽減するが,オクトレオチドはインスリン分泌を低下させるため,耐糖能も低下することがある。オクトレオチドは,グルカゴンの過剰による異化作用に起因する食欲不振と体重減少を迅速に回復させる可能性がある。奏効例では,長時間作用型オクトレオチド製剤20~30mg,筋注,月1回の投与に切り替えてもよい。オクトレオチドは膵酵素の分泌を抑制するため,オクトレオチドを使用する患者には膵酵素剤の服用も必要になることがある。
亜鉛の局所塗布,経口投与,または注射によって紅斑が消失する場合があるが,紅斑の消失は単なる水分補給後やアミノ酸または脂肪酸の静注後にも起こる可能性があり,このことは亜鉛欠乏だけが紅斑の原因ではないことを示唆している。