ブドウ球菌感染症

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;
Maria T. Vazquez-Pertejo, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center
レビュー/改訂 2023年 5月
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ブドウ球菌はグラム陽性好気性細菌である。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最も病原性が強く,典型的には皮膚感染症を引き起こすほか,ときに肺炎,心内膜炎,骨髄炎を引き起こすこともある。一般的には膿瘍形成につながる。一部の菌株は,胃腸炎,熱傷様皮膚症候群,および毒素性ショック症候群を引き起こす毒素を産生する。診断はグラム染色と培養による。治療には通常,ペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系薬剤を使用するが,抗菌薬耐性がよくみられるため,バンコマイシンまたは他のより新しい抗菌薬が必要になることもある。

コアグラーゼを産生して血液を凝固できるか否かで,毒性の強い黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と毒性の弱いコアグラーゼ陰性ブドウ球菌属細菌を鑑別する。コアグラーゼ陽性である黄色ブドウ球菌(S. aureus)は,病原性が強く,抗菌薬耐性発現能が高いことから,最も遍在的で危険なヒト病原体の1つに数えられる。

表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)などのコアグラーゼ陰性菌種は院内感染との関連が増大しており,腐性ブドウ球菌(S. saprophyticus)は尿路感染症を引き起こす。コアグラーゼ陰性菌種であるS. lugdunensisは,黄色ブドウ球菌(S. aureus)と同様の病原性を有し,侵襲性感染症を引き起こすことがある。大部分のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌とは異なり,S. lugdunensisはしばしばペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系抗菌薬への感受性(すなわちメチシリン感受性)を維持している。

キャリア(保菌状態)もよくみられる。病原性ブドウ球菌は普遍的に存在する。健康な成人の約30%の鼻孔前方部,また約20%の皮膚に,通常は一時的に保菌されている:このような部位から,ブドウ球菌は宿主や他の人に感染を引き起こしうる。入院患者や病院職員では保菌率が高い。黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染症は,非保菌者より保菌者で多くみられ,通常は定着株により引き起こされる。

ブドウ球菌感染症の危険因子

以下に挙げる集団はブドウ球菌感染症に罹りやすい:

  • 新生児および授乳中の母親

  • インフルエンザ,慢性気管支肺疾患(例,嚢胞性線維症,肺気腫),白血病,腫瘍,慢性皮膚疾患,または糖尿病がある患者

  • 移植,機器または他の異物の植込み,血管内へのプラスチック製カテーテル留置がある患者

  • 副腎ステロイド,放射線照射,免疫抑制薬,またはがん化学療法を受けている患者

  • 注射薬物使用者

  • 慢性腎臓病で透析治療を受けている患者

  • 外科的切開,開放創,または熱傷がある患者

素因のある患者は,他の患者,医療従事者,または医療環境からの伝播により抗菌薬耐性ブドウ球菌に感染する可能性がある。医療従事者の手指を介した伝播が最も一般的な感染経路であるが,空気感染も起こりうる。

ブドウ球菌による疾患

ブドウ球菌は以下のようにして疾患を引き起こす:

  • 組織への直接の侵入

  • ときに外毒素の産生

組織への直接侵襲はブドウ球菌による疾患で最も一般的なメカニズムであり,以下の疾患でみられる:

ブドウ球菌からは,ときに複数種類の外毒素が産生される。毒素には局所的に作用するものあれば,特定のT細胞からのサイトカイン放出を誘発して重篤な全身性作用(例,皮膚病変,ショック,臓器不全,死亡)を引き起こすものもある。Panton-Valentine leukocidin(PVL)は,特定のバクテリオファージが感染した菌株によって産生される毒素である。PVLは典型的には市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(CA-MRSA)株に認められ,壊死性をもたらすと考えられてきたが,この作用については検証されていない。

毒素が介在するブドウ球菌感染症としては以下のものがある:

以下に挙げる感染症および疾患については,本マニュアルの別の箇所で詳細に考察されている。

ブドウ球菌菌血症

ブドウ球菌(S. aureus 菌血症は,しばしば転移性の感染巣をもたらし,あらゆる限局性のブドウ球菌(S. aureus)感染症で生じうるが,特に多いのは血管内カテーテルまたは他の異物に関連した感染症に随伴するものである。明らかな原発部位がなくても起こりうる。

表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)および他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌は,血管内カテーテルや他の異物上にバイオフィルムを形成できるため,これらの材料に関連する院内菌血症の原因となることが増えてきている。

ブドウ球菌菌血症は衰弱した患者における合併症(特に入院の長期化)や死亡の重要な原因である。

ブドウ球菌皮膚感染症

皮膚感染症はブドウ球菌感染症の最も一般的な病型である。表在感染症は,小胞性膿疱および痂皮形成(膿痂疹)またはときに蜂窩織炎を伴うびまん性の場合もあれば,結節性膿瘍(せつとよう)を伴う限局性の場合もある。皮膚深在部の膿瘍がよくみられる。重度の皮膚壊死性感染症が起こることがある。

主なブドウ球菌皮膚感染症
膿痂疹
膿痂疹

膿痂疹では,集簇して形成された水疱膿疱性または水疱性病変が破裂し,蜂蜜色のかさぶたを形成する。

Image courtesy of Thomas Habif, MD.

非水疱性(痂皮性)膿痂疹(乳児)
非水疱性(痂皮性)膿痂疹(乳児)

この写真には,小水疱と膿疱の集簇が写っており,鼻に蜂蜜色のかさぶたを伴う。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

せつ
せつ

せつ(おでき)は,毛包を侵す圧痛を伴う結節または膿疱であり,ブドウ球菌感染により生じる。

Image provided by Thomas Habif, MD.

ブドウ球菌は一般的に,創傷および熱傷感染症,手術創感染症,ならびに授乳中の母親の乳腺炎または乳房膿瘍に関与する。

新生児ブドウ球菌感染症

新生児感染症は通常は生後4週間以内に発生し,臨床像として以下のものがある:

ブドウ球菌性肺炎

市中環境で発生する肺炎は,あまり頻度は高くないが,以下の特徴が少なくとも1つ認められる患者に生じる:

  • インフルエンザ

  • 慢性気管支肺疾患または他の高リスク疾患

  • コルチコステロイドまたは免疫抑制療法

  • 在宅での注射剤による治療または血液透析のための静脈カテーテル留置

  • 注射薬物の使用

ブドウ球菌性肺炎は一次感染のこともあれば,体内の別の黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染部位(例,静脈カテーテル感染,心内膜炎,軟部組織感染症)または注射部位から血行性に伝播して発生することもある。一方,人工呼吸器関連肺炎などの院内肺炎では黄色ブドウ球菌(S. aureus)が起因菌であることが多い。

ブドウ球菌肺炎はときに,肺膿瘍が形成され,続いて急速に気瘤(pneumatocele)および膿胸が発生することを特徴とする。CA-MRSAは,しばしば重症の壊死性肺炎を引き起こす。

ブドウ球菌による心内膜炎

心内膜炎が生じることもあり,特に注射薬物の使用者と人工心臓弁植込み患者でよくみられる。血管内カテーテルの使用と心臓機器の植込みが増加してきたことから,現在では黄色ブドウ球菌(S. aureus)が細菌性心内膜炎における第1位の起因菌となっている。

黄色ブドウ球菌(S. aureus)による心内膜炎は,急性熱性疾患であり,しばしば内臓膿瘍,塞栓現象,心膜炎,爪下点状出血,結膜下出血,紫斑病変,心雑音,弁周囲膿瘍,伝導障害,および心臓弁障害に続発する心不全を伴う。

ブドウ球菌による骨髄炎

骨髄炎は小児でより多くみられ,悪寒,発熱,および感染骨上の疼痛を引き起こす。続いて患部の軟部組織に発赤と腫脹が生じる。関節感染症を来すこともあり,しばしば関節液の貯留につがなるが,これは骨髄炎よりむしろ化膿性関節炎を示唆する。成人における脊椎および椎間板感染症の大半には黄色ブドウ球菌(S. aureus)が関与している。

ブドウ球菌による感染性関節炎

関節は典型的には血行性感染により感染するが,骨の感染の拡大,外傷,または関節手術時の直接感染により感染する可能性もある。人工関節は特に感染しやすい。植込み後1カ月における人工関節のブドウ球菌感染症は,通常は手術時に感染したものである一方,術後12カ月以降に発生する感染症は血行性の伝播に起因する可能性が高い。ただし,感染症が植込み時に不注意により侵入し休眠状態を維持した微生物に起因し,数カ月後に臨床的に明らかになる場合もある。

ブドウ球菌による毒素性ショック症候群

ブドウ球菌による毒素性ショック症候群は,腟タンポンまたはその他の器具の使用によって生じることがあり,また全ての黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染症(例,術後創感染症,熱傷感染症,皮膚感染症)に合併しうる。大半の症例はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(MSSA)が起因菌であるが,MRSAに起因する症例が増えている。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は,大きな水疱と皮膚上層の剥離を特徴とする小児期の剥脱性皮膚炎であり,表皮剥脱毒素と呼ばれる数種類の毒素によって引き起こされる。最終的には皮膚の剥脱が起こる。熱傷様皮膚症候群は5歳未満の乳児および小児で最も多く発生する。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(乳児)
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ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は,ブドウ球菌の毒素によって表皮剥離が引き起こされる病態である。所見としては紅斑とその部分でのシート状の表皮剥離があり,特に鼠径部および腋窩の間擦部位でよくみられる。しばしば口の周囲にも剥離がみられる。
Image courtesy of Thomas Habif, MD.

ブドウ球菌食中毒

ブドウ球菌食中毒は,ブドウ球菌が産生した耐熱性のエンテロトキシンを摂取することで発生する。食物はブドウ球菌保菌者や活動性皮膚感染症の患者によって汚染される。加熱調理が不完全であったり,室温で放置されたりした食品中では,ブドウ球菌が増殖してエンテロトキシンを産生する。多くの食物が増殖培地の役割を果たし,汚染されているにもかかわらず,味と匂いは通常のままとなる。重度の悪心および嘔吐が摂取後2~8時間で始まり,典型例では続いて腹部痙攣と下痢がみられる。症状の持続は短時間で,12時間未満のことが多い。

ブドウ球菌感染症の診断

  • グラム染色および培養

ブドウ球菌感染症の診断は感染材料のグラム染色および培養による。

現在はメチシリン耐性菌の頻度が高く,その治療には代替薬が必要となるため,感受性試験を施行すべきである。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群が疑われる場合は,血液,尿,上咽頭,皮膚病変部,または感染が疑われる全ての部位から検体を採取して培養すべきである;破れていない水疱は無菌である。診断は通常臨床的に行うが,感染部の皮膚生検が診断の確定に役立つことがある。

ブドウ球菌食中毒は通常,症例の集積(例,家族内,集会参加者,または飲食店の客)により疑う。確定診断(典型的には保健局による)には疑われる食物からのブドウ球菌分離のほか,ときにエンテロトキシン検査が必要となる。

骨髄炎を示すX線上の変化は10~14日間は明白ではなく,骨の菲薄化(rarefaction)や骨膜反応はさらに長い間認めないことがある。MRI,CT,または骨シンチグラフィーの異常所見は,それより早期に認められることが多い。骨生検(切開または経皮的)を施行して,病原体の同定および感受性試験を行うべきである。

医療施設におけるMRSAサーベイランス

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(MRSA)の院内感染率が高い一部の医療施設では,鼻腔拭い液検体による迅速診断により,入院患者に対してMRSAのスクリーニングをルーチンに実施している(積極的サーベイランス)。高リスク患者(例,集中治療室に入室している患者,MRSA感染症の既往がある患者,または血管手術,整形外科手術,または心臓手術を受けようとしている患者)のみをスクリーニング対象としている施設もある。

MRSAを迅速に同定することには,以下のメリットがある:

  • 保菌者を隔離することができ,術前に皮膚病原体に対する抗菌薬の予防投与が必要であれば,レジメンにバンコマイシンを含めることができる

  • MRSAの拡散を減らす

  • MRSAによる院内感染の発生を減らす可能性がある

肺炎患者の外鼻孔へのMRSAの定着を調べるPCR検査は,MRSA肺感染症の陰性適中率が95%を超えることが示されており,したがって抗菌薬による管理に有用である。

ブドウ球菌感染症の治療

  • 局所的な処置(例,デブリドマン,カテーテルの抜去)

  • 感染症の重症度および地域の耐性パターンに基づいて選択した抗菌薬

ブドウ球菌感染症の管理としては,膿瘍ドレナージ,壊死組織のデブリドマン,異物の除去(血管内カテーテルを含む),抗菌薬の使用などがある(成人におけるブドウ球菌感染症の抗菌薬治療の表を参照)。

最初に選択する抗菌薬およびその用量は以下に依存する:

  • 感染部位

  • 重症度

  • 耐性株が関与している可能性

したがって,初期治療には地域の耐性パターンを把握しておくこと(および最終的には実際の薬剤感受性を知ること)が不可欠である。

毒素が介在するブドウ球菌感染症(最も重篤なものは毒素性ショック症候群)の治療としては,毒素産生部位の除染(手術創の検索,洗浄,デブリドマン),集中的な支持療法(輸液,昇圧薬,呼吸補助など),電解質バランスの調整,抗菌薬投与などがある。β-ラクタマーゼ抵抗性かつブドウ球菌に有効な静注抗菌薬(例,ナフシリン[nafcillin],オキサシリン,バンコマイシン)とタンパク質合成阻害薬(例,クリンダマイシン,リネゾリド)の併用がin vitroのエビデンスによって支持されている。免疫グロブリン静注療法は重症例では有益である。

抗菌薬耐性

多くのブドウ球菌株は,いくつかのβ-ラクタム系抗菌薬を不活化する酵素であるペニシリナーゼを産生し,それらはベンジルペニシリン,アンピシリン,アモキシシリン,および抗緑膿菌ペニシリン(例,ピペラシリン)に耐性を示す。

市中株は,しばしばペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン系(例,メチシリン,オキサシリン,ナフシリン[nafcillin],クロキサシリン,ジクロキサシリン),セファロスポリン系,カルバペネム系(例,イミペネム,メロペネム,エルタペネム[ertapenem]),テトラサイクリン系,マクロライド系,フルオロキノロン系,トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX),ゲンタマイシン,バンコマイシン,およびテイコプラニンに感性である。

MRSA分離株は,特に病院において一般的となっている。MRSAの分離株は大半のセファロスポリン系およびカルバペネム系を含むほぼ全てのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すが,最新のクラスであるMRSA活性セファロスポリン系(例,セフタロリン[ceftaroline],セフトビプロール[ceftobiprole;米国では入手できない])には感受性を示す可能性がある。院内感染型MRSAは,エリスロマイシン,クリンダマイシン,フルオロキノロン系など,他の多くの抗菌薬にも耐性を示すのが一般的である。加えて市中感染型MRSA(CA-MRSA)が過去数年の間に大半の地域で出現した。CA-MRSAは院内感染型MRSAよりも多剤耐性度が低い傾向がある。これらの菌株は,大半のβ-ラクタム系薬剤に耐性であるが,しばしばTMP/SMXおよびテトラサイクリン系(ミノサイクリンまたはドキシサイクリン)に感性で,しばしばクリンダマイシンにも感性であるが,エリスロマイシンに対する誘導型耐性株によってクリンダマイシン耐性が出現する可能性がある(検査室はこのような菌株をDゾーンテスト陽性と報告することがある)。

バンコマイシンは大半のMRSAに効果的であり,一部の重篤な感染症(すなわち,骨髄炎,人工関節感染症,人工弁心内膜炎)に対しては,ときにリファンピシンおよびアミノグリコシド系薬剤が追加される。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)が1.5μg/mL以上のMRSA株に対しては,代替抗菌薬(ダプトマイシン,リネゾリド,テジゾリド,ダルババンシン[dalbavancin],オリタバンシン[oritavancin],テラバンシン[telavancin],チゲサイクリン,オマダサイクリン[omadacycline],レファムリン[lefamulin],エラバサイクリン[eravacycline],デラフロキサシン[delafloxacin],キヌプリスチン/ダルホプリスチン,TMP/SMX,セフタロリン[ceftaroline])を考慮すべきである。

米国では,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus(VRSA;MIC ≥ 16μg/mL)およびバンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(VISA;MIC 4~8μg/mL)が出現している。これらの菌株に対しては,リネゾリド,テジゾリド,キヌプリスチン/ダルホプリスチン,ダプトマイシン,TMP/SMX,デラフロキサシン(delafloxacin),オリタバンシン(oritavancin),またはセフタロリン(ceftaroline)が必要である。ダルババンシン(dalbavancin)およびテラバンシン(telavancin)は,VISAに対して活性を示すが,VRSAに対する活性はほとんどない。オリタバンシン[oritavancin]はVISAとVRSAの両方に活性を示す:

MRSAの分離頻度が上昇したことから,重篤なブドウ球菌感染症(特に医療施設内で発生したもの)に対する最初の経験的治療には,MRSAに対して確実に活性を示す薬剤を含めるべきである。そのため,適切な薬剤としては以下のものがある:

  • 血流感染症またはその疑いには,バンコマイシンまたはダプトマイシン

  • 肺炎には,バンコマイシン,テラバンシン(telavancin),またはリネゾリド(ダプトマイシンは肺内では必ずしも活性を示すわけではないため)

成人におけるブドウ球菌感染症の抗菌薬治療の表に治療選択肢を要約している。

表&コラム
表&コラム

ブドウ球菌感染症の予防

無菌的な予防措置(例,診察と診察の間に徹底的に手を洗う,共用する器具を滅菌する)が,医療施設における菌蔓延の抑制に役立つ。

耐性菌を保有している患者に対しては,その感染が治癒するまで厳格な隔離処置を行うべきである。無症状の黄色ブドウ球菌(S. aureus)の鼻腔保菌者は,保有する菌株がMRSAではなく,アウトブレイクの感染源として疑われているわけでもなければ,隔離する必要はない。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)は,MRSAの定着または感染を認める患者は個室に収容し,入院患者の急性期ケアの環境で接触感染予防策を講じ,厳格な隔離処置を採用することを推奨している(Strategies to Prevent Hospital-onset Staphylococcus aureus Bloodstream Infections in Acute Care Facilitiesを参照)。

特定の種類の手術前における予防的抗菌薬投与の集学的ガイドラインでは,手術直前に注射剤の抗菌薬を単回投与することで大半の患者を治療できると示唆されている。大半の手技にセファゾリンが使用される。しかしながら,培養またはPCR検査によりMRSAの定着が確認された患者では,バンコマイシンを追加すべきである(2)。

ブドウ球菌性食中毒は適切な調理により予防できる。ブドウ球菌性皮膚感染症の患者は食物を扱ってはならず,食物は調理後すぐに食べるか冷蔵保存し,室温で放置してはならない。

MRSAキャリアの除菌

黄色ブドウ球菌(S. aureus)は保菌者の最大50%で菌が再活性化し,しばしば耐性となる。特定のMRSA保菌者(例,整形外科手術,血管手術,および心臓血管手術前の患者)については,一部の専門家はムピロシン軟膏の1日2回5~10日間塗布による鼻腔除菌と皮膚消毒液(例,クロルヘキシジン)または希釈した次亜塩素酸溶液による薬浴(bleach bath)(約5mL/L)を用いる5~14日間の局所除菌レジメンを推奨する。

ムピロシン鼻腔用軟膏が入院患者(例,集中治療室の患者,大手術を受ける患者)におけるMRSA感染の低減にいくらか効果的であることが証明されている。ムピロシン耐性菌の出現もみられるが,最近の大規模研究では,MRSAが定着しており月2回の頻度で5日間ずつ投与する除菌治療を6カ月間受けた患者で退院後1年間のMRSA感染リスクが30%低下するという結果が示された。5日間の除菌レジメンでは,2%ムピロシンの1日1回の鼻腔内投与,4%クロルヘキシジンによる1日1回の入浴またはシャワー浴,および0.12%クロルヘキシジンによる1日2回の洗口が行われた(1)。

予防に関する参考文献

  1. 1.Huang SS, Singh R, McKinnell JA, et al: Decolonization to reduce postdischarge infection risk among MRSA carriers.N Engl J Med 380:638–650, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1716771

  2. 2.Bratzler DW, Dellinger EP, Olsen KM, et al: Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery. Surg Infect (Larchmt) 14(1):73–156, 2013.doi: 10.1089/sur.2013.9999

要点

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は,ブドウ球菌属の中で最も危険な菌種である。

  • 大半のブドウ球菌感染症には組織への直接侵入が関与し,皮膚・軟部組織感染症,静脈カテーテル感染症,肺炎,心内膜炎,および骨髄炎が引き起こされる。

  • 一部の菌株は,毒素性ショック症候群,熱傷様皮膚症候群,または食中毒を引き起こす毒素を産生する。

  • メチシリン耐性株がよくみられるようになり,米国ではバンコマイシン耐性も出現している。

  • 抗菌薬の選択は,感染源,感染部位,および地域または施設の耐性パターンに応じて判断する。

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