ロタウイルス胃腸炎

執筆者:Jonathan Gotfried, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2023年 6月
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ロタウイルスは,幼児における脱水を伴う重度の散発性下痢症の原因として世界的に最も頻度が高い(発生のピークは生後3~15カ月)。診断は臨床的な疑いに基づくが,急性胃腸炎の様々な原因に対するマルチプレックスパネルの一部としてPCR検査を行うことができる。治療は経口補液による支持療法であるが,ときに輸液が必要になることもある。

米国ではルーチンのロタウイルス予防接種の導入以降,ロタウイルス感染症の発生率は約80%低下した。ロタウイルスは非常に感染性が高く,大半は糞口感染で生じる。成人は,感染した乳児との濃厚な接触によって感染することがある。

温帯気候では,大半の感染が冬と春に発生している。ロタウイルスワクチンが利用可能になる前の米国では,ロタウイルス感染症の流行は毎年12月に南西部から始まり,4月または5月に北東部で終わっていた。現在では,この疾患の発生は予測困難になってきており,1年を通して発生する可能性もある(1)。

潜伏期間は1~3日である。

胃腸炎の概要も参照のこと。)

参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: Rotavirus in the U.S. Accessed April 27, 2023.

ロタウイルス胃腸炎の症状と徴候

乳幼児におけるロタウイルス胃腸炎は5~7日間続くことがある。

90%の患者で嘔吐がみられ,約30%で39℃(102.2°F)を超える発熱が発生する。

下痢は水様性かつ非血性である。

成人では,ロタウイルス胃腸炎の症状は通常軽度である。小児では,下痢により重度の脱水を来す可能性が高く,死に至ることもある。

ロタウイルス胃腸炎の診断

  • 免疫学的検査

  • PCR検査

診断検査は,アウトブレイクの判定を目的とする場合を除き,ルーチンには行われない;検査を行う場合は,便中のロタウイルスを同定する。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)とラテックス凝集法の2つが一般的に用いられる検査法である。

核酸検査(PCR検査)は非常に感度が高く,胃腸炎の複数の原因を含めたマルチプレックスPCRパネルの一部として行われる場合が多い。

ロタウイルス胃腸炎の治療

  • 経口補液または輸液

  • ときに止瀉薬および/または制吐薬

水と電解質製剤による補液を含めた支持療法が治療の中心となり,大半の成人患者に必要な治療はこれだけである。経口ブドウ糖電解質液,ブロス,またはブイヨンにより,脱水の予防または軽度脱水の治療が可能である。小児はより迅速に脱水症状に陥る可能性があり,適切な補水液(数種類が市販されている)を与えるべきである(経口補水を参照)。嘔吐のために経口補水が難しい場合は,制吐薬(例,オンダンセトロン)を投与してもよい。

重度の脱水またはショックがみられる場合,ならびにイレウスがあるか経口補水療法が無効に終わった患者で精神状態の変化がみられる場合には,乳酸リンゲル液や生理食塩水などによる等張輸液を行うべきである(Infectious Diseases Society of America[IDSA]の感染性下痢症の診断および管理に関する2017年版診療ガイドラインも参照)。重度の脱水では,脈拍,灌流,および精神状態が正常化するまで輸液による水分補給を継続すべきである。

急性下痢を呈する18歳未満の小児に止瀉薬を投与してはならない(IDSAガイドラインを参照)。水様性下痢(ヘム陰性便によって示される)を呈する成人患者では止瀉薬を考慮することができ,特にアウトブレイクの発生中は,水様性下痢は原因がウイルスである可能性が高いことを示唆する。ただし止瀉薬は,Clostridioides difficileまたは大腸菌(E. coli)O157:H7の感染患者に使用すると病状の悪化を招く可能性があるため,下痢の原因が同定されておらず,これらの疾患が(例えば,最近の抗菌薬使用,血性下痢,便潜血陽性,または発熱を伴った下痢から)疑われる患者には投与してはならない。

ロタウイルス胃腸炎の予防

ロタウイルスに対しては2つの経口弱毒生ワクチンが使用可能であり,どちらも安全で,疾患を引き起こすウイルス株の大部分に対して効果的である。ロタウイルスの予防接種は,乳児を対象とする推奨予防接種スケジュールに組み込まれている。

要点

  • ロタウイルス胃腸炎は,ロタウイルスワクチンが広く使用されている国では大きく減少したものの,世界的には依然として,小児における重篤で死に至る可能性のある下痢症状の重要な原因の1つとなっている。

  • 臨床経過は5~7日間持続する。

  • 通常は経口補水で十分であるが,制吐薬やときに輸液が必要になることもある。

  • 止瀉薬は水様性下痢がみられる成人には安全であるが,18歳未満の小児と最近の抗菌薬使用,血性下痢,便潜血陽性,または発熱を伴った下痢がみられる患者では使用を避けるべきである。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Infectious Diseases Society of America: Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of infectious diarrhea (2017)

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