イチョウ

執筆者:Laura Shane-McWhorter, PharmD, University of Utah College of Pharmacy
レビュー/改訂 2023年 1月
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イチョウ(Ginkgo biloba)(米国では鑑賞目的でよく植えられており,植物学上は同じ科で唯一残っている珍しい種である)は,イチョウの木の葉から調製される。有効成分はテルペンギンコライドおよびフラボノイドであると考えられている。

イチョウの果実はかなり悪臭が強く,イチョウ製品に使用されない。イチョウの雌木の根元に落ちている果実の果肉に触れると重症の皮膚の炎症(皮膚炎)を起こす可能性がある。生のイチョウの種子には毒性があり痙攣を起こしたり,大量に摂取した場合には死に至ることがある。調理されたイチョウの種子はアジアでは食用で米国ではアジア食料品店で入手できる;種子にはギンコライドおよびフラボノイドは含まれていないため既知の治療効果はない。

栄養補助食品の概要National Institutes of Health (NIH): Ginkgoも参照のこと。)

効能

イチョウの葉を利用した製品は跛行の軽い症状軽減に使用されるものの,運動やシロスタゾールの方が効果的な可能性がある。イチョウにより,患者が痛みを感じずに歩ける距離が延長する。

イチョウは,認知症患者に対して長期にわたり使用されている。イチョウは,記憶障害,耳鳴,加齢黄斑変性,および高山病の緩和にも使用されてきた。また免疫抑制薬の1つであるシクロスポリンによる腎障害を予防する可能性がある。イチョウは急性高山病にも使用されており,2型糖尿病の治療の補助としても使用されている。

エビデンス

イチョウは血管作動薬であると考えられている。間欠性跛行のある患者においてプラセボと比べて歩行距離を延長させる可能性があるが,2013年のコクランレビュー(Cochrane Review)によると,この便益はかなり小さなものである。このレビューは計739例を対象とした14試験を検討したもので,そのうち11試験(477例)はGinkgo bilobaとプラセボを比較した試験であった(1)。

初期の研究では,軽度から中等度の認知症患者において,イチョウが精神および社会的機能を一時的に安定させることが示された。しかし,最近の大規模な臨床試験では,イチョウ(EGb 761)の摂取が高齢者の認知症やアルツハイマー病の発症および進行を遅らせることはないことが示された(2-4)。イチョウに関する12のシステマティックレビュー(59のランダム化比較試験)をまとめた2017年の概要(エビデンスは低~中等度)では,1日当たり200mgを超える用量を,5カ月以上認知症の治療に使用した場合,認知機能,日常生活動作,および臨床全般印象が改善することが報告された(5)。認知症にこのサプリメントを臨床使用することについては,さらなる研究が必要である。

2つの研究をまとめた2013年のコクランレビュー(Cochrane Review)(6)では,イチョウに加齢黄斑変性の進行を遅らせる効果がある可能性が示唆された。いずれの研究においても,標準的なイチョウエキスとプラセボが比較され,119人がサプリメントを6カ月間摂取した。効能を証明するには,将来より長期間にわたる大規模な試験が必要である。

初期のエビデンスではイチョウが耳鳴を緩和することが示唆されたが,4つの研究(1543例)をまとめたコクランレビュー(Cochrane Review)により,耳鳴が主な症状である場合には役に立たないことが示されている(7)。急性高山病予防を目的としたイチョウのシステマティックレビューとメタアナリシスでは,有益な傾向が認められたが,有意な予防効果を実証するにはデータが不十分であった(8)。2型糖尿病治療におけるイチョウの便益を示す新たなエビデンスが報告されている。イチョウはメトホルミンと併用すると,空腹時血糖およびヘモグロビンA1Cを有意に低下させた(9)。

有害作用

悪心,ディスペプシア,頭痛,めまい,および動悸が起こることがある。早期の陣痛や分娩時の過度の出血につながりうるため,妊婦はイチョウを使用してはならない。イチョウには過度の出血の可能性があるため,少なくとも手術の2週間前に中止すべきである。

薬物相互作用

イチョウはアスピリン,その他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),およびワルファリンと相互作用を起こすことがあり,抗てんかん薬の効力を低下させることもある。他の抗うつ薬を服用中の患者では,イチョウがセロトニン症候群を誘発することがある(10)。(栄養補助食品と薬物の間で起こりうる相互作用の表も参照のこと。)

参考文献

  1. 1.Nicolaï SP, Kruidenier LM, Bendermacher BL, et al: Gingko biloba for intermittent claudication.Cochrane Database Syst Rev 6: CD006888, 2013.doi: 10.1002/14651858.CD006888.pub3

  2. 2.Vellas B, Coley N, Ousset PJ, et al; GuidAge Study Group: Long-term use of standardised Gingko biloba extract for the prevention of Alzheimer's disease (GuidAge): a randomised placebo-controlled trial.Lancet Neurol 11(10):851-859, 2012.doi: 10.1016/S1474-4422(12)70206-5

  3. 3.Snitz BE, O'Meara ES, Carlson MC, et al; Ginkgo Evaluation of Memory (GEM) Study Investigators: Gingko biloba for preventing cognitive decline in older adults: a randomized trial.JAMA 302(24):2663-2670, 2009.doi: 10.1001/jama.2009.1913

  4. 4.DeKosky ST, Williamson JD, Fitzpatrick AL, et al; Ginkgo Evaluation of Memory (GEM) Study Investigators: Gingko biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial.JAMA 300(19):2253-2262, 2008.doi: 10.1001/jama.2008.683

  5. 5.Yuan Q, Wang CW, Shi J, et al: Effects of gingko biloba on dementia: an overview of systematic reviews.J Ethnopharmacol 195:1-9, 2017. doi: 10.1016/j.jep.2016.12.005

  6. 6.Evans JR: Gingko biloba extract for age-related macular degeneration.Cochrane Database Syst Rev 31; 1:CD001775, 2013.doi: 10.1002/14651858.CD001775.pub2

  7. 7.Hilton MP, Zimmermann EF, Hunt WT: Gingko biloba for tinnitus.Cochrane Database Syst Rev (3):CD003852, 2013.doi: 10.1002/14651858.CD003852.pub3

  8. 8.Tsai TY, Wang SH, Lee YK, et al: Gingko biloba extract for prevention of acute mountain sickness: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.BMJ Open 8(8):e022005, 2018. doi: 10.1136/bmjopen-2018-022005

  9. 9.Aziz TA, Hussain SA, Mahwi TO, et al.The efficacy and safety of Gingko biloba extract as an adjuvant in type 2 diabetes mellitus patients ineffectively managed with metformin: a double-blind, randomized, placebo-controlled trial.Drug Des Devel Ther 12:735-742, 2018. doi: 10.2147/DDDT.S157113

  10. 10.Nguyen T, Alzahrani T: Gingko biloba.In: StatPearls.Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; July 4, 2022.

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Institutes of Health (NIH), National Center for Complementary and Integrative Health: General information on the use of gingko as a dietary supplement

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