筋力低下

執筆者:Michael C. Levin, MD, College of Medicine, University of Saskatchewan
レビュー/改訂 2021年 8月
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筋力低下はプライマリケア医の受診理由として最も頻度が高いものの1つである。筋力低下または脱力とは,筋力が低下した状態のことであるが,多くの患者は,たとえ筋力が正常であっても,全身的な疲労感や機能制限(例,疼痛や関節運動制限によるもの)を感じた際にもこの用語を使用することがある。

筋力低下は少数の筋のみに生じる場合もあれば,多数の筋に生じる場合もあり,発症は突然のこともあれば,緩徐なこともある。原因によっては,他の症状が併存することもある。特定の筋群の筋力低下は,眼球運動障害,構音障害,嚥下困難,または呼吸筋の筋力低下につながる可能性がある。

筋力低下の病態生理

随意運動は前頭葉後方部にある大脳の運動皮質において始まる。関与するニューロン(上位運動ニューロンまたは皮質脊髄路のニューロン)は,脊髄のニューロン(下位運動ニューロン)とシナプス結合している。下位運動ニューロンから信号が神経筋接合部に送られると,筋収縮が惹起される。

そのため,筋力低下の一般的な機序には以下の機能障害が挙げられる:

  • 上位運動ニューロン(皮質脊髄路および皮質延髄路の病変)

  • 下位運動ニューロン(例,末梢性の多発神経障害または前角細胞病変による)

  • 神経筋接合部

  • 筋(例,ミオパチーによる)

特定の病変の局在は身体所見と相関する:

  • 上位運動ニューロンの機能が障害されると,下位運動ニューロンが脱抑制される結果,筋緊張(痙性)が高まり,筋伸張反射が亢進する(反射亢進)。伸展性足底反応(バビンスキー反射)は皮質脊髄路の機能障害に特異的である。しかしながら,上位運動ニューロンの機能障害が筋緊張および反射の減弱につながることもあり,運動神経麻痺が突然で重度の場合(例,脊髄離断では,始めは筋緊張が減弱し,その後数日から数週間かけて亢進する)や,または病変が運動連合野ではなく中心前回の運動皮質を損傷した場合に,そのような現象がみられる。

  • 下位運動ニューロンの機能障害では,反射弓が機能しなくなることによって,反射が低下して筋緊張が減弱(筋弛緩)し,また線維束性収縮を生じることがあり,時間が経つと筋萎縮を生じる。

  • 末梢性の多発神経障害は,最も長い神経で最も目立つ傾向があり(すなわち,筋力低下は近位より遠位および,腕より脚でより顕著となる),下位運動ニューロン障害の徴候(例,反射および筋緊張の低下)を生じる。

  • 最も頻度が高い神経筋接合部疾患である重症筋無力症では,典型的には筋力低下に変動がみられ,活動に伴い悪化し,安静にすると軽減する。

  • びまん性の筋機能障害(例,ミオパチー)は,最も大きな筋群(近位筋)で最も目立つ傾向がある。

筋力低下の病因

筋力低下の原因の多くは,病変の局在によって分類される(筋力低下の主な原因の表を参照)。通常,特定の1つの部位に生じた病変は,それぞれ類似した臨床所見を呈する。しかしながら,複数の部位に病変が出現することを特徴とする疾患もある。例えば,筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者では,上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方に機能障害の所見がみられる。脊髄の疾患では,上位運動ニューロン,下位運動ニューロン(前角細胞),またはその両方からの経路が侵される。

局所性筋力低下の一般的な原因としては以下のものがある:

一時的な局所の筋力低下が,発作後(トッド)麻痺の一症状として(通常は数時間で解消する),または一過性脳虚血発作(TIA)もしくは低血糖に起因して発生することがあり,低血糖とそれによる筋力低下は治療により消失する。

全身性の筋力低下の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 疾患またはフレイルを原因とする活動低下によるデコンディショニング(廃用性萎縮),特に高齢者で多い

  • 集中治療室(ICU)における長期臥床による全身の筋萎縮(ICUミオパチーと呼ばれる病態)

  • 重症疾患多発ニューロパチー(ICUニューロパチー)

  • 一般的なミオパチー(例,アルコール性ミオパチー,低カリウム血症,ステロイドミオパチー)

  • 重症患者における筋弛緩薬の使用

表&コラム
表&コラム

疲労

多くの患者は,実際の症状が疲労である状況で筋力低下を訴える。また疲労があると,筋力検査の際に最大努力ができず,本来の筋力を出すことができない。

疲労の一般的な原因としては,ほぼ全ての原因による重度の急性疾患のほか,悪性腫瘍,慢性感染症(例,HIV感染症肝炎心内膜炎伝染性単核球症),内分泌疾患,腎不全肝不全心不全貧血などがある。多発性硬化症は日常生活において疲労を引き起こす可能性があり,これは高温や湿気に曝露することで悪化する。

線維筋痛症うつ病,または慢性疲労症候群の患者は,筋力低下または疲労を訴えるものの,はっきりした客観的異常が見つからないことがある。

筋力低下の評価

筋力低下の評価では真の筋力低下と疲労との鑑別を試みるべきであり,次に部位または機序(例,筋力低下の原因が脳,脊髄,神経叢,末梢神経,神経筋接合部,または筋のどれなのか)と(可能であれば)原因の確定に役立つ所見がないか確認する。

病歴

現病歴の聴取では,自由回答式の質問を用いて,患者がどのような経験をもって筋力低下としているのかを詳細に説明させる。続いて具体的な質問を用いて,特に特定の課題(歯磨きまたは髪梳き,会話,嚥下,椅子から立ち上がる,階段を上る,歩行など)を遂行できるかどうかを尋ねる。

筋力低下の発症(突然か緩徐か)と症状の進行(例,不変,悪化,間欠的)についても尋ねるべきである。突然の発症と患者が突然症状を認識した場合と鑑別するには,閉じた質問をする必要がある;進行の遅い筋力低下がある閾値を超え,何らかの日常生活動作(例,歩行,靴紐結び)の妨げとなって初めて患者が突然症状を認識することがある。

重要な合併症状として,感覚障害,複視,記憶障害,言語障害,痙攣,頭痛などがある。筋力低下を悪化させる因子,例えば熱(多発性硬化症を示唆)または筋の反復使用(重症筋無力症を示唆)などに注意する。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような原因を示唆する症状がないか検討すべきである:

  • 高温多湿の環境で悪化する日常生活中の疲労および筋力低下:多発性硬化症

  • 発疹:皮膚筋炎ライム病,または梅毒

  • 発熱:慢性感染症

  • 筋肉痛:筋炎

  • 頸部痛:頸髄症

  • 嘔吐または下痢:ボツリヌス症

  • 息切れ:心不全,肺疾患,または貧血

  • 食欲不振および体重減少:がんまたはその他の慢性疾患

  • 尿の色の変化:ポルフィリン症または肝もしくは腎疾患

  • 耐暑性または耐寒性の低下:甲状腺機能障害

  • 抑うつ,集中力の低下,不安,普段の活動への興味の喪失:気分症

既往歴では,筋力低下または疲労を引き起こしうる以下のような疾患を同定すべきである:

  • 甲状腺,肝臓,腎臓,または副腎疾患

  • がんまたは大量喫煙などのがんの危険因子(腫瘍随伴症候群―例,イートン-ランバート症候群)

  • 変形性関節症(頸髄症)

  • 感染症

可能性のある原因の危険因子,例えば感染症の危険因子(例,無防備な性交渉,輸血,結核への曝露)および脳卒中の危険因子(例,高血圧,心房細動,動脈硬化)などについて評価すべきである。

完全な薬歴を評価すべきである。

家族歴には,既知の遺伝性疾患(例,遺伝性筋疾患,チャネル病,代謝性ミオパチー,遺伝性ニューロパチー)および家族に同様の症状をもつ者がいるかどうかの確認(未確認の遺伝性疾患の可能性を示唆する)を含めるべきである。遺伝性運動性ニューロパチーは,表現型が多様で不完全であるため,しばしば家族内で見過ごされやすい。槌趾を認め,足のアーチが高く,かつスポーツが不得意であることは,未診断の遺伝性運動性ニューロパチーを示唆している可能性がある。

社会歴の聴取では,以下を確認すべきである:

  • 飲酒:アルコール性ミオパチーを示唆する

  • 違法薬物使用:HIV/AIDS,細菌感染症,結核,またはコカインによる脳卒中のリスク上昇を示唆する

  • 職場などにおける毒性物質への曝露(例,有機リン系殺虫剤,重金属,工業用溶剤)

  • 最近の旅行:ライム病,ダニ麻痺症,ジフテリア,または寄生虫感染症を示唆する

  • 社会的ストレス因子:うつ病を示唆する

身体診察

局在および診断の決め手となる所見を同定するため,神経および筋の完全な診察を行う。通常,鍵となる所見は以下に関するものである:

  • 脳神経

  • 運動機能

  • 協調運動

  • 歩行

  • 感覚

  • 反射

脳神経の診察では,視診により顔面に大きな非対称性と眼瞼下垂がないか確認する;顔面の軽度の非対称性は正常のことがある。外眼筋運動と咬筋(の筋力)を含む顔面筋を検査する。口蓋の筋力低下は,鼻にかかった声質により示唆される;咽頭反射の確認や口蓋の直接観察はあまり参考にならない。舌の筋力低下は,特定の子音(例,「たたた」と言う)をはっきり発音できないことと,不明瞭な発話(言語構音障害)により示唆される。舌を突き出させた際に軽度の非対称性がみられる所見は正常のことがある。胸鎖乳突筋および僧帽筋の筋力は,患者に抵抗に逆らって頸部を回旋させる,また肩をすくめさせることによって検査する。患者に瞬きを繰り返させ,疲労によって瞬きが減弱しないか確認する。

運動系の診察では,視診,筋緊張の評価,筋力検査などを行う。全身を視診して,脊柱後側弯症(ときに傍脊柱筋の慢性的な筋力低下を示唆する)および手術または外傷の瘢痕がないか確認する。ジストニア肢位(例,斜頸)があると,運動が妨げられることで,筋力低下があるように見えることがある。筋を視診して,線維束性収縮および萎縮がないか確認する;ALSではどちらも局所的または左右非対称性に始まることがある。進行したALS患者では,線維束性収縮が舌で最も良好に観察される場合もある。びまん性筋萎縮は,手,顔面,および肩甲帯で最も明らかとなることがある。

筋緊張は他動運動を用いて評価する。筋(例,小指球)を巧打すると,神経障害では線維束性収縮が,筋強直性ジストロフィーではミオトニアがみられることがある。

筋力検査は,近位筋,遠位筋,伸筋,および屈筋について行うべきである。一部の大きな近位筋の検査では,座位から立ち上がる,スクワット後に蹲踞位から立ち上がる,抵抗に逆らって頸部を屈曲,伸展,回転させるなどの方法を用いる。

筋力は0~5の段階で評価することが多い:

  1. 0:筋の収縮を認めない

  2. 1:筋の収縮を認めるが,四肢の運動はない

  3. 2:四肢を動かせるが,重力に抗して動かすことはできない

  4. 3:重力に抗して四肢を動かせるが,抵抗を加えると動かせない

  5. 4:抵抗に逆らう筋力が弱い

  6. 5:完全な筋力がある

これらの数字は客観的なように思えるが,筋力3~5(通常は何らかの診断が付けられる初期の筋力低下における典型的なレベルである)は,むしろ主観的な評価結果である;症状が片側性であれば,健側と比較することで鑑別が容易になる。単純に筋力低下のレベルに数値を付けるよりも,患者ができる行為とできない行為を具体的に記載することの方がしばしばより有用であり,特に経時的な筋力低下を評価する際に役立つ。認知障害があると,運動維持困難(ある運動課題を遂行するのに注意を集中できない),運動保続,失行,または努力不十分などが起こりうる。詐病およびその他の機能性の筋力低下は,正常な筋努力から突然脱力が起こるgive-way weaknessを特徴とする場合が多い。

協調運動検査には,指鼻試験,踵脛試験,継ぎ足歩行などがあり,これらにより小脳卒中,小脳虫部萎縮(例,アルコール乱用による),一部の遺伝性脊髄小脳失調症多発性硬化症,およびフィッシャー症候群(ギラン-バレー症候群の亜型)に伴いうる小脳機能障害を確認する。

以下の場合には歩行を観察する:

  • 歩行開始障害(歩行開始時に一時的にその場で硬直した後,加速歩行がみられる):パーキンソン病

  • 歩行失行(足が床に貼り付いたような歩行のとき):正常圧水頭症またはその他の前頭葉疾患

  • 加速歩行:パーキンソン病

  • 四肢の左右非対称(片脚の引きずり,腕の振りの減弱,またはその両方があるとき):半球脳卒中

  • 運動失調:小脳正中部の疾患

  • 方向転換時の不安定性:パーキンソニズム

つま先歩きと踵歩きを行わせる;遠位筋の筋力低下があると,これらの動作が困難となる。筋力低下の原因が皮質脊髄路の病変である場合には,踵歩きが特に困難となる。痙性歩行の特徴は,はさみ歩行(股関節と膝関節をわずかに屈曲させ,うずくまるような姿勢で,膝と大腿を打ちつけあるいははさみのように交叉させながら歩く)とつま先歩きで顕著にみられる。腓骨神経麻痺では,鶏歩および下垂足を来しうる。

感覚の検査を行う;感覚障害の情報は,筋力低下を引き起こす一部の病変の局在診断に役立つことがあり(例,感覚レベルに応じて病変がどの髄節にあるかを同定できる),また筋力低下の具体的な原因を示唆することもある(例,遠位の感覚消失はギラン-バレー症候群の臨床的疑いを確定するのに役立つ)。

体幹の皮膚分節に沿って帯状に分布するピリピリ感や圧迫感は,脊髄由来の徴候であり,内因性病変と外因性病変のどちらにも伴いうる。

反射の検査を行う。深部腱反射がみられない場合は,Jendrassik増強法(例,両手を組んだ状態で左右に引っ張らせる)によって反射を引き出せることがある。反射低下は生涯にわたり正常である場合や加齢とともに生じる場合もあるが,所見は左右対称であるはずであり,また最初は反射がみられなくても増強法を行えば反射が引き出されるはずである。足底反射(伸展,屈曲)の検査を行う。以下の反応は特定の疾患または病変の局在を示唆する:

  • 古典的なバビンスキー反射(母趾が伸展し,他の足趾が扇状に開く)は,皮質脊髄路の病変に対する特異度が非常に高い。

  • 下顎反射が正常で腕および脚の反射が亢進している場合は,皮質脊髄路を侵す頸部病変(通常は頸椎狭窄)が示唆される。

  • 脊髄損傷では肛門の筋緊張,肛門括約筋反射,またはその両方が減弱または消失するが,ギラン-バレー症候群による上行性麻痺ではこれらが保たれる。

  • 脊髄損傷のレベル以下では腹壁反射が消失する。

  • 男性では精巣挙筋反射により,上位腰髄とその神経根に異常がないかを検査できる。

さらに,以下の評価も行う:

  • 背部を打診して圧痛の有無を確認する(脊椎の炎症,一部の脊椎腫瘍,および硬膜外膿瘍でみられる)

  • 下肢伸展挙上テスト(坐骨神経痛であれば痛みが生じる)

  • 翼状肩甲の確認(肩甲帯の筋力低下が示唆される)

一般診察

客観的な筋力低下がみられない患者では,一般診察が特に重要であり,そのような患者では神経筋疾患以外の疾患を検索すべきである。

呼吸窮迫の徴候(例,頻呼吸,吸気の減弱)に注意する。皮膚を診察して,黄疸,蒼白,発疹,および線条がないか確認する。そのほかに重要な視診所見としては,クッシング症候群の満月様顔貌や,慢性飲酒でみられる耳下腺腫脹,平滑で無毛の皮膚,腹水,くも状血管腫などがある。

頸部,腋下,および鼠径部を触診して,リンパ節腫脹がないか確認すべきであり,甲状腺腫大にも注意する。

心臓および肺を聴診して,断続性ラ音,笛音,呼気の延長,心雑音,および奔馬調律がないか確認する。

腹部を触診して,腫瘤(脊髄機能障害の可能性がある場合は大きな膀胱腫大を含む)がないか確認すべきである。

直腸診を行って,血便または便潜血がないか確認する。

関節可動域を評価する。

ダニ麻痺症が疑われる場合は,皮膚,特に頭皮を徹底的に視診して,ダニがいないか確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 数日またはより短期間で重症化する筋力低下

  • 呼吸困難

  • 頭部を重力に抗して挙上できない

  • 球症状(例,咀嚼困難,発話困難,嚥下困難)

  • 歩行障害

所見の解釈

病歴は筋力低下を疲労と鑑別するのに役立つほか,疾患の時間経過を明らかにし,筋力低下の解剖学的パターンの手がかりとなる。筋力低下と疲労は様々な症状の原因になる傾向がある:

  • 筋力低下:典型的には,患者は特定の作業が行えなくなったと訴える。四肢が重いまたは硬いと訴えることもある。通常,筋力低下は時間的,解剖学的,またはその両方で特定のパターンをとる。

  • 疲労:筋力低下として報告される疲労は,特定の時間的パターンや解剖学的パターンを示さない傾向があり(例,「常に疲れた感じがする」,「どの部分も力が出ない」),その訴えは特定の作業が行えないことよりも,疲労感に焦点がある。

症状の時間的パターンは有用な情報である。

  • 数分またはより短時間で重症化する筋力低下は,通常は重度外傷または脳卒中によるものであり,脳卒中で生じる筋力低下は通常片側性で,中等度または重度のことがある。1肢に限局した突然の筋力低下,しびれ,および重度の疼痛は,局所の動脈閉塞と虚血が原因である可能性がより高く,血管の評価(例,拍動,色調,温度,毛細血管再充満時間,ドプラ法で測定した四肢の血圧差)を行うことで鑑別できる。脊髄圧迫も数分間のうちに麻痺を生じうる(ただし通常は数時間から数日かかる)が,失禁と特定の感覚および運動レベルに限定される臨床所見から容易に鑑別できる。

  • 数時間から数日かけて一定の速さで進行する筋力低下は,急性または亜急性疾患(例,脊髄圧迫,横断性脊髄炎,脊髄虚血または出血,ギラン-バレー症候群,ときに重症疾患による筋萎縮,横紋筋融解症,ボツリヌス症有機リン中毒)が原因である可能性がある。

  • 週単位の時間をかけて進行する筋力低下は,亜急性または慢性疾患(例,頸髄症,遺伝性および後天性の多発神経障害の大半,重症筋無力症,運動ニューロン疾患,後天性ミオパチー,大半の腫瘍)が原因である可能性がある。

  • 日々変動する筋力低下は,多発性硬化症やときに代謝性ミオパチーが原因のことがある。

  • 1日のうちで変動する筋力低下は,重症筋無力症,イートン-ランバート症候群,または周期性四肢麻痺が原因である可能性がある。

筋力低下の解剖学的パターンは,遂行が困難になった具体的な運動課題によって特徴付けられる。解剖学的パターンは特定の診断を示唆する:

  • 近位筋の筋力低下があると,体を上に伸ばす(例,髪を結ぶ,物を頭の上に持ち上げる),階段を上る,または座位から立ち上がる動作が困難になるが,これはミオパチーに典型的なパターンである。

  • 遠位筋の筋力低下があると,縁石をまたぐ,カップを持つ,字を描く,ボタンをはめる,鍵を使うなどの動作が行えなくなるが,これは多発神経障害および筋強直性ジストロフィーに典型的なパターンである。近位筋および遠位筋の筋力低下を生じる疾患も多いが(例,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー, ギラン-バレー症候群,重症筋無力症,神経根障害,イートン-ランバート症候群),初期には一方のパターンがより優勢となることがある。

  • 球麻痺では,顔面の筋力低下,構音障害,および嚥下困難が生じることがあり,眼球運動障害は伴うこともあれば伴わないこともある;これらの臨床像は特定の神経筋疾患,例えば重症筋無力症,イートン-ランバート症候群,またはボツリヌス症などに典型的であるが,ALSまたは進行性核上性麻痺など特定の運動ニューロン疾患でもみられる。

身体診察により,さらに病変の局在が同定できる。まず,全体的なパターンを認識する:

  • 近位筋優位の筋力低下はミオパチーを示唆する。

  • 筋力低下に加えて反射亢進と筋緊張亢進がみられる場合,特に伸展性足底反応(バビンスキー反射)を認める場合は,上位運動ニューロン(皮質脊髄路またはその他の運動路)の機能障害が示唆される。

  • 握力が比較的保たれているにもかかわらず,指の巧緻運動(例,小さい物をピンセットでつまむ,ピアノを弾く)が不釣り合いに障害されている場合は,皮質脊髄路(錐体路)の選択的障害が示唆される。

  • 突然生じた重度の脊髄損傷(脊髄ショック)では,完全な麻痺に加えて反射の消失と重度の筋緊張低下(筋弛緩)がみられる。

  • 筋力低下に加えて反射低下,筋緊張の減弱(線維束性収縮の有無は問わない),および慢性筋萎縮がみられる場合は,下位運動ニューロンの機能障害が示唆される。

  • 最も長い神経に支配される筋に最も顕著な筋力低下(例,近位より遠位で,腕より脚で顕著)がみられる場合,特に遠位の感覚低下も伴う場合は,末梢性の多発神経障害による下位運動ニューロンの機能障害が示唆される。

  • 神経学的異常がない場合(例,反射は正常で,筋萎縮および線維束性収縮がなく,筋力検査では筋力正常または努力が不十分),ならびに疲労感を訴える患者または特定の時間的,解剖学的パターンがない筋力低下の患者で筋努力が不十分な場合には,真の筋力低下よりも疲労の可能性が示唆される。しかしながら,筋力低下が間欠的で診察時にみられない場合には,異常が見過ごされる可能性がある。

追加所見により,病変の局在をより正確に同定できることがある。例えば以下のものがある:

  • 上位運動ニューロン徴候を伴う筋力低下に加えて,失語,精神状態の異常,その他の皮質機能障害などの徴候がみられる場合:脳病変

  • 片側性の上位運動ニューロン徴候(痙性,反射亢進,伸展性足底反応)に加えて,同側の腕および脚に筋力低下がみられる場合:対側大脳半球の病変(なかでも脳卒中の頻度が最も高い)

  • 上位または下位運動ニューロン徴候(またはその両方)に加えて,ある髄節以下の感覚消失および直腸または膀胱の制御不能がみられる場合:脊髄病変

下位運動ニューロン徴候を伴う筋力低下は,単一または複数の末梢神経を侵す疾患により生じることがあり,そのような疾患では,非常に特異的な筋力低下のパターンがみられる(例,橈骨神経障害における下垂手)。腕神経叢または腰仙骨神経叢が障害されると,運動,感覚,および反射障害がしばしば斑状に分布し,1つの末梢神経の分布域には一致しない。

具体的な原因疾患の判定

ときに複数の所見の組合せから原因が示唆される(筋力低下に関連する所見で特定の疾患を示唆するものの表を参照)。

表&コラム
表&コラム

真の筋力低下の症候が認められない(例,特徴的な解剖学的および時間的パターンや客観的徴候がない)患者で,愁訴が全身性の筋力低下,疲労,または活力の低下のみの場合は,神経疾患以外を考慮すべきである。しかしながら,歩きにくさを感じている高齢患者では,歩行機能障害に複数の因子が関与している場合が多いため,筋力低下がどの程度寄与しているかを判定するのは困難なことがある(老年医学的重要事項のページを参照)。

多くの疾患の患者は,機能的な制限があっても,真の筋力低下は生じていない可能性がある。例えば,心肺機能障害や貧血は,呼吸困難または運動耐容能の低下による疲労を引き起こしうる。関節の機能不全(例,関節炎によるもの)または筋痛(例,リウマチ性多発筋痛症または線維筋痛症によるもの)によって身体的な作業が困難になることもある。これらをはじめとする筋力低下の訴えの原因となる身体疾患(例,インフルエンザ,伝染性単核球症,腎不全)は,典型的にはすでに診断されているか,病歴聴取,身体診察,またはその両方で認められる所見から示唆される。

一般に,病歴聴取と身体診察で身体疾患を示唆する異常を検出できなければ,これらの疾患の可能性は低く,時間的または解剖学的パターンが生理的でない持続的な全身性疲労を引き起こす疾患(例,うつ病,慢性疲労症候群;重度の貧血,甲状腺機能低下症,アジソン病など,まだ発見されていない全身疾患;薬剤の有害作用)を考慮すべきである。

検査

筋力低下ではなく疲労がみられる患者の病歴聴取と身体診察では,基礎疾患(特に感染症,内分泌およびリウマチ性疾患,貧血,およびうつ病)の微妙な症状を同定することに重点を置き,その結果を指針として検査を行うが,検査が不要な場合もある。

真の筋力低下がある場合は,多くの検査を行うことができるが,そのような検査も補助的なものにしかならない場合が多い。

真の筋力低下がない場合は,ほかに臨床所見(例,呼吸困難,蒼白,黄疸,心雑音)があれば,それに応じて検査を行う。

異常な臨床所見がみられない場合,検査結果が異常となる可能性は低い。そのような状況で行うべき検査は,症例によって大きく変わってくる。初回検査としては,通常は血算,電解質(カルシウムおよびマグネシウムを含む),血糖値,腎および肝機能検査,甲状腺刺激ホルモン(TSH),赤血球沈降速度(赤沈),C型肝炎の血清学的検査などを組み合わせて行う。

突然または重度の真の全身性筋力低下あるいは何らかの呼吸器症状がある場合は,努力肺活量と最大吸気圧を検査して,急性呼吸不全のリスクを評価する必要がある。肺活量 < 15mL/kgまたは吸気圧 < 20cmH2Oの患者は高リスクである。

真の筋力低下がある場合は,初回検査(通常は急性呼吸不全のリスク評価後に行う)は典型的には筋力低下の機序の判定に焦点を置く。原因が明らかな場合を除き,通常はルーチンの臨床検査として,血算,電解質(カルシウムおよびマグネシウムを含む),血糖値,腎および肝機能検査,TSH,赤沈,C型肝炎の血清学的検査を行う。

筋力低下の部位および機序を特定するために行うべき検査は,臨床所見によって異なる。

脳の上位運動ニューロンの機能障害が疑われる場合は,MRIが重要な検査となる。MRIが行えない場合(例,心臓ペースメーカーのある患者)はCTを用いる。

脊髄症が疑われる場合は,MRIにより脊髄の病変を同定できることがある。脊髄症に類似した麻痺を引き起こすその他の原因,例えば馬尾,神経根,腕神経叢,および腰仙骨神経叢の病変を同定することもできる。MRIが利用できない場合は,脊髄造影CTを施行してもよい。その他の検査も行われる(筋力低下の主な原因の表を参照)。髄液検査は,画像検査で診断される一部の疾患(例,硬膜外腫瘍)では不要のことがあり,髄液流の閉塞(例,硬膜外脊髄圧迫によるもの)が疑われる場合は禁忌である。

多発神経障害,ミオパチー,または神経筋接合部疾患が疑われる場合,これらの筋力低下の機序を鑑別する上で電気診断検査(筋電図および神経伝導検査)が重要となる。

神経損傷後には,神経伝導速度の変化や筋の脱神経が生じるまでに数週間かかることがあるため,疾患が急性の場合には,電気診断検査は有用とならないことがある。しかしながら,これらの検査は一部の急性疾患,例えば急性脱髄性神経障害(例,ギラン-バレー症候群),急性ボツリヌス症,その他の急性神経筋接合部疾患などの鑑別に役立つことがある。

ミオパチーが疑われる(筋力低下,筋痙攣,および疼痛から示唆される)場合は,筋酵素(例,クレアチンキナーゼ[CK],アルドラーゼ,乳酸脱水素酵素[LDH])を測定してもよい。ミオパチーでは一貫して高値となるが,神経障害でも高値となることがあり(筋萎縮を反映する),虚血性横紋筋融解症では極めて高値となる。また,全てのミオパチーで高値となるわけではない。クラックコカインの習慣的使用は,慢性的なCK値の中等度上昇(平均値は400IU/L)を引き起こしうる。

MRIを施行すれば,炎症性ミオパチーでみられるような筋の炎症を同定できる。ミオパチーまたは筋炎の診断には,最終的に筋生検が必要になることがある。MRIまたは筋電図検査は,筋生検に適した部位の同定に役立つことがある。しかしながら,針の刺入によるアーチファクトが筋の病態と類似することがあるため,これを避けなければならず,したがって,筋生検は決して筋電図検査を行った同じ筋で行ってはならない。

特定の遺伝性ミオパチーの確定診断には遺伝子検査が役立つことがある。

運動ニューロン疾患(例,ALS)が疑われる場合は,筋電図および神経伝導検査を行うことにより,診断を確定するとともに,運動ニューロン疾患に類似する治療可能な疾患(例,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー,伝導ブロックを伴う多巣性運動ニューロパチー)を除外する。ALSが進行している場合は,脳MRIで皮質脊髄路の変性を認めることがある。脊髄MRI(または脊髄造影CT)をルーチンに行い,脊髄圧迫またはその他の脊髄症を除外する(筋力低下の主な原因の表を参照)。

具体的な疾患に対する検査が必要になることがある:

  • 所見から重症筋無力症が示唆される場合は,アイスパック試験および血清学的検査(例,抗アセチルコリン受容体抗体値,ときに抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体)

  • 所見から血管炎が示唆される場合は,自己抗体検査

  • 家族歴から遺伝性疾患が示唆される場合は,遺伝子検査

  • 所見から多発神経障害が示唆される場合は,その他の検査(筋力低下の主な原因の表を参照)

  • ミオパチーが薬剤,代謝性疾患,内分泌疾患のいずれでも説明できない場合は,筋生検も可

筋力低下の治療

筋力低下の原因を治療する。生命を脅かす急性の筋力低下がみられる患者には,換気補助が必要になることがある。

理学療法および作業療法は,その原因に関係なく,患者が永続的な筋力低下に適応し,機能喪失を最小限に抑えるのに役立つ可能性がある。

老年医学的重要事項:筋力低下

加齢に伴うある程度の深部腱反射の低下はよくある現象であるが,非対称である場合と増強法を用いても反射がみられない場合は異常である。

高齢者では元々サルコペニアが存在する場合が多いため,床上安静によって筋萎縮が急速に(ときに数日間で)進行する可能性がある。

高齢者は多くの薬剤を服用している一方,薬剤性のミオパチー,神経障害,および疲労が生じやすいため,高齢者においては薬剤が筋力低下の一般的な原因となっている。

筋力に関連した歩行困難には,複数の原因が関与している場合が多い。危険因子としては以下のものがある:

  • 筋力低下(例,脳卒中,特定の薬剤の使用,頸椎症性脊髄症,または筋萎縮によるもの)

  • 水頭症

  • パーキンソニズム

  • 有痛性の関節炎

  • 加齢に伴う姿勢保持神経機構(前庭機能,固有感覚の経路)の障害,協調運動障害(小脳,基底核),視覚障害,失行(前頭葉)

評価の際には可逆的な因子に焦点を置くべきである。

筋力低下の原因にかかわらず,一般に理学療法とリハビリテーションが役立つ。

要点

  • 筋力の喪失と疲労感を鑑別する。

  • 疲労を訴える患者で,筋力低下に解剖学的および時間的パターンがみられず,かつ身体所見が正常である場合は,慢性疲労症候群,未診断の全身疾患(例,重症貧血,甲状腺機能低下症,アジソン病),心理的問題(例,うつ病),または薬物有害作用などを疑う。

  • 真の筋力低下がみられる場合は,まず筋力低下の原因が脳,脊髄,神経叢,末梢神経,神経筋接合部,または筋のいずれにあるかを判定することに焦点を置く。

  • 反射亢進と筋緊張亢進(痙性)がみられ,特にバビンスキー反射が陽性である場合は,脳または脊髄における上位運動ニューロン(例,皮質脊髄路)の病変を疑う;評価には通常MRIが必要である。

  • 反射低下,筋緊張減弱,筋萎縮,および線維束性収縮がみられる場合は,下位運動ニューロンの病変を疑う。

  • 反射低下と遠位筋優位の筋力低下がみられ,特に感覚障害または錯感覚がみられる場合は,多発神経障害を疑う。

  • 階段を上る,髪をとかす,および立ち上がる動作が困難で,かつ近位筋優位の筋力低下がみられるが,感覚は正常である場合は,ミオパチーを疑う。

  • 原因にかかわらず,通常は理学療法が筋力の改善に役立つ。

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