銅は体内の多数のタンパク質の構成要素であり,体内の銅はほぼ全てが銅タンパク質と結合している。
銅欠乏症は,後天性のこともあれば,遺伝性のこともある。
(ミネラル欠乏症および中毒の概要も参照のこと。)
後天性銅欠乏症
銅の代謝を制御する遺伝的機序が正常であれば,食事による欠乏により臨床的に重大な銅欠乏症が生じることはまれである(ただし,完全静脈栄養で補充が不十分な場合は除く)。原因としては以下のものがある:
小児期の重度のタンパク質欠乏症
持続性の乳児下痢症(通常,ミルクのみの食事と関連)
重度の吸収不良(スプルーまたは嚢胞性線維症などで)
肥満外科手術(ビタミンB12欠乏症もみられることがある)
亜鉛の過剰摂取
欠乏症により,好中球減少,骨石灰化障害,脊髄症,神経障害(ビタミンB12欠乏症に類似した症状を伴う),および鉄補充に反応しない低色素性貧血が起こることがある。
後天性銅欠乏症の診断は銅およびセルロプラスミンの血清中濃度の低値に基づくが,これらの検査は常に信頼できるわけではない。
後天性欠乏症の治療は原因に対して行い,銅1.5~3mg/日(通常は硫酸銅として)を経口投与する。
先天性銅欠乏症(メンケス症候群)
先天性銅欠乏症は,あるX連鎖遺伝子の変異を受け継いだ男子乳児に発生する。発生率は出生約100,000~250,000人当たり1例である。銅の欠乏は肝および血清中でみられるほか,チトクロムC酸化酵素,セルロプラスミン,およびリシルオキシダーゼなどの必須銅タンパク質においてみられる。
(ウィルソン病も参照のこと。)
先天性銅欠乏症の症状と徴候
先天性銅欠乏症の症状には,重度の知的障害,嘔吐,下痢,タンパク漏出性胃腸症,色素減少,骨変化,動脈破裂などがある;毛髪がまばらであったり,ごわごわしたり,または縮れたりしている。
大半の患児が10歳までに死亡する。
先天性銅欠乏症の診断
血清中の銅およびセルロプラスミン濃度
先天性銅欠乏症の診断は,血清中の銅濃度およびセルロプラスミン濃度の低値に基づく。早期診断および早期治療を行えば予後がより良好であると考えられるため,本症は理想的には生後2週時点までに検出する。しかし,これらの検査の診断精度は限られている。そのため,他の検査が開発されつつある。
先天性銅欠乏症の治療
ヒスチジン銅
非経口銅補充は通常,ヒスチジン銅として250μgを1日2回1歳になるまで皮下注射で投与し,その後は250μgを1日1回1歳になってから皮下注射で投与する;治療中は腎機能のモニタリングが必須である。重度の銅欠乏症の治療には,静注による補充が可能である。
早期治療にもかかわらず,多くの小児に神経発達の異常がみられる。