肝炎とは，びまん性または斑状の壊死を特徴とする肝臓の炎症である。
肝炎には急性の場合と慢性（通常は6カ月以上続く場合と定義される）の場合がある。急性ウイルス性肝炎は，大半の症例で自然に消失するが，慢性肝炎に進行する場合もある。
肝炎の一般的な原因
肝炎の比較的まれな原因
肝炎の比較的まれな原因としては，自己免疫疾患，遺伝性肝疾患，他のウイルス感染症（例，伝染性単核球症，黄熱，サイトメガロウイルス感染症）やレプトスピラ症などがある。
肝臓を侵す寄生虫感染症（例，住血吸虫症，マラリア，アメーバ症），化膿性感染症，および膿瘍は，肝炎とはみなされない。結核やその他の肉芽腫病変を伴う肝障害はときに肉芽腫性肝炎と呼ばれるが，その臨床的，生化学的，組織学的特徴は，肝炎ウイルス，アルコール，および薬物を原因とする肝炎でみられるびまん性の肝障害のそれとは異なっている。
様々な全身性感染やその他の疾患は，肝の炎症や壊死といった小病巣を形成することがある。この非特異的な反応性肝炎は軽度の肝機能障害を引き起こす可能性があるが，通常は無症状である。
肝臓に生じる感染性および非感染性の炎症の種類を，肝障害を伴う主な感染症の表に要約する。
肝障害を伴う主な感染症
疾患または微生物 | 臨床像 |
|---|---|
ウイルス | |
新生児：肝腫大，黄疸，先天異常 成人：肝炎を伴う伝染性単核球症様の疾患；輸血後に起こりうる | |
エプスタイン-バーウイルス感染症 | 5～10％では黄疸を伴う臨床的な肝炎，90～95％では無症状の肝病変 若年成人ではときに重度となる急性肝炎 |
SARS-CoV-2感染症（COVID-19）(1) | アミノトランスフェラーゼ値の軽度上昇 ウイルスの直接感染が肝機能障害の一因となる 疾患の重症度と相関するが，無症候性感染でも生じる可能性がある |
単純ヘルペスウイルス | 無黄疸性肝炎（anicteric hepatitis），通常は易感染性患者にみられる（ただし免疫能が正常な患者にも起こりうる） 大半で発熱，50％で発疹 急性肝炎，しばしば重症化する |
黄疸，全身毒性，出血 炎症反応をほとんど伴わない肝壊死 | |
その他 | 肝感染症（ときに，エコーウイルスまたはコクサッキーウイルス感染症，水痘，風疹，麻疹による） |
細菌 | |
進行性の壊死性膿瘍を伴う肝臓の肉芽腫性反応 | |
化膿性膿瘍* | 門脈膿血症，胆管炎，または血行性もしくは直接進展による重篤な感染症がみられ，様々な微生物が原因となるが，特にグラム陰性菌と嫌気性菌が多い 体調は悪く，重篤感があるが，まだ肝機能障害は軽度 |
肉芽腫病変を伴う肝障害（一般的，通常は無症状）；黄疸（まれ） アルカリホスファターゼ値が不釣り合いに上昇 | |
その他 | 多数の全身性感染症でみられる軽微な限局性の肝炎（一般的，通常は無症状） |
真菌 | |
石灰化を伴って治癒する肝臓および脾臓の肉芽腫（通常は無症状） | |
その他 | |
原虫 | |
重要な疾患であり，しばしば明らかな赤痢を伴わない 通常，液状変性を伴う大きな単一の膿瘍 全身症状，圧痛を伴う肝腫大，驚くほど軽度の肝機能障害 | |
流行地域では肝脾腫の一般的な原因の1つである 活動性の溶血がない限り，黄疸は認められないか軽度である | |
経胎盤感染 新生児：黄疸，中枢神経系，その他の全身症状 | |
寄生虫の網内系への浸潤，肝脾腫 | |
蠕虫 | |
成虫による胆道閉塞，幼虫による実質性肉芽腫 | |
胆道への寄生，胆管炎，結石，胆管癌 | |
単一または複数の包虫嚢胞がみられ，通常は辺縁が石灰化しており，大きいこともあるが，無症状のことが多く，肝機能を障害しない 腹腔内または胆道内に破裂することがある | |
急性：圧痛を伴う肝腫大，発熱，好酸球増多 慢性：胆管の線維化，胆管炎 | |
虫卵に対する門脈周囲の肉芽腫性反応に，進行性の肝脾腫，パイプ軸線維症（pipestem fibrosis），門脈圧亢進症，および静脈瘤を伴う 肝細胞機能は保たれる；真の肝硬変ではない | |
内臓幼虫移行症 肉芽腫を伴う肝腫大，好酸球増多 | |
スピロヘータ | |
急性の発熱，極度の疲労，黄疸，出血，腎障害 肝壊死（重度の黄疸にもかかわらず，しばしば軽度） | |
先天性：新生児の肝脾腫，線維化 後天性：第2期では様々な程度の肝炎，第3期では不整な瘢痕を伴うゴム腫 | |
ボレリア感染症 全身症状，肝腫大，ときに黄疸 | |
*アメーバに対する血清学的検査と直接の経皮的膿瘍穿刺により，アメーバ症と鑑別する。 | |
総論の参考文献
1.Wang Y, Liu S, Zhao J: SARS-CoV-2 infection of the liver directly contributes to hepatic impairment in patients with COVID-19.J Hepatol 73(4):807-816, 2020.
