結核

執筆者:Edward A. Nardell, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2022年 7月
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結核は,しばしば初感染から無症状の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多く,利用できる場合は,核酸増幅検査で診断が行われることもある。治療では複数の抗菌薬を少なくとも4カ月間投与する。

周産期結核および肺外結核も参照のこと。)

抗酸菌は発育の緩徐な小型の好気性桿菌である。際立った特徴として,脂質を豊富に含む複雑な細胞壁を有し,このため抗酸性(すなわち,石炭酸フクシン染色後の酸による脱色に対する抵抗性)でグラム染色に対する抵抗性が比較的高い。最も頻度の高い抗酸菌感染症は結核であるが,そのほかにもハンセン病や,Mycobacterium avium complex感染症をはじめとする環境性の様々な非結核性抗酸菌感染症などがある。

結核は,成人における感染性の死因として世界で最も多いものの1つであり,2020年には150万人が結核で死亡し,その大半は低所得国および中所得国の人々であった(1)。HIV/AIDSと結核の両方が蔓延している世界の一部地域では,HIV/AIDSが結核感染および死亡の最も重要な素因となっている。

総論の参考文献

  1. 1.World Health Organization (WHO): Global Tuberculosis Report 2021.Accessed on 5/9/2022.

結核の病因

結核とは,厳密には結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(ヒトを主な病原体保有生物とする)に起因する疾患のみを指す。ときに,近縁の抗酸菌であるM. bovisM. africanum,およびM. microtiによって類似の疾患が引き起こされることがある。これら3種の細菌は,結核菌(M. tuberculosis)や他のよりまれな抗酸菌と併せて結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)と呼ばれている。

結核はほぼ例外なく,結核菌(M. tuberculosis)を含んだ空気中の粒子(飛沫核)を吸入することにより生じる。それらの粒子は主に,喀痰に大量(蛍光顕微鏡の検出限界値である約10,000個/mL)の細菌が含まれる活動性肺/喉頭結核患者の咳嗽,歌唱,その他の強制的な呼吸動作を通じて飛散する。肺に空洞性病変を有する患者は,病変内に大量の菌が存在するため,他者への感染性が特に高くなる。

結核菌を含んだ飛沫核(直径5μm未満)は室内気流に数時間浮遊することがあり,伝播の可能性を増大させる。しかし,これらの飛沫が一旦表面に落ちると,吸入可能な粒子として菌を再び浮遊させること(例,床を掃く,寝具を叩く)は困難となる。そのような行為は結核菌を含む塵埃粒子を浮遊させることがあるが,それらの粒子は大きすぎて肺胞表面には到達できず,したがって感染を引き起こさない。媒介物(例,汚染された表面,食物,人工呼吸器)への接触が伝播を促すことはないようである。

無治療の活動性肺結核の感染性には大きなばらつきがある。結核菌(M. tuberculosis)のうち特定の菌株は感染力が強く,喀痰塗抹検査が陽性の患者は培養のみ陽性の患者よりも感染性が高い。空洞性病変(喀痰中の結核菌量と密接に関連)のある患者は,そうでない患者よりも他者への感染性が高くなる。粘度の低い気道分泌物はより容易にエアロゾル化されるが,咳嗽や他の呼吸動作がどの程度のエアロゾル化をもたらすかは,その動作によって大きく異なる。

環境因子も重要である。多数の結核菌を発生させている無治療患者に過密な換気不十分の密閉空間内で頻回または長期間曝露することが伝播の促進につながるため,貧困生活を送っている人々や各種の施設で生活している人々は特にリスクが高い。活動性症例と濃厚に接触する医療従事者は,リスクが高くなる。

したがって,感染性の推定値には大きな幅がある。無治療の肺結核患者で濃厚接触者を感染させるのは3人に1人に過ぎないとした研究結果もある一方で,世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,無治療の患者は1人当たり1年に10~15人を感染させると推計している。しかしながら,感染者の大半は活動性疾患を発症しない。

効果的な治療が開始されれば,感染性は急速に低下する;咳嗽の回数が減少し,たとえ喀痰中に菌が存続していても,感染力はなくなる。家庭内接触者の疫学研究では,患者が効果的な治療を開始すると2週間以内に伝播は起きなくなると示唆されているが,ヒトから動物への伝播を調べたより精密な研究では,伝播は治療開始から数日でみられなくなると示唆されている。

頻度は大幅に低くなるが,感染創の洗浄や検査室での抗酸菌の取扱い,剖検室での穿刺などの際に菌のエアロゾルが発生することで伝播が生じることもある。

かつては,扁桃,リンパ節,腹腔臓器,骨,および関節の結核はM. bovisで汚染された牛乳または製品(例,チーズ)の摂取によって引き起こされるのが一般的であったが,牛乳が低温殺菌され,ツベルクリン反応陽性の牛が殺処分されている国では,この伝播経路はほぼ根絶されている。ウシ結核がいまだ蔓延している国(例,一部のラテンアメリカの国)や,それらの国からの移民の間では,M. bovisによる結核が現在も発生している。無殺菌牛乳を原料とするチーズの人気が高まるにつれて,そのチーズがウシ結核の問題を抱える国々(例,メキシコ,英国)で製造されたものかどうかという懸念が新たに持ち上がっている。ウシおよびヒト結核は,アナグマ,シカ,霊長類,動物園の動物など,他の動物種に伝播する可能性がある。食肉処理場はヒトと動物の間での結核の伝播に関連している。

結核の疫学

ツベルクリン反応検査による調査結果に基づき,世界人口の約4分の1が感染していると推定されている。感染者のうち,任意の時点で活動性感染症を呈している患者の数は,おそらく1500万人ほどである。

2020年には世界で推定990万例(10万人当たり127人)の結核症例が新たに発生した。新規症例の大半が東南アジア(43%),アフリカ(25%),西太平洋(18%)で発生したものである(1)。

発生率は,国,年齢,人種,性別,社会経済的状況により大きく異なる。2020年には,新規症例の3分の2が8カ国で発生したが,その大半がインド(26%)で発生し,次いでインドネシア(8.4%),中国(8.5%),フィリピン(6.0%),パキスタン(5.8%),ナイジェリア(4.6%),バングラデシュ(3.6%)南アフリカ(3.3%)の順に多かった(1)。北朝鮮,レソト,モザンビーク,フィリピン,南アフリカなどのいくつかの国では,発生率が500/100,000を超えていた(1)。

世界的に,薬剤感受性結核の発生率および死亡率は徐々に減少している。2015年から2019年にかけての累積減少率は9%(10万人当たりの新規症例数は142例から130例へ減少)であり,2018年から2019年にかけての減少率は2.3%であった。こうした傾向については,結核およびHIV感染症に対する薬剤の入手機会をより多くの人々に提供するという,結核制圧に向けた世界的な取組みが一部寄与している可能性が高い。しかし,2020年から2021年にかけての世界的なCOVID-19パンデミックにより,結核対策を含む他の公衆衛生プログラムが中断されたことから,定量化するには時期尚早であるものの,このような世界的な減少傾向が失速または逆転するとWHOは予測している(1)。

米国では2021年に7860例の新規結核症例がCDCに報告され,10万人当たりの発生率は2.4人であった(2)。2020年のCOVID-19パンデミックでは,2019年に比べて発生率が20%低下した(3)。通常は年間2~3%の減少であるのに対して,この年の減少幅が20%と大きかったのは,COVID-19パンデミック中に結核の報告漏れが多かったことや,相当数の診断の遅れがあったことを示唆している。2020年には,米国の結核症例の71%が米国外の有病率の高い地域で生まれた患者で発生した。米国外で生まれた人における結核発生率(10万人当たり11.5人)は,米国生まれの人における発生率(10万人当たり0.7人)よりはるかに高かった(3)。シェルター,長期療養施設,矯正施設などのグループ施設居住者と過去1年間にホームレスであったことのある人では結核のリスクが高い。そのような高リスク集団では,発生率が世界の感染率の高い地域のそれに近づいている。

1985年から1992年にかけて米国の一部地域およびその他の経済的に発展した国々で結核が再興したが,これには,HIVの同時感染,ホームレス,公衆衛生基盤の悪化,多剤耐性結核菌(MDR-TB[少なくともイソニアジドおよびリファンピシンに抵抗性がある場合とと定義される])の出現など,いくつかの要因が関連していた。MDR-TBおよびリファンピシン耐性結核(MDR/RR-TB)は,効果的な公衆衛生対策および施設の感染制御対策により米国ではかなりの規模で制御されてきたが,最近までは,これらの病原体による感染症が世界中で増加していた。しかしながら,発生率は世界的に徐々に低下しているようである。その理由として考えられるのは,結核発生率の低下と,薬剤感受性/耐性結核に対する(分子生物学的な)診断,治療,および症例管理の改善である。MDR/RR-TB症例が新規症例に占める割合は4%未満であるが,それらの症例の診断および治療に結核対策の資源が不釣り合いに多く消費されている。MDR/RR-TBはまた,その影響を受けた人々とその家族に対して,不釣り合いに高い割合で苦痛,死亡,および経済的影響をもたらしている。

それでも,世界の多くの地域では,MDR/RR-TBを迅速に診断することも,効果的なレジメンで速やかに治療すること(第2選択薬の有害作用の効果的な管理を含む)もできないのが実情である。このような状況により,伝播が持続し,治癒率は低くなり,耐性が拡大している。高度薬剤耐性を示す結核では,良好な治療成績が得られることはさらに少なく,死亡率も高く,特にHIVに同時感染している患者では,たとえ抗レトロウイルス薬で治療していても予後不良である。より効果的でより短期間の投与で済む(注射薬以外の)新しい治療レジメンと,有害作用の管理,地域への働きかけ,および社会的支援を組み合わせることによって,いくつかの地域(例,ペルー,ロシアのTomsk州)では,疫学的に薬剤耐性結核の減少傾向が認められている。インドと中国では,全国規模のMDR-TB対策プログラムが実施されており,MDR-TB問題の将来は,それらのプログラムの成否に大きな影響を受ける可能性がある。

疫学に関する参考文献

  1. 1.World Health Organization (WHO): Global Tuberculosis Report 2021.Accessed on 4/17/2022.

  2. 2.Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Tuberculosis—Data and Statistics.Accessed on 4/19/2022.

  3. 3.Deutsch-Feldman M, Pratt RH, Price SF, et al: Tuberculosis—United States, 2020.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 70:409–414, 2021.doi: 10.15585/mmwr.mm7012a1

結核の病態生理

結核は以下の3つの段階を経る:

  • 初感染

  • 潜在性感染

  • 活動性感染

結核菌(M. tuberculosis)はまず初感染を引き起こすが,最終的に臨床的な疾患まで進行するのはそのうちのごく一部であり,その重症度も様々である。しかし,初感染の大半(約95%)は無症状である。そのうちの一部(割合は不明)は自然治癒するが,多くは潜伏(非活動)期に移行する。その後,潜在性感染が,様々な割合(5~10%)で再活性化し,疾患の症状および徴候を発現する。

感染症は初期段階では通常感染性はなく,潜伏期には決して伝播することはない。

結核初感染

感染には粒子を吸入する必要があるが,この粒子は上気道防御機構を通過して肺の深部(通常中葉または下葉の胸膜下気腔内)に沈着できるほど十分小さなものでなければならない。大きな飛沫は気道の近位部分に付着する傾向があり,通常は感染を引き起こさない。感染は通常は数個の菌を運搬する1つの飛沫核が発端となる。おそらく感受性の高い個人で感染を起こすには1個のみの菌で十分と考えられるが,感受性の低い個人で感染を起こすには反復的な曝露が必要になる。

感染過程が始まるには,結核菌(M. tuberculosis)が肺胞マクロファージによって貪食される必要がある。マクロファージによる殺菌を免れた菌はマクロファージ内で複製され,最終的には宿主のマクロファージを(CD8リンパ球の作用を利用して)殺傷する;炎症細胞がその領域に誘引されて限局性の肺炎を引き起こし,それらが融合して組織学的に観察できる特徴的な結節を形成する。

感染初期の数週間に,感染を受けたマクロファージの一部が所属リンパ節(例,肺門リンパ節,縦隔リンパ節)に移行し,そこから血流中に進入する。それから菌は血行性に全身のあらゆる部位,特に肺尖後部,長管骨の骨端,腎臓,椎体,および髄膜へ広がる。予防接種あるいは過去の結核菌(M. tuberculosis)または環境中抗酸菌の感染により部分的に免疫を有する患者では,血行性播種が起こる可能性は低くなる。

結核の初感染後には,大半の症例が潜在性結核感染症に移行する。約95%の症例では,結核菌は3週間ほど抑制を受けることなく増殖した後,通常は症候が現れる前に免疫系により増殖が抑制される。肺やその他の部位の細菌病巣は,中心部に乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫となる。結核菌はその内部で何年にもわたって生存することができ,宿主の抵抗力と菌の病原性との間のバランスにより,最終的に感染が無治療で頓挫するか,潜伏状態のまま維持されるか,または活動性となるかが決定される。感染病巣は,片側または両側肺尖部の線維結節状瘢痕(Simon病巣,通常は他の感染部位からの血行性播種に起因する)や,小さな硬化領域(Ghon focus)を残すことがある。リンパ節病変を伴うGhon focusはGhon complexと呼ばれ,石灰化していれば,Ranke complexと呼ばれる。ツベルクリン反応検査およびインターフェロンγ遊離試験(IGRA)は潜伏期に陽性となる。潜在性感染の部位では動的な変化が起きており,かつて信じられていたような完全に休止した状態ではない。

比較的まれであるが,原発病巣が急速に進行して,肺炎(ときに空洞性),胸水,縦隔または肺門リンパ節の顕著な腫大(小児においては気管支を圧迫)を伴う急性疾患が発生する。少量の胸水は主としてリンパ球性で,典型例では細菌をほとんど含まず,数週間以内に消失する。こうした一連の症状は幼児のほか,最近では感染または再感染を起こした免疫抑制患者でより頻繁に認められる。

肺外結核はあらゆる部位に生じる可能性があり,その場合は肺病変の所見がみられない。肺外結核の臨床像で最も頻度の高いものは結核性リンパ節腫脹であるが,非常に若年および非常に高齢の患者における死亡率の高さから,髄膜炎が最も恐れられている。

活動性結核

結核に感染している健常者が生涯で活動性疾患を発症するリスクは約5~10%であるが,その比率は年齢とその他の危険因子によって有意に変動する。

活動性疾患を発症する患者の50~80%で,結核の再活性化は最初の2年以内にみられるが,数十年後に再活性化することもある。

最初に播種が起きるあらゆる臓器が再活性化の部位となる可能性があるが,おそらくは高酸素分圧などの好ましい局所条件のため,再活性化は肺尖部で生じることが最も多い。Ghon focusや侵された肺門リンパ節が再活性化の部位となる可能性はかなり低い。

細胞性免疫(結核に対する防御に必須)を損なう条件は,再活性化を大いに促進する。したがって,HIVに同時感染していて適切な抗レトロウイルス療法(ART)を受けていない患者では,活動性結核を発症する年間リスクが約10%となる。

HIV感染より程度は低いが再活性化を促進するその他の危険因子として,以下のものがある:

臓器移植を受けて免疫抑制を必要とする患者は最もリスクが高いが,コルチコステロイドや腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬などの他の免疫抑制薬も一般的に再活性化を引き起こす。タバコの使用も危険因子である。

一部の患者では,潜在性感染の再活性化ではなく,再感染によって活動性疾患が発生する。結核が流行し,患者が多量の菌に曝露している地域では,再感染の方が発症機序としての可能性が高い。あまり流行していない地域では潜在性感染症の再活性化が主流である。ある患者に生じた活動性疾患が再感染と再活性化のどちらに起因するかを判定するのは困難である。

結核は遅延型過敏反応(DTH)を介して組織を傷害し,典型例では乾酪性の組織学的形態をもつ肉芽腫性壊死を生じる。特にDTHが損傷している免疫抑制患者においては,肺病変は,常にというわけではないが,特徴として空洞性である。胸水は,進行性の一次結核ほど一般的ではないが,直接の拡大または血行性拡大により生じることがある。大きな結核病変が胸腔内に破裂すると,気管支胸膜瘻を伴うことのある膿胸が生じることがあり,ときに気胸を来すこともある。化学療法導入前の時代には,ときに人工気胸療法の合併症として結核性膿胸が発生し,空洞の拡大による肺動脈のびらんが原因で突然大量喀血するなど,通常は急速に死に至っていた。

結核の経過は起因菌の毒性と宿主防御の状態に応じて大きく変化する。この疾患に対する先天免疫ないし自然免疫を獲得するまでに必要とされた何世紀にもわたる淘汰圧をこれまで経験してこなかった孤立集団の構成員(例,アメリカ先住民)では,多くの欧州人やその子孫の米国人集団とは異なり,急激な経過を示すことがある。欧州人および米国人集団では,より緩徐な経過をたどる場合が多い。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は,結核抗原に対する過敏反応に起因すると思われ,びまん性の血行性伝播または肺内への溢流を伴う大きな空洞の破裂後にまれに発生する。

結核の症状と徴候

初感染はほぼ常に無症状であるが,症状が出現する場合,典型的には微熱や疲労などの非特異的な症状であり,顕著な咳嗽はみられない。

活動性肺結核が中等度または重度であっても,数週間かけて徐々に現れる「体調不良」と食欲不振,疲労,体重減少のほかは全く症状がみられない場合もあれば,より特異的な症状がみられる場合もある。咳嗽が最もよくみられる。当初,咳嗽は通常朝の起床時に最小限の黄色または緑色の喀痰を伴うが,疾患の進行に伴い多くの喀痰を生じるようになる。喀血は空洞性結核のみで起こる(肉芽腫性の血管損傷が原因であるが,ときに空洞内の真菌増殖に起因することもある)。

微熱がよくみられるが常にというわけではない。盗汗は古典的症状であるが,結核においては一般的でも特異的でもない。肺実質の損傷,自然気胸または滲出液を伴う胸膜結核によって呼吸困難が起こりうる。

HIVに同時感染している場合は,遅延型過敏反応が障害されているため,臨床像がしばしば非定型となり,また肺外または播種性結核の症状を呈する可能性が高くなる。

肺外結核は,罹患臓器に応じて様々な全身性および局所性の症状を引き起こす。

結核の診断

  • 胸部X線

  • 抗酸菌染色と培養

  • ツベルクリン反応検査(TST)またはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)

  • 利用できる場合,核酸増幅検査(NAAT)

肺結核は,しばしば以下のいずれかに基づいて疑われる:

  • 呼吸器症状(3週間を超える咳嗽,喀血,胸痛,呼吸困難),原因不明の体調不良,不明熱,またはツベルクリン反応検査(TST)陽性所見を評価する過程で撮影された胸部X線写真

  • スクリーニング検査として,または接触者検診の際に行われたIGRA

発熱,2~3週間以上続く咳嗽,盗汗,体重減少,またはリンパ節腫脹がみられる患者と,結核に曝露した可能性(例,感染した家族,友人,その他の接触者を介した曝露,施設での曝露,結核流行地域への旅行)がある患者では,結核の疑いがより強くなる。

最初の検査は胸部X線および喀痰検査と培養である。胸部画像検査および喀痰検査を行っても活動性結核の診断が不明確な場合には,TSTまたはIGRAを施行してもよいが,これらの検査は非活動性の疾患に対するものである。NAAT(例,PCR法を用いたもの)は迅速に実施できる検査で,これで診断を下せる可能性がある。

大半の臨床検査と同様,結核感染の事前確率が低い場合,結核検査の結果が陽性であっても統計学的に偽陽性である可能性が高い(医学的検査および検査結果の理解も参照)。

結核と診断したら,HIV感染症の検査も行うとともに,B型肝炎またはC型肝炎の危険因子を有する患者には,これらのウイルスに対する検査も行うべきである。ベースライン時の検査(例,血算,肝機能および腎機能を含む基本的な血液生化学)を実施すべきである。

胸部X線

成人においては,鎖骨上部または後部の多結節性浸潤が活動性結核の最も大きな特徴であり,それは疾患の再活性化を示唆する。それは肺尖撮影または胸部CTで最もよく見える。

中肺野および下肺野の浸潤は非特異的であるが,症状または曝露歴から最近の感染が示唆される患者(通常は比較的若年)でみられた場合には,一次結核を疑うべきである(特に胸水がある場合)。

石灰化した肺門リンパ節が認められることがあるが,それらは結核の初感染に起因することもあるし,ヒストプラズマ症流行地域(例,オハイオ川流域)ではヒストプラズマ症に起因することもある。

結核(胸部X線)
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結核患者の胸部X線写真に描出された右上葉の空洞性病変。
ZEPHYR/SCIENCE PHOTO LIBRARY

喀痰の観察,培養,および検査

喀痰検査が肺結核診断の中心である。喀痰の採取はしばしば困難であるため,喀痰を用いない診断検査が長い間求められてきた;今では呼気検査および尿検査が利用可能であり,尿検査はHIV感染者における結核の診断に有用であることが証明されている。患者が自然に喀痰を喀出できない場合には,エアロゾル化した高張食塩水を用いて誘発してもよい。誘発が不成功に終わる場合は,気管支ファイバースコープによって特に感度の高い気管支洗浄液を採取することができる。喀痰の誘発と気管支鏡検査は医療スタッフの感染リスクを伴うため,これらの手技は,選択された症例のみに最後の手段として用いるべきである。適切な予防措置(例,陰圧室,N-95または他のぴったり合った呼吸用マスク)を講じるべきである。

喀痰検査で最初に行うことは,一般的には鏡検で抗酸菌の有無を確認することである。結核菌は,分類上はグラム陽性とされているが,グラム染色液の取込みに一貫性がない;従来の光学顕微鏡検査用の検体はZiehl-Neelsen染色またはKinyoun染色で,より感度の高い蛍光顕微鏡検査用の検体は蛍光染色で処理するのが最善である。塗抹鏡検は喀痰1mL当たり約10,000個の菌を検出できるが,これでは,再活性化初期あるいはHIVに同時感染した場合など,菌数が少ない場合には感度が低すぎる。

結核の危険因子が存在する場合,喀痰の塗抹標本中に抗酸菌を検出することは結核を推定する強力な根拠となるが,結核の危険因子が存在しない場合は環境中の抗酸菌である可能性の方が高く,確定診断には抗酸菌培養またはNAATで陽性となることが必要である。

培養は,従来の薬剤感受性試験用および遺伝子型解析用に菌を分離するためにも必要である。しかしながら,今では培養を用いる方法に代わって,分子生物学的な薬剤感受性試験が用いられることが増えてきている。培養は,喀痰1mL当たり最小10個の菌を検出でき,固形または液体培地を用いて施行する。しかし,培養結果を最終的に確定するには最長3カ月かかることがある。液体培地は固体培地よりも感度が高く迅速で,2~3週間で結果が得られる。MPB64抗原を検出する迅速抗原検査では,抗酸菌培養で増殖する微生物が結核菌(M. tuberculosis)であることを確認できる。

結核の診断には以下の2種類のNAATが利用できる:

  • Xpert MTB/RIF

  • ラインプローブアッセイ

Xpert MTB/RIFは,喀痰検体中の結核菌(M. tuberculosis)DNAをわずか2時間で同定し,同時にリファンピシン(rifampin)に対する耐性を検出できる,全自動のNAATである。Xpert MTB/RIF NAATの結核診断における感度は,喀痰塗抹の鏡検よりも高く,培養とほぼ同等である。新しいバージョンのXpert MTB/RIF Ultra(Xpert Ultra)では,第1選択薬と多くの第2選択薬のいずれに対する耐性変異も検出できる。

ラインプローブアッセイは,結核菌(M. tuberculosis)の存在とリファンピシンまたはイソニアジドへの耐性を同定できる。しかしながら,感度がXpert MTB/RIFより低い。この検査は通常,塗抹陽性の標本にのみ行われる。いくつかの第2選択薬に対するプローブが利用できる。

利用できる検査の種類に応じて異なる様々な診断アルゴリズムがある。

喀痰検体を用いたXpert MTB/RIFまたはXpert Ultra検査が陽性であれば,肺結核の診断は確定されたとみなされる。そのような症例では,地域における薬剤耐性パターンに基づいて治療を開始できる。

NAATと抗酸菌塗抹検査がともに陰性であるか,抗酸菌塗抹検査が陽性でNAATが陰性の場合は,培養結果が出るまでの間,臨床判断に従って抗結核治療を開始するか否かを決定する。

薬剤感受性試験

効果的な抗結核レジメンを同定するために,全例において当初の分離株で薬剤感受性試験を行うべきである。3カ月間の治療後も喀痰培養陽性が続く場合と陰性期間の後に培養陽性に転じた場合は,薬剤感受性試験を繰り返すべきである。結核は,それぞれ異なる薬剤耐性パターンを示す複数の菌株によって引き起こされる場合があり,特に伝播が多い状況ではその可能性が高い。

従来の細菌学的方法を用いる場合,薬剤耐性検査の結果が得られるまでに最長で8週間を要するが,上述のように,いくつかの分子生物学的手法を用いた薬剤感受性試験では,リファンピシンならびに他の第1および第2選択薬への耐性を迅速に(数時間で)検出できる。

その他の検体での検査

浸潤例では経気管支生検が可能であり,採取した検体は培養,組織学的評価,および分子生物学的検査に提出する。

検体の少数が培養陽性となる胃洗浄液は,もはや一般的には用いられていないが,良好な喀痰検体が通常得られない幼児は例外である。しかしながら,協力が得られる幼児では喀痰誘発が用いられている。

理想的には,その他の組織の生検検体は新鮮なまま培養を行うべきである。新鮮検体の培養は依然として組織内の結核菌(M. tuberculosis)検出のゴールドスタンダードであるが,その理由は,固定を行うとPCRができなくなる可能性があるのと,PCRでは生菌と死菌を鑑別できないためである。ただし,NAATでは,必要であれば,固定した組織標本も使用できる(例,組織学的検査で思いがけず肉芽腫性変化が検出された場合のリンパ節生検検体)。この用途でのNAATの利用は承認されていないが,陽性および陰性適中率が確立されていないにもかかわらず,極めて有用となる可能性がある。

皮膚テスト

複数穿刺器具の使用(管針法)はもはや推奨されない。

通常,精製ツベルクリン(PPD)を用いるツベルクリン反応検査(TST—Mantoux試験)が行われる。TSTは結核菌(M. tuberculosis)への免疫反応を測定するもので,そのため潜在性感染でも活動性感染でも陽性となるはずであり,TSTで両者を鑑別することはできない。

PPDを米国標準用量の5ツベルクリン単位(TU)含む0.1mL溶液を前腕の掌側に注射する。皮下ではなく皮内に注射することが重要である。注射すると即時に境界明瞭な水疱または膨疹が現れれば,正しい位置に注射できていることを示す。注射の48~72時間後に硬結(紅斑ではない)の直径を腕の長軸に直交する方向に測定する。皮膚硬結の境界にペンで印をつけることで,正確な測定値を得るのに役立つ可能性があるが,皮膚テストの結果の読み方は本質的に多様であり,下一桁の数字の好み(すなわち5mm,10mm,15mm,20mmのようなキリの良い数字で記録することを好む傾向)をはじめとして,いくつかのエラーが起こりやすい。調査研究では,判定者が測定値をすぐに見ることができないキャリパーまたは定規を用いて測定を行ったところ,測定値のバイアスが軽減された。

硬結の範囲をはっきり見分けて正確に測定することが困難であることを考慮すると,小さな差に臨床的意義を付与することは賢明ではない。例えば,9mmを11mmと異なる結果に解釈する(すなわち,11mmを潜在性感染症として扱い,9mmを未感染として退ける)のはおそらく良くない。家庭内接触者,および最近の伝播が確実であると考えられる他の状況では,TSTで平均約17mmの硬結を認める。臨床的には,最近感染した人は再活性化のリスクが最も高く,免疫能が正常であれば,通常は活発な免疫応答がみられ,TSTまたはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)の結果が強陽性となることを覚えておくのが有用である。

パール&ピットフォール

  • ツベルクリン反応検査では,紅斑ではなく硬結の直径を測定する。

TSTの反応は時間とともに低下する傾向があるが,一般的に再活性化能を有する生存結核菌(M. tuberculosis)そのものよりも長く持続する。遅発性再活性化の報告は少なくないが,潜在性感染の再活性化の大半は最初の感染から1~18カ月以内に起こる。免疫抑制が考えられる場合は,感染が起きた可能性が高い時期から何年も経過した後に潜在性感染を治療することが望ましい場合があるが,その頃には,再活性化の可能性が高い残存感染はもはや存在しないことがある。治療またはアネルギー(いかなる皮膚テストにも反応しない)がないにもかかわらず皮膚テストが陰性化することがあるが,フォローアップ検査が行われないために見逃されることが多い。その場合,自然治癒が原因である可能性が高い。伝播の頻度が高い状況では,疾患は遠隔期ではなく最近の感染に起因することが多いが,いずれの可能性もある。

TSTを繰り返し実施すると,免疫系は時間とともに減弱した過去の過敏反応を思い出す可能性があり,これをブースター現象と呼ぶ。ブースター現象が認識されていない場合,アウトブレイク調査の状況などでは,接触者の不必要な治療につながる可能性がある。複数回の検査が適応となる状況で,ブースター現象を最近の感染と誤解することを避けるため,ベースライン時点で2段階の検査を行っておくことが推奨される。つまり,TST陰性と判定された人に対して1~4週間以内に再検査を行い,過去の過敏反応の想起が起こるかどうかを確認するというものである。起こらなければ,その結果は真陰性である。しかしながら,最初の検査から1~4週間後の再検査でTST陽性と判定された場合は,潜在性感染がすでに存在していたとみなし,臨床基準に基づいて治療を行うか否かを判断する。IGRAでは抗原を注射しないため,繰り返し検査を行ってもブースター現象は問題とならない。

TST陽性反応の推奨カットオフ値は臨床状況に依存する:

  • 5mm:胸部X線で過去の結核感染を示す所見が認められる患者,HIV感染症または薬剤(例,TNF-α阻害薬,プレドニゾン換算で15mg/日,1カ月以上に相当するコルチコステロイドの使用)のために免疫抑制状態にある患者,感染性結核患者と濃厚な接触のある個人など,感染していた場合に活動性結核を発症するリスクが高い患者

  • 10mm:注射薬物使用者,有病率の高い地域から最近移住してきた移民,高リスク環境(例,刑務所,ホームレスシェルター)の居住者,特定の疾患(例,珪肺症,腎機能不全,糖尿病,頭頸部がん)を有する患者,胃切除術または空回腸バイパス術を受けた患者など,特定の危険因子を有する患者

  • 15mm:危険因子のない患者(典型的には検査すべきでない)

TST検査が偽陰性となることもあり,偽陰性が特によくみられるのは,発熱がある,高齢,HIV感染(特にCD4陽性細胞数 < 200/μL[0.2 x 109/L]),疾患もしくは特定の薬剤(例,コルチコステロイド,特定の生物学的免疫調節薬,特定の抗がん剤)の使用により免疫抑制状態にある,または極めて重篤な患者である。これらの人々の多くは,いかなる皮膚テストに反応を示さない(アネルギー)。アネルギーが起こるのはおそらく,抑制性抗体が存在するためか,T細胞が病変部位にあまりに多く動員されて,残ったT細胞では有意な皮膚反応を発現するのに少なすぎるためである。

患者が非結核性抗酸菌感染症に罹患しているか,BCG(カルメット-ゲラン桿菌)ワクチンの接種を受けたことがある場合には,TSTで偽陽性の判定が出ることがある。しかし,TSTに対するBCG接種の影響は通常,数年後には減弱しており,この時点以降で検査が陽性の場合には結核感染に起因する可能性が高い。伝播が多い状況では,BCG接種後に感染することもある。感染者の多い地域から米国に来た人々は,結核と診断されて偏見をもたれたくないがために,しばしばTST陽性の理由としてBCGを引き合いに出し,明らかに適応となる場合であっても潜在性感染症に対する治療を拒否する。専門家は,BCG接種歴の有無を無視して感染を想定すべきであると提案しているが,これは潜在性感染症の過剰診断,不必要な懸念および治療,ならびに薬物有害作用の可能性につながる。結核感染の診断にIGRAを使用することは,解釈の問題がないわけではないが,BCG/潜在性結核感染症の議論を概ね解決した。

IGRA(インターフェロンγ遊離試験)

検査プラットフォームの異なる2種類のIGRAが市販されているが,多くの比較研究でその2つの性能は非常に類似していることが示されている。いずれのIGRAを選択するかは,しばしば臨床状況における利用可能性によって決まる。

IGRAは,in vitroでリンパ球を結核特異的抗原に曝露したときに生じるインターフェロンγの遊離を調べる血液検査である。IGRAの結果はTSTと常に一致するとは限らないが,IGRAを接触者検診でTSTと比較すると,感度は同等で,特異度はより高いようである。TSTと異なり,過去にBCG接種を受けたことがあるからといってIGRAで偽陽性になることはならないが,TSTを繰り返すことそのものがIGRAで低レベルの陽性結果をもたらす可能性がある。TSTと同様,IGRAでは活動性結核と潜在性結核とを鑑別できず,リンパ球過敏反応はどちらの病態でも起こるが,結核抗原を用いたin vitroでのリンパ球刺激は短時間であるため,IGRAは過去の結核感染(感作されたメモリーリンパ球)よりも最近の感染(感作された循環血中リンパ球)を反映している可能性が高いと考えられている。したがって,IGRAはTSTと比べて,再活性化リスクとの相関が強いと考えられている。

結核感染が少なく,潜在性感染症に集中的に資源を割ける地域では,TSTに代わってIGRAが広く使用されるようになっているが,これはIGRAを用いた方が検者の違いに基づくばらつきが小さく,BCGによる干渉やブースター現象がなく,また再検査に来る必要がないためである。しかしながら,米国のような結核感染が少ない地域では,十分なリスクを有する人がますます減りつつあるため,1回の検査ですら実施する意義は小さく,ましてや何度も結核検査を行う意義はさらに小さい。

IGRAは比較的高価であるため,医療資源の少ない環境ではあまり利用できない。しかしながら,WHOは世界的な結核根絶に必要な要素として,結核感染の多い地域における潜在性感染症の治療を強調している。BCGはTSTの結果に影響を与えるため,IGRAの方が明らかに潜在性結核に対する特異度が高い。

結核の予後

免疫能正常の薬剤感受性肺結核患者では,たとえ大きな空洞のある重症例であっても,薬剤感受性検査に基づく適切な治療を迅速に開始して完了すれば,通常は治癒が得られる。結核はそれでも,症例の約10%(しばしば他の原因により衰弱している患者)において,死亡の原因または一因となる。播種性結核および結核性髄膜炎は,至適な治療を行っても最大25%の症例が死に至る。加えて,細菌学的治癒後に残存する組織損傷(特に肺であるが,どの器官にも起こりうる)に起因するかなりの合併症がある。組織損傷は感染に対する免疫反応に起因することが多く,免疫再構築症候群(IRIS)で最も劇的であるが,進行例でも結核による炎症反応が慢性呼吸機能不全,上気道狭窄,収縮性心膜炎,骨格変形などの組織損傷を引き起こしうるという認識が高まりつつある。

免疫系によって誘発される組織損傷も大きな問題であるが,免疫応答の欠如はさらに大きな問題となる。易感染性患者では,結核はより急速かつ広範に進行し,適切かつ積極的に治療しなければ,早ければ発症から2カ月で死に至りうる(特に多剤耐性結核[MDR-TB]の場合)。しかしながら,効果的な抗レトロウイルス療法(および適切な抗結核治療)を施行することにより,HIV感染症患者の予後は,MDR-TBの場合でさえ,免疫能正常患者のそれに近づく可能性がある。超多剤耐性結核の患者では,治療効果が不十分で不良な転帰をたどることがあるが,高度薬剤耐性結核に対する新しいレジメンの開発に伴い,こうした状況は急速に変化している。

結核の治療

  • 感染予防策,ときに空気感染隔離を含む

  • 抗菌薬

合併症のない結核患者の大半,ならびに合併症(例,AIDS肝炎糖尿病),薬物有害反応,または薬剤耐性がある全ての患者は,結核専門医に紹介するべきである。See also the Official American Thoracic Society, Centers for Disease Control and Prevention, and the Infectious Diseases Society of America's 2016 Clinical Practice Guidelines: Treatment of Drug-Susceptible Tuberculosis.

病状の程度および社会的状況によるが,大半の結核患者は外来で治療できる。以下のような伝播予防のための指示を与える:

  • 外出しない

  • 訪問客を避ける(曝露歴のある家族は除く)

  • 咳をする際はティッシュペーパーで口を覆う

結核患者に対するサージカルマスクは伝播を制限する上で効果的であるが,偏見を招く可能性があるため,例えば病院または診療所での前治療が必要な場合を除き,一般的に協力的な患者には推奨されない。長年にわたり専門家は,患者が治療に反応を示している(咳嗽,発熱,および疲労の減 少からわかる)場合であれば,治療開始から少なくとも2週間は感染予防策を維持するよう助言してきた。しかし,効果的な治療を行えば,菌に対する亜致死的な作用により,はるかに迅速(感染開始から数時間ないし数日以内)に伝播を阻止できることを示す強力なエビデンスがあり,これは喀痰塗抹または培養による喀痰の陰性化(通常2カ月かかる)よりもはるかに早く起こる。この知見は,大半の薬剤耐性症例(効果的に治療された場合)にも当てはまるようである。しかしながら,治療が効果的となる可能性を正確に予測するには,患者の結核菌分離株に関する薬剤感受性試験(DST)データが必要であり,また,臨床反応が良好との判定を下す前に十分な時間をとるのが理想である。また,薬剤はDSTプロファイルに適合し,確実に摂取され,かつ血中濃度が治療域に達していなければならない。したがって,効果的な薬剤を使用すれば数時間以内に伝播が止まる可能性があるとはいえ,臨床反応が良好であるとの判定には,治療中の患者を数日間観察する必要がある。高度薬剤耐性結核では,感染による影響がより大きく,治療の効果が得られるまでにより長い時間を要する可能性があるため,感染予防策を解除すべきかどうかの判断に,より一層の注意を払うべきである。

入院

活動性TBによる入院の主な適応は以下の通りである:

  • 重篤な併発疾患

  • 診断検査上の必要性

  • 社会的問題(例,ホームレス)

  • 曝露歴のない人々と定期的に接触する集団生活環境の居住者については,空気感染隔離の必要性(効果的な治療を確保できない場合には特に重要である)

薬剤耐性結核の影響は非常に大きいため,空気感染隔離室へ入室させて治療を開始し,少なくとも治療に対する臨床的反応が確実であるとわかるまでは隔離を続ける必要がある。理想的には,全ての入院患者を,1時間に6~12回換気が行われる陰圧室に入室させるべきである。入室する医療従事者には,National Institute for Occupational Safety and Healthの認証規格(N-95以上の高規格)に適合した適切なサイズのレスピレーターマスク(サージカルマスクではない)を装着させる。他の脆弱な入院患者を感染させるリスクがあるため,たとえ効果的な治療を受けている患者で喀痰塗抹検査が陰性化する前に感染性が消失したとしても,空気感染隔離を解除するには通常は2日間で3回の喀痰塗抹検査(1回は早朝に採取した検体であること)が陰性になることが必要である。喀痰を用いたNAATで2回陰性であれば,症状または徴候に基づいて評価中の患者において隔離目的での結核を除外する所見とみなせるが,治療により患者の感染性がなくなって長期間経過してからもNAATで結核菌(M. tuberculosis)DNAが検出される可能性があるため,結核があるとわかっている患者でこの所見を用いることはできない。しかしながら,喀痰塗抹検査の結果にかかわらず,患者を隔離室から直接帰宅させることはしばしば理にかなっている;なぜなら,家族(過去に曝露したことのある人)は,他の病気のために脆弱になっている入院患者ほどのリスクはない可能性が高いからである。

よくある質問は,結核患者はどのくらいの入院期間を要するかというものである。大半の結核患者は,喀痰塗抹検査の結果にかかわらず,自宅で生活しながら完全に外来で診断および治療が可能であることを考慮すると,そもそも必要な入院期間というものを定めるべきではなく,また喀痰塗抹または培養の結果に基づいて退院させるべきでもない。上述のように,効果的な治療を開始することで感染伝播は急速に減少する。米国では多くの場合,結核患者はまず病院の救急診療部で診察を受け,診断のために入院し,保健局に症例が通知されて接触者調査と監督下での治療を行う手配がなされる間に治療が開始される。このように,入院に続いて空気感染隔離を行うという流れがしばしばみられるため,喀痰検査に基づいて感染性がないと判定されるまで入院および空気感染隔離が必要であるという誤ったイメージが定着してしまっている。このような要件は誤りであり,医師は臨床的に責任のある早期退院を目指すべきである。

パール&ピットフォール

  • 病院や診療所において,結核伝播のリスクが最も高いのは,結核と診断されていない患者や薬剤耐性菌の結核であることが特定されていないために十分な治療を受けていない患者からのものであり,効果的な治療を受けている既知の結核患者からの伝播ではない。

公衆衛生上の注意事項

治療のアドヒアランスを改善し,治癒を確実なものとし,感染伝播と薬剤耐性株の発生を抑制するため,たとえ治療を行うのが個人開業医であるとしても,公衆衛生プログラムによって治療状況を細かくモニタリングすることになっている。米国の大半の州では,治療の障壁を減らすべく,結核診療(皮膚テスト,胸部X線,および薬剤を含む)は保健診療所で無料で受けられるようになっている。

至適な患者管理の一環として直接服薬確認療法(DOT)が採用されることが増えてきており,DOTでは毎回の服薬を公衆衛生担当官(家族でないのが理想)がモニタリングする。DOTにより,患者が治療過程全体を完了できる可能性が61%から86%に上昇する。交通費補助,保育,アウトリーチワーカー,食事などの奨励策と成功因子が提供される強化DOTを行った場合,その可能性は91%まで上昇する。

DOTが特に重要なのは以下の場合である:

  • 小児および青年が対象の場合

  • HIV感染,精神疾患,または物質乱用がある患者が対象の場合

  • 治療失敗後,再発後,または薬剤耐性の出現後

いくつかのプログラムでは,治療に専心していると判定された患者を対象としてselective self-administered treatment(SAT)が利用できる;単剤療法は薬剤耐性につながる可能性があるため,固定用量の配合剤を使用するのが理想である。SATにおけるアドヒアランスを改善するために,薬剤をモニタリングする機器が推奨されている。

通常は公衆衛生当局が家庭訪問を行って以下を実施する:

  • 治療の障害となりうる要因(例,極度の貧困,住所不定,育児の問題点,アルコール使用症,精神疾患)を評価する

  • 活動性症例の有無を調べる

  • 濃厚接触者を評価する

濃厚接触者とは,同じ呼吸空間を長期間共有する個人で,典型的には同一家庭の居住者であるが,しばしば職場,学校,娯楽場所の人々が含まれる。結核患者の感染性は大きく異なることから,リスクを生じる正確な接触の期間および程度は様々である。家族内に発症者または皮膚テスト陽性者が複数発生して感染性が高いことが証明された患者については,比較的程度の軽い接触者(例,患者が普段乗るバスの乗客)にも皮膚テストと潜在性感染症に関する評価を受けさせ,さらに必要であれば予防的治療も受けさせるべきである。家庭内接触者に感染させない患者は,非濃厚接触者に感染させる可能性も低い。

結核の第1選択薬

初回治療では,第1選択薬であるイソニアジド(INH),リファンピシン(RIF),ピラジナミド(PZA),およびエタンブトール(EMB)を併用する。結核の治療レジメンにはいくつかの種類があり,多くの因子に基づいて選択される。第1選択薬の投与は様々な間隔で行うことができる。

イソニアジド(INH)は,1日1回で経口投与され,組織内分布が良好で(髄液を含む),高い殺菌作用を示す。現在も結核治療において最も有用かつ最も安価な唯一の薬物である。多くの国々(特に東アジア)における数十年に及ぶ無制限使用(しばしば単剤治療として)により,耐性菌の比率が著しく増加している。米国においては,分離株の約10%がINH耐性である。

イソニアジドの有害作用としては,発疹や発熱などのほか,まれに貧血や無顆粒球症もみられる。INHは,最大20%の患者に症状を伴わない一過性のアミノトランスフェラーゼ上昇を,そして約1/1000の患者に肝炎を引き起こす。肝炎は,35歳以上の患者,アルコール使用症患者,分娩後の女性,および慢性肝疾患の患者では,より高い頻度で発生する。 患者に肝疾患の危険因子がない限り,月1回の肝機能検査は推奨されない。 説明のつかない疲労,食欲不振,悪心,嘔吐または黄疸を示す患者は肝毒性が発現している可能性があり,治療を中断して肝機能検査を実施する。症状と有意なアミノトランスフェラーゼ上昇が認められる(または症状はないが正常上限値の5倍を超える上昇が認められる)患者は,定義によれば肝毒性を発現しており,INH投与は中止する。

軽度のアミノトランスフェラーゼ上昇および症状から回復した後の患者には半分の用量で2~3日安全に投与できる。この用量に耐えられる場合は(典型的には約半数の患者が該当する),症状および肝機能低下の再発を綿密にモニタリングしながら全量で再開してもよい。患者がINH,RIF,およびPZAを服用している場合は,全ての薬剤の投与を中止した上で,薬剤毎に別々に再投与を試みなければならない。肝毒性の原因である可能性は,RIFよりもINHまたはPZAの方が高い。

INH誘導性ピリドキシン(ビタミンB6)欠乏によって末梢神経障害が起こることがあるが,その可能性の最も高い人たちは,妊娠中または授乳中の女性,栄養不良患者,糖尿病またはHIV感染患者,アルコール使用症患者,がんまたは尿毒症患者,および高齢者である。ピリドキシン25~50mgを連日投与すればこの合併症を予防できるが,小児および健康な若年成人においては通常不要である。

INHはフェニトインの肝代謝を遅延させるため,用量減量が必要となる。また,アルコール使用症の患者にときに使用されるジスルフィラムに対して,激しい反応を引き起こすこともある。INHは妊娠中も安全である。

リファンピシン(RIF)は,経口投与され,殺菌的に作用し,吸収性は良好で細胞および髄液中に良好に移行し,迅速に作用を発揮する。また,晩期再発を引き起こしうるマクロファージまたは乾酪病変中の潜伏菌の除去も行う。したがって,RIFは治療の全過程を通じて使用するべきである。

リファンピシンの有害作用としては,胆汁うっ滞性黄疸(まれ),発熱,血小板減少,腎不全などがある。RIFはINHよりも肝毒性発現頻度が低い。RIFを使用するときは薬物相互作用を考慮しなければならない。RIFは,抗凝固薬,経口避妊薬,コルチコステロイド,ジギトキシン,経口血糖降下薬,メサドンおよび他の多くの薬剤の代謝を促進する。リファマイシン系と多くの抗レトロウイルス薬との相互作用は特に複雑で,併用するには専門知識が必要である。RIFは妊娠中も安全である。

特殊な状況では以下の新規リファマイシン系薬剤が使用できる:

  • リファブチンは,RIFとの容認できない相互作用のある薬剤(特に抗レトロウイルス薬)を服用している患者に対して使用する。その作用はRIFと類似しているが,他の薬剤の代謝に対する影響がより少ない。クラリスロマイシンまたはフルコナゾールと併用するときは,リファブチンはぶどう膜炎との関連が報告されている。

  • リファペンチン(rifapentine)は,週1回投与のレジメンと4カ月間の新しい治療レジメンで使用されるが,小児患者およびHIV感染患者(治療失敗率が許容できないほど高いため)ならびに肺外結核患者には使用されない。結核予防としてINHとともに週1回,計12回投与するDOTレジメンもある。この予防的併用は,2歳未満の小児,抗レトロウイルス療法を受けているHIV感染患者,妊婦,治療期間中に妊娠することが予想される女性に対しては,安全性が不明であるため,推奨されない。

2020年に,RIFおよびリファペンチン(rifapentine)のサンプルから不純物のニトロソアミンが検出された。これらの不純物のいくつかは,長期動物試験において発がん性の可能性が指摘されており,毒性は主に累積曝露量と関連している。ただし,不純物ニトロソアミンへの曝露は一時的なものであり,RIFを服用しない場合のリスクがニトロソアミンの潜在的リスクを上回る可能性が高いため,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,結核疾患の治療に関して,患者がRIFを容認できる場合は,RIFの継続使用を支持している。

ピラジナミド(PZA)は,殺菌的に作用する経口薬である。最初の2カ月間の集中治療期間中に使用した場合,治療期間が6カ月に短縮し,RIFに対する耐性の出現を予防できる。

PZAの主な有害作用は消化管障害と肝炎である。しばしば高尿酸血症を引き起こすが,通常は軽度で痛風を誘発することはめったにない。PZAは妊娠期間中よく使用されるが,その安全性は確認されていない。

エタンブトール(EMB)は,経口投与され,最も忍容性の高い第1選択薬である。主な毒性は視神経炎で,高用量(例,25mg/kg)投与された場合および腎機能障害患者においてよくみられる。視神経炎患者は最初に青と緑が識別不能となり,続いて視力障害が発生する。いずれの症状も早期に検出されれば可逆的であるため,患者の視力および色覚の基準検査を実施して,視覚に関する問診を毎月行うべきである。EMBを2カ月以上またはに掲げたものより高い用量で服用している患者は,視力および色覚検査を月1回受けるべきである。言葉および文化的障壁のためにコミュニケーションが制限される場合には,注意が必要である。同様の理由で,EMBは視力表を読めない幼児への使用は避けるのが通常であるが,薬剤耐性菌または薬剤に対する不耐性のために必要となった場合には使用可能である。視神経炎が発生した場合は,EMBに代わり別の薬剤を使用する。エタンブトールは妊娠中も安全に使用できる。EMBに対する耐性は,他の第1選択薬に対する耐性よりも頻度が低い。

表&コラム
表&コラム

結核の第2選択薬

他の抗菌薬も結核に効果があり,患者が薬剤耐性結核(DR-TB)に罹患しているとき,または第1選択薬の1つに耐容性がないときに,主に使用される。2016年まで,最も重要な2つのクラスは,アミノグリコシド系(および非常に近縁のポリペプチド薬であるカプレオマイシン[注射薬のみ])とフルオロキノロン系であった。

ストレプトマイシンは,初の,そして最もよく使用されていた注射薬であるが,現在ではあまり使用されておらず,現在ではそれに代わって新しい注射薬および経口の第2選択薬が主流となっているため,入手がますます困難になっている。この薬剤は非常に効果的かつ殺細菌作用が強い。耐性は米国ではまだ比較的少ないが,世界的にはよくみられる。髄液への移行は不良であり,ほかに効果的な薬剤が利用可能であれば,髄腔内投与は行うべきでない。

ストレプトマイシンの用量依存性の有害作用として,尿細管損傷,前庭障害,聴器毒性がある。投与量は約15mg/kg,筋注である。最大量は通常,成人で1gであり,60歳以上では0.75g(10mg/kg)に減量する。用量依存性の有害作用を抑えるため,週5日に制限して最長2カ月間にわたり投与する。その後,必要であれば週2回でさらに2カ月間投与してもよい。腎機能不全患者では投与頻度を減らすべきである(例,12~15mg/kgを週に2ないし3回投与)。平衡覚,聴力,そして血清クレアチニン濃度の適切な検査により,患者をモニタリングする必要がある。

ストレプトマイシンの有害作用としては,発疹,発熱,無顆粒球症,血清病などがある。一般的に口部周囲の紅潮およびピリピリ感が注射に付随するが,速やかに治まる。ストレプトマイシンは胎児に前庭毒性および聴器毒性を与える恐れがあることから,妊娠期間中は禁忌である。

カナマイシンおよびアミカシンは,たとえストレプトマイシン耐性が発現してもなお効果的なことがある。それらの腎毒性および神経毒性はストレプトマイシンと類似する。カナマイシンはMDR-TBに対して広く使用されている注射薬であるが,注射薬が必要とされる状況(ますますまれになってきている)では,アミカシンが急速にそれに取って代わりつつある。

カプレオマイシンは,アミノグリコシド系ではないが関連のある殺菌的な注射薬であり,その用量,有効性,および有害作用はアミノグリコシド系薬剤と同様である。ストレプトマイシンに耐性の分離株はしばしばカプレオマイシンに感性であり,長期投与が必要な場合はアミノグリコシド系薬剤よりも忍容性がやや良好であることから,カプレオマイシンはMDR-TBの治療において重要な薬剤であった。全ての注射剤と同様,投与には痛みを伴い,現在一般的に好まれている新しい経口の抗薬剤耐性菌レジメンと比べて忍容性が劣る。

一部のフルオロキノロン系(レボフロキサシン,モキシフロキサシン)は,イソニアジドおよびリファンピシンに次いで最も活性および安全性が高い結核薬である;ただし,新しい4カ月レジメンであるモキシフロキサシンが導入されるまでは,フルオロキノロン系はイソニアジドおよびリファンピシンに感性の結核に対する第1選択薬ではなかった。モキシフロキサシンは,リファンピシンまたはリファペンチン(rifapentine)と併用する場合,イソニアジドと同程度の活性を示すとみられている。

その他の第2選択薬として,エチオナミド,サイクロセリン,パラアミノサリチル酸(PAS)がある。これらは他の抗結核薬より効果が低く,毒性が強いが,経口レジメンが導入されるまでは欠かせない薬剤であった(下記参照)。

比較的新しい抗結核薬として,ベダキリン,デラマニド,プレトマニド(pretomanid),ステゾリド(sutezolid)などがある。これらはかつて,高度薬剤耐性結核,または他の第2選択薬に耐えられない患者にのみ使用されていたが,耐性菌に対する経口レジメンで使用されることが増えている。

薬剤耐性

薬剤耐性は大きな懸念である。これは自然発生的な遺伝子変異によって発生する。不完全な治療,一貫しない治療,または単剤での治療を行ったり,アドヒアランスが不良であったりすると,こうした耐性菌が自然選択される。耐性株が一旦発生して増殖すると,続く変異によってまた別の薬剤に対する耐性を獲得することがある。このようにして,細菌は段階を経て複数の抗菌薬に対して耐性を獲得することができ,このプロセスは,抗酸菌間でのプラスミドの移動が関与していなくても,迅速に発生する。

しかしながら,どの患者においても,薬剤耐性結核(DR-TB)の最も一般的な原因はヒトからヒトへの伝播によるものであり,その多くが,疑われていない,診断されていない,または不十分な治療を受けたDR-TB患者からの伝播である。世界的に見て,効果的な治療を受けられるMDR-TB患者は全体の3分の1に過ぎない。耐性検査が十分に行われていない地域や行えない地域では,第1選択の治療に反応しない患者の多くが,おそらくは多剤耐性結核(MDR-TB)であることが認識されないままに他者に感染させていると考えられ,なかには薬剤感受性結核の患者に再感染させるケースもあると考えられる。結核およびリファンピシン耐性について分子生物学的検査を迅速に行うことで,薬剤耐性結核の伝播が減少することが示されている。

薬剤耐性のカテゴリーは,病原体が耐性を示す抗菌薬に基づいて定義される。2021年1月,WHOはXDR-TBの定義を改定し,pre-XDR-TBを正式に定義した(4)。米国では2022年1月に,WHOの定義と米国の状況に合わせた以下の代替定義のいずれかを使用するハイブリッド方式をCDCが推奨した:

  • 多剤耐性結核(multidrug-resistant tuberculosis:MDR-TB):最も有効な2つの第1選択薬であるイソニアジドおよびリファンピシンに耐性を示す(他の薬剤への耐性の有無を問わない)

  • Pre-XDR-TB::イソニアジド,リファンピシン,およびフルオロキノロン系に耐性を示す;CDCの代替定義:イソニアジド,リファンピシン,および第2選択の注射薬(アミカシン,カプレオマイシン,およびカナマイシン)のうちの1つに耐性を示す。

  • 超多剤耐性結核(extensively drug-resistant tuberculosis:XDR-TB):イソニアジド,リファンピシン,いずれかのフルオロキノロン系薬剤,および少なくとも1つの追加のA群薬に耐性を示す(A群薬とはレボフロキサシン,モキシフロキサシン,ベダキリン,およびリネゾリドである。これらは薬剤耐性結核に対して使用される第2選択薬の中で最も強力なもので,長期の治療レジメンを必要とする。);CDCの代替定義:イソニアジド,リファンピシン,いずれかのフルオロキノロン系薬剤,およびベダキリンまたはリネゾリドに耐性を示す

MDR-TBの診断とそれに対する第2選択薬の使用の必要性は,治療の期間,費用,および成否の点で非常に重要である。とはいえ,新たに導入された薬剤耐性結核に対する短期間の経口レジメンにより,治療はそれほど困難ではなくなり,これらの問題が臨床的な成否の分かれ目になることは少なくなっている。

MDR-TBの多数のアウトブレイクが報告されており,世界的な負担は依然として大きく,その理由の1つに診断および治療の限界がある;2020年には,細菌学的に証明された症例の約71%がリファンピシン耐性の検査(MDR-TBを同定する代替法)を受けることができ,2019年の61%から改善した。2020年にWHOが報告した世界のMDR-TB新規症例数は157,903例であったが,これは推定総症例数のわずか38%に過ぎなかった(3)。WHOは,毎年MDR/RR-TBを発症する人のうち,治療に登録されるのは約3人に1人に過ぎないと推定している(3)。

新しい抗結核薬であるベダキリン,デラマニド,およびプレトマニド(pretomanid)とフルオロキノロン系薬剤であるモキシフロキサシンは,他のレジメンよりも短い治療期間で使用され,薬剤耐性株に対して高い活性を示す経口薬である。これらの薬剤は,感染性を速やかに失わせ,治療完了率と治癒率が高いため,薬剤耐性結核の流行制御に役立つ可能性が高い。とはいえ,分子生物学的な診断と効果的な治療へのアクセスを確立するとともに,治療プロセス全体を監督することへの世界的な強いコミットメントが感染制御の成否を左右することに変わりはない。2020年には,薬剤耐性結核に対する,治療期間のより短い経口レジメンが65カ国で使用されていた。

薬剤耐性結核の患者とその治療にかかる費用は,全症例の49%にも上ると推定されている。

治療レジメン

新しい4カ月レジメンが導入されるまでは,全ての新規結核患者の初回治療は以下の段階で構成されていた:

  • 2カ月の初期集中段階

  • 4~7カ月の継続段階

初期集中段階の治療には以下の4つの抗菌薬を使用する(用量についてはを参照):

  • イソニアジド(INH)

  • リファンピシン(RIF)

  • ピラジナミド(PZA)

  • エタンブトール(EMB)

これらの薬剤は,この段階の2カ月間にわたり連日投与することも,あるいは2週間連日投与し,続く6週間は週2~3回の投与とすることもできる。結核菌の増殖が緩徐なことと増殖に対するpost-antibiotic effect(抗菌薬の濃度が最小発育阻止濃度以下になった後も菌の増殖がしばしば十分に遅延すること)が残存するため,間欠投与(通常高用量)は通常満足できる治療成績を与える。しかしながら,MDR-TBまたはHIV同時感染患者では毎日服用することが推奨される。毎日服用しないレジメンは,各投与がより重要となるので直接服薬確認療法(DOT)として施行すべきである。

4剤による集中治療期間の2カ月が終了したら,PZAと通常はEMBを中止するが,この点は最初の分離株の薬剤感受性パターンに依存する。

継続段階の治療は以下に依存する:

  • 最初の分離株での薬剤感受性試験の結果(判明している場合)

  • 最初の胸部X線写真上での空洞性病変の有無

  • 2カ月時点での培養および塗抹標本の結果

2カ月時点の培養が陽性の場合,それはより長い治療過程が必要であることを示している。

培養および塗抹がともに陰性の場合(胸部X線所見は問わない)と培養および塗抹はともに陽性であるがX線で空洞形成が認められない場合には,INHおよびRIFをさらに4カ月継続する(合計6カ月)。

X線で空洞形成が認められる患者で培養または塗抹が陽性となる場合は,INHおよびRIFをさらに7カ月継続する(合計9カ月)。

いずれのレジメンにおいても,最初の培養でいずれの薬剤に対する耐性も認められなければ,EMBは通常中止する。継続段階の薬剤は毎日か,患者がHIV陽性でなければ,週2~3回投与する。2カ月時点で培養および塗抹がともに陰性となり,胸部X線で空洞形成が認められないHIV陰性の患者には,INHとリファペンチン(rifapentine)を週1回の投与としてもよい。

2カ月間の治療後も培養陽性となる患者には,原因を特定するための評価を行うべきである。MDR-TB(一般的原因)に対する評価は,徹底的に行うべきである。臨床医は,他の一般的原因(例,アドヒアランス不良,広範な空洞性病変,薬剤耐性,薬剤の吸収不良)についても検討すべきである。

初期段階および継続段階のいずれにおいても,総投与回数分(1週当たりの回数に週数を掛けて算出)投与すべきで,したがって1回でも投与忘れがあるならば,期間終了時点で終了とせずに治療を延長する。

新しい4カ月レジメンが2021年に公表された臨床試験で報告され,その試験では,リファペンチン(rifapentine)1200mg,経口,1日1回およびモキシフロキサシン400mg,経口,1日1回を含む4カ月の結核治療レジメン(1, 2)が,リファンピシン,イソニアジド,ピラジナミド,およびエタンブトールによる標準の6カ月レジメンに劣っていなかったことが報告された。4カ月レジメンと6カ月レジメンの間で重篤な有害反応に差はみられなかった。

より治療期間の短いリファペンチン(rifapentine)–モキシフロキサシンのレジメンを使用する前に,以下の事項を考慮すべきである:

  • 検査で,フルオロキノロン系,イソニアジド,およびリファンピシンに対する感性が示されなければならない。

  • 高脂肪食はリファペンチン(rifapentine)の消化管吸収を増加させる。

  • リファペンチン(rifapentine)モキシフロキサシンのレジメンは,標準的な6カ月レジメンに比べて短期的に高額になる可能性がある。

4カ月レジメンは高額であるため,多くの公衆衛生プログラムでは,大半の症例に対して標準的な6カ月レジメンが引き続き使用され,4カ月レジメンが選択されるのは,合併症がなく6カ月レジメンに対するアドヒアランスが問題となる症例(例,6カ月レジメンを完了する前に患者が旅行しなければならない場合)に限られる可能性が高い。

最近まで,薬剤耐性結核の管理は,薬剤耐性のパターンによって異なり,長期間(18~24カ月)に及び,長引く注射と重度の有害作用のために患者にとっても辛く,かつ投与に高額な費用がかかっていた(特に長期入院が必要な場合)。薬剤耐性結核では,薬剤感受性結核症例に増して,十分な支援システムが整備された治療センターでの専門医による管理が必要となる。しかし,新規薬剤を用いた薬剤耐性結核に対する経口レジメンに関する最近の試験結果を受けて,薬剤耐性結核に対する治療の成功率,忍容性,および費用に変化が生じている。ベダキリン,プレトマニド(pretomanid),リネゾリドの3剤併用レジメン(BPaLレジメン)は,超多剤耐性結核(XDR-TB)のほか,治療に耐えられないまたは反応しない多剤耐性結核患者109名を対象とした非対照臨床試験において,良好な成績を示した。この試験では,90%の患者で良好な転帰が得られたが,これまでXDR-TBで良好な転帰が得られていた患者は50%未満であり,併存症がある場合には大幅に不良な転帰をたどることが多かった(6)。この試験ではリネゾリドの薬物毒性が主な限界となったが,その後開始された複数の試験では,高度薬剤耐性結核を対象により低用量のリネゾリドと他のバリエーションの経口レジメンが検討されている。高度薬剤耐性結核に対して治療期間がより短く忍容性の高い経口レジメンが開発されたことは,世界の結核対策における画期的な出来事であるが,こうした症例を診断して効果的な治療を施し,感染拡大を防止するためには,依然として各国の大きな努力が必要である。

その他の治療法

残存する結核空洞または肺組織の壊死領域に対して,ときに外科的切除が必要となる。切除の主な適応は,抗菌薬が移行できない肺組織に壊死領域がある患者における持続性かつ培養陽性のMDR-TBまたはXDR-TBである。その他の適応としては,コントロール不能の喀血および気管支狭窄などがある。

感染者の多い地域では,手術は広く行えるものではない。しかしながら,薬剤耐性を調べる迅速な分子生物学的検査や薬剤耐性菌に対するより短期間かつ忍容性良好な治療へのアクセスが改善されるにつれて,手術を要する肺破壊を来した慢性薬剤耐性の患者数はいずれ減少していく可能性が高い。一方で,重度の肺破壊を来した進行例では,結核手術に熟練した外科医へのアクセスがしばしば治療の成否を分けることになる。たとえ細菌学的治癒が得られたとしても,手術が呼吸循環機能に及ぼす長期的な有害作用についてはさらなる研究が必要である。

コルチコステロイドは,病態の主な原因が炎症である場合に結核治療にときに使用され,急性呼吸窮迫症候群の患者や,髄膜炎や心膜炎など閉鎖腔の感染症がある患者に対して適応となる。成人および25kg以上の小児にはデキサメタゾンを12mg,経口または静注,6時間毎で投与し,25kg未満の小児への用量は8mgとする。治療は2~3週間継続する。他の適応に必要とされるコルチコステロイドは,効果的な結核レジメンで治療を受けている活動性結核患者を危険に曝すことはない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Dorman SE, Nahid P, Kurbatova EV, et al: Four-month rifapentine regimens with or without moxifloxacin for tuberculosis.N Engl J Med 384(18):1705–1718, 2021.doi: 10.1056/NEJMoa2033400

  2. 2.Carr W, Kurbatova E, Starks A, et al: Interim guidance: 4-Month rifapentine-moxifloxacin regimen for the treatment of drug-susceptible pulmonary tuberculosis—United States, 2022.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 71(8):285–289, 2022.doi: 10.15585/mmwr.mm7108a1

  3. 3.World Health Organization (WHO): Global Tuberculosis Report 2021.Accessed on 4/29/2022.

  4. 4.WHO: WHO announces updated definitions of extensively drug-resistant tuberculosis.Accessed 4/29/2022.

  5. 5.Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Surveillance definitions for extensively drug resistant (XDR) and pre-XDR tuberculosis.Accessed 4/29/2022.

  6. 6.Conradie F, Diacon AH, Ngubane N, et al: Treatment of highly drug-resistant pulmonary tuberculosis.N Engl J Med 382(10):893–902, 2022.doi: 10.1056/NEJMoa1901814

結核のスクリーニング

潜在性結核感染症(LTBI)のスクリーニングは,ツベルクリン反応検査(TST)またはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)によって行う。スクリーニングの適応は以下の通りである:

  • 活動性肺結核に罹患した人との濃厚接触

  • 過去に結核に感染したことを示す胸部X線の所見

  • 結核への曝露の危険因子(例,過去5年以内に高リスク地域から移住してきた人々,静注薬物使用者,貧困層の患者,一部の医療従事者[呼吸療法士や高リスク集団を担当する医療従事者など])

  • 活動性結核発症の危険因子(例,HIV感染または他の免疫障害,胃切除術,空回腸バイパス術,珪肺症,腎機能不全,糖尿病,頭頸部がん,70歳以上の年齢)

  • コルチコステロイド,腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬またはがん化学療法に伴う治療的免疫抑制

米国においては,偽陽性の数を最小限に抑えるため,大半の小児と特定の結核危険因子のないその他の人々には検査を行うべきではない。

TSTまたはIGRAの結果が陽性の場合(基準については皮膚テストを参照),潜在性結核感染症(LTBI)が示唆される。TSTまたはIGRAの結果が陽性の患者では,他の臨床的および疫学的危険因子を評価し,胸部X線を施行する。結核を示唆するX線写真の異常を有する患者は,顕微鏡および培養による喀痰検査など,上述の活動性結核の評価が必要となる。

LTBIの検査に関する最新のガイドラインがCDCから発行されている。

ブースター現象

遠い過去に結核曝露,BCG接種,または非結核性抗酸菌の既往がある患者の一部ではTSTまたはIGRAが陰性となることがあるが,その場合,TST自体が追加免疫として働くことで,早ければわずか1週間後,遅ければ数年後の以降の検査結果が陽性となることがある(ブースター現象)。したがって,定期的に検査されている人(例,医療従事者)のなかには,2回目のルーチン検査が陽性となり,あたかも最近感染したかのように見える(したがって,追加検査および治療が必要となる)人がいる。LTBIの検査を繰り返す必要がある場合には,ブースター現象を同定するため,2回目のTSTは1回目から1~4週間後に(対側の前腕に)行うべきである(なぜなら,この短期間に感染により陽転する可能性は非常に低いからである)。その後のTSTは標準的に実施して解釈する。

LTBIの新しい検査法であるIGRAは,抗原を注射しないため,ブースター現象を引き起こさない。この種の検査法は,予防接種またはM. kansasiiM. szulgaiM. marinum以外の環境中の抗酸菌による感染に起因する既存の過敏性にも影響されない。

LTBIの治療

潜在性結核感染症の治療は主に以下の場合に適応となる:

  • TSTが過去2年以内に陰性から陽性に転換した場合

  • 陳旧性結核と一致するX線変化があるが,活動性結核の所見がない場合

予防的治療が適応となるその他の人々は以下の通りである:

  • 感染した場合に活動性結核を発症するリスクの高い人々(例,HIV感染者,薬剤による免疫抑制者)

  • TST陽転の有無にかかわらず,塗抹陽性結核患者と濃厚な接触のある5歳未満の全ての小児

偶発的にTSTまたはIGRAの結果が陽性となったが,これらの危険因子が認められない他の人々がしばしばLTBIの治療を受けることがあるが,医師は薬剤毒性の個々のリスクと治療の便益を勘案すべきである。

治療は,耐性の疑い(例,既知のINH耐性症例に対する曝露)がない限り通常イソニアジド(INH)で行う。用量は大半の成人で300mg,1日1回,9カ月,小児では10mg/kg,9カ月である。INH耐性を示すかINHの服用に耐えられない患者に対してはリファンピシン(RIF),600mg,1日1回,4カ月で代替する。INHに加えてリファペンチン(rifapentine)を週1回3カ月間服用するのも効果的である。

LTBIの治療に関する最新のガイドラインがCDCから発行されている。

LTBIに対する治療の主な限界は以下の通りである:

  • 肝毒性

  • アドヒアランス不良

LTBIに対して使用された場合,INHは1000例に1例の頻度で肝炎を引き起こすが,INHが速やかに中止されれば,肝炎は通常回復する。LTBIの治療を受けている患者には,新たな症状(特に原因不明の疲労,食欲減退,または悪心)がみられた場合は服薬を中止するように指示しておくべきである。RIFに起因する肝炎はINHに伴う肝炎よりもまれであるが,薬物相互作用は高頻度である。

推奨されている9カ月のINH治療コースを完了する患者はたった約50%である。アドヒアランスは4カ月間のRIFの方が良好である。症状をモニタリングし治療を完了するように励ますために毎月訪問することは,臨床的および公衆衛生的に標準となる優れたやり方である。

結核の予防

一般的予防措置(例,外出しない,訪問客を避ける,咳をする際はティッシュペーパーまたは手で口を覆う)を遵守する。

予防接種

M. bovis の弱毒株から作られたBCGワクチンは,感染率の高い国々を中心に世界中で80%を超える小児に接種されている。全体の平均効力はおそらく50%でしかないが,BCGは小児における胸腔外結核(特に結核性髄膜炎)の発生率を明らかに低下させており,結核感染を防止していると思われる。したがって,感染率の高い地域では価値があると考えられる。米国ではBCG予防接種の適応はほとんどないが,効果的に治療できない感染性結核症例(すなわちpre-XDRまたはXDR-TB)に不可避的に曝露する小児と,定期的にMDR-TBまたはXDR-TBに曝露する感染の既往がないと思われる健康な医療従事者は例外である。

BCG接種を行うと,しばしばTSTが陽転するが,その反応は通常,自然結核感染に対する反応よりも小さく,減弱も速やかである。BCGに起因するTST反応が15mmを超えることはまれで,BCG接種後15年の時点では10mmを超えることもまれである。CDCは,無治療の潜在性結核感染症は重篤な合併症の原因となりうることから,BCG接種歴がある小児で観察されたTST反応は全て結核感染によるものとみなす(かつ,その前提で治療を行う)よう勧告している。IGRAはBCG接種に影響されないため,理想的にはBCGによる予防接種を受けた患者で使用してTSTの反応が結核菌(M. tuberculosis)による感染に起因することを確認すべきである。

特別な集団

小児

結核に感染した小児は,成人よりも活動性疾患を発症する可能性が高いが,一般的には肺外結核として発現する。肺外感染で最も頻度の高い臨床像はリンパ節炎(るいれき)であるが,結核は脊椎(Pott病),長管骨の血管豊富な骨端,中枢神経系および髄膜も侵すことがある。

小児における活動性結核の臨床像は多彩であり,診断を困難にしている。大半の小児はbrassy cough以外の症状をほとんど示さない。

培養用の検体を採取するには,しばしば以下のいずれかが必要になる:

  • 胃吸引

  • 喀痰誘発

  • 気管支肺胞洗浄などのより侵襲的な処置

胸部X線の最も一般的な徴候は肺門リンパ節腫脹であるが,区域性無気肺が起こりうる。リンパ節腫脹は化学療法の開始後も進行することがあり,大葉性無気肺も起こしうるが,通常は治療中に消退する。空洞性病変は成人に比べるとまれであり,大部分の小児は,はるかに少数の菌しか存在しないため,感染性はない。

治療戦略は成人のそれと類似しているが,例外は小児の体重に厳密に基づいて薬剤用量を設定しなければならない点である(第1選択の経口抗結核薬の用量の表を参照)。

高齢者

再活性化時にはあらゆる臓器が侵される可能性があり,特に肺,脳,腎臓,長管骨,椎骨,リンパ節が侵されやすい。再活性化では症状がほとんどみられない場合もあり,数週間あるいは数カ月間にわたって見逃され,適切な評価が遅れる可能性がある。高齢者は別の疾患を併発していることも多く,これが診断をさらに複雑なものにする。

年齢にかかわらず,以前にTST陰性であった介護施設入居者では,最近の感染によって発症するリスクが高いが,その場合には肺尖部,中葉,または下葉肺炎と胸水が発生しうる。その肺炎は結核として認識されないことがあり,無効な広域抗菌薬が投与されている間に,病態が持続して他者への伝播が生じる可能性もある。

米国では,一般的には幼児の疾患と思われている粟粒結核や結核性髄膜炎は,実際には高齢者の方が頻度が高い。

高齢者に治療を行う際には,事前に予防的治療のリスクと有益性を注意深く評価すべきである。INHは65歳以上の患者の最大4~5%で肝毒性を引き起こす(65歳未満の患者では1%未満)。このため,高齢者に対する化学予防は,TST後の硬結部が以前の陰性反応から15mm以上増大した場合に限定して行うのが通常である。活動性感染者の濃厚接触者やその他の高リスク者でTSTまたはIGRAの結果が陰性である場合にも,禁忌がなければ予防的治療を考慮すべきである。

HIV感染患者

アネルギーと思われる易感染性患者ではTSTの感度は一般に不良である。いくつかの研究によると,易感染性患者ではIGRAはTSTより良好に機能するようであるが,この利点はまだ確立されていない。

無治療のHIV感染症を有する潜在性結核感染症(LTBI)患者では,1年間で約10%が活動性結核を発症するが,これは易感染状態にない人々における生涯発生率と同じ水準である。1990年代初期には,結核とHIVに同時感染している患者の中で,未治療あるいは多剤耐性株に感染している者の半数が死亡し,生存期間の中央値はわずか60日であった。現在,検査・治療環境が整っている国では,結核の早期診断および抗レトロウイルス療法のために転帰はやや改善しているが,HIV感染患者における結核は依然として深刻な問題である。結核およびHIV感染症に対する薬剤および検査へのアクセスが限られている国では,HIVと多剤耐性結核または超多剤耐性結核に同時感染している患者の死亡率は依然として高い。

初感染期間中の菌の播種は,HIV感染患者では通常,はるかに広範となる。その結果,結核が肺外性となる割合が大きくなる。結核腫(肺または中枢神経系の結核による腫瘤病変)はかなり高頻度であり破壊性が強い。HIV感染があると,肺病変の炎症反応と空洞形成の両方が軽減する。その結果,胸部X線は非特異的な肺炎像を示すこともあれば,正常のこともある。

HIVが同時感染している場合は,塗抹陰性結核がより高い頻度で認められる。塗抹陰性結核の頻度が高いことから,HIVと結核の同時感染はしばしば少菌型の病態と考えられている。

結核はAIDSの早期に発症することがあり,最初の臨床像となる場合もある。HIV感染患者における結核の血行性播種は,両方の感染症状が混在する重篤でしばしば不可解な疾患を引き起こす。AIDS患者において,CD4陽性細胞数が200/μL(0.2 × 109/L)以上の場合に発生する抗酸菌感染症は,ほぼ常に結核である。対照的に,結核曝露の確率に依存するが,CD4陽性細胞数が50/μL(0.05 × 109/L)未満の場合に発生する抗酸菌感染症は通常,Mycobacterium avium complex(MAC)に起因する。MAC感染症は感染性はなく,HIV感染患者では主に血液と骨髄を侵し,肺は侵さない。

結核発症以前に診断されていなかったHIV感染患者は,免疫再構築症候群(IRIS)の発生リスクを低減するため,抗レトロウイルス療法を開始する前に2週間の抗抗酸菌治療を受けるべきである。一般にHIV感染患者の結核は,in vitro感受性試験によって菌が薬剤感性であることが示された場合には通常のレジメンによく反応する。しかしながら,多剤耐性TB株の場合には,薬剤の毒性が強い割には有効性が低いために,転帰はそれほど好ましくない。感性菌による結核の治療は,喀痰培養が陰転した後も6~9カ月継続すべきであるが,治療前の喀痰塗抹検査が個別に3回陰性で,感染菌量が少ないことが示唆されていた場合は,6カ月まで短縮してもよい。現在では,喀痰培養が2カ月の治療後に陽性ならば治療を9カ月に延長することが推奨されている。

ツベルクリン反応が5mm以上(またはIGRAの結果が陽性)のHIV感染患者は,化学予防を受けるべきである。

最新のCDCによる結核治療ガイドラインを参考にすべきである。

要点

  • 結核は初感染時は無症状で経過する場合が多く,その後は潜在性感染症となり,少数の患者では活動期に移行する。

  • 世界人口の約4分の1が結核に感染しており,任意の一時点での活動性結核の患者数は約1500万人である。

  • 活動性疾患は,免疫障害患者,特にHIV感染患者では,発生する可能性がはるかに高くなる。

  • 診断は,症状,危険因子,ツベルクリン反応検査,およびインターフェロンγ遊離試験の結果に基づいて疑いとなり,喀痰検査(鏡検および培養)および/または核酸増幅検査によって確定する。

  • 複数の薬剤で数カ月間治療する。

  • 薬剤耐性が重大な問題であり,これはアドヒアランス不良,不適切な薬剤レジメンの使用,および不十分な感受性試験が原因で増加する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Official American Thoracic Society, Centers for Disease Control and Prevention, and the Infectious Diseases Society of America: Clinical Practice Guidelines: Treatment of Drug-Susceptible Tuberculosis (2016)

  2. Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Updated guidelines for testing of latent TB infection

  3. CDC: Treatment Regimens for Latent TB Infection (LTBI)

  4. CDC: TB Treatment Guidelines

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