非結核性抗酸菌感染症

執筆者:Edward A. Nardell, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2022年 7月
意見 同じトピックページ はこちら

抗酸菌には170を超える種が確認されており,その大半が自然環境中に存在する。それらの微生物の多くでは,環境曝露がよく起こるが,そうした曝露の大半は感染につながらず,感染が起きても発症に至らないことが多い。発症に至るには通常,宿主の防御機構が局所的または全身的に障害されている必要がある。慢性肺疾患(特に嚢胞性線維症)の患者,フレイルな高齢者,および易感染状態の患者はリスクが最も高いが,それ以外で明らかな異常が認められない場合にも,進行性の疾患が生じることがある。新しい種や新しい感染症が定期的に報告されている。(抗酸菌感染症である結核については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。)

結核菌(Mycobacterium tuberculosis)以外の抗酸菌もヒトの病原体となる可能性があり,それらによる感染症の発生が増加しているようである。それらの菌は一般的に土壌中や水中に存在し,ヒトに対する毒性は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)よりはるかに弱い。これらの微生物による感染症は,非定型抗酸菌感染症,環境性抗酸菌感染症,非結核性抗酸菌(NTM)感染症などと呼ばれてきた。これらの微生物も,HIV感染者またはその他の易感染状態にある個人においては,より広範な臨床症候を引き起こすが,そうした症候についてはここでは考察しない。

NTM感染症は一般に感染性が弱く(すなわち,通常は感染者ではなく環境中から感染する),したがって,公衆衛生上の報告義務はないため,NTM感染症の発生率を正確に特定することは困難である。また,NTMが分離されても,必ずしもそれが疾患の原因であるとは限らない。とはいえ,治療を必要とするNTM感染症で受診する患者の数は増加しているようである。この見かけ上の増加が,どの程度まで認知度の向上や診断検査の改善によるものなのかや,感染症発生率の実際の増加幅がどれほどであるのかは不明である。嚢胞性線維症の患者や素因となる他の肺疾患を有する患者の生存期間が延長したことが要因の1つである可能性もある。NTMは,公共用水で日常的に使用される濃度の塩素に対して比較的耐性があるため(1),日々のシャワーやミスト発生器,装飾的な水のディスプレイなどを通じたエアロゾル化した水源への曝露が増加していることも一因になっている可能性がある。暖かく湿った気候はNTMが生息できる地域を拡大させるため,気候変動も関係している可能性がある。臨床検体および環境源におけるNTMの検出率には,世界的にかなりの地域差がみられる。米国では一般に,寒く乾燥した北部よりも,暖かく湿った南部で,NTMがよく分離される。

Mycobacterium avium complex(MAC),すなわち近縁種であるM. aviumM. intracellulareがNTMによる疾患の大半を引き起こしているが,M. abscessusの頻度も増えてきている。その他の原因菌種は,M. kansasiiM. xenopiM. marinumM. ulceransM. fortuitum,およびM. chelonaeM. fortuitumおよび M. chelonaeM. abscessusの近縁種)である。大半のNTM感染症は一般にヒトからヒトに伝播しないと考えられているが,M. abscessusは嚢胞性線維症の患者間で伝播することがある。

は最も一般的な感染部位である;これらの肺感染症の原因の多くはMACであるが,M. kansasiiM. xenopi,またはM. abscessusに起因することもある。ときとしてリンパ節,骨および関節,皮膚,ならびに創傷が侵される症例もある。しかしながら,播種性MAC感染症の発生率は,HIV感染患者において増加しており,抗結核薬に対する耐性がよく認められる(M. kansasiiおよびM. xenopiを除く)。

非結核性抗酸菌感染症の診断は,典型的には検体の抗酸菌染色および培養によって行う。最も一般的なNTMに対しては核酸増幅検査(NAAT)検査が存在するが,米国では,州の公衆衛生研究所において分子生物学的方法およびその他の方法を用いて種の同定が行われることが増えている。

非結核性抗酸菌感染症は,特にこの分野の専門知識をもつ専門医が管理するのが最善である。この容易でない感染症の診断および管理に関する最新の診断・治療情報については,American Thoracic Society,European Respiratory Society,European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases,およびInfectious Diseases Society of Americaによる非結核性抗酸菌性肺疾患の治療に関する2020年版診療ガイドラインを参照のこと。

総論の参考文献

  1. 1.Norton GJ, Williams M, Falkinham JO 3rd, Honda JR: Physical measures to reduce exposure to tap water-associated nontuberculous mycobacteria.Front Public Health 8:190, 2020.doi: 10.3389/fpubh.2020.00190

肺疾患

典型的な患者は,気管支拡張症,脊柱側弯症,漏斗胸,または僧帽弁逸脱症を有するが,肺に基礎的な異常が認められない中年または高齢女性である。Mycobacterium avium(MAC)はまた,以前から慢性気管支炎肺気腫,治癒した結核,気管支拡張症珪肺症など肺に問題があった中年または高齢の白人男性でも肺疾患を引き起こす。ある患者でMACが気管支拡張症を引き起こしたのか,気管支拡張症がMACの感染につながったのかは必ずしも明らかでないが,いずれにしても両方の現象がみられる。慢性乾性咳嗽のある高齢のやせた女性では,この症候群はしばしばLady Windermere症候群と呼ばれ,理由は不明であるが,その発生率が上昇しているようである。

NTMの感染および発症が起きやすい別の重要な集団として,嚢胞性線維症の患者がある。嚢胞性線維症が良好に管理されれば,患者はより長く生存することになるため,NTM感染症などの合併症が起きる可能性が高くなる。

咳嗽と喀痰がよくみられ,しばしば疲労,体重減少,および微熱を伴う。経過は緩徐進行性のこともあれば,長期間安定性のこともある。呼吸機能不全および持続的喀血が発生することがある。胸部X線での線維結節性浸潤像は肺結核のそれと類似するが,空洞の壁が薄い傾向があり,胸水はまれである。胸部CTで認められるいわゆる木の芽様陰影(tree-in-bud appearance)もMAC感染症の特徴である。

MAC感染症を診断し,MAC感染症と結核とを鑑別するために,喀痰検査および培養が行われる。

薬剤感受性の判定は,菌種と薬剤の組合せによっては参考となりうるが,高度な専門検査室でしか施行できない。MACについては,クラリスロマイシンに対する感受性が治療反応の予測因子となる。

喀痰の塗抹および培養がともに陽性となるMACによる中等症の症候性感染症に対しては,クラリスロマイシン500mg,経口,1日2回またはアジスロマイシン600mg,経口,1日1回,リファンピシン(RIF)600mg,経口,1日1回,およびエタンブトール(EMB)15~25mg/kg,経口,1日1回を12~18カ月間,または培養が12カ月間にわたり陰性になるまで使用すべきである。

標準薬剤に不応性の進行性症例においては,クラリスロマイシン500mg,経口,1日2回かアジスロマイシン600mg,経口,1日1回のどちらか,リファブチン300mg,経口,1日1回,シプロフロキサシン250~500mg,経口または静注,1日2回,クロファジミン100~200mg,経口,1日1回,およびアミカシン10~15mg/kg,静注,1日1回を含む4~6剤の併用を試みてもよい。

極めて限局した疾患があり,それ以外は健康な若年患者における例外的な症例においては,外科的切除が推奨される。

M. kansasiiおよびM. xenopi感染症は,イソニアジド,リファブチン,およびEMBを場合によりストレプトマイシンまたはクラリスロマイシンとの併用で18~24カ月間投与する治療法に反応する。M. abscessusは多剤耐性菌である。その分離株はin vitroで大半の経口抗菌薬に耐性を示すが,チゲサイクリン,イミペネム,セフォキシチン,アミカシンなど,限られた数の注射剤の抗菌薬には一般的に感性であり,治療では3剤以上の活性をもつ薬剤の使用が推奨される(非結核性抗酸菌性肺疾患の治療に関する2020年版診療ガイドラインを参照)。

非結核性抗酸菌は全てピラジナミドに耐性である。

リンパ節炎

1~5歳の小児では,慢性の下顎および顎下頸部リンパ節炎は一般的にMACまたはMycobacterium scrofulaceumに起因する。おそらく土壌菌の経口摂取により感染する。

診断は通常,切除生検による。

通常,治療は切除で十分であり,化学療法は必要ない。

皮膚疾患

プール肉芽腫は,長期化するが自然に軽快する表在性肉芽腫性潰瘍性疾患であり,通常は汚染されたプールでの水泳,または家庭の水槽の清掃により感染するMycobacterium marinumが原因である。ときにM. ulceransおよびM. kansasiiが関与する。病変,すなわち赤みを帯びた腫瘤が腫大して次第に紫色に変色し,上肢または膝に発生することが最も多い。

自然に治癒することもあるが,ミノサイクリンまたはドキシサイクリン100~200mg,経口,1日1回,クラリスロマイシン500mg,経口,1日2回,またはRIFに加えてEMBの併用で3~6カ月がM. marinumに対して奏効している。

M. ulceransが原因のBuruli潰瘍は,30を超える熱帯および亜熱帯諸国の農村地域で発生しているが,大半の症例が西アフリカと中央アフリカで発生している。それは,下肢,腕,または顔面の無痛性皮下結節,大きな無痛性硬結領域,またはびまん性無痛性腫脹として始まる。感染症は皮膚および軟部組織の広範な破壊へと進展し,脚や腕に大きな潰瘍を生じることがある。治癒しても重度の拘縮,瘢痕,および変形が残る。

診断にはPCR検査を用いるべきである。

世界保健機関(WHO)は,リファンピシン10mg/kg,経口に加えて,ストレプトマイシン15mg/kg,筋注,クラリスロマイシン7.5mg/kg,経口(妊娠中は望ましい),またはモキシフロキサシン400mg,経口のいずれか1つを併用する1日1回8週間の治療法を推奨している。しかしながら,ストレプトマイシンは注射剤であり毒性があるため問題がある。WHOは,最近の研究に基づき,リファンピシン(10mg/kg,1日1回)とクラリスロマイシン(7.5mg/kg,1日2回)の併用を現在推奨している(1)。

皮膚感染症に関する参考文献

  1. 1.World Health Organization (WHO): Buruli ulcer (Mycobacterium ulcerans infection).Accessed on 4/26/2022.

創傷感染症と異物感染症

非結核性抗酸菌はバイオフィルムを形成し,住宅,オフィス,医療施設の水道設備内で生き延びることができる。一般的な除染方法(例,塩素,有機水銀,またはアルカリ性グルタルアルデヒドの使用)では根絶が困難である。

急速に増殖する非結核性抗酸菌(Mycobacterium fortuitum complex,M. chelonaeM. abscessus complex)は,院内アウトブレイクを引き起こす可能性があり,これは通常,汚染された溶液の注射,非滅菌水による創傷の汚染,汚染された器具の使用,または汚染されたデバイスの埋め込みが原因で起こる。これらの感染症は,美容処置,鍼治療,または刺青の後にも発生することがある。M. fortuitum complexが,眼および皮膚(特に足),刺青,ならびに汚染材料(例,ブタ心臓弁,人工乳房,骨ろう)を施されている患者において,重篤な穿通創感染症を引き起こしている。

米国では,ジョージア州(2015年)およびカリフォルニア州(2016年)でM. abscessus感染症のアウトブレイクが発生した。これらのアウトブレイクは,小児に対する根管治療において歯髄腔の洗浄にM. abscessusのバイオフィルムで汚染された水が使用されたことで発生し,結果として重症感染症が生じた。

治療には通常,広範囲のデブリドマンおよび異物の除去が必要である。有用な薬剤としては以下のものがある:

  • イミペネム,1g,静注,6時間毎

  • レボフロキサシン500mg,静注または経口,1日1回

  • クラリスロマイシン500mg,経口,1日2回

  • トリメトプリム/スルファメトキサゾール,2倍量の錠剤を1錠,経口,1日2回

  • ドキシサイクリン100~200mg,経口,1日1回

  • セフォキシチン2g,静注,6~8時間毎

  • アミカシン10~15mg/kg,静注,1日1回

in vitro活性を有する少なくとも2剤の併用療法が推奨される。治療期間は平均24カ月であるが,感染した異物が体内に残っている場合には,より長期に及ぶことがある。最初の3~6カ月の治療には通常,アミカシンが含められる。M. abscessusおよびM. chelonaeに起因する感染症は,通常は大半の抗菌薬に耐性で,治癒は極めて困難または不可能であることが立証されており,経験豊富な専門医に紹介するべきである。

播種性疾患

Mycobacterium avium complex(MAC)は,一般的には進行したAIDS患者,ときに臓器移植や有毛細胞白血病など他の易感染状態の患者において,播種性疾患を引き起こす。AIDS患者では,MACの播種性疾患は通常後期に生じ(対照的に結核は早期に起こる),他の日和見感染症と同時に発生する。

播種性MAC感染症は発熱,貧血,血小板減少,下痢,および腹痛を引き起こす(Whipple病に類似する)。

播種性MAC感染症の診断は,血液または骨髄の培養または生検(例,肝臓または壊死したリンパ節の経皮的穿刺吸引生検)によって確定できる。便および呼吸器検体中で菌を認めることもあるが,これらの検体由来の菌は真の感染症ではなく単なる定着を意味する場合がある。

菌血症を解消し症状を和らげるための併用療法には通常2または3剤必要であり,その組合わせの1つがクラリスロマイシン500mg,経口,1日2回,またはアジスロマイシン600mg,経口,1日1回に加えてエタンブトール(EMB)15~25mg/kg,1日1回を使用するレジメンである。ときにリファブチン300mgも1日1回投与される。治療に成功した後,再発を予防するためにクラリスロマイシンまたはアジスロマイシンに加えてEMBによる長期抑制が必要である。

MACによる播種性感染症の症状が現れる前に診断されていなかったHIV感染患者は,免疫再構築症候群(IRIS)の発生リスクを低減するため,抗レトロウイルス療法を開始する前に2週間の抗抗酸菌治療を受けるべきである。

CD4陽性細胞数が100/μL(0.01 × 109/L)未満のHIV感染患者では,アジスロマイシン1.2g,経口,週1回またはクラリスロマイシン500mg,経口,1日2回によって播種性MAC感染症を予防する必要がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Thoracic Society, European Respiratory Society, European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases, and Infectious Diseases Society of America: Treatment of nontuberculous mycobacterial pulmonary disease: An official ATS/ERS/ESCMID/IDSA clinical practice guideline (2020)

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS