知的能力障害

執筆者:Stephen Brian Sulkes, MD, Golisano Children’s Hospital at Strong, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2022年 2月
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やさしくわかる病気事典

知的能力障害(一般に知的障害とも呼ばれます)とは、出生時や乳児期の初期から知能の働きが明らかに標準を下回り、正常な日常生活動作を行う能力が限られている状態です。

  • 知的能力障害は、遺伝的な場合もあれば、脳の発達に影響を与える病気の結果として起こる場合もあります。

  • 知的能力障害がある小児のほとんどでは、就学前まで目立った症状が現れません。

  • 診断は正式な検査の結果に基づいて下されます。

  • 適切な出生前ケアを受けると、小児に知的能力障害が生じるリスクが低下します。

  • 多くの専門家の支援、治療、および特別な教育により、小児が獲得できる機能を最大限に高めることができます。

知的能力障害は神経発達障害の一種です。

以前用いられてきた精神遅滞という用語には、好ましくない社会的先入観や偏見があるため、医療従事者は知的能力障害という用語に変更しました。

知的能力障害は肺炎やレンサ球菌咽頭炎のような特定の病気ではなく、精神障害でもありません。知的能力障害がある人は、知能の働きが大幅に標準を下回り、日常生活の様々な行動(日常生活動作)のうち少なくとも1つに関する対処能力(適応能力)が、継続的な支援を必要とするほど限定されます。適応能力は、次のようないくつかの領域に分類されます。

  • 概念化領域:記憶、読み書き、数学の能力

  • 社会的領域:対人技能、機能的コミュニケーション、社会的判断、ならびに他者の考えや感情に対する気づき

  • 実際的領域:個人的ケア(身の回りの世話)、(仕事や学校での)課題の取り組み方、お金の管理、健康と安全

知的能力障害の程度は様々であり、軽度から最重度に分類されます。基本的に、障害は知的機能が低いこと(典型的には標準的な知能検査により測定されます)によって起きたものですが、生活面への影響は多くの場合、その人が必要とする支援の程度によって決まります。例えば、知能検査で軽度の障害しかない人でも、広範囲の支援が必要なほど適応能力が低いことがあります。

支援は次のように分類されます。

  • 一時的:必要に応じて行われる支援

  • 限定的:障害者作業所でのデイプログラムなどの支援

  • 長期的:毎日継続して行われる支援

  • 全面的支援:広汎なケアを行う介護施設などで行われているような、日常生活動作全般に対する高度な支援

知能指数(IQ)検査の点数のみに基づけば、人口の約3%に知的能力障害(IQ70未満)があります。支援の必要度に基づけば、重度の知的能力障害があるのは人口の約1%にすぎません。

知的能力障害の原因

知的能力障害の原因となる病気や環境的条件には様々なものがあります。一部の病気は遺伝性です。妊娠前や妊娠時に生じる原因もあれば、妊娠中、分娩中、出生後に生じる原因もあります。最も一般的な要因は、脳の成長と発達が何らかの原因によって障害を受けることです。遺伝学の最近の進歩、特に染色体分析技術の進歩があっても、多くの場合は、知的能力障害の具体的な原因を特定できません。

妊娠前または妊娠時に生じる原因としては以下のものがあります。

妊娠中に生じる原因としては以下のものがあります。

分娩時に生じる原因としては以下のものがあります。

  • 酸素量の不足(低酸素症)

  • 極度の未熟性

出生後に生じる原因としては以下のものがあります。

知的能力障害の症状

知的能力障害がある小児は、出生時や出生直後に明らかな異常を呈する場合があります。こうした異常には、身体的異常や神経学的異常があります。顔貌の異常、頭が異常に大きかったり小さかったりすること、手や足の奇形など、様々な形で現れることがあります。外見上はまったく正常であっても、けいれん、嗜眠、嘔吐、尿の匂いの異常、哺乳不良、発育不良など、健康に深刻な問題があることを示す徴候が現れる小児もいます。重い知的能力障害のある小児は、生後1年における運動能力の発達が遅れ、寝返りをうつ、座る、立つなどの動作ができるようになるのが遅くなります。

しかし知的能力障害がある小児のほとんどでは、幼稚園や保育所に行く年齢になるまで目立った症状が現れません。知的能力障害の程度が重いほど、症状が明らかになるのが早くなります。多くの場合、親が最初に気づく徴候は言葉の発達の遅れです。知的能力障害がある小児は、単語を話し始めたり、単語をつなぎ合わせて使ったり、完全な文を話したりする時期が遅れます。認知障害や言語能力の不足から、社会性の発達が遅れることもあります。知的能力障害がある小児は、自分で着替えたり自分でご飯を食べたりするようになるまでに、時間がかかることがあります。小児が小学校や幼稚園、保育所に通うようになって、年齢相応の振る舞いができないことが分かるまで、認知障害の可能性を考えない親もいます。

知的能力障害がある小児では、他の小児と比べて、怒りを爆発させたり、かんしゃくを起こしたり、攻撃的な行動や自傷行為をとったりするといった行動面での問題を抱えている傾向がやや大きくなります。こうした行動が多くみられるのは、コミュニケーション能力や衝動を抑える能力に障害があるために、特定の状況に対する欲求不満が悪化する場合です。年長児は、だまされやすく利用されやすいことがあり、また、ささいな犯罪に引きずり込まれることもあります。

知的能力障害がある人の約20~35%には、精神障害もみられます。特に不安うつ病が多く、これらは、自分が周りの小児と違うことに気づいた場合や、障害のためにいじめや虐待を受けた場合に、とりわけ多くなります。

知的能力障害の診断

  • 出生前スクリーニング検査

  • 発達スクリーニング

  • 正式な知能と技能の検査

  • 画像検査

  • 遺伝子検査および他の臨床検査

出生前スクリーニングにより、胎児に知的能力障害を引き起こしうる特定の遺伝性疾患などの異常がないかを判断できます。

生後は、成長と発達(認知能力を含む)を小児健診で定期的に評価します。

医師が小児の知的能力障害を疑う場合、早期介入スタッフまたは学校教員、かかりつけ医、小児神経科医、発達小児科医、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、特別教育専門の教師、ソーシャルワーカー、看護師などで構成される専門家チームによる評価を受けます。こうした専門家は知的能力障害の疑いがある小児に検査を行い、知能検査を行ったり原因を探ったりします。

たとえ小児の知的能力障害の原因が回復できない場合でも、知的能力障害を生じさせた病気を特定できれば、医師は小児のその後の経過を予測し、能力がこれ以上失われないよう予防手段を講じ、小児の機能水準を向上させる介入計画を立てることができる場合があります。また、次の子どもが知的能力障害をもつリスクについて、親にカウンセリングを行うことができます。

出生前スクリーニング検査

妊娠中に超音波検査羊水穿刺絨毛採取、様々な血液検査(クアトロスクリーニングなど)をはじめとする特定の検査を行うと、知的能力障害が生じることが多い状態を発見できます。35歳以上の妊婦(ダウン症候群の子どもが生まれるリスクが高いため)や、代謝性疾患の家族歴のある妊婦に対しては、しばしば羊水穿刺や絨毛採取が行われます。クアトロスクリーニングは、ほとんどの妊婦で行われる検査です。これは、血液中の4つの物質の濃度を測定する検査です。この検査の結果は、胎児がダウン症候群、18トリソミー、または神経管閉鎖不全などの特定の病気のあるリスクが高いかどうかを評価する上で役立ちます。

神経管閉鎖不全ダウン症候群、その他の異常に対するスクリーニング検査には、母親のアルファ-フェトプロテインの血中濃度を測定する検査が役立ちます。非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)では、母体の血液中に少量だけ含まれる胎児のDNAを検出し、それを利用して21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー18トリソミー、その他特定の染色体異常など、胎児の遺伝性疾患を診断します。

発達スクリーニング

親が軽度の発達障害に気づかないことがあるため、医師は、小児健診の際に定期的に発達スクリーニング検査を行います。医師は「年齢・発達段階質問票(Ages and Stages Questionnaires)」や「小児発達評価(Child Development Inventories)」などの簡単な質問票を用いた検査を行って、小児の認知能力、言語能力、運動能力を素早く評価します。医師が小児の機能水準を判定しやすくなるように、親が「親による発達状況評価(PEDS:Parents' Evaluation of Developmental Status)」への記入を行うことがあります。このようなスクリーニング検査の結果が、年齢水準よりも明らかに下回った小児には、正式な検査を行います。

正式な知能と技能の検査

正式な検査は以下の3つの要素から構成されています。

  • 親との面接

  • 小児の観察

  • 小児の能力を同年齢の多くの小児の点数と比べる検査

「スタンフォード・ビネー知能検査」や「ウェクスラー式児童知能検査」などの検査を行い、知能を測定します。「バインランド適応行動評価尺度」などの検査を行い、機能的コミュニケーション能力、日常生活技能、社会的能力、運動技能を評価します。一般にこのような正式な検査では、小児の知能と社会的能力を、同年齢の小児と正確に比較することができます(基準準拠検査と呼ばれます)。しかし、文化的背景が異なる小児、非英語圏の家庭の小児、社会経済的最下層出身の小児の場合には、こうした検査結果が悪くなりがちです。このため知的能力障害の診断に際しては、検査結果とともに、親から情報を手に入れ、小児を直接観察することによって、総合的に判断しなければなりません。知的能力障害の診断が妥当なのは、知能と適応能力の両方が標準を著しく下回る場合だけです。

原因の特定

知的能力障害を伴う病気が疑われる身体の異常やその他の症状がみられる新生児には、しばしば特定の検査が必要になります。

MRI検査などの画像検査で、脳の構造的な問題を調べることがあります。脳波検査は、脳の電気的活動を記録する検査で、小児にけいれんが起こる可能性があるかどうかを評価するために行われます。骨のX線検査も、知的能力障害の原因として疑われるものを否定するために役立ちます。

染色体マイクロアレイ解析などの遺伝子検査は、病気の特定に役立つことがあります。家族に遺伝性疾患の患者がいる場合や、遺伝性疾患をもつ小児がほかにもいる場合、とりわけフェニルケトン尿症テイ-サックス病脆弱X症候群などの知的能力障害を伴う病気をもつ小児がいる場合は、医師が遺伝子検査を勧めることがあります。遺伝性疾患の原因となる遺伝子が特定されると、遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクについて、遺伝カウンセラーが親にカウンセリングを行うことができます。

医師が疑う原因に応じて他の尿検査や血液検査も行われます。

知的能力障害以外の病気で、言語の習得と社会的技能の習得が遅れている小児もいます。聴覚障害は言語能力や社会的能力の発達に悪影響を及ぼすため、たいてい聴覚検査が行われます。

情動障害や学習障害も知的能力障害と混同されます。長期にわたり普通の愛情と関心をことごとく奪われていた小児( see page 小児に対するネグレクトと虐待の概要)は、知的能力障害があるようにみえることがあります。お座りや歩き始めること(粗大運動能力)が遅い小児や、ものをうまく使い始めること(微細運動能力)が遅い小児は、知的能力障害なのではなく、神経に障害がある場合もあります。

知的能力障害の予後(経過の見通し)

軽度の知的能力障害をもつ人の余命は一般の人とほぼ同じで、どのような知的能力障害であれ、医療により長期的な健康管理が改善されています。 知的能力障害をもつ人の多くは、自立が可能で、一人で生活し、適切な支援があれば仕事についてうまくやっていくことができます。

知的能力障害は、重篤な身体障害を伴うことがあります。このため個々の状態に応じて、知的能力障害をもつ人の余命が短くなることがあります。より重度の知的能力障害のある人は、生涯の支援が必要になる可能性がより高くなります。概して、認知障害が重度であると同時に、身体障害が重度であればあるほど、余命は短くなる傾向にあります。

知的能力障害の予防

胎児性アルコール・スペクトラム障害は、知的能力障害の原因として非常に多いものですが、完全に予防できます。マーチ・オブ・ダイムス(米国の小児麻痺救済募金運動)やその他の団体は、知的能力障害の予防に関心を抱いており、妊娠中の飲酒がいかに深刻なダメージを与えるかという警告を女性に伝えることについて、多大な努力を行っています。

妊娠の予定がある女性は、必須の予防接種を受けるべきです。特に、風疹の予防接種は必ず済ませておかなければなりません。 風疹ヒト免疫不全ウイルス(HIV)など、胎児に害を与える可能性のある感染症のリスクがある女性は、妊娠前に検査を受ける必要があります。

適切な出生前ケアを受けると、小児に知的能力障害が生じるリスクが低下します。妊娠前と妊娠の初期にビタミンの一種である葉酸を摂取すると、ある種の脳の異常を予防できますが、特に、神経管閉鎖不全という異常を予防できます。

陣痛と分娩に関わる医療技術や早産児に対する医療の進歩により、未熟性に関連する知的能力障害の発生率が下がりました。

水頭症や重度のRh式血液型不適合などの一部の病気は、妊娠中に治療できる場合があります。しかし、治療できない病気がほとんどです。早期に胎児の異常が分かることで可能になるのは、親が心の準備をしたり、中絶を検討したりすることだけです。

知的能力障害の治療

  • 集学的支持療法

知的能力障害の小児にとって最善なのは、多職種で構成されたチームによるケアを受けることです。このようなチームには、次のような職種が含まれます。

  • かかりつけ医

  • ソーシャルワーカー

  • 言語療法士

  • 言語聴覚士

  • 作業療法士

  • 理学療法士

  • 神経科医または発達を専門とする小児科医

  • 心理士

  • 栄養士

  • 教師

  • 整形外科医

必要であれば他の専門家もチームの一員になります。知的能力障害の疑いが生じたら、できるだけ早期に、専門家チームは家族とともにその小児に合わせた包括的な療育プログラムを作成します。小児の親や兄弟姉妹に対しても精神的な支援が必要です。カウンセリングが必要になる場合もあります。家族全員が療育計画に関与するようにします。

どのような支援が必要であるかを決めるにあたっては、その小児が得意なことや必要としていることのすべてについて考慮しなくてはなりません。身体障害、性格面での問題、精神障害、対人能力などの要素をすべて考慮します。知的能力障害に加えてうつ病などの精神障害を伴っている小児の場合には、適切な薬を知的能力障害のないうつ病の小児への投与量とほぼ同用量で投与することがあります。しかし、薬物療法と並行して行動療法や環境の修正を行わないと、たいていの場合は効果がありません。

知的能力障害の小児はみな、特別な教育から大きな利益を得られます。米国個別障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act:IDEA)は、公立学校に対して、知的能力障害やその他の発達障害がある小児と青年に適切な教育を無償で提供することを義務づけています。教育は極力制限がなく、可能な限り包括的な環境で行わなくてはなりません。つまり、障害のある小児が障害のない小児と交流する機会や、その地域にある施設などの資源を同等に使う機会を、あらゆる場面で与えられる教育環境です。障害を持つアメリカ人法(Americans with Disability Act)リハビリテーション法第504条(Section 504 of the Rehabilitation Act)にも、学校やその他の公共施設における配慮に関しての規定があります。

知っていますか?

  • 米国個別障害者教育法(IDEA)は公立学校に対し、知的能力障害やその他の発達障害がある小児と青年に、適切な教育を無償で提供することを義務づけています。

通常、知的能力障害のある小児にとって最善なのは、自宅で生活することです。しかし、特に小児の障害または行動の問題が重く複雑な場合には、自宅でこのような小児のケアが十分できないことがあります。小児がどこで生活するかを決めるのは難しく、家族と支援チームが様々な点に関して話し合う必要があります。家族に心理的支援が必要なことがあります。ソーシャルワーカーは、家族が支援サービスを利用できるようにします。デイケア施設やレスパイトケア施設などを利用したり、家政婦や保育士などの助けを得たりすることもできます。知的能力障害のある成人はたいてい地域社会が提供する施設で生活していますが、こうした施設では、各人の必要に応じたサービスを受けたり、仕事や娯楽に参加したりする機会も提供されます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国個別障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act:IDEA):障害のある子どもが無料で適切な公教育を受けられるようにし、特別教育と関連サービスを受けられるようにする米国の法律

  2. マーチ・オブ・ダイムス(March of Dimes):研究、権利擁護、教育を通じて母子の健康増進を目指す団体

  3. 障害を持つアメリカ人法(Americans with Disability Act):障害に基づく差別を禁止する米国の法律

  4. リハビリテーション法第504条(Section 504 of the Rehabilitation Act):障害のある人に一定の権利を保障する米国の法律

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