中絶

執筆者:Frances E. Casey, MD, MPH, Virginia Commonwealth University Medical Center
レビュー/改訂 2022年 2月
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やさしくわかる病気事典

人工妊娠中絶は、手術や薬剤などの医学的手段によって妊娠を人為的に終わらせることです。

  • 手術で子宮の内容物を取り除くか、あるいは特定の薬剤を服用することで妊娠を終わらせます。

  • 訓練を受けた医療従事者が医療機関内で中絶を行った場合、合併症の発生はまれです。

  • 人工妊娠中絶を受けることで以後の妊娠中の胎児、妊婦のリスクが上昇することはありません。

米国では、約50%の妊娠が意図しない妊娠です。意図しない妊娠のうち約40%が人工妊娠中絶によって終了されており、人工妊娠中絶は最も一般的に行われる手術の1つとなっています。人工妊娠中絶のおよそ90%は妊娠の第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】中に行われます。州が制限(義務的待機期間、胎児の年齢、未成年者に対する公証同意など)を設けていることがあります。これらの制限により人工妊娠中絶が遅れたり妨げられたりする可能性があります。

人工妊娠中絶が合法とされている国では、合併症の発生はまれです。世界的にみると、妊婦における死亡の約13%が人工妊娠中絶に起因するものです。死亡の大半は人工妊娠中絶が厳しく制限されているか違法である国で起こっています。

人工妊娠中絶を開始する前に妊娠を確認します。胎児の年齢を判定するために超音波検査がしばしば用いられますが、第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】中はときに医療従事者の評価により年齢を判定できることがあります。人工妊娠中絶に関連する問題の危険因子(心臓や肺の病気、けいれん発作、帝王切開の既往など)がある場合は、さらなる評価が必要になることがあります。

知っていますか?

  • 人工妊娠中絶は、米国で最も多く行われている手術の1つです。

妊娠28週未満で行われた中絶の直後から避妊を開始することができます。

人工妊娠中絶の方法

人工妊娠中絶の方法としては、以下のものがあります。

  • 手術による中絶(子宮内容除去術):子宮の内容物を子宮頸部から取り除く

  • 中絶を誘発する薬剤:子宮の収縮を刺激する薬剤を使用し、子宮の内容物を排出させる

使用する方法は妊娠期間によっても一部異なります。通常は超音波検査を行って妊娠期間を推定します。24週までのほとんどの妊娠には手術による中絶が行えます。薬剤は、11週未満の妊娠(しばしば薬剤による中絶[medication abortion]と呼ばれます)や15週以降の妊娠(しばしば誘導[induction]と呼ばれます)に使用できます。

妊娠の初期の中絶は、局所麻酔のみで行える場合もあります。意識下鎮静法(痛みを和らげ、患者がリラックスするのを助けるが、意識は保たれる薬剤)も用いられることがあります。まれに、全身麻酔が必要になります。

中絶手術の前には、感染症に効果のある抗菌薬が投与されます。

中絶の方法(手術または薬剤)にかかわらず、血液型がRhマイナスの女性にはRho(D)免疫グロブリン(抗D免疫グロブリン)と呼ばれるRh抗体を中絶の後に注射します。胎児の血液型がRhプラスで母親の血液型がRhマイナスの場合には、母親の血液中にRh因子に対する抗体が生じる可能性があります。このような抗体により胎児の赤血球が破壊されることがあります。Rho(D)免疫グロブリンによる治療により、女性の免疫系がそのような抗体を生産するリスクや次回以降の妊娠を危険なものにするリスクが低減します。妊娠8週以前では、免疫グロブリンによる治療は任意となる場合があります。

手術による中絶

子宮の内容物を腟から取り除きます。妊娠期間の長さによって手術の方法が異なります。具体的には以下のものがあります。

拡張とは、子宮頸部を広げることです。女性の妊娠が続いている期間および出産の回数により、様々なタイプの拡張器を使用します。拡張の際に子宮頸部を傷つけないように、乾燥させた海藻の茎(ラミナリア桿)や、合成素材でできた拡張器など、水分を吸収して膨張する物質を使用することもあります。ラミナリア桿は子宮頸部に挿入し、少なくとも4時間、ときに一晩そのままにします。拡張器が体から大量の水分を吸収して膨張することで、子宮頸部の開口部を徐々に広げていきます。ミソプロストール(プロスタグランジンの一種)などの薬剤も子宮頸部の拡張に使用されることがあります。

一般的に妊娠14週未満であれば、吸引による子宮内容除去術が行われます。腟内で腟鏡を使用して、施術者が子宮頸部を観察できるようにします。不快感を軽減するために局所麻酔薬(リドカインなど)を子宮頸部に注射し、子宮頸部を拡張します。吸引装置に接続された柔軟な管を子宮内に挿入し、胎児の体と胎盤を体外に排出させます。吸引装置としては手持ち式の採血管などの器具、または電動式の装置である場合もあります。ときに細長いスプーン状の鋭利な器具(キュレット)を挿入し、残っている組織を除去します。この処置はやさしく行い、瘢痕が生じたり、不妊症になったりするリスクを抑えます。

妊娠14週~24週では、頸管拡張・内容除去という方法が通常用いられます。まず子宮頸部を拡張させた後、吸引管と鉗子(かんし)で胎児の体と胎盤を体外に排出させます。鋭利なキュレットを愛護的に用いて、すべての受胎産物が除去されたことを確認します。

女性が将来の妊娠を防ぎたい場合、中絶の完了後すぐに、銅付加子宮内避妊器具(IUD)またはレボノルゲストレル放出IUDなどによる避妊を開始できます。

薬剤による中絶

中絶を誘発する薬剤は、妊娠11週未満または15週以降の妊娠に対して使用されることがあります。妊娠初期(11週未満)の中絶では、女性は自宅で中絶のプロセスを完了することができます。妊娠期間が長い場合の中絶では、陣痛を誘発する薬剤を使用するために一般的には入院します。

中絶を誘発するのに用いられる薬剤には、ミフェプリストン(RU486)の後にプロスタグランジン製剤(ミソプロストールなど)があります。

ミフェプリストンは内服薬で、妊娠のために子宮内膜の準備を整えるホルモンであるプロゲステロンの作用を阻害します。ミフェプリストンはまた、2番目に投与される薬剤(プロスタグランジン)への子宮の感受性も高めます。

医療従事者は以下のいずれかにより中絶が完了したことを確認します。

  • 超音波検査

  • 薬剤を投与した日と1週間後に、尿検査によりヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCGは妊娠初期につくられます)を測定する

  • 薬剤による中絶後、5週間の尿妊娠検査

プロスタグランジンはホルモンに似た物質で、子宮を刺激して収縮させます。ミフェプリストンと併用されることもあります。プロスタグランジンは、口腔内溶解錠(頬または舌下で)として、または腟内に挿入して使用します。

11週未満の妊娠における中絶の場合、最も一般的な使用方法は、ミフェプリストンの錠剤を服用し、その1~2日後にミソプロストールを使用するというものです。ミソプロストールは口腔内溶解錠(頬で)または腟内に挿入して使用します。ミフェプリストンとミソプロストールは自身で使用するか、医師に投与してもらうことができます。この使用方法により、およそ以下の割合で中絶が誘発されます。

  • 8~9週続いた妊娠の約95%

  • 9~11週続いた妊娠の約87~92%

9週以降の妊娠では、ミソプロストールの追加投与により有効性が向上します。

薬剤による中絶が成功しない場合は、手術による中絶が必要となることがあります。

誘導とはしばしば、15週以降の妊娠において中絶を誘発するために薬剤が使用されることを指します。中絶が完了するまでは入院となります。ミフェプリストンの錠剤を服用後1~2日後にミソプロストールなどのプロスタグランジンを投与するか、ミソプロストールを単独で使用することもあります。

中絶の合併症

訓練を受けた医療従事者が医療機関内で中絶を行った場合、中絶による合併症はまれです。また、中絶後の合併症の発生頻度は、正期産での出産後よりはるかに低い水準です。重篤な合併症が起こるのは、中絶した女性の1%未満です。中絶後の死亡は極めてまれです。正期産で出産した女性100万人当たり約140人が死亡するのに対し、中絶した女性が死亡するのは100万人に約6人の割合です。

胎児の年齢が上がるにつれて合併症の発生数も増加します。

合併症のリスクはまた、用いる方法によっても異なります。

  • 子宮内容除去術:手術による中絶が訓練を受けた医師により行われた場合、合併症はまれです。中絶1000件に1件の頻度で手術器具による子宮穿孔(子宮が裂けてしまうこと)が生じます。腸やその他の臓器が損傷することはさらにまれです。また、中絶手術中または手術直後の大量出血が1万件に6件の頻度でみられます。非常にまれですが、手術あるいはその後の感染症によって、子宮内膜に瘢痕が生じて不妊症になる場合があります。これはアッシャーマン症候群と呼ばれます。

  • 薬:ミフェプリストンとプロスタグランジン製剤のミソプロストールには副作用があります。最も一般的な副作用は、締めつけるような骨盤痛、性器出血、吐き気、嘔吐や下痢などの消化管症状です。

  • 両方の方法:子宮内に胎盤が部分的に残っていると、出血と感染が起こることがあります。出血が生じた場合や感染が疑われる場合は、超音波検査で胎盤の一部が子宮に残っているかどうかを判断します。

術後には、特に体を動かさない時間が多くなると、脚の血管に血栓ができる可能性があります。

胎児の血液型がRhプラスで母親の血液型がRhマイナスの場合には、妊娠中や流産、出産のときと同様に中絶手術の際にも、母親の血液中にRh抗体が生じる可能性があります。このような抗体は、次回以降の妊娠を危険なものにするおそれがあるため、Rho(D)免疫グロブリン(抗D免疫グロブリン)を女性に注射して、抗体の発生を予防します。妊娠8週未満の場合は、免疫グロブリンは任意です。

中絶後の心理的問題は、以下のような場合に起こりやすくなります。

  • 妊娠前からの精神症状

  • 受けられる社会的支援が限られている、または支援システムから拒絶されていると感じる

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