新生児の単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症

(新生児単純ヘルペスウイルス感染症)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2022年 10月
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単純ヘルペスウイルス感染は通常、健康な成人では不快な水疱を繰り返し生じさせる程度に過ぎませんが、新生児では重症感染症を引き起こすことがあります。

  • 新生児は、出生時または出生後に感染します。

  • 主な症状は、水疱性の発疹です。

  • 診断は通常、水疱から採取されたサンプルの検査結果に基づいて下されます。

  • 治療しなければ、多くの小児が死亡します。

  • 感染の拡大を防ぐために、感染した女性は帝王切開で出産することがあります。

  • 単純ヘルペスウイルスに感染した新生児には、抗ウイルス薬のアシクロビルが投与されます。

新生児の感染症の概要と成人の単純ヘルペスウイルス感染症も参照のこと。)

単純ヘルペスウイルスによる感染症は成人で非常によくみられます。このウイルスは性行為を通じて感染し、生殖器の感染症を引き起こす可能性があります。このウイルスは完全に排除されることが決してなく、様々な組織の中で休眠(不活性)状態を維持します。ときにウイルスが再活性化します。

通常、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、感染した母親の産道・外陰部から感染します。感染している母親は、たとえヘルペスの症状がまったくなくても、子どもに感染を広める可能性があります。ときに、新生児が活動性の感染症のある人からうつされて、出生後に感染することもあります。新生児では、HSV感染症は死亡または慢性的な問題を引き起こすおそれがあります。

新生児のHSV感染症の症状

単純ヘルペスウイルス感染症の症状は通常、生後1~3週間の間に始まりますが、まれに4週目になってやっと現れることもあります。通常、最初の症状は小さな水疱状の発疹です。水疱は口の中や眼の周りにできることもあります。

新生児の単純ヘルペスウイルス感染症における潰瘍と水疱の例
単純ヘルペスウイルス感染症における口の潰瘍
単純ヘルペスウイルス感染症における口の潰瘍

    この新生児の口の拡大写真には、上唇とその下に単純ヘルペスウイルスによるただれが生じている様子が写っています。

DR P.MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

単純ヘルペスウイルス感染症における水疱性発疹
単純ヘルペスウイルス感染症における水疱性発疹

    この写真には、エイズの新生児の身体に液体で満たされた小水疱が生じている様子が写っています。

DR M.A.ANSARY/SCIENCE PHOTO LIBRARY

新生児の単純ヘルペスウイルス感染症
新生児の単純ヘルペスウイルス感染症

    この写真には、単純ヘルペスウイルスに感染している新生児の顔に生じた、液体で満たされた小さな水疱が写っています。

By permission of the publisher.From Demmler G: Congenital and perinatal infections.In Atlas of Infectious Diseases: Pediatric Infectious Diseases.Edited by CM Wilfert.Philadelphia, Current Medicine, 1998.

一部の新生児では、特定の領域のみに感染することがあります(局所感染)。例えば、眼、皮膚、または口のみに感染することがあります。ときに、脳と神経系だけに感染することもあります。局所感染を治療しなかった場合、広範な感染に至ることがあります。

あるいは、広がって多くの領域に感染することもあります。このような乳児では、眼、肺、肝臓、脳、皮膚などの臓器がすべて感染します。症状として、活動性の低下、筋肉の緊張の低下、呼吸の問題、呼吸の停止(無呼吸)、けいれん発作などがみられます。

新生児のHSV感染症の診断

  • 水疱や他の体液のサンプルの検査

単純ヘルペスウイルス感染症を診断するため、医師は水疱や他の体液のサンプルを採取し、そのサンプルを検査室に送り、ウイルスを増殖(培養)させて単純ヘルペスウイルスを特定する検査を行います。医師は、サンプルを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査を行うこともあります。この検査により細菌の遺伝物質を探すことで、ウイルスを速やかに特定できます。

新生児の脳に感染している疑いがある場合、腰椎穿刺(図「腰椎穿刺の方法」を参照)により髄液のサンプルが採取されることがあります。

新生児のHSV感染症の予後(経過の見通し)

新生児のヘルペス感染症は、治療しなければ、通常は進行して深刻な問題をもたらします。ヘルペス感染症が広範囲に及んでいる患児は、治療しなければ約85%が死亡します。脳に感染のある新生児は、治療しなければ約50%が死亡します。感染が皮膚、眼、または口に限局している新生児が死亡することはあまりありません。広範な感染症または脳感染症を治療しなければ、生き延びたとしても、65%以上の新生児に深刻な神経学的問題が残ります。

抗ウイルス薬による適切な治療は、死亡率を低下させ、正常な発達が得られる可能性を大幅に高めます。

新生児のHSV感染症の予防

母親から新生児への感染を防ぐ試みは、あまり効果が得られません。ただし、分娩が近い時点で性器に水疱がみられる女性は、単純ヘルペス感染症の検査を受けるべきです。

妊婦が分娩時に活動性のヘルペス感染症にかかっている場合は、新生児が感染するリスクを低下させるために帝王切開が行われることがあります。また、分娩中には胎児の頭皮にモニターを取り付けることがありますが、これは皮膚を傷つけて感染を広げる可能性があることから、活動性の性器ヘルペスがあるかもしれない妊婦の分娩では使用されません。活動性のヘルペス感染症のある女性から生まれた新生児は、単純ヘルペスウイルス感染症の検査を受ける必要があります。

ヘルペスウイルスへの感染歴が判明している女性には、妊娠の最後の数週間に抗ウイルス薬のアシクロビルまたはバラシクロビルが投与されることがあります。これらの薬により、分娩時点での再発を予防したり、帝王切開が必要になる可能性を減らしたりすることができます。

新生児のHSV感染症の治療

  • アシクロビル

体の広範囲に感染症がみられる新生児には、抗ウイルス薬のアシクロビルを、静注で3週間、その後経口で6カ月間投与します。局所の感染症がみられる新生児には、アシクロビルを2週間静脈内投与します。この薬で感染症を治すことはできませんが、感染の拡大を防ぎ、症状を抑えることができます。

眼の感染症には、トリフルリジン、イドクスウリジン、またはビダラビンの点眼薬も使用されます。

必要に応じて、輸液や呼吸補助などの追加のケアも行われます。

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