神経管閉鎖不全と二分脊椎

執筆者:Stephen J. Falchek, MD, Nemours/Alfred I. duPont Hospital for Children
レビュー/改訂 2019年 4月
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やさしくわかる病気事典

神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。

  • 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。

  • 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。

  • 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。

  • 母親が妊娠前と第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。

  • 神経管の欠損部を閉鎖するための手術が必要です。

脳と脊髄の先天異常の概要も参照のこと。)

胎児が成長する過程で、脊髄はまず1つの溝として発生し、その両側の隆起した部分が合わさって、神経管という管を形成します。正常な場合、この管に由来する組織の層が脳と脊髄、ならびにこれらを覆う組織(脊椎の一部と髄膜を含みます)に変化します。ときに、この神経管が正常に発達せず、脳、脊髄、髄膜が影響を受けることがあります。

無脳症は、神経管閉鎖不全の最も重度の形態です。無脳症では、脳組織が発達できません。この異常は常に死に至ります。

キアリ奇形がみられることがあります。この異常では、頭蓋骨の底にある開口部から小脳(平衡感覚を制御している脳の一部)が突き出ています。突出した小脳によって、脳幹や脊髄が圧迫されることがあります。水頭症(脳内に液体がたまった状態)が起きる可能性があります。

脊髄空洞症(正常であれば狭く、液体で満たされた精髄中央の空洞部分が拡張した状態)がみられることもあります。

二分脊椎

二分脊椎は、神経管が完全に閉じることができず、開かれたままになることで発生します。二分脊椎では、脊椎の骨(椎骨)が脊髄の周囲を一周するように成長しません。最も起きやすいのは腰椎(腰の部分の脊椎)です。1つまたは複数の椎骨に異常がみられます。

潜在性二分脊椎は、二分脊椎のうち最も軽度のものです。骨だけに欠損があり、脊髄と髄膜は正常です。この一般的な異常が「潜在性」と呼ばれているのは、欠損部が典型的には正常に見える(ときに体毛の小さな束や皮膚の変色がみられることはあります)皮膚の層によって隠されている(覆われている)ためです。通常は症状を引き起こしませんが、大きな欠損がある小児では、脚の筋力低下や膀胱の機能障害などの症状がみられることがあります。

潜在性脊椎癒合不全は、二分脊椎のうち比較的重度のものですが、この病態では、出生時から背中の下部に目に見える異常が認められます。具体的には、あざ、表面の色素沈着部(血管腫と火炎状母斑[コウノトリの噛み跡])、毛束、皮膚の開口部(皮膚洞)、小さなこぶ(腫瘤)などがあります。下部の脊髄に、脂肪組織の腫瘍(脂肪腫)など、神経の損傷につながる異常がみられる場合もあります。

嚢胞性二分脊椎は、二分脊椎のうち最も重篤なもので、椎骨の開口部から髄膜や脊髄の組織が突出することで、以下の異常が引き起こされます。

  • 髄膜瘤:髄膜だけが突出した状態です

  • 髄膜脳瘤:髄膜と脳組織が突出した状態です

  • 脊髄髄膜瘤:髄膜と脊髄組織が突出した状態です

  • 脳瘤:脳組織だけが突出した状態です

  • 脊髄瘤:脊髄組織だけが突出した状態です

組織が突出している場合、そうでない場合と比べて、脳や脊髄が損傷を受けやすくなります。また、脊髄組織や髄膜が突出している場合には、それらに細菌が感染することで、髄膜炎が発生する可能性があります。

二分脊椎にぶんせきつい脊椎せきつい異常いじょう

二分脊椎にぶんせきついでは、背骨せぼね椎骨ついこつ)が正常せいじょうにつくられません。二分脊椎にぶんせきつい程度ていどはさまざまです。

潜在性せんざいせい脊椎癒合せきついゆごう不全ふぜんでは、1つまたは複数ふくすう椎骨ついこつ正常せいじょうにつくられず、脊髄せきずいとそれをつつんでいる組織そしきそう髄膜ずいまく)にも異常いじょうきることがあります。症状しょうじょうとして、異常いじょうのある部分ぶぶん皮膚ひふのふさ、くぼみ、またはいろ変化へんかだけがあらわれることがあります。

髄膜瘤ずいまくりゅうでは、不完全ふかんぜんにつくられた椎骨ついこつから髄膜ずいまくがはみして、皮膚ひふした液体えきたいたされたふくらみができます。脊髄せきずい正常せいじょう位置いちにあります。

もっともひどいタイプは脊髄髄膜瘤せきずいずいまくりゅうで、髄膜ずいまく脊髄せきずいします。異常いじょうのある部分ぶぶん生々なまなましくあかえ、あかちゃんにはおも障害しょうがいきる可能性かのうせいたかいです。

神経管閉鎖不全の原因

神経管閉鎖不全には多くの原因があります。ビタミンBの一種である葉酸が妊娠中に欠乏することは、大きな要因です。遺伝的な要因や妊娠中の特定の薬剤(バルプロ酸など)の使用によって、神経管閉鎖不全の可能性が高まる可能性があります。女性が妊娠に気づく前にこれらの異常が発生することもよくあります。

神経管閉鎖不全の症状

軽微な神経管閉鎖不全では、多くの場合、症状はみられません。

神経管閉鎖不全による症状の多くは、脳や脊髄が損傷を受けたことが原因です。

脳が損傷すると、水頭症(脳内に液体がたまった状態)や学習障害嚥下困難などの問題が生じることがあります。

脊髄が損傷すると、典型的には腸、膀胱、脚に重度の問題が生じます。具体的には以下のものがあります。

  • 筋力低下や麻痺:歩行が困難または不可能になり、使われない筋肉が萎縮してこわばる

  • 皮膚の感覚の低下

  • 排尿に関する症状:尿閉(排尿ができない)または尿失禁、頻繁な尿路感染症(ときに重度の排尿症状から腎不全に至ることもあり)

  • 排便に関する症状:便秘または便失禁(排便をコントロールできなくなること)

内反足関節拘縮症(関節[通常は足関節]が固まって曲げられなくなる)、股関節脱臼脊柱後弯症(脊椎の異常な弯曲)など、その他の異常が出生時からみられる場合もあります。

神経管閉鎖不全の診断

  • 出生前:アルファ-フェトプロテイン値を測定するための血液検査または羊水穿刺、もしくは出生前超音波検査

  • 出生後:身体診察と追加の画像検査

神経管閉鎖不全の多くは、出生前スクリーニング検査によって出生前に発見することが可能です。妊婦の血液や羊水でアルファ-フェトプロテイン値が高いことは、胎児に神経管閉鎖不全があることを意味している可能性があります。そのため、第2トリメスター【訳注:日本でいう妊娠中期にほぼ相当】に血液検査または羊水穿刺(胎児の周囲から液体のサンプルを採取する検査)を行って、この値を測定することがあります。

出生前超音波検査で欠損部や特徴的な異常が明らかになることもあります。

出生後になると、一部の欠損は身体診察で明らかになります。新生児に潜在性脊椎癒合不全を示唆する異常がみられる場合、脊椎に欠損がないか確認するために、超音波検査またはMRI検査を行います。X線検査も行う場合があります。

二分脊椎と診断されたら、膀胱の機能を評価するための検査を行います。具体的には尿検査尿培養検査、血液検査、超音波検査などがあります。

神経管閉鎖不全の予後(経過の見通し)

適切なケアを行えば、大半の患児が良好に経過します。しかし、腎機能の低下や水頭症の治療に必要なシャントの問題といった合併症が起こることがあり、ときに年長の小児で死に至ります。

神経管閉鎖不全の予防

  • 葉酸

神経管閉鎖不全の子どもの妊娠経験がなく、かつ妊娠可能年齢にあるすべての女性は、食事またはサプリメントで葉酸を摂取し、妊娠3カ月まで、これを継続すべきです。

神経管閉鎖不全の子どもの妊娠経験がある女性では、次に生まれる子どもにも同様の障害が発生するリスクが高いため、高用量の葉酸サプリメントを妊娠3カ月前から摂取し始め、妊娠3カ月までそれを継続すべきです。葉酸を摂取することで、神経管閉鎖不全のリスクを75%も減らすことができます。

知っていますか?

  • 妊娠前と妊娠中に葉酸を摂取することにより、神経管閉鎖不全のリスクを減らすことができます。

神経管閉鎖不全の治療

  • 手術

医療従事者、通常は専門家のチーム(脳神経外科医、泌尿器科医、小児科医、小児のリハビリテーション医学専門医、整形外科医、理学療法士、ナースプラクティショナー、ソーシャルワーカーなど)が、欠損の種類と重症度を評価し、治療やケアをどのように行うことができるかについて家族に説明します。

神経管閉鎖不全は通常は外科的に閉鎖します。特定の欠損、例えば脊髄髄膜瘤などは、通常、出生後すぐに修復されます。

必要に応じて、膀胱、骨、筋肉の問題やその他の問題に対する治療を行います。

さらなる情報

  1. 二分脊椎症協会(Spina Bifida Association

  2. マーチ・オブ・ダイムズ(March of Dimes

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