新生児の身体診察

執筆者:Deborah M. Consolini, MD, Thomas Jefferson University Hospital
レビュー/改訂 2021年 9月
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    詳細な身体診察を24時間以内に実施すべきである。その診察に母親と家族を立ち会わせることにより,家族に質問の機会を与え,医師側は身体所見を指摘し保健指導を行うことができる。身体診察では発見できない問題を発見するために,ルーチンのスクリーニング検査も行う(新生児に対するスクリーニング検査を参照)。

    基本的な測定項目には,身長体重頭囲などがある(新生児の成長パラメータも参照)。身長は頭から踵までを測定し,在胎期間に基づき標準成長曲線上で正常値を示しているかどうかをみる。在胎期間が不明確である場合,在胎期間と比べて児が大きい場合,または在胎期間と比べて児が小さい場合は,身体所見と神経筋所見から在胎期間をより正確に判定することができる( see figure 在胎期間の評価―New Ballardスコア)。これらの評価法の誤差は典型的には±2週間である;ただし,病的新生児ではこれらの評価法は信頼性が低くなる。

    在胎期間の評価―New Ballardスコア

    神経筋および身体の各ドメインの得点を加算して総合得点を出す。(Adapted from Ballard JL, Khoury JC, Wedig K, et al: New Ballard score, expanded to include extremely premature infants. Pediatrics 119(3):417–423, 1991.doi: 10.1016/s0022-3476(05)82056-6; used with permission of the CV Mosby Company.)

    多くの場合,心臓および肺の診察から開始し,続いて頭部からつま先まで全身を診察し,特に分娩外傷および先天異常の徴候がないか確認する。

    心肺系

    心血管系の先天異常も参照のこと。)

    乳児が安静状態にあるときに心臓および肺の評価を行う。

    どこで心音が最も大きく聞こえるかを同定すべきである(右胸心を除外するため)。心拍数(正常値:100~160/分)およびリズムをチェックする。心拍のリズムは規則的でなければならないが,心房性または心室性期外収縮による不規則なリズムは珍しくはない。生後24時間までに聴かれる心雑音は,動脈管開存に原因がある場合が最も多い。毎日心臓の診察を行い,この心雑音が消失することを確かめる(通常3日以内)。

    大腿動脈の拍動を調べ上腕の拍動と比べる。大腿動脈の拍動が弱いか遅延する場合,大動脈縮窄または他の左室流出路閉塞を示唆する。中枢性チアノーゼは,先天性心疾患,肺疾患,または敗血症を示唆する。

    呼吸器系の評価は,新生児の呼吸が不規則であるため,丸1分間の呼吸数により行われる;正常な呼吸数は40~60回/分である。胸壁が左右対称であるか,肺音が一貫して等しいかを調べる必要がある。呻吟や鼻翼呼吸,陥没呼吸は,呼吸窮迫の徴候である。

    頭頸部

    頭位分娩では頭部は変形することが多く,縫合線で頭蓋骨が重なり,頭皮の軽度の腫脹および斑状出血を認める(産瘤)。骨盤位分娩での頭部の変形は比較的軽度であるが,先行部(すなわち,殿部,性器,足)に腫脹や斑状出血がみられる。泉門の大きさは1横指から数cmまで様々である。過大な大泉門および1横指以上ある全ての小泉門は,甲状腺機能低下症の徴候である場合がある。

    頭血腫はよくみられる所見であり,血液が骨膜と骨の間に貯留することにより,縫合線を越えない腫脹が生じる。頭頂骨の一方または両方の上,ときに後頭骨の上にも生じることがある。頭血腫は軟部組織浮腫が消退するまでは通常はっきりとせず,数カ月で徐々に消失する。

    頭部の大きさと形を視診し,先天性水頭症の有無を調べる。

    多数の遺伝性症候群により,頭蓋顔面異常が引き起こされる。顔面の左右対称性および正常発育を調べ,特に下顎骨,口蓋,耳介および外耳道に注目する。

    出産過程で眼瞼周囲に腫脹が生じるため,眼は出生翌日の方が診察しやすい。赤色反射が認められるかを調べるべきである;認められない場合,緑内障白内障,または網膜芽細胞腫を示唆することがある。結膜下出血は一般的であり,分娩時に加えられた力によって生じる。

    耳介低位は,18トリソミーおよび21トリソミー(ダウン症候群)を含む遺伝的異常を示唆している場合がある。耳介形成異常,外耳道形成異常またはその両方は,多くの遺伝性症候群で認められる。外耳部に瘻孔や副耳がないかを調べるべきであるが,これらはときに難聴や腎臓の異常と関連する。

    18トリソミーの乳児における耳介低位
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    Image courtesy of the Centers for Disease Control and Prevention Public Health Image Library.

    また,口蓋の視診および触診により軟口蓋および硬口蓋に欠損部がないかを調べるべきである。口唇口蓋裂は最もよくみられる先天異常の1つである。新生児の一部は,エプーリス(歯肉に生じる良性の過誤腫)を伴って生まれてくることがあり,大きいと授乳困難が生じ,児の気道を閉塞させる可能性がある。この病変は切除可能であり,再発しない。第一生歯または出生歯の生えた状態で生まれてくる場合もある。出生歯には歯根がなく,脱落および誤嚥を防ぐため,除去が必要な場合もある。エプスタイン真珠と呼ばれる封入嚢胞が口蓋に生じることがある。

    頸部を診察する場合は,嚢腫状リンパ管腫甲状腺腫,鰓弓の遺残などの異常を調べるために,あごを持ち上げる必要がある。斜頸は分娩外傷による胸鎖乳突筋の血腫に起因することがある。

    腹部および骨盤

    腹部は丸く左右対称であるべきである。腹部の陥凹(scaphoid abdomen)は横隔膜ヘルニアを示唆している場合があるが,この病態では母体内で胎児の腸管が横隔膜を越えて胸腔内に逸脱し,結果として肺低形成や出生後の呼吸窮迫が生じうる。腹部の非対称性は,腹部腫瘤を示唆する。

    約30%の新生児で脾臓縁が触知される。脾腫(脾臓縁が左肋骨下縁の下2cmを超えて触知される)は先天性感染や溶血性貧血を示唆する。

    腎臓は深い触診により触知でき,右腎より左腎の方が触れやすい。腎臓が大きい場合,閉塞,腫瘍,または嚢胞性疾患を示唆している可能性がある。

    肝臓は正常では肋骨下縁の下1~2cmに触知できる。臍ヘルニアは,臍輪の筋組織が脆弱であることにより発生するもので,よくみられるが,意義のあるものはまれである。肛門が正常な位置にあり,開通しているか確認すべきである。

    男児では,尿道下裂または尿道上裂がないか陰茎を診察する。正期産で生まれた男児では,精巣は陰嚢中にあるべきである(停留精巣を参照)。陰嚢に腫脹がみられる場合,陰嚢水腫鼠径ヘルニア,またはまれに精巣捻転を示すことがある。陰嚢水腫であれば陰嚢は透光性を示す。精巣捻転は緊急手術を要する事態であり,斑状出血を起こし精巣が硬化する。

    正期産の女児は,陰唇がよく発達している。腟からの粘液性および漿液血性の分泌物(偽月経)は正常であり,子宮内での母体ホルモンへの曝露と出生時の消退の結果生じる。陰唇小帯にある処女膜組織に小突起がときに認められ,これは母体からのホルモン刺激により生じると考えられているが,数週間で消失する。

    性別が不明瞭な性器(半陰陽)は,いくつかのまれな疾患(例,先天性副腎過形成症,5α還元酵素欠損症;クラインフェルター症候群ターナー症候群,スワイヤー症候群)を示唆することがある。性決定を直ちに行うか後で行うかの便益とリスクを評価し,それについて家族と話し合うため,内分泌医への紹介が適応となる。

    筋骨格系

    四肢を診察して,変形,切断(不完全または四肢欠損),拘縮,および発育異常がないか確認する。分娩外傷による腕神経叢麻痺は,患側の腕の動きの制限または腕の自発的な動きの消失として現れ,ときに肩の内転および内旋,ならびに前腕の回内を伴う。

    脊椎を視診して,二分脊椎の徴候,特に髄膜,脊髄,またはその両方の露出(脊髄髄膜瘤)がないか確認する。

    整形外科的診察では,分娩外傷(特に鎖骨骨折)がないか長管骨を触診するほか,膝蓋形成不全の有無に注目する。形成不全の危険因子として,女児,骨盤位での在胎,双胎妊娠,および家族歴が挙げられる。形成不全を調べるには,Barlow法およびOrtolani法を用いる。これらは新生児が安静状態にあるときに行う必要がある。どちらの方法でも最初の新生児の姿勢は同じで,仰臥位で股関節と膝関節を90°に屈曲させ(足がベッドから離れる),足を医師の方に向かせ,医師は示指を大転子,母指を小転子の上に置く。

    Barlow法では,大腿部を後方に押しながら股関節を内転させる(すなわち,膝を体幹の前にもってくる)。クリック音は聞こえないがそれを感じる場合,大腿骨頭が寛骨臼から外れたことを意味し,その後Ortolani法により骨頭を整復し,診断を確定する。

    Ortolani法では,股関節を開始位置に戻し,その後股関節を外転させ(すなわち,膝を正中から診察台の方へカエルの脚のように開かせる),愛護的に前方に牽引する。外転させたときに大腿骨頭に触知されるクリック感は,すでに脱臼している大腿骨頭が寛骨臼に入る動きを意味し,膝蓋形成不全の検査で陽性を示す要素となる。

    生後3カ月以降の乳児では股関節の筋肉や靱帯がより硬くなるため,この方法を用いると偽陰性になる可能性がある。明確な判定が得られない場合や高リスクの乳児(例,骨盤位だった女児)には,生後4~6週に股関節の超音波検査をすべきである;危険因子をもつ乳児全員を対象として生後4~6週に超音波検査によるスクリーニングを奨励する専門家もいる。

    神経系

    新生児の筋緊張,覚醒レベル,四肢の動き,および反射を評価する。典型的には,Moro反射,吸啜反射,探索反射など,新生児の反射を誘発させる:

    • Moro反射:新生児の驚きに対する反応であるMoro反射は,児の両腕をややベッドから引き離し,支えていた手を急に離すことにより誘発される。新生児の両腕が伸展して指が開き,股関節が屈曲して泣くという反応を示す。

    • 探索反射:新生児の頬または唇の外側部をなでることで誘発され,児は触れられた方を向いて口を開ける。

    • 吸啜反射:おしゃぶりまたは手袋をはめた指で吸啜反射を誘発する。

    これらの反射は生後数カ月続き,正常な末梢神経系のマーカーとなる。

    皮膚

    新生児の皮膚は通常赤い;生後数時間に指趾にみられるチアノーゼは一般的である。在胎24週以上の新生児の大半は,胎脂に覆われる。数日の内に乾燥や落屑がしばしば生じ,特に手首や足首のしわの部分に多い。

    点状出血は,分娩の際に先行部となる顔面など,分娩外傷の部位に起こることがあるが,広範にみられる場合は,血小板減少について評価すべきである。

    多くの新生児に中毒性紅斑がみられるが,これは紅斑を背景として白色または黄色の丘疹が現れる良性の発疹である。この発疹は,通常は生後24時間で現れ,全身に散在し,最長で2週間みられる。

    中毒性紅斑
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    この写真には,紅斑を背景として白色または黄色の丘疹が現れる良性の発疹である中毒性紅斑が写っている。
    © Springer Science+Business Media
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