横隔膜ヘルニア

執筆者:Jaime Belkind-Gerson, MD, MSc, University of Colorado
レビュー/改訂 2023年 8月
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横隔膜ヘルニアとは,横隔膜の欠損部を介して腹腔内容が胸腔内に脱出した状態のことである。肺の圧迫により遷延性肺高血圧症を来すことがある。診断は胸部X線による。治療は外科的修復である。

消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)

通常,横隔膜ヘルニアは全症例の95%が横隔膜の後外側部で発生し(ボホダレック孔ヘルニア),85%が左側に生じ,2%は両側に生じる。推定発生率は出生10000人当たり1~4例である。前方ヘルニア(モルガニー孔ヘルニア)は,はるかにまれである(全症例の5%)。他の先天異常が約50%の症例でみられ,副腎皮質機能低下症が比較的よくみられる。

大腸および小腸の係蹄,胃,肝臓,および脾臓が患側の胸腔内に脱出しうる。ヘルニア孔が大きく,脱出した腹腔内容の量がかなり多い場合は,患側の肺が低形成となるが,対側の肺も悪影響を受ける可能性がある。このほかに肺に生じる病態として,肺血管系の発育不良があり,その場合は肺血管抵抗の増大とそれによる肺高血圧症を来す。遷延性肺高血圧症は卵円孔または開存した動脈管を介する右左短絡の発生につながり,たとえ酸素投与や機械的人工換気を行っても,十分な酸素化は不可能になる。遷延性肺高血圧症は,先天性横隔膜ヘルニア患児における主要な死因である。

横隔膜ヘルニアの症状と徴候

典型的には出生後数時間で呼吸窮迫が生じ,重症例では分娩直後からみられる。分娩後に新生児が啼泣して空気を吸い込むと,直ちに胃と腸係蹄が空気で充満されて急速に大きくなるが,これにより心臓と縦隔が右側に押しやられ(最も頻度の高い左側ヘルニアの場合),正常に近い右肺にも圧がかかる結果,急性の呼吸障害を来すことがある。腹部の陥凹(腹部内臓が胸腔内に脱出することによる)が高率で認められる。腸音(および呼吸音消失)が患側の胸郭で聴取されることがある。

比較的軽症の症例では,小さな横隔膜欠損孔を介して腹腔内容が進行性に脱出してくるとともに,数時間ないし数日が経過してから軽度の呼吸困難が出現してくる。まれに発症が小児期後期まで遅れることもあり,ときに感染性腸炎の発症後にみられるが,これは腸炎により腸管が胸部に突然脱出するためである。

横隔膜ヘルニアの診断

  • ときに出生前超音波検査による

  • 胸部X線

横隔膜ヘルニアは,ときに出生前超音波検査で診断することができる(1)。

分娩室では,呼吸窮迫を認める新生児に腹部の陥凹(scaphoid abdomen)がみられる場合に横隔膜ヘルニアが疑われることがある。

分娩後の診断は,胸腔内への胃および腸管の脱出を示した胸部X線写真による。欠損孔が大きい場合は,ガスで充満した多数の腸係蹄が患側の半胸郭を満たし,心臓と縦隔が対側に偏位しているのが観察される。分娩直後の新生児が空気を吸い込む前にX線撮影を行うと,腹腔内容は患側胸郭内で空気を含まない不透過性の腫瘤として描出される。

横隔膜ヘルニア
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このX線写真には,新生児にみられた先天性横隔膜ヘルニアが写っている。腸管(白いコイル状の陰影)が左胸腔内(X線写真上の右側)に脱出している。
DU CANE MEDICAL IMAGING LTD/SCIENCE PHOTO LIBRARY

診断に関する参考文献

  1. 1.Cordier AG, Russo FM, Deprest J, et al: Prenatal diagnosis, imaging, and prognosis in congenital diaphragmatic hernia. Semin Perinatol 44(1):51163, 2020.doi:10.1053/j.semperi.2019.07.002

横隔膜ヘルニアの治療

  • 外科的修復

呼吸窮迫を認める新生児に横隔膜ヘルニアが疑われる場合は,分娩室で直ちに気管挿管し,換気を行うべきである。バッグ-マスク換気は,胸郭内の偏位した臓器を空気で充満させ,呼吸障害をさらに悪化させてしまう可能性があるため,避けるべきである。ダブルルーメンチューブを用いた継続的な経鼻胃管吸引により,吸い込まれた空気が消化管を通過することによる肺のさらなる圧迫を防ぐことができる。

酸素化,酸塩基平衡,および血圧を最適化させたら,腸管を腹腔内に還納して横隔膜欠損孔を閉鎖するための手術が必要である。

パール&ピットフォール

  • 横隔膜ヘルニアによる呼吸窮迫がみられる新生児では,胸郭内の偏位した臓器をさらに膨張させる可能性があるため,バッグ-マスク換気は避けること。

重度の遷延性肺高血圧症には,一酸化窒素の吸入による術前の安定化が必要であり,これにより肺動脈の拡張と全身の酸素化の改善が容易になる。体外式膜型人工肺(ECMO)の使用による予後の改善が複数の研究で示されているが,極度の肺低形成を伴う新生児では,これをもってしても生存不能である。先天性横隔膜ヘルニアと遷延性肺高血圧症を併発した新生児が重篤な状態に陥ると,患児の搬送が非常に困難となる。したがって,出生前超音波検査で横隔膜ヘルニアと診断された場合は,ECMOの設備を備えた小児医療施設で分娩を行うことが推奨される。

要点

  • 先天性横隔膜ヘルニアでは,腹腔内容が胸腔内に入り込み,それが肺を圧迫して新生児呼吸窮迫症候群を来す可能性がある。

  • 肺高血圧症がよくみられる。

  • 診断は胸部X線による。

  • 気管挿管後に外科的修復により治療するが,しばしばECMOが必要になる。

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