先天性甲状腺腫は,出生時にすでに存在する,甲状腺のびまん性または結節性腫大である。甲状腺ホルモンの分泌は,減少,増加,または正常でありうる。診断は超音波検査で甲状腺の大きさを確認することで下される。治療は,甲状腺機能低下症がある場合,甲状腺ホルモン補充によって行う。呼吸や嚥下に障害がある場合,手術の適応となる。
(成人における非中毒性甲状腺腫および甲状腺機能の概要も参照のこと。)
先天性甲状腺腫の病因
先天性甲状腺腫は,内分泌不全(甲状腺ホルモンの異常産生),母体抗体の胎盤通過,または甲状腺腫誘発物質の胎盤通過に起因しうる。先天性甲状腺腫の原因には遺伝性のものもある。
内分泌不全
甲状腺ホルモン産生における遺伝的欠陥は,結果として甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値の上昇を招き,それが先天性甲状腺腫の原因となりうる。甲状腺腫は先天性甲状腺機能低下症の約15%にみられる。内分泌不全を引き起こすいくつかの遺伝子異常(例,DUOX2,TG,TPO,SLC5A5)がある;常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)が一般的であり,多くは単一遺伝子の異常である。
内分泌不全により,甲状腺ホルモン生合成のいずれかの段階に障害が生じる:
ヨード濃縮障害
甲状腺ペルオキシダーゼまたは過酸化水素生成系での異常に起因するヨード有機化障害
サイログロブリンの合成または輸送障害
異常なヨードチロシン脱ヨウ素化酵素活性
ペンドレッド症候群の小児の場合,軽度の甲状腺機能低下症があるか甲状腺機能は正常であり,甲状腺腫,ならびにヨウ素輸送および蝸牛機能にかかわるタンパク質(ペンドリン)の遺伝的異常による感音難聴がみられる。ペンドレッド症候群は遺伝子異常によって起こるが,新生児期に症状が出現することはまれである。
母体抗体の胎盤通過
自己免疫性甲状腺疾患の女性が産生する抗体が第3トリメスターに胎盤を通過することがある。疾患の種類により,抗体が甲状腺刺激ホルモン受容体を遮断して甲状腺機能低下を引き起こすか,甲状腺刺激ホルモン受容体を刺激して甲状腺機能亢進を引き起こす。典型的には,影響を受けた乳児において,ホルモン分泌および関連する甲状腺腫の変化は,3~6カ月以内に自然に消失する。
甲状腺腫誘発物質の胎盤通過
母親が摂取したアミオダロン,ヨウ素,または抗甲状腺薬(例,プロピルチオウラシル,チアマゾール)などの甲状腺腫誘発物質は,胎盤を通過する可能性があり,ときに甲状腺機能低下症の原因となるほか,まれに甲状腺腫を引き起こす。
先天性甲状腺腫の症状と徴候
先天性甲状腺腫の最も一般的な病変は,硬く圧痛のない対称性の甲状腺腫大である。腫大はびまん性が最も多いが,結節性の場合もある。出生時に気づくか,または後で発見される。一部の患者では,腫大が直ちに観察できなくとも増大が続くと,気管のずれ,または圧迫をもたらし,呼吸障害や嚥下障害を来すことがある。甲状腺腫の小児の多くは甲状腺機能が正常であるが,一部の小児は甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症を呈する。
先天性甲状腺腫の診断
先天性甲状腺腫の治療
圧迫症状を引き起こす腫大の外科的治療
ときに甲状腺ホルモン
甲状腺機能低下症は,甲状腺ホルモンで治療する。
呼吸や嚥下の障害をもたらす甲状腺腫は,外科的に治療できる。