網膜芽細胞腫は,ほぼ例外なく2歳未満の小児に発生する網膜の悪性腫瘍である。症状および徴候には,白色瞳孔(瞳孔の白色反射)や斜視のほか,頻度は下がるが炎症や視覚障害などもある。診断は検眼鏡検査,および超音波検査,CTまたはMRIに基づく。小さながんまたは両眼性の場合の治療には,光凝固術,凍結療法,放射線療法がある。進行がんおよび一部の比較的大きいがんでは眼球摘出術を行う。がんの体積を減少させるため,また眼球外に進展したがんの治療のために,ときに化学療法が用いられる。
網膜芽細胞腫は,出生15,000~30,000人当たり1例の頻度で発生し,小児がんの約2%を占める(1)。通常は2歳未満の小児で診断され,5歳以上の小児で診断される症例は全体の5%未満である。
このがんは遺伝性の場合があり,遺伝形式は主に常染色体顕性(優性)であるが,不完全浸透がみられる(疾患の原因変異がある個人でも常に臨床症状が認められるわけではない)。約25%の患者は両眼性であり,この場合は例外なく遺伝性である。15%は遺伝性かつ片眼性であり,残り60%は非遺伝性で片眼性である。
遺伝の機序には,染色体13q14に位置する網膜芽細胞腫抑制遺伝子(RB1)の両アレルでの変異による不活化が関与しているものと考えられる。遺伝性の型では,まず生殖細胞系列変異により全細胞の一方のアレルが変化しており,その後の体細胞変異により児の網膜細胞のもう一方のアレルに変化が生じる(2ヒットモデルにおけるセカンドヒット)ことにより,結果としてがんが発生する。非遺伝性の型では,おそらく1つの網膜細胞内の両アレルの体細胞変異が関与する。非遺伝性の網膜芽細胞腫を記載するために「散発性(sporadic)」という用語が用いられることがあるが,散発例の多くはde novoの生殖細胞系列変異によるものであり,そのため以降は遺伝性となることから,この用語を使用するのは厳密には誤りとなる。
総論の参考文献
1.Siegel RL, Miller KD, Fuchs HE, et al: Cancer Statistics, 2022.CA Cancer J Clin 72(1):7–33, 2022.doi: 10.3322/caac.21708
網膜芽細胞腫の症状と徴候
典型的には白色瞳孔(瞳孔の白色反射,ときにネコの眼瞳孔と呼ばれる)または斜視を呈する。
頻度ははるかに下がるものの,眼の炎症または視覚障害を呈することがある。
まれではあるが,視神経もしくは脈絡膜経由または血行性にすでにがんが広がっている場合には,眼窩もしくは軟部組織の腫瘤,局所骨痛,頭痛,食欲不振,または嘔吐を来す。
網膜芽細胞腫の診断
眼窩の超音波検査,CT,またはMRI
ときに光干渉断層撮影,骨シンチグラフィー,骨髄穿刺と骨髄生検,および腰椎穿刺
本症が疑われる場合,十分に散瞳させ,全身麻酔下で倒像眼底検査による両眼底の精密検査を行う必要がある。がんは網膜内の単一または複数の灰色から白色の隆起として観察され,硝子体内にがんの播種が確認されることもある。
網膜芽細胞腫の診断は通常,眼窩の超音波検査,MRIまたはCTにより確定される。ほぼ全てのがんにおいて,CTにより石灰化が検出される。ただし,眼底検査の際に視神経に異常がみられる場合は,視神経または脈絡膜へのがんの進展を発見するため眼窩MRIを施行した方がよい。非侵襲的な画像検査である光干渉断層撮影がときに用いられる。
視神経への進展が疑われる場合,または広範な脈絡膜浸潤が認められる場合は,転移の評価のために腰椎穿刺および脳MRIを施行すべきである。遠隔転移はまれであるため,骨髄評価と骨シンチグラフィーは骨症状がみられる患児と骨転移の明確な所見が認められる患児にのみ行うことができる。
腫瘍の進展を招くリスクがあることから,組織学的診断を得る上で腫瘍の眼生検に明確な役割は見出されていない。
網膜芽細胞腫の患児には分子遺伝学的検査が必要であり,生殖細胞系列変異が同定された場合には,親にも同じ変異の存在を調べる検査を行うべきである。その後に生まれた児に生殖細胞系列変異が認められた場合は,同じ遺伝学的検査と定期的な眼科診察が必要である。組換え型DNAプローブが,無症候性保因者の検出に有用な場合がある。
親または同胞が網膜芽細胞腫の病歴を有する場合には,出生直後およびその後4歳まで4カ月毎に眼科医による評価を行うべきである。
網膜芽細胞腫の治療
片眼性で進行している場合,眼球摘出
片眼性で比較的進行していない場合,ときに化学療法および/または局所制御治療
両眼性の場合,光凝固術,動注化学療法,または片眼の摘出および対眼への光凝固術,凍結療法,放射線照射
全身化学療法
網膜芽細胞腫の治療目標は治癒に設定すべきであるが,可能な限り視力を温存する試みが適切となる。治療アプローチは,腫瘍の大きさ(長さ/厚さが3mm以上または未満),周囲への進展,および眼の機能に依存する。集学的チームによる対応が強く推奨され,チームには網膜芽細胞腫の専門知識をもつ小児眼科医,小児腫瘍医,および放射線腫瘍医を含めるべきである。
片眼性の進行網膜芽細胞腫(腫瘍が大きく,進展の所見がある場合)では,可能な限り多くの視神経を除去しながら摘出する治療が施行される。視力温存の可能性がある比較的進行していない症例では,化学療法および/または局所制御治療による眼球温存アプローチを考慮することができる。
両眼性の患者では通常,視力温存が可能である。選択肢として,両眼の光凝固術,動注化学療法,または片眼の摘出および対眼への光凝固術,凍結療法,放射線照射がある。放射線療法は,外照射によるか,または極めて小さながんには密封小線源治療(がん近傍の眼球壁上に放射性プラークを装着する)による。
カルボプラチン,エトポシド,ビンクリスチン,シクロホスファミド + ビンクリスチンなどの全身化学療法は,他の追加治療(例,凍結療法,レーザー温熱療法)が行えるようになるまで腫瘍を縮小させるとき,両眼性の腫瘍を治療するとき,または眼球外に播種したがんを治療するときに,役立つ可能性がある。しかしながら,本疾患が化学療法単独で治癒することはほとんどない。
両眼の眼科的再検査および再治療がもし必要であれば,2~4カ月間隔で行う必要がある。
網膜芽細胞腫の予後
がんが眼内に限局しているうちに治療を行えば,90%以上の患者が治癒可能である。転移例の予後は不良である(1)。
遺伝性網膜芽細胞腫の患児は,二次がんの発生率が高く,約50%は放射線の照射部位に発生する。そのようながんには,肉腫および悪性黒色腫などがある。二次がんが発生する患者の約70%では,二次がんは最初の網膜芽細胞腫の発生から30年以内に生じる。
予後に関する参考文献
1.Dunkel IJ, Piao J, Chantada GL, et al: Intensive multimodality therapy for extraocular retinoblastoma: A Children's Oncology Group trial (ARET0321). J Clin Oncol 40(33):3839–3847, 2022.doi: 10.1200/JCO.21.02337