横紋筋肉腫は,骨格筋細胞に分化する可能性をもつ胎児性間葉細胞から発生するがんである。あらゆる部位のほぼ全てのタイプの筋肉組織に発生しうるがんであり,臨床症状は極めて多様である。典型的にはCTまたはMRIにより発見され,生検により診断が確定される。治療には,外科手術,放射線療法,化学療法がある。
横紋筋肉腫は,小児の中枢神経系外に発生する固形がんのうち(ウィルムス腫瘍と神経芽腫に次いで)3番目に頻度の高いものである。米国では毎年約400~500例が発生しており,横紋筋肉腫は小児がん全体の3%を占めている(1)。横紋筋肉腫は軟部肉腫と呼ばれる腫瘍群に属し,この群の中で最も多いものである。
横紋筋肉腫の3分の2は7歳未満の小児で診断される。本疾患は黒人の小児より白人の小児に多くみられ(主に黒人の女児で発生頻度が低いことによる),またわずかの差ではあるが女児よりも男児に多くみられる。
横紋筋肉腫は小児と成人のいずれにも発生しうるが,両集団間で組織型,発生部位,および全体的な治療成績に有意な差がみられる(2)。
組織像
横紋筋肉腫には主要な組織学的亜型が2つ存在する:
胎児型:染色体11p15.5のヘテロ接合性の消失を特徴とするもの
胞巣型:PAX3遺伝子とFOXO1(FKHR)遺伝子の融合をもたらす転座t(2;13),およびPAX7遺伝子とFOXO1(FKHR)遺伝子の融合をもたらす転座t(1;13)と関連するもの
部位
横紋筋肉腫はほぼ全ての部位で発生しうるが,好発部位がいくつか存在する(3):
頭頸部(約35%),通常は眼窩または上咽頭道:学齢期の小児で最も多くみられる
泌尿生殖器系(約25%),通常は膀胱,前立腺,または腟:通常は乳幼児に発生する
四肢(約20%):青年で最も多くみられる
体幹/その他の部位(約20%)
全体の約15~25%の患児が転移のある状態で受診する。転移が最も多い部位は肺であり,骨,骨髄,リンパ節にも生じる可能性がある。
参考文献
1.Siegel RL, Miller KD, Fuchs HE, et al: Cancer Statistics, 2022.CA Cancer J Clin 72(1):7–33, 2022.doi: 10.3322/caac.21708
2.Sultan I, Qaddoumi I, Yaser S, et al: Comparing adult and pediatric rhabdomyosarcoma in the surveillance, epidemiology and end results program, 1973 to 2005: An analysis of 2,600 patients. J Clin Oncol 27(20):3391–3397, 2009.doi: 10.1200/JCO.2008.19.7483
3.Linardic CM, Wexler LH: Rhabdomyosarcoma: Epidemiology and Genetic Susceptibilty.In Pizzo and Poplack's Pediatric Oncology, 8th ed., edited by SM Blaney, LJ Helman, PC Adamson.Philadelphia, Wolters Kluwer, 2021, p.693.
横紋筋肉腫の症状と徴候
小児の典型例では,発熱,盗汗,体重減少などの全身症状は現れない。通常,触知可能な硬い腫瘤がみられるか,またはがんの臓器への接触による臓器機能障害を来す。
眼窩および上咽頭のがんでは,流涙,眼痛,眼球突出を来すことがある。上咽頭腔のがんでは,鼻閉,声質の変化,粘液膿性の分泌物を生じる。
泌尿生殖器がんでは,腹痛,触知可能な腹部腫瘤,排尿困難,および血尿がみられる。腟腫瘍は,腟から突出するポリープ様腫瘤を伴う粘液血性の帯下として顕在化することがある。
四肢のがんでは,密着した硬い腫瘤が上肢または下肢のあらゆる部位に生じる。所属リンパ節への転移がしばしば起こり,肺,骨髄,リンパ節への転移も生じ,通常無症状である。
横紋筋肉腫の診断
CTまたはMRI
生検または切除
腫瘤の評価はCTで行うが,頭頸部の病変はしばしばMRIでより明確に描出される。横紋筋肉腫の診断の確定は生検または腫瘤の切除による。
標準的な転移の評価法には,胸部CT,PET-CT,骨シンチグラフィー,両側骨髄穿刺,骨髄生検などがある。
横紋筋肉腫の治療
手術および化学療法
残存する大きな病変または顕微鏡的病変には放射線療法
横紋筋肉腫の治療アプローチは集学的であり,化学療法と手術,放射線療法,またはこの両方との併用で構成される。
安全に行える場合には,原発がんの完全切除が推奨される。このがんは化学療法および放射線療法に反応するため,臓器の損傷または機能不全をもたらす可能性がある場合は,積極的切除は勧められない。
いずれのリスク群の小児にも化学療法による治療が行われ,最も頻用される薬剤は,ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミド,ドキソルビシン,イホスファミド,およびエトポシドである。ノギテカンとイリノテカンも,このがんに活性を示す薬剤である。
放射線療法は一般に,手術後も残存する大きな病変または顕微鏡的残存病変がある症例と,中間リスクおよび高リスク例に推奨される。
横紋筋肉腫の予後
予後は以下に基づく:
がんの位置(例,傍髄膜以外の頭頸部および膀胱/前立腺以外の泌尿生殖器系の方が予後良好)
切除の完全性
転移の存在
年齢(1歳未満または10歳以上の小児の方が予後不良)
組織型(胎児型は胞巣型と比べて予後良好)
これらの予後因子の組合せにより,患児を低リスク,中間リスク,高リスク分類のいずれかに当てはめる。複雑なリスク層別化システムが存在する(米国国立がん研究所[National Cancer Institute]の小児横紋筋肉腫の病期情報を参照)。各リスク分類に応じて異なる強度の治療が行われ,さらに全生存率も,低リスク患児の90%以上から高リスク患児の50%未満まで,リスクに応じて異なる(1, 2, 3)。
予後に関する参考文献
1.Walterhouse DO, Pappo AS, Meza JL, et al: Shorter-duration therapy using vincristine, dactinomycin, and lower-dose cyclophosphamide with or without radiotherapy for patients with newly diagnosed low-risk rhabdomyosarcoma: A report from the Soft Tissue Sarcoma Committee of the Children's Oncology Group.J Clin Oncol 32(31):3547–3552, 2014.doi: 10.1200/JCO.2014.55.6787.Clarification and additional information.J Clin Oncol 36(14):1459, 2018.
2.Raney RB, Walterhouse DO, Meza JL, et al: Results of the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group D9602 protocol, using vincristine and dactinomycin with or without cyclophosphamide and radiation therapy, for newly diagnosed patients with low-risk embryonal rhabdomyosarcoma: A report from the Soft Tissue Sarcoma Committee of the Children's Oncology Group. J Clin Oncol 29(10):1312–1318, 2011.doi: 10.1200/JCO.2010.30.4469
3.Oberlin O, Rey A, Lyden E, et al: Prognostic factors in metastatic rhabdomyosarcomas: Results of a pooled analysis from United States and European cooperative groups. J Clin Oncol 26(14):2384–2389, 2008.doi: 10.1200/JCO.2007.14.7207
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
National Cancer Institute: Stage information for childhood rhabdomyosarcoma