神経芽腫

執筆者:Kee Kiat Yeo, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2023年 1月
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神経芽腫は,副腎から,またはより頻度は低いが後腹膜,胸部,頸部を含む副腎外の交感神経鎖から発生するがんである。診断は生検により確定される。治療には外科的切除,化学療法,放射線療法,造血幹細胞移植併用大量化学療法,シス-レチノイン酸投与,免疫療法などがある。

神経芽腫は,最も一般的な乳児のがんであり,小児全体では脳腫瘍に次いで最も頻度の高い固形腫瘍である。小児期のがん全体の7~8%を占める(1)。神経芽腫のほぼ90%が5歳未満の小児に発生する。

神経芽腫は未熟かつ未分化の悪性腫瘍である。神経節芽腫(ganglioneuroblastoma)は中間型の腫瘍であり,神経節腫(ganglioneuroma)は神経芽腫の完全に分化した良性変異型であるが,これらを総称して神経堤腫瘍(neural crest tumor)と呼ぶ。

大半の神経芽腫はカテコラミンを産生し,これが尿中のカテコラミン分解産物高値として検出される。神経芽腫は通常はアドレナリンを分泌しないため,典型的には重度の高血圧を引き起こさない。

神経芽腫は腹部(約65%),胸郭(15~20%),頸部,骨盤,または他の部位から発生する。神経芽腫が原発性中枢神経系腫瘍として発生することは非常にまれである。

診断時点で,約40~50%の患児が限局例または所属リンパ節転移例であり,50~60%では遠隔転移がみられる。神経芽腫は骨髄,骨,肝臓,リンパ節,または比較的まれではあるが皮膚や脳に転移する可能性がある。骨髄転移により貧血および/または血小板減少症が生じることがある。このような血管に富む腫瘍が出血を起こし,ヘモグロビン値が急激に下がると,ときに貧血もみられる。

神経芽腫の大半は自然発生的に生じるが,1~2%は遺伝性とみられる。一部のマーカー(例,がん遺伝子MYCNの増幅,DNA指数,部分的な染色体異常,病理組織像)が進行および予後と相関する。MYCN増幅は,約20%の神経芽腫症例でみられ,進行および予後不良と関連する。

パール&ピットフォール

  • 神経芽腫は乳児で最も一般的ながんである。

参考文献

  1. 1.Park JR, Hogarty MD, Bagatell R, et al: Neuroblastoma: Epidemiology.In Pizzo and Poplack's Pediatric Oncology, 8th ed., edited by SM Blaney, LJ Helman, PC Adamson.Philadelphia, Wolters Kluwer, 2021, p.647.

神経芽腫の症状と徴候

神経芽腫の症状および徴候は,原発がんの部位および病変の拡がるパターンにより異なる。最も一般的な症状は,腹痛,不快感,易刺激性,食欲減退,および腹部腫瘤による膨満感である。

一部の症状は転移により起こる。そのような症状としては,広範は骨転移による骨痛,球後転移による眼周囲斑状出血と眼球突出,肝転移による腹部膨隆と呼吸障害などがある(特に乳児)。貧血の患児は蒼白となることがあり,血小板減少症の患児では点状出血が生じることがある。

がんの脊柱管内への直接進展により,患児はときに局所神経脱落症状または麻痺を呈する。頸部または上胸部の腫瘍はホルネル症候群(眼瞼下垂,縮瞳,無汗症)を引き起こすことがある。小脳性運動失調,眼球クローヌス-ミオクローヌス,水様性下痢,高血圧などの腫瘍随伴症候群を呈することもある。

神経堤腫瘍(例,神経芽腫,神経節芽腫,神経節腫)と関連のあるまれな疾患として,ROHHADNET(rapid-onset obesity with hypothalamic dysfunction, hypoventilation, autonomic dysregulation, and neuroendocrine tumors[視床下部機能障害,低換気,自律神経失調症,および神経内分泌腫瘍を伴う急性発症肥満])や先天性中枢性低換気症候群などがある。

神経芽腫の診断

  • CT/MRI

  • 生検

  • ときに骨髄穿刺または骨髄コア生検と尿中カテコラミン中間代謝物の測定

神経芽腫は,ときに出生前のルーチン超音波検査で検出される。腹部症状または腫瘤のある患児にはCTまたはMRIを施行すべきである。同定された腫瘤のいずれかの部位の生検により,神経芽腫の診断が確定する。

別の方法として,原発腫瘍の生検や手術を行わずに,骨髄穿刺または骨髄生検における特徴的ながん細胞の所見と尿中のカテコラミン中間代謝物の高値をともに確認することによっても診断を確定できる。このような診断法は広く行われているわけではないが,患児や腫瘍の状態により生検および/または手術自体のリスクが高いと考えられる状況では有用な場合がある。

尿中のバニリルマンデル酸(VMA)もしくはホモバニリン酸(HVA),またはその両方が,患者の90%以上において高値となる。24時間蓄尿を用いてもよいが,通常はスポット尿検査で十分である。神経芽腫の原発部位が副腎である場合は,ウィルムス腫瘍やその他の腎腫瘤との鑑別が必要となる。また,横紋筋肉腫肝芽腫リンパ腫,生殖器原発の腫瘍との鑑別が必要になる場合もある。

神経芽腫の病期診断

転移の評価のため以下を行うべきである:

  • 複数カ所(典型的には,両後腸骨稜)の骨髄穿刺または骨髄コア生検

  • 骨シンチグラフィーまたはヨウ素131標識メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)によるシンチグラフィー(90%を超える神経芽腫でMIBGの集積が認められる)

  • 腹部,骨盤,および胸部のCTまたはMRI

症状または徴候から脳転移が示唆される場合は,CTまたはMRIによる頭部画像検査が適応となる。

これらの検査の結果により病期(進展範囲)が判定される。International Neuroblastoma Staging System(INSS)では,病期判定に手術の結果が必要とされている。International Neuroblastoma Risk Group Staging System(INRGSS)では,神経芽腫の病期診断に,手術所見ではなく,画像所見で定義された危険因子が採用されている。

神経芽腫にはStage 4S(INSSによる)またはMS(INGRSSによる)と呼ばれる特有の病期もあり,これらは無治療でも自然に退縮することが多い。この病期では,転移部位は,皮膚,肝臓,および/または骨髄に限られ,原発巣が限局している生後12カ月(4S)または18カ月(MS)未満の患児が含まれる。骨髄病変はわずかで,全有核細胞の10%未満に限定され,骨皮質に浸潤していないことが必要である。

診断時に,DNA指数(腫瘍細胞中のDNA量と正常細胞中の量との比;このためDNA指数は染色体の内容の量的尺度となる)およびがん遺伝子MYCNの増幅の分析を行うために,十分な腫瘍組織の採取を試みるべきである。

神経芽腫のリスク分類

病期診断に続いて,病期情報とともに患者の年齢,組織型,MYCN増幅,腫瘍から得られた分子生物学的情報,DNA指数など他の既知の予後因子を用いて患者を分類し,その結果を参考に治療強度を決定し,治療後の予後および再発の可能性を判定する。

リスク分類は複雑であり,Children's Oncology Group(COG)リスクグループとInternational Neuroblastoma Risk Group(INRG)分類という主要なリスク層別化システムが2つ存在する。どちらのシステムでも,病期因子および予後因子を用いて患者を低リスク,中間リスク,高リスクに層別化し,その結果を予後の判定と治療方針の決定に役立てる。さらに,INRG分類には染色体11qの異常も考慮されている。

神経芽腫の治療

  • 外科的切除

  • 通常は化学療法

  • ときに大量化学療法とその後の造血幹細胞移植

  • ときに放射線療法

  • 高リスク例での維持療法用のシス-レチノイン酸

  • 免疫療法

神経芽腫の治療はリスク分類に基づいて行う(米国国立がん研究所[National Cancer Institute]のNeuroblastoma Treatment—Health Professional Versionも参照)。

低リスクおよび中間リスクの患者では外科的切除が重要となる。切除はアジュバント化学療法を行って十分な外科的切除が行える可能性が高まるまで,しばしば延期される。

化学療法(典型的に使用される薬剤はビンクリスチン,シクロホスファミド,ドキソルビシン,シスプラチン,カルボプラチン,イホスファミド,エトポシドなど)は,中間リスクまたは高リスクの患者で通常必要となる。さらに,造血幹細胞移植併用大量化学療法とシス-レチノイン酸の投与も,しばしば高リスク例に対して用いられる。

放射線療法は,中間リスクまたは手術不能の腫瘍を有する患児に対してときに必要になるほか,高リスク例では局所制御を目的とする標準治療の一部となっている。

神経芽腫抗原(GD2)に対するモノクローナル抗体とサイトカインを併用する免疫療法が,高リスク例の維持療法として用いられている。再発/難治性の神経芽腫を対象とした最近の研究では,免疫療法と化学療法の併用で目覚ましい臨床的反応が得られた(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Mody R, Naranjo A, Van Ryn C, et al: Irinotecan-temozolomide with temsirolimus or dinutuximab in children with refractory or relapsed neuroblastoma (COG ANBL1221): An open-label, randomised, phase 2 trial. Lancet Oncol 18(7):946–957, 2017.doi: 10.1016/S1470-2045(17)30355-8

神経芽腫の予後

神経芽腫の予後は診断時の年齢,病期,生物学的因子(例,病理組織像,乳児患者における腫瘍細胞の倍数性,MYCNの増幅)により異なる。限局性の乳児患者は,予後が最も良好である。

低リスクおよび中間リスクの症例の生存率は約90~95%である。歴史的に,高リスク例の生存率は約15%であった。この生存率はより強力な治療の使用により50%を超えるまでに改善している。また近年のランダム化研究から,免疫療法を併用する集中的な治療により66%の2年イベントフリー生存率が得られたことが示されている(1)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Park JR, Kreissman SG, London WB, et al: A phase III randomized clinical trial (RCT) of tandem myeloablative autologous stem cell transplant (ASCT) using peripheral blood stem cell (PBSC) as consolidation therapy for high-risk neuroblastoma (HR-NB): A Children's Oncology Group (COG) study.J Clin Oncol 34(Suppl 18):LBA3-LBA, 2016.doi: 10.1200/JCO.2016.34.15_suppl.LBA3

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. International Neuroblastoma Staging System (INSS): A surgical staging system that requires the results of surgery to determine stage

  2. International Neuroblastoma Risk Group Staging System (INRGSS): A preoperative staging system that uses imaging-defined risk factors rather than surgery to stage neuroblastoma

  3. Children's Oncology Group (COG) and the International Neuroblastoma Risk Group (INRG) classification: COG and INRG risk group stratification systems use staging and prognostic factors to stratify patients into low-, intermediate-, and high-risk categories that help determine prognosis and guide treatment

  4. National Cancer Institute: Neuroblastoma Treatment—Health Professional Version

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