ウイルスの概要

執筆者:Laura D Kramer, PhD, Wadsworth Center, New York State Department of Health
レビュー/改訂 2023年 3月
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ウイルスは最も小さな微生物群の1つであり,典型的な大きさは0.02~0.3μmであるが,最大では全長1μmに及ぶ非常に大きなウイルス(メガウイルス,パンドラウイルス)も近年発見されている。ウイルスの複製は完全に(細菌,植物,または動物の)細胞に依存する。一部のウイルスは,タンパク質および脂質で構成される外被(エンベロープ)がタンパク質の複雑な構造体(カプシド)とゲノムRNAまたはDNAを取り囲む構造をしており,さらにウイルス複製の最初のステップに必要な酵素を有しているものもある。

ウイルスの分類は,ゲノムの性質および構造と複製の方法を考慮に入れつつ基本的にはゲノム配列に基づくものとなっており,引き起こす疾患に基づいて分類されているわけではない(International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV), 2021 releaseを参照)。すなわち,DNAウイルスとRNAウイルスに分けられ,それぞれについて遺伝物質が一本鎖の場合と二本鎖の場合がある。一本鎖RNAウイルスはさらに,プラス鎖RNAウイルスとマイナス鎖RNAウイルスに分けられる。プラス鎖RNAウイルスは,メッセンジャーRNA(mRNA)として機能することができる一本鎖RNAゲノムを有しており,それが直接翻訳されてアミノ酸配列に従ったタンパク質が産生される。マイナス鎖RNAウイルスは,一本鎖のマイナス鎖ゲノムを有し,まず相補的なプラス鎖アンチゲノムが合成されなければならず,それを用いてゲノムのマイナス鎖RNAが産生される。DNAウイルスの複製は典型的には宿主細胞の核内で起こり,RNAウイルスの複製は典型的には細胞質内で起こる。

レトロウイルスと名付けられた特定の一本鎖プラス鎖RNAウイルスは,大きく異なる方法で複製する。レトロウイルスは逆転写によりRNAゲノムの二本鎖DNAコピー(プロウイルス)を作製し,それが宿主細胞のゲノムに挿入される。逆転写はウイルスが殻内に保持する逆転写酵素を用いて行われる。レトロウイルスの例としては,ヒト免疫不全ウイルスやヒトT細胞白血病ウイルスなどがある。プロウイルスが宿主細胞DNAに一旦組み込まれると,通常の細胞機構によって転写され,ウイルスタンパク質および遺伝物質が産生される。

生殖細胞系列の細胞がレトロウイルスに感染すると,組み込まれたプロウイルスは内在性レトロウイルスとして定着し,子孫に伝達される可能性がある。ヒトゲノムの配列決定により,ヒトゲノムの少なくとも1%が内在性レトロウイルス塩基配列で構成されることが判明しており,これはヒトが進化の過程でレトロウイルスと遭遇したことを表している。少数の内在性ヒトレトロウイルスは転写活性を保っており,機能タンパク質を産生する(例,ヒト胎盤構造に寄与するシンシチン)(1)。一部の専門家は,多発性硬化症,特定の自己免疫疾患,および種々のがんなど病因不明の疾患の中には,内在性レトロウイルスによって引き起こされているものがあると推測している。

RNA転写ではDNA転写の場合のようなエラーチェック機構が働かないので,RNAウイルス,特にレトロウイルスは,非常に突然変異を起こしやすい。

ウイルスゲノムは小さく,RNAウイルスのゲノムは3.5kb(一部のレトロウイルス)から27kb(一部のレオウイルス)であり,DNAウイルスのゲノムは5kb(一部のパルボウイルス)から280kb(一部のポックスウイルス)である。このようにゲノムのサイズが小さいことと,塩基配列決定技術の現在の進歩を考慮すると,将来的にはウイルスゲノムの部分配列または全配列を決定することが,疾患のアウトブレイクに関する疫学的調査において必須の要素になると考えられる。

感染を起こすために,ウイルスはまず宿主細胞表面にある単一の受容体分子またはいくつかある受容体分子の1つに付着する。次に,ウイルスDNAまたはRNAが宿主細胞に侵入して外被から分離(脱殻)し,宿主細胞内で特異的酵素を要する過程を経て複製される。次に,新たに合成されたウイルス成分が会合して完全なウイルス粒子になる。宿主細胞は典型的には死滅し,新しいウイルスが放出されて他の宿主細胞に感染する。ウイルス複製の各ステップにはそれぞれ異なる酵素および基質が関与しており,それらは感染過程を阻害する上での鍵となる。

ウイルス感染症の転帰は著しく多様である。多くの感染は短い潜伏期間の後に急性疾患を引き起こすが,一部の感染は症状がないか,あっても軽度で気づかれない場合がある。多くのウイルス感染は,免疫系によって排除されるが,一部は潜伏状態でとどまり続け,また一部は慢性疾患を引き起こす。

潜伏感染状態では,ウイルスDNAまたはRNAは宿主細胞内にとどまるが,長期間ときに何年もの間複製もしなければ疾患を引き起こすこともない。ウイルスの潜伏感染は無症状期間でも伝染力をもつことがあり,これがヒトからヒトへの伝播を促進している。ときにある誘因(特に免疫抑制)が再活性化を引き起こす。

一般的な潜伏感染ウイルスとしては,以下のものがある:

エボラウイルスは,人体の免疫特権部位(例,精巣,眼)で存続するようである(2)。

非常に長い潜伏期間の後,中枢神経系でウイルスが再活性化されることで発生する疾患もある。具体的には以下の疾患がある:

慢性ウイルス感染症は,感染性のあるウイルス排出が長期にわたり持続することを特徴とし,その例としては風疹ウイルスまたはサイトメガロウイルスの先天性感染症B型またはC型肝炎ウイルスの持続感染などが挙げられる。HIVは潜伏感染および慢性感染の両方を引き起こしうる。

数百種類のウイルスがヒトに感染する。主にヒトに感染するウイルスは,しばしば呼吸器および腸管からの排泄物を介して伝播する。輸血用に集められた血液には,いくつかのウイルスについて検査が行われる(感染症伝播の検査の表を参照)。多くのウイルスは齧歯類または節足動物によって媒介されており,コウモリは最近,多くの哺乳類ウイルスの宿主であることが確認され,その中には特定の重篤なヒト感染症の原因となるウイルスも(例,SARS-CoV-2)含まれている。

ジカウイルスなど,粘膜接触を介して性的に伝播するウイルスもある。血液の移行(例,汚染された針の穿刺または輸血によるもの)を介して伝播するウイルスもあり,具体的にはA型B型C型E型肝炎ウイルスのほか,以下のアルボウイルスなどがある:

サイトメガロウイルス(CMV)エプスタイン-バーウイルスは,組織の移植によって最もよく伝播されるウイルスである。同様のウイルスとしては,ほかにも以下のものがある:

ウイルスは世界中に存在するが,生まれつきの抵抗力,以前の感染またはワクチンによる免疫,衛生対策およびその他の公衆衛生管理対策,ならびに抗ウイルス薬の予防投与によって,ウイルスの拡大が制限される。

人畜共通ウイルスは主に動物の中でその生物学的サイクルが進行する;ヒトは二次的または偶発的な宿主である。これらのウイルスは,ヒトを除く自然感染サイクル(脊椎動物,節足動物,またはその両方)を維持できる地域および環境にのみ存在する。

変異型クロイツフェルト-ヤコブ病とウシ海綿状脳症は,潜伏期間(数年)が長いことから,当初はウイルスによるものと考えられ,遅発性ウイルス疾患と呼ばれていたが,現在ではプリオンが原因であることが知られている;プリオンは細菌,真菌,ウイルスのいずれでもなく,遺伝物質を保持しない,タンパク質の病原因子である。

ウイルス性疾患の種類も参照のこと。)

ウイルスとがん

一部のウイルスには発がん性があり,特定の悪性腫瘍の素因となる:

参考文献

  1. 1.Dupressoir A, Lavialle C, Heidmann T: From ancestral infectious retroviruses to bona fide cellular genes: role of the captured syncytins in placentation. Placenta 33(9):663-671, 2012.doi:10.1016/j.placenta.2012.05.005

  2. 2.Schindell BG, Webb AL, Kindrachuk J: Persistence and sexual transmission of filoviruses.Viruses 10(12):683, 2018.doi: 10.3390/v10120683

ウイルス感染症の診断

一部のウイルス疾患は以下の方法で診断することができる:

検査による確定診断が必要となる主な状況は,特異的な治療が助けになりうる場合と,ウイルスが公衆衛生上脅威となる可能性がある場合(例,HIV)である。多くのウイルスの検査は大半の病院検査室で実施できるが,頻度の低い疾患(例,狂犬病,東部ウマ脳炎,ヒトパルボウイルスB19)については,検体を州の保健研究所または米国疾病予防管理センターに送付する必要がある。

急性期および回復期血清で抗体を検出する血清学的検査は,感度および特異度が高い可能性があるが,長い時間を要する;一部のウイルス,特にフラビウイルス科のウイルスは交差反応によって診断を混同させる。培養検査,PCR検査,またはウイルス抗原検査の方が,ときにより迅速に診断できる場合がある。電子(光学ではない)顕微鏡による病理組織学的検査がときに役立つ可能性がある。具体的な診断手順については,感染症の臨床検査診断を参照のこと。

ウイルス感染症の治療

抗ウイルス薬

抗ウイルス薬の使用は急速に進歩し続けている。抗ウイルス薬の機序では,ウイルス複製の様々な段階を標的にすることができる。以下のものがある:

  • ウイルス粒子の宿主細胞膜への付着またはウイルス核酸の脱殻を阻害する

  • ウイルス複製に必要な細胞側の受容体または因子を阻害する

  • 宿主細胞で産生され,ウイルスの複製には必須であるが正常な宿主細胞の代謝には必須でない,ウイルスにコードされた特定の酵素およびタンパク質を阻害する

抗ウイルス薬は,ヘルペスウイルスサイトメガロウイルスを含む),呼吸器系ウイルスHIVB型慢性肝炎,およびC型慢性肝炎の治療または予防に使用されることが最も多い。しかしながら,一部の薬剤はこれら以外の多くのウイルスにも効果的である。例えば,HIVに効果を示す薬剤の一部は,B型肝炎など他のウイルス感染症にも使用されている。

SARS-CoV-2によって引き起こされるCOVID-19の治療用として抗ウイルス薬が開発されている。

インターフェロン

インターフェロンは,ウイルスまたは他の異物抗原に反応して,感染した宿主細胞から放出される物質である。

多数の異なるインターフェロンが存在するが,ウイルスRNAの翻訳および転写を阻害することで,正常な宿主細胞の機能を妨げずにウイルス複製を停止させるなど多数の作用を有する。

インターフェロンはときにポリエチレングリコールに結合させて(ペグ製剤)投与されることがあるが,それにより緩徐で持続的なインターフェロンの放出が可能になる。

ときにインターフェロンで治療されるウイルス疾患として,以下のものが挙げられる:

インターフェロンの有害作用には発熱,悪寒,筋力低下,筋肉痛などの症状があり,典型的には初回の注射から7~12時間後に始まり,最長12時間持続する。抑うつ,肝炎,および高用量では骨髄抑制も発生する可能性がある。

抗体

一部のウイルス感染症(例,ザイールエボラウイルス感染症,RSウイルス[RSV],狂犬病ウイルス)の治療には,回復期血清抗体およびモノクローナル抗体が使用できる。

ウイルス感染症の予防

ワクチン

ワクチンは免疫を刺激することで効果を発揮する。一般に使用されているウイルスワクチンとしては以下のものがある:

アデノウイルス,天然痘,およびエムポックスのほか,リフトバレー熱および東部ウマ脳炎にもワクチンが使用可能となっているが,それらは高リスク群(例,軍の新兵)にのみ使用されている。

SARS-CoV-2によって引き起こされるCOVID-19の予防用として,mRNAワクチンとその他の種類を含めた複数のワクチンが開発されている。

ウイルス性疾患は効果的なワクチンによって根絶が可能である。天然痘は1978年に根絶され,牛疫(ヒト麻疹ウイルスの近縁ウイルスによって引き起こされる)は2011年に根絶された。大規模なワクチン接種によりポリオは世界的には根絶されているが,サハラ以南アフリカや南アジアなどの予防接種が不完全な地域では,依然として症例の発生がみられている。麻疹は世界の一部の地域(特にアメリカ大陸)ではほぼ根絶されたが,麻疹は感染性が高く,根絶されたと考えられる地域でもワクチン接種率は100%ではないため,最終的な根絶はまだ先のことである。

より難治性の他のウイルス感染症(HIVなど)に対してワクチンが開発され,それらが根絶される見通しは,現在のところ不明である。

免疫グロブリン

受動免疫による予防のため,限定的な状況では免疫グロブリンが利用できる。曝露前(例,A型肝炎ウイルス),曝露後(例,狂犬病,水痘,RS,または肝炎ウイルス),および疾患の治療(例,ワクシニア性湿疹)に使用することができる。

予防法

多くのウイルス感染症は,ルーチンの予防策(各ウイルスの伝播様式により変わる)によって予防することができる。

重要な予防法としては以下のものがある:

  • 手洗い

  • 適切な調理および公共用水処理

  • 病気の人との接触を避ける

  • 安全な性行為

  • マスクの着用

  • 適切な場合には物理的距離の確保(例,COVID-19の予防)

昆虫媒介性(例,蚊,ダニ)の感染症に関しては,防虫剤や適切な衣服の着用など,媒介動物の刺咬に対する個人的な防護策が重要である。

エボラウイルス感染症などの感染に対しては,病人の血液および体液(尿,便,唾液,汗,嘔吐物,母乳,羊水,精液,腟分泌物など)への接触を避けることが重要な防御策の1つとなる。エボラウイルス感染症から回復した男性の精液への接触は,精液からウイルスが消失したことが検査で示されるまで避けるべきである。

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