COVID-19ワクチンは,SARS-CoV-2の感染によって引き起こされる疾患であるCOVID-19に対する予防効果をもたらす。ワクチン接種は,SARS-CoV-2感染症での重症化および死亡を予防する上で最も効果的な戦略である。オミクロン株が優勢であった2021年1月から2022年4月までの入院率は,追加接種まで受けた人と比較して,接種を受けなかった人で10.5倍,初回接種を受けて追加接種を受けなかった人で2.5倍高かった(1)。
現在,COVID-19に対する複数のワクチンが世界中で使用されているが(UNICEF COVID-19 Vaccine Market DashboardおよびWHO Coronavirus [COVID-19] Dashboardを参照),このトピックでは,米国で現在使用されているワクチンのみを扱っている。
米国では,以下のCOVID-19ワクチンが使用されている:
Pfizer社とBioNTech社が製造するSARS-CoV-2(COVID-19)mRNAワクチンが,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)により,16歳以上の人々への使用について承認されている。このワクチンについては,生後6カ月~15歳の小児を対象として,緊急使用許可(EUA)も受けている。
Moderna社が製造するSARS-CoV-2(COVID-19)mRNAワクチンが,18歳以上の人々への使用が承認されている。このワクチンについては,生後6カ月~17歳の小児を対象として,EUAも受けている。
Novavax社が製造するSARS-CoV-2(COVID-19)組換えスパイクタンパク質ナノ粒子ワクチンが12歳以上を対象としてEUAを受けている。
Janssen/Johnson&Johnson社が製造するSARS-CoV-2(COVID-19)アデノウイルスベクターワクチンは,米国ではもはや入手できなくなっている(CDC: Janssen (Johnson & Johnson) COVID-19 Vaccineを参照)。
詳細については,COVID-19 Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine Recommendations,FDA prescribing information for the Pfizer-BioNTech COVID-19 vaccine,FDA prescribing information for the Moderna COVID-19 vaccine,およびEUAファクトシート(Pfizer-BioNTech,Moderna,およびNovavax)を参照のこと。2023年の成人向け予防接種スケジュールに加えられた変更点(COVID-19ワクチンに関する情報の変更を含む)の概要については,Advisory Committee on Immunization PracticesのRecommended Adult Immunization Schedule, United States, 2023: Changes to the 2023 Adult Immunization Scheduleを参照のこと。
参考文献
1.Havers FP, Pham H, Taylor CA, et al: COVID-19-Associated Hospitalizations Among Vaccinated and Unvaccinated Adults 18 Years or Older in 13 US States, January 2021 to April 2022. JAMA Intern Med 182(10):1071-1081, 2022.doi:10.1001/jamainternmed.2022.4299
COVID-19ワクチンの製剤
COVID-19に対するmRNAワクチンには以下の2つがある:
BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)
mRNA-1273(Moderna製)
これらのmRNAワクチンは,ウイルス抗原を含有せず,標的抗原(スパイクタンパク質)をコードするmRNAの小さな合成断片を送達する。ワクチンに含まれるmRNAは,免疫系の細胞に取り込まれ,そこでウイルス抗原を産生するように細胞を刺激した後,分解される。すると,抗原が放出されて意図する免疫応答が惹起され,その後に実際のウイルスに曝露した際,感染の重症化が予防される。
COVID-19に対するスパイクタンパク質ワクチンには以下の1つがある:
NVX-CoV2373(Novavax製)
スパイクタンパク質ワクチンには,SARS-CoV-2の組換えスパイクタンパク質が含まれており,これが望ましい免疫応答を誘発する。
COVID-19ワクチンの適応
BNT162b2は,COVID-19の予防を適応として,16歳以上を対象にFDAの承認を,生後6カ月から15歳までを対象にEUAを取得している。
mRNA-1273は,18歳以上を対象にFDAの承認を,生後6カ月から17歳までを対象にEUAを取得している。
NVX-CoV2373は,12歳以上を対象にEUAを取得している。
COVID-19ワクチンの禁忌および注意事項
COVID-19ワクチンの禁忌は以下の通りである:
いずれかのワクチンの接種後に重度のアレルギー反応を起こしたことがある
ワクチンの成分に対して重度のアレルギー反応を起こしたことがある
COVID-19ワクチンに関する注意事項は以下の通りである:
接種直後の急性アナフィラキシー反応
易感染状態(免疫抑制薬によるものを含む)
即時型アレルギー反応を管理するための適切な内科的治療を,COVID-19ワクチンの接種後に急性アナフィラキシー反応が発生した場合に直ちに行えるようにしておく必要がある。COVID-19ワクチンの接種者には,即時型の有害反応が起きていないかモニタリングすべきである。
易感染状態にある個人(免疫抑制薬の投与を受けている者を含む)では,これらのワクチンに対する免疫応答が減弱する可能性がある。
mRNAワクチンおよびアジュバント添加ワクチンについては,複数回の接種後,特に2回目の接種から7日以内に心筋炎および心膜炎が報告されており,ワクチン接種後にこれらの事象のリスクが高まる可能性が示唆されているという旨の警告がFDAから出されている(Pfizer社・BioNTech社製ワクチン,Moderna社製ワクチン,およびNovavax社製ワクチンに関するFDAの情報を参照)。観察されたリスクは若い男性で最も高い。ワクチン接種者は,接種後に胸痛や息切れが起きるか,心臓が速く鼓動したり,ふるえたり,強く脈打ったりするのを感じた場合,直ちに医療機関を受診する必要がある。一部の患者では集中治療が必要とされているが,短期間の追跡研究から得られたデータからは,症状は通常,保存的管理により消失したことが示唆される。
CDC: Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccinationも参照のこと。
COVID-19ワクチンの用量および用法
米国で使用可能なCOVID-19ワクチンについては,初回接種に加えて全ての年齢層および特別な条件に該当する人々に対して推奨される追加接種を含めて,全ての接種に関する情報をCDCのウェブサイトInterim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United Statesから入手することができる。
COVID-19ワクチンは筋肉内注射で接種すべきである。
2022年,FDAはmRNAワクチンに関するEUAを改正し,2価製剤のワクチンを1回の追加接種として使用することを許可した(FDA fact sheetを参照)。2価ワクチン(updated boosterと呼ばれる)には,SARS-CoV-2のmRNA成分が2つ含まれている。1つはSARS-CoV-2の最初の株であり,もう1つはBA.4およびBA.5として知られる最近のオミクロン株亜種を標的とするものである。2価の改良型ワクチンの導入以降,CDCは2価ワクチンのみを追加接種として使用することを許可している。1価の追加接種用mRNAワクチンはもはや入手できない。
FDAの承認または許可を得た1価ワクチンの初回接種を完了し,過去に追加接種を受けたことがなく,mRNAワクチンを接種できないか接種する意思がなく,そうでなければ追加接種を受けないと考えられる18歳以上の個人という限定的な状況では,Novavax社が製造する組換えスパイクタンパク質ナノ粒子ワクチンの追加接種(2価mRNAの追加接種ではない)を行うことができる。
COVID-19ワクチンの有害作用
COVID-19ワクチンの有害作用は全てのワクチンで類似している。(CDC: Possible Side Effects After Getting a COVID-19 Vaccineを参照のこと。)
アナフィラキシーを含めて,まれに生じる重度のアレルギー反応が報告されている。
よくみられるその他の有害作用は以下の通りである:
注射部位の疼痛,腫脹,および発赤
疲労
頭痛
筋肉痛および関節痛
発熱および悪寒
悪心
倦怠感
リンパ節腫脹
有害作用は典型的には数日間持続する。
COVID-19のワクチン接種後に反応性リンパ節腫脹が発生することがあり,マンモグラフィーで偽陽性の判定が出る可能性がある。複数の研究が実施されており,2022年2月に発表されたSociety of Breast Imagingによる最新の推奨では,COVID-19ワクチンの接種後にスクリーニングマンモグラフィーの施行を遅らせないよう推奨されている(Society of Breast Imaging: 2022 Position Statements and Recommendations: Revised SBI Recommendations for the Management of Axillary Adenopathy in Patients with Recent COVID-19 Vaccinationを参照)。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Use of COVID-19 Vaccines in the United States
Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP): COVID-19 ACIP Vaccine Recommendations
ACIP: Recommended Adult Immunization Schedule, United States, 2023 including Changes to the 2023 Adult Immunization Schedule
European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC): Coronavirus Disease (COVID-19): Recommended vaccinations
CDC: Stay Up to Date with COVID-19 Vaccines Including Boosters