好中球減少症

(無顆粒球症,顆粒球減少症)

執筆者:David C. Dale, MD, University of Washington
レビュー/改訂 2023年 4月
意見 同じトピックページ はこちら

好中球減少症は,血中の好中球数が減少した状態である。重度の場合,細菌および真菌による感染症のリスクおよび重症度が増す。感染症の局所症状が弱い場合があるが,重篤な感染症の大半で発熱がみられる。診断は,白血球数と白血球分画によって行い,評価には原因の同定が必要である。発熱がある場合は,感染が疑われるため,特に好中球減少症が重度であれば,直ちに広域抗菌薬の経験的投与が必要である。顆粒球コロニー刺激因子による治療は,がんに対して化学療法を受けた患者や重度の慢性好中球減少症がある患者において,好中球産生を刺激し,細菌感染症を予防するために用いられる。

好中球(顆粒球)は,細菌感染および真菌感染に対する身体の主な防御因子である。好中球減少症が起きていると,これらの感染に対する炎症反応が鈍化する。

好中球数(総白血球数 × %好中球および桿状核球)の正常下限値は,白人患者では1500/μL(1.5 × 109/L)であるのに対し,黒人患者ではやや低くなっている(約1200/μL[1.2 × 109/L])。好中球数は他の血球数ほど安定せず,活動状態,不安,感染症,服用薬など多くの因子に依存して短期間で大きく変化することがある。そのため,好中球減少症の重症度を決定する際には数回測定する必要がある。

好中球減少症の重症度は,感染症の相対リスクと関連し,以下の通りに分類される:

  • 軽度:1000~1500/μL(1~1.5×109/L)

  • 中等度:500~1000/μL(0.5~1×109/L)

  • 重度:500/μL(0.5 × 109/L)未満

好中球数が500/μL未満に減少すると,内在性微生物叢(例,口腔または消化管に存在)が感染症を引き起こすことがある。好中球数が200/μL(0.2 × 109/L)未満に減少すると,炎症反応が消失することがある上に,末梢血中の白血球増多や尿中または感染部位への白血球の出現といった通常の炎症所見が認められないことがある。 重度の急性好中球減少症で,特に他の要因(例,悪性腫瘍)が存在する場合は,免疫系が大きく損なわれ,急速に死に至る感染症につながる可能性がある。皮膚および粘膜の完全性,組織への血管供給,ならびに患者の栄養状態も感染リスクに影響する。

重度の好中球減少症がある患者で特に高頻度で発生する感染症は以下のものである:

血管カテーテルおよびその他の穿刺部位は,皮膚感染症という余分なリスクをもたらす;特に多くみられる起因菌は,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であるが,その他のグラム陽性菌およびグラム陰性菌による感染症もみられる。口内炎歯肉炎,直腸周囲炎,大腸炎,爪周囲炎,および中耳炎がしばしば起こる。造血幹細胞移植後または化学療法後の好中球減少症が遷延している患者と広域抗菌薬および高用量コルチコステロイドの投与を受けている患者は,真菌感染症に対する感受性が高くなっている。

医学計算ツール(学習用)

好中球減少症の病因

急性の好中球減少症(数時間から数日で発症する)は,以下の結果として生じることがある:

  • 好中球の急激な消費または破壊

  • 好中球産生の障害

慢性好中球減少症(数カ月から数年に及ぶ)は,通常は以下の結果として生じる:

  • 産生低下

  • 過度のsplenic sequestration

好中球減少症は以下に分類することができる:

  • 原発性:骨髄の骨髄系細胞から見て内因性の異常によるもの

  • 二次性:骨髄の骨髄系細胞から見て外因性の因子によるもの

好中球減少症の分類の表も参照のこと。

表&コラム
表&コラム

骨髄系細胞またはその前駆細胞における内因的欠陥に起因する好中球減少症

骨髄系細胞またはその前駆細胞における内因性の異常に起因する好中球減少症はまれである(1, 2)。生じた場合の最も一般的な原因としては以下のものがある:

  • 慢性特発性好中球減少症

  • 先天性好中球減少症

慢性特発性好中球減少症は,免疫系の他の要素は正常を維持しているように見える慢性好中球減少症の一種である。好中球数が200/μL(0.2×109/L)未満でも,重症感染症はまれであり,これはおそらく感染に反応して十分な量の好中球が産生されるためである。女性でより多くみられる。

重症先天性好中球減少症(SCN)は,それぞれ多様な病態を呈するまれな疾患の総称で,骨髄系細胞の成熟が骨髄の前骨髄球の段階で停止し,好中球数が200/μL(0.2 × 109/L)未満になり乳児期に重大な感染症が生じるという特徴がある。重症先天性好中球減少症は,通常は常染色体顕性(優性)の形式で遺伝するが,潜性(劣性),X連鎖,または孤発性の場合もある。

好中球エラスターゼ(ELANE),CLPBHAX1GFI1,ごくまれにG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)受容体(CSF3R)に影響を及ぼす遺伝子変異など,重症先天性好中球減少症を引き起こす遺伝子異常がいくつか同定されている。重症先天性好中球減少症はほぼ全例でG-CSF療法に反応するが,G-CSF療法に対する反応が不良な患者と骨髄異形成または急性骨髄性白血病を発症した患者には,造血幹細胞移植が必要になることがある。

周期性好中球減少症は,まれな先天性顆粒球産生障害で,通常は常染色体顕性(優性)で遺伝し,好中球エラスターゼの遺伝子(ELANE)の変異を原因とし,それによりアポトーシスが誘導される。末梢血中の好中球数の規則的で周期的な変動を特徴とする。平均変動周期は21 ± 3日間である。大半の症例では他の血球の周期的変動も明らかである。

良性民族性好中球減少症は一部の民族集団に生じる(例,アフリカ系,中東系,またはユダヤ系集団の一部)。正常時も好中球数が低値であるが,感染症のリスクは高くない。一部の症例では,この所見は赤血球上のDuffy抗原に関連している;一部の専門家はこれらの集団における好中球減少症がマラリア防御に関連すると考えている。

まれな先天性症候群(例,軟骨毛髪低形成症候群,チェディアック-東症候群,先天性角化異常症,糖原病IB型,シュバッハマン-ダイアモンド症候群,WHIM[warts, hypogammaglobulinemia, infections, myelokathexis]症候群)によって骨髄不全が起こり,好中球減少症を来す可能性がある。

好中球減少症は骨髄異形成(骨髄の巨赤芽球様変化を伴うこともある)および再生不良性貧血の特徴でもある。異常ガンマグロブリン血症および発作性夜間血色素尿症で好中球減少症が生じることもある。

二次性好中球減少症

二次性好中球減少症は,特定の薬剤の使用,骨髄浸潤もしくは置換,ある種の感染症,または免疫応答により生じることがある。

最も一般的な原因は以下のものである:

  • 薬剤

  • 感染症および免疫反応

  • 骨髄浸潤の過程

薬剤性好中球減少症は,好中球減少症の最も頻度の高い原因の1つである。薬剤は毒性,特異体質性,または過敏性の機序により好中球産生を低下させる可能性があり,また,免疫機構を介した末梢血好中球の破壊を亢進させる可能性もある。用量依存性の好中球減少症は毒性の機序でのみ生じる。

細胞傷害性の抗がん剤またはフェノチアジン系薬剤の投与後や放射線療法の施行後には,予想可能なことではあるが,骨髄産生が抑制されるために,用量または線量に依存した重度の好中球減少症が生じる。

特異体質性の反応は予測不能で,多様な薬剤(代替医療の製剤または抽出物を含む)および毒性物質で生じる。

過敏反応はまれであるが,ときに抗てんかん薬(例,フェニトイン,フェノバルビタール),チアマゾール,またはプロピルチオウラシルが関与する。これらの反応は,わずか数日の場合もあれば,数カ月または数年続く場合もある。多くの場合,肝炎,腎炎,肺炎,または再生不良性貧血は,過敏性の好中球減少症を伴う。

免疫性の薬剤性好中球減少症は,ハプテンとして作用して抗体産生を刺激する薬剤に起因すると考えられ,通常は原因薬剤を中止した後も約1週間持続する。アミノピリン,クロザピン,プロピルチオウラシルおよび他の抗甲状腺薬,ペニシリン,またはその他の抗菌薬が原因となりうる。

骨髄の無効造血による好中球減少症は,ビタミンB12または葉酸の欠乏により引き起こされる巨赤芽球性貧血でみられることがある。通常は,大球性貧血およびときに軽度の血小板減少症が同時にみられる。無効造血が骨髄異形成疾患急性骨髄性白血病に伴うこともある。

白血病骨髄腫リンパ腫,または転移性固形腫瘍(例,乳癌前立腺癌)の骨髄浸潤により,好中球産生が損なわれることがある。腫瘍誘発性の骨髄線維症により,好中球減少症がさらに悪化する場合がある。骨髄線維症は,肉芽腫性感染症,ゴーシェ病,および放射線療法により生じることもある。

何らかの原因で脾機能亢進症になると,中等度の好中球減少症,血小板減少症,および貧血につながることがある。

感染症は,好中球の産生障害をもたらしたり,好中球の免疫性破壊または急速な代謝を誘発したりすることにより,好中球減少症を引き起こすことがある。敗血症は,特に重篤な原因である。小児期の一般的なウイルス性疾患に伴って生じる好中球減少症は,発病後1~2日で認められ,3~8日間続くことがある。ウイルスまたは内毒素血症により好中球が循環プールから辺縁プールへ再分布することによって,一過性の好中球減少症が生じることもある。アルコールは,一部の感染症(例,肺炎球菌性肺炎)において,骨髄の好中球の走化性反応を阻害することで好中球減少症の一因になることがある。

免疫異常から好中球減少症が起きることがある。新生児同種免疫性好中球減少症は,胎児/母体の好中球抗原不適合とともに,新生児の好中球(ヒト好中球抗原[HNA-1抗原]が最も一般的)に対するIgG抗体の胎盤を介した移行に関連して生じることがある。自己免疫性好中球減少症は,あらゆる年齢層で発生し,特発性で慢性の好中球減少症の多くの症例で生じている可能性がある。抗好中球抗体の検査(蛍光抗体法,凝集法,またはフローサイトメトリー)は常に利用または信頼できるわけではない。

自己免疫性好中球減少症は,急性,慢性,または一過性のものがある。循環血液中の好中球または好中球前駆細胞に対する抗体が関与することがある。また,好中球のアポトーシスを引き起こす可能性のあるサイトカイン(例,インターフェロンγ,腫瘍壊死因子)が関与することもある。自己免疫性好中球減少症患者の大半が,自己免疫疾患またはリンパ増殖性疾患(例,大顆粒リンパ球[large granular lymphocyte:LGL]症候群[大顆粒リンパ球のクローン性疾患],全身性エリテマトーデス,フェルティ症候群)を基礎疾患として有している。二次性の慢性好中球減少症は,好中球の産生障害および抗体による好中球破壊の亢進により,しばしばHIV感染に伴って生じる。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Dale DC: How I diagnose and treat neutropenia.Curr Opin Hematol 23(1):1-4, 2016.doi: 10.1097/MOH.0000000000000208

  2. 2.Skokowa J, Dale DC, Touw IP, et al: Severe congenital neutropenias.Nat Rev Dis Primers 3:17032, 2017.doi: 10.1038/nrdp.2017.32

好中球減少症の症状と徴候

好中球減少症では,感染症が発生するまで無症状である。発熱が唯一の感染症の徴候であることも多い。好中球減少症が重度である場合,局所炎症の典型的な徴候(紅斑,腫脹,疼痛,浸潤)はマスクされるか,みられないことがある。局所症状(例,口腔内潰瘍)がみられることもあるが,多くの場合わずかである。過敏性に起因する薬剤性好中球減少症患者では,過敏反応による発熱,発疹,およびリンパ節腫脹がみられることがある。

慢性特発性好中球減少症では,好中球数が200/μL(0.2 × 109/L)未満でも重篤な感染症をあまり経験しない患者がいる。周期性好中球減少症または重症先天性好中球減少症の患者は,重度の好中球減少状態にあるとき,口腔内潰瘍,口内炎,または咽頭炎のエピソード,およびリンパ節腫大を生じやすい。肺炎および敗血症がしばしばみられる。

好中球減少症の診断

  • 臨床上の疑い(反復性またはまれな感染症)

  • 血算と白血球分画による確定

  • 培養および画像検査による感染症の評価

  • 好中球減少症の機序および原因の同定

頻繁な感染症,重度の感染症,もしくはまれな感染症の患者,またはリスクのある患者(例,細胞傷害性薬剤の投与または放射線療法を受けている患者)では,好中球減少症が疑われる。確定診断は血算と白血球分画による。

感染症の評価

感染症の有無を見きわめることが最優先である。感染症の症状が微妙となることもあるため,身体診察では,最も頻度の高い感染部位を系統的に評価する:

  • 消化管などの粘膜面(歯肉,咽頭,肛門)

  • 副鼻腔

  • 腹部

  • 尿路

  • 皮膚および爪

  • 静脈穿刺部位

  • 血管カテーテル

急性または重症の好中球減少症であれば,臨床検査を迅速に開始しなくてはならない。

培養が検査の中心である。発熱がみられる全ての患者から,細菌および真菌培養用に最低2セットの血液検体を採取する。静脈カテーテルを留置している場合は,そのカテーテルに加えて別の末梢静脈から検体を採取する。持続性または慢性のドレナージ物質も,細菌,真菌,および非定型抗酸菌について培養する。粘膜潰瘍では,スワブ採取し,ヘルペスウイルスおよびCandidaについて培養を行う。皮膚病変では,細胞診および培養のために吸引または生検を実施する。全ての患者から尿検査および尿培養用の検体を採取する。下痢が認められる場合は,腸内細菌性病原体およびClostridium (かつてのClostridiumdifficile毒素について便を検査する。肺感染症について評価するために喀痰培養を行う。

画像検査が役立つ。全ての患者で胸部X線撮影を行う。好中球減少症のある患者では胸部CTも必要になることがある。副鼻腔炎の症状または徴候(例,頭位により変化する頭痛,上顎歯または上顎の疼痛,顔面腫脹,鼻汁)が認められる場合は,副鼻腔のCTが役立つことがある。症状(例,疼痛)または病歴(例,最近の手術)から腹腔内感染症が示唆される場合,通常は腹部のCTを行う。

原因の同定

次に,好中球減少症の機序および原因を特定する。病歴聴取では,家族歴,他の疾患の有無,服用している全ての医薬品またはその他の製剤,飼っているペット,および可能性のある毒素への曝露または摂取について聴取する。

身体診察では,脾腫,リンパ節腫脹,皮膚病変(例,紅斑,斑,丘疹,膿疱),および他の基礎疾患の徴候(例,関節炎)がないか調べる。

明らかな原因が同定できない場合(例,化学療法),以下が最も重要な検査となる:

  • 骨髄検査

骨髄検査では,好中球減少症が骨髄産生低下によるものか,好中球の破壊亢進に伴う二次的なものかを判断する(骨髄系細胞の産生が正常か亢進かで判定)。骨髄検査により,好中球減少症の特異的な原因(例,再生不良性貧血骨髄線維症骨髄異形成疾患急性白血病,転移性のがん,骨髄壊死)が示唆されることもある。

好中球減少症の原因を特定するため,LGL症候群に対するフローサイトメトリーとT細胞受容体遺伝子再構成の検査など,疑われる診断に応じた,さらなる検査が必要になる場合もある。栄養欠乏のリスクがある患者では,葉酸,およびビタミンB12の値を測定する。免疫性好中球減少症が疑われる場合は,抗好中球抗体の有無を調べる検査を行う。

好中球減少症の原因として,ある種の抗菌薬と感染症との鑑別は,ときに困難なことがある。抗菌薬治療開始直前の白血球数は,通常,感染に起因する血球数の変化を反映する。

乳児期からの慢性好中球減少症があり,繰り返す発熱および慢性歯肉炎の病歴を有する患者では,周期性好中球減少症を示唆する周期性が評価できるように,総白血球数と白血球分画を週3回6週間にわたって測定すべきである。同時に血小板数および網状赤血球数も測定する。周期性好中球減少症の患者では,好酸球,網状赤血球,および血小板は高頻度で好中球と同期して変動するが,単球およびリンパ球は同期しないことがある。

先天性の原因が考えられる場合は,ELANEおよびその他の遺伝子の分子遺伝学的検査が適切である。

好中球減少症の治療

  • 関連疾患(例,感染症,口内炎)の治療

  • ときに抗菌薬の予防投与

  • 骨髄増殖因子

  • 疑われる原因物質(例,薬剤)の使用中止

  • ときにコルチコステロイド

急性好中球減少症

疑われる感染症を常に速やかに治療する。発熱または低血圧が認められる場合は,重篤な感染症であると想定し,経験的に高用量の広域抗菌薬を静注する。レジメン選択は,最も可能性の高い感染微生物,当該医療機関での病原体の抗菌薬感受性,およびレジメンの潜在的毒性に基づく。バンコマイシンは,耐性菌が生じるリスクがあるため,他の薬剤に耐性のあるグラム陽性菌が疑われる場合にのみ使用する。

血管カテーテルの留置については,菌血症が疑われたり,確認されたりした場合でも,通常はそのままでよいが,黄色ブドウ球菌(S. aureus),BacillusCorynebacterium,またはCandidaもしくは別の真菌による感染症の場合,または適切な抗菌薬治療にもかかわらず血液培養が引き続き陽性である場合には,抜去を考慮する。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌による感染症は,一般に抗菌薬療法のみで消失する。

好中球減少症がみられる患者では,フォーリーカテーテル留置でも感染症を起こしやすく,持続性の尿路感染症に対しては,カテーテルの交換または抜去を検討すべきである。

培養が陽性であれば,抗菌薬療法を感受性試験の結果に適応させる。72時間以内に解熱した場合は,少なくとも7日間,そして感染症の症状または徴候が認められなくなるまで,抗菌薬を継続する。好中球減少症が一過性(骨髄抑制をもたらす化学療法後に出現するものなど)である場合は,通常は好中球数が500/μL(0.5 × 109/L)を超えるまで抗菌薬療法を継続するが,培養が依然として陰性であるなら,持続性の好中球減少症がみられる選択された患者,特に炎症の症候が消失している患者では,抗菌薬の中止を考慮することができる。

抗菌薬療法にもかかわらず,発熱が72時間を超えて継続する場合は,以下が示唆される:

  • 細菌以外の原因

  • 耐性菌による感染

  • 別の細菌による重複感染

  • 血清もしくは組織における不十分な抗菌薬濃度

  • 膿瘍などの局所感染

発熱が続く好中球減少症の患者では,2~4日毎に身体診察,培養,および胸部X線により再評価する。 発熱以外に異常が認められなければ,当初の抗菌薬レジメンを継続してもよく,薬剤性の発熱を考慮すべきである。患者の状態が悪化している場合は,抗菌薬のレジメン変更を考慮する(1)。

長く続く発熱および状態悪化の最も可能性の高い原因は真菌感染症である。広域抗菌薬療法の3~4日後も原因不明の発熱が持続している場合は,経験的に抗真菌薬療法を追加する。特異的な抗真菌薬(例,フルコナゾール,カスポファンギン,ボリコナゾール,ポサコナゾール)の選定は,リスクの種類(例,好中球減少症の期間および重症度,真菌感染症の病歴,狭域スペクトル抗真菌薬の使用にもかかわらず持続する発熱)に応じて異なるため,感染症専門医による指示を受けるべきである。

経験的療法から3週間後(2週間の抗真菌薬療法を含む)に発熱は持続しているが,好中球減少症が消失している場合は,全ての抗菌薬の中止を検討し,発熱の原因を再評価してもよい。

発熱のない好中球減少症の患者では,抗菌薬の予防投与を考慮してもよいが,細菌マイクロバイオームの変化により骨髄の回復が遅延する可能性がある。一般的に好中球数が7日以上にわたり100/μL(0.1 × 109/L)以下に減少するレジメンで化学療法を受ける患者に対しては,一部の施設でフルオロキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン,シプロフロキサシン)を用いた治療が行われている。抗菌薬の予防投与は,通常,治療を担当している腫瘍医によって開始される。好中球数が1500/μL(1.5 × 109/L)を超えるまで抗菌薬を継続する。また,発熱を伴わない好中球減少症の患者で真菌感染症のリスクが高まっている場合(例,造血幹細胞移植の後,急性骨髄性白血病または骨髄異形成疾患に対する強力な化学療法の後,真菌感染症の既往あり)は,抗真菌薬を投与できる。特異的な抗真菌薬の選定は,感染症専門医による指示に従うべきである。発熱を伴わない好中球減少症の患者で,危険因子がなく,特異的な化学療法レジメンを基に好中球減少の持続が7日間未満であると予想される場合,ルーチンでの抗菌薬および抗真菌薬の予防投与は推奨されない。

骨髄増殖因子製剤(顆粒球コロニー刺激因子[G-CSF])は,造血幹細胞移植または強力ながん化学療法を受けた患者において,好中球数の上昇と感染症の予防を目的として広く用いられている。発熱性好中球減少症のリスク(好中球数500μL[0.5 × 109/L]未満,前回の化学療法サイクルでの感染症発生,関連する併存疾患,または年齢75歳以上で判定する)が30%以上あれば,増殖因子製剤の適応となる(2)。一般に,化学療法の終了から約24時間後に骨髄増殖因子の投与を開始すると,臨床的有益性が最も高くなる。特異体質性の薬物反応に起因した好中球減少症がみられる患者でも,特に回復の遅れが予想される場合,G-CSFが有益となることがある。G-CSF(フィルグラスチム)の用量は5μg/kg,皮下,1日1回であり,ペグ化G-CSF(ペグフィルグラスチム)用量は6mg,皮下,化学療法サイクル毎である。

グルココルチコイド,タンパク質同化ステロイド,およびビタミンは,好中球の産生を刺激せず,好中球減少症のある患者にとって一般に助けとならない。急性好中球減少症の原因として薬剤または毒素が疑われる場合は,可能性のある病因因子を全て中止する。好中球数を減少させることが知られている抗菌薬(例,クロラムフェニコール)による治療中に好中球減少症が発生した場合は,代替抗菌薬への変更が推奨される。

中咽頭潰瘍を伴う口内炎の不快感は,生理食塩水または過酸化水素水による2~3時間毎の含嗽,液剤での含嗽(リドカインビスカス,ジフェンヒドラミン,液剤の制酸薬を含有),麻酔成分を含むトローチ剤(ベンゾカイン15mg,3または4時間毎)の服用,またはクロルヘキシジン(1%溶液)による1日2回または1日3回の含嗽で緩和することがある。

口腔または食道カンジダ症の治療では,ナイスタチン(40万~60万単位の含嗽液,1日4回;食道炎の場合は嚥下),クロトリマゾールのトローチ剤(10mg,1日5回,口腔内でゆっくり溶かす),または全身性抗真菌薬(例,フルコナゾール)を用いる。

急性口内炎または食道炎では,半固形食または流動食が必要になることがあり,不快感を最小限にするために外用鎮痛薬(例,リドカインビスカス)が必要になる場合がある。

慢性好中球減少症

先天性好中球減少症周期性好中球減少症,および特発性好中球減少症における好中球の産生および分化は,G-CSF 1~10μg/kg,皮下,1日1回の投与(低用量で開始して約1000/μL[1 × 109/L]を維持できる水準まで増量する)で通常は亢進する(3)。G-CSFを数カ月または数年にわたり連日または間欠投与すれば,効果が維持される。

G-CSFの長期投与は,ほかに軽度の慢性好中球減少症がみられる患者(骨髄異形成症候群,HIV感染症,および自己免疫疾患の患者を含む)にも行われている。G-CSFによる治療の臨床的なベネフィットは,あまり明確ではなく,特に好中球減少症が重度でない患者では,ほとんど示されていない。一部のLGL症候群患者など自己免疫疾患の患者や臓器移植を受けた患者に対しては,シクロスポリンが有益になる可能性もある。

かつては,脾腫と好中球のsplenic sequestrationが認められる患者(例,フェルティ症候群)に対して好中球数を増加させることを目的に脾臓摘出が行われていたが,増殖因子製剤やその他の新規治療法が多くの場合効果的であるため,脾臓摘出は控えるべきである。脾臓摘出は,痛みを伴う持続的な脾腫または重度の好中球減少症(500/μL[0.5 × 109/L]未満)がみられ,かつ感染症に伴って重篤な問題が生じている患者において,他の治療が不成功に終わった場合に考慮することができる。脾臓摘出を行った患者は莢膜を有する微生物に感染しやすくなるため,脾臓摘出の前に肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),髄膜炎菌(Neisseria meningitidis),およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)による感染に対する予防接種を行うべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Pizzo PA: Management of patients with fever and neutropenia through the arc of time: A narrative review.Ann Intern Med 170(6):389-397, 2019.doi: 10.7326/M18-3192

  2. 2.Becker PS, Griffiths EA, Alwan LM, et al: NCCN guidelines insights: Hematopoietic growth factors, version 1.2020.J Natl Compr Canc Netw 18(1):12-22, 2020.doi: 10.6004/jnccn.2020.0002

  3. 3.Dale DC, Bolyard AA, Shannon JA, et al: Outcomes for patients with severe chronic neutropenia treated with granulocyte colony-stimulating factor.Blood Adv 6(13):3861-3869, 2022.doi: 10.1182/bloodadvances.2021005684

要点

  • 好中球減少症は,細菌および真菌感染症の素因となる。

  • 感染のリスクは好中球減少症の重症度に比例し,好中球数が500/μL(0.5 × 109/L)未満の患者で最もリスクが高くなる。

  • 炎症反応が起こりにくいため,臨床所見が認められないことがあるが,通常は発熱がみられる。

  • 発熱がみられる好中球減少症の患者には,最終的な感染の同定まで経験的に広域抗菌薬を投与する。

  • 抗菌薬の予防投与は,高リスク患者における短期的戦略として適応となる場合がある。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS