市中肺炎

執筆者:Sanjay Sethi, MD, University at Buffalo, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences
レビュー/改訂 2022年 9月
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市中肺炎(Community-acquired pneumonia)は,病院の外で獲得した肺炎と定義されている。同定される頻度が最も高い病原体は,肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),非定型細菌(すなわち,肺炎クラミジア[Chlamydia pneumoniae],肺炎マイコプラズマ[Mycoplasma pneumoniae],Legionella属),およびウイルスである。症候は,発熱,咳嗽,喀痰産生,胸膜性胸痛,呼吸困難,頻呼吸,および頻脈である。診断は臨床像および胸部X線に基づく。治療は,経験的に選択した抗菌薬による。予後は比較的若いまたは健康な患者では極めて良好であるが,より高齢でより状態の悪い患者において,特に肺炎球菌(S. pneumoniae),レジオネラ(Legionella),黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),またはインフルエンザウイルスによって引き起こされる肺炎の多くは重篤または致死的である。

肺炎の概要も参照のこと。)

市中肺炎の病因

細菌,ウイルス,および真菌などの多くの微生物が,市中肺炎を引き起こす。病原体は患者の年齢およびその他の因子によって様々であるが(成人における市中肺炎の表を参照),大半の患者が徹底的な検査を受けないため,また受けたとしても特定の病原体が同定されるのは症例の50%未満であるため,市中肺炎の原因としての各病原体の相対的重要性は不明である。

細菌性の原因

最も一般的な細菌性の原因は以下のものである:

クラミジアおよびマイコプラズマによって引き起こされる肺炎は,しばしば臨床上他の肺炎と区別できない。

肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は市中肺炎の2~5%を占め,5~35歳の健常者における肺感染症の2番目に多い原因である。肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は,家庭,大学寮,および軍隊訓練キャンプにおける呼吸器感染症のアウトブレイクの一般的な原因である。比較的良性の肺炎を引き起こし,入院を必要とすることはほとんどない。Chlamydia psittaci肺炎(オウム病)はまれであり,オウム目の鳥(例,オウム,パラキート,コンゴウインコ)を飼育している患者,またはそのような鳥としばしば接触がある患者に発生する。

2000年以降,市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(CA-MRSA)による皮膚感染の発生率が顕著に増加している。この病原体はまれに空洞を伴う重症肺炎を引き起こすことがあり,若年成人を侵す傾向にある。

肺炎球菌(S. pneumoniae)およびMRSAは壊死性肺炎を引き起こしうる。

緑膿菌(P. aeruginosa)は,嚢胞性線維症好中球減少症,進行した後天性免疫不全症候群(AIDS),および/または気管支拡張症の患者における,特に頻度の高い肺炎の原因である。緑膿菌(P. aeruginosa)肺炎のもう1つの危険因子は,過去3カ月以内の入院における抗菌薬の静脈内投与である。

その他多くの微生物が,免疫能正常の患者における肺感染症の原因となる。

Q熱,野兎病,炭疽,およびペストは,まれな細菌症候群であるが,肺炎が著明な症状となりうる。野兎病炭疽,およびペストでは,バイオテロを疑うべきである。

ウイルス性の原因

細菌の重複感染が起こると,ウイルス性感染と細菌性感染の鑑別が困難になる可能性がある。

一般的なウイルス性の原因には以下のものがある:

エプスタイン-バーウイルスおよびコクサッキーウイルスは,よくみられるウイルスであり,まれに肺炎を引き起こす。季節性インフルエンザが直接ウイルス性肺炎を引き起こすことはまれであるが,しばしば重篤な二次性細菌性肺炎を生じる素因となる。水痘ウイルスおよびハンタウイルスは,成人の水痘およびハンタウイルス肺症候群の一部として肺感染症を引き起こす。コロナウイルス重症急性呼吸器症候群(SARS),中東呼吸器症候群(MERS),およびCOVID-19を引き起こす。

その他の原因

よくみられる病原真菌には,Histoplasma capsulatumヒストプラズマ症)およびCoccidioides immitisコクシジオイデス症)などがある。比較的まれな病原真菌には,Blastomyces dermatitidisブラストミセス症)およびParacoccidioides braziliensisパラコクシジオイデス症)などがある。Pneumocystis jiroveciiは一般に,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症患者または免疫抑制患者における肺炎の原因となる(易感染性患者における肺炎を参照)。

先進国で肺感染症を引き起こす寄生虫には,イヌ回虫(Toxocara canis)またはネコ回虫(T. catis)(トキソカラ症),イヌ糸状虫(Dirofilaria immitis)(イヌ糸状虫症),およびウェステルマン肺吸虫(Paragonimus westermani)(肺吸虫症)などがある。

肺結核および非結核性抗酸菌感染症については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

小児における肺炎

小児では,最も頻度の高い肺炎の原因は年齢によって異なる:

  • < 5歳:ウイルス性が最も多く,細菌の中では,肺炎球菌(S. pneumoniae),黄色ブドウ球菌(S. aureus),および化膿レンサ球菌(S. pyogenes)の頻度が高い

  • 5歳以上:細菌である肺炎球菌(S. pneumoniae),肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae),または肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)が最も多い

新生児における肺炎については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

市中肺炎の症状と徴候

症状としては,倦怠感,悪寒,振戦,発熱,咳嗽,呼吸困難,胸痛などがある。咳嗽は典型的には,より年長の小児と成人では湿性であり,乳児,幼児,および高齢者では乾性である。呼吸困難は通常,軽度かつ労作時に認められ,安静時に認められることはまれである。胸痛は胸膜性で,感染領域に隣接している。肺炎は,下葉の感染巣が横隔膜を刺激すると,上腹部痛として症状が現れることがある。消化管症状(悪心,嘔吐,下痢)もよくみられる。

極端に低いまたは極端に高い年齢では,症状は多様化する。乳児における感染では,非特異的な易刺激性および不穏として現れることがある。高齢者における感染では,錯乱および意識障害として現れることがある。

徴候には,発熱,頻呼吸,頻脈,断続性ラ音,気管支呼吸音,やぎ声(E to A change―「いー」から「えー」への音の変化―聴診の際,患者が「いー」と発音すると医師には聴診器で「えー」と聞こえる),および打診時の濁音などがある。胸水の徴候が認められることもある。乳児では鼻翼呼吸,呼吸補助筋の使用,およびチアノーゼがよくみられる。高齢者では,しばしば発熱を欠く。

以前は病原体の種類によって症候が異なると考えられていた。例えば,緩徐な発症,上気道感染症状の先行,びまん性の聴診所見,重症感(toxic appearance)がないことなどは,ウイルス性肺炎を示唆すると考えられていた。発症がより緩徐な場合,非定型病原体の可能性がより高いと考えられていたが,現在では市中アウトブレイクの際に非定型病原体の可能性がより高いとされている。しかしながら,典型的な肺炎と非定型肺炎でみられる症状は,かなり重複する。加えて,単独で特定の病原体を推定できるほど感度または特異度が高い症状または徴候は存在しない。症状および徴候は,過敏性肺炎および特発性器質化肺炎などの非感染性の炎症性肺疾患にも類似している。

市中肺炎の診断

  • 胸部X線

  • 他の診断の検討(例,心不全,肺塞栓症,炎症性肺疾患)

  • ときに病原体の同定

  • 重症度の評価およびリスク層別化

臨床像および胸部X線上の浸潤影に基づき肺炎の診断を疑う。肺炎の臨床的疑いが強いが,胸部X線で浸潤影がみられない場合は,CTまたは24~48時間後の胸部X線再撮影が推奨される。肺炎の重症度は様々な臨床因子および検査値を用いて推定され(リスク層別化を参照),これらはときに定量的なスコアリングシステムを用いて体系化される。通常,検査には,酸素飽和度,血算,および基本的または包括的な生化学検査(basic/complete metabolic profile)などが含まれる。

肺炎様症状を呈する患者の鑑別診断としては,急性気管支炎慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪などがあるが,これらは胸部X線で浸潤影を認めないことで肺炎と鑑別できる。心不全,器質化肺炎,過敏性肺炎などの他の疾患も考慮すべきであり,所見に一貫性がないか非典型的である場合は特に注意が必要である。よく誤診される最も重篤な病態は肺塞栓症であり,呼吸困難の発症が急性で,喀痰産生がごくわずかで,上気道感染症状も全身症状もなく,血栓塞栓症の危険因子(深部静脈血栓症のリスクの表を参照)を有する患者でより可能性が高い;そのため,そのような症状および危険因子のある患者では肺塞栓症の検査を考慮すべきである。

気管支鏡または吸引で得た検体の定量培養(もし抗菌薬投与前に検体が得られていれば)は,細菌の定着(すなわち,症状も炎症反応も引き起こさないレベルの微生物の存在)と感染との鑑別に役立つ可能性がある。しかしながら,気管支鏡検査は通常,機械的人工換気を受けている患者,またはまれな微生物による肺炎や合併症を伴う肺炎に対する他の危険因子(例,易感染状態,経験的治療の失敗)を有する患者にのみ施行される。

細菌性肺炎とウイルス性肺炎との鑑別は困難である。数多くの研究が,臨床検査,画像検査,およびルーチンの血液検査の有用性を調査しているが,どの検査もこの鑑別に十分な信頼性を有していない。ウイルスが同定されたとしても,細菌の同時感染は除外されないため,市中肺炎のほぼ全ての患者に抗菌薬が適応となる。

軽症肺炎の外来患者ではそれ以上の診断検査は不要である(市中肺炎のリスク層別化の表を参照)。中等症または重症肺炎の患者では,白血球数および電解質測定,血中尿素窒素(BUN),ならびにクレアチニンの値が,リスクおよび脱水状態の分類に有用である。酸素化の評価のため,パルスオキシメトリーまたは動脈血ガス分析も行うべきである。入院を必要とする中等症または重症肺炎の患者に対しては,菌血症および敗血症を評価するために血液培養を2セット行う。Infectious Diseases Society of America(IDSA)は,患者の人口統計学的因子および危険因子に基づき推奨される検査についての指針を発表している(Infectious Diseases Society of America Clinical Guidelines on Community-Acquired Pneumonia)。

病原体の同定

病因の診断は困難なことがある。頻度の低い微生物を疑うためには,旅行,ペット,趣味,およびその他の要素を含む曝露歴の徹底的な聴取が必須である。例えば,家畜への曝露はQ熱を示唆し,ホテルやクルーズ船での最近の滞在はレジオネラ感染症を示唆することがある。

病原体の同定は,治療方針の決定と細菌の抗菌薬に対する感受性の確認に有用となりうる。しかしながら,現在の診断検査法には限界があり,抗菌薬による経験的治療が成功を収めていることから,患者のリスクが高いか合併症がある状況(例,重症肺炎,易感染状態,無脾,経験的治療に反応しない)でなければ,微生物同定の試み(例,培養,特異的抗原検査)は制限するように専門家は推奨している。一般に,肺炎が軽症であるほど,そのような診断検査の必要性は低くなる。重症(critically ill)の患者は,徹底的な検査を行う必要があり,抗菌薬耐性またはまれな微生物(例,結核菌[Mycobacterium tuberculosis],P. jirovecii)が疑われる患者,および状態が悪化しているまたは72時間以内に治療への反応がみられない患者も同様である。

胸部X線所見による感染の種類の鑑別は通常不可能であるが,以下の所見は示唆的である:

  • 多葉性の浸潤影は肺炎球菌(S. pneumoniae)またはLegionella pneumophila感染を示唆する。

  • 間質性肺炎(胸部X線上,間質陰影の増強,肺尖部から肺底部に向かって増強する胸膜下の網状陰影がみられる)はウイルス性またはマイコプラズマ感染を示唆する。

  • 空洞を伴う肺炎は黄色ブドウ球菌(S. aureus)または真菌性もしくは抗酸菌性を示唆する。

肺炎の胸部X線所見
シルエットサインを伴う右中葉の肺炎
シルエットサインを伴う右中葉の肺炎

この胸部X線画像では,右心縁と融合するような浸潤影(シルエットサイン)がみられる。シルエットサインは,放射線透過性が同等の2つの構造物が連続した位置にあることを示す;右心縁と連続している肺の領域は右中葉であるため,右中葉に肺炎の浸潤影が存在することがわかる。

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右下葉の肺炎
右下葉の肺炎

この胸部X線画像では,右心縁を覆い隠さない浸潤影(すなわち,シルエットサイン陰性)がみられる。シルエットサインは,2つの連続する構造物が同等の放射線透過性をもつときにみられるため,この浸潤影のある肺領域は,右心縁と連続していない,すなわち右下葉であることがわかる。

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左下葉の浸潤影
左下葉の浸潤影

細菌性肺炎の男性における左下葉の肺胞浸潤影。

By permission of the publisher. From Roberts R. In Atlas of Infectious Diseases: Pleuropulmonary and Bronchial Infections.Edited by GL Mandell (series editor) and MS Simberkoff. Philadelphia, Current Medicine, 1996.

多葉性(multilobar)の肺炎
多葉性(multilobar)の肺炎

64歳男性の肺炎球菌性肺炎における右上,中,および下葉のコンソリデーション(浸潤影)。

By permission of the publisher. From Roberts R. In Atlas of Infectious Diseases: Pleuropulmonary and Bronchial Infections.Edited by GL Mandell (series editor) and MS Simberkoff. Philadelphia, Current Medicine, 1996.

間質陰影
間質陰影

高齢男性のRSウイルス性肺炎における両側性間質陰影。

By permission of the publisher. From Betts R, Falsey A, Hall C, et al. In Atlas of Infectious Diseases: Pleuropulmonary and Bronchial Infections.Edited by GL Mandell (series editor) and MS Simberkoff. Philadelphia, Current Medicine, 1996.

重症肺炎
重症肺炎

挿管患者において,複数の両側浸潤影(右上葉のものが顕著)を認める。Arrow indicates the right horizontal fissure.

Photo courtesy of Thomas M. File, Jr., MD MSc MACP FIDSA FCCP.

肺炎による入院患者ではしばしば血液培養が行われるが,菌血症があれば,これにより起炎病原細菌が同定できる。肺炎による入院患者全体の約12%は菌血症を有し,肺炎球菌(S. pneumoniae)によるものは症例の3分の2を占める。

喀痰検査には,病原体同定のためのグラム染色および培養などがあるが,検体がしばしば口腔細菌叢で汚染されるため,これらの検査の価値は不明であり,全体的な診断率は低い。しかし,喀痰培養によって病原細菌が同定されれば,感受性試験を行うことが可能となる。喀痰検体の採取により,直接蛍光抗体法またはPCR法(PCR)による病原ウイルスの検査も可能となるが,健康な成人でも15%が呼吸器系ウイルスや病原性を示しうる細菌を保有しているため,解釈には注意が必要である。状態が悪化し続ける患者および広域抗菌薬に反応しない患者では,喀痰検査にて抗酸菌および真菌に対する染色および培養を行うべきである。

喀痰検体は,単純な喀出によって,または喀痰できない患者では高張食塩水の噴霧により(誘発喀痰),非侵襲的に採取できる。代わりに,気管支鏡または気管内吸引を用いてもよく,どちらも機械的人工換気下の患者では気管内チューブから容易に施行できる。それ以外では,気管支鏡による検体採取は,他の危険因子(例,易感染状態,経験的治療の失敗)を有する患者でのみ行われる。

尿検査はレジオネラ(Legionella)抗原および肺炎球菌抗原に対して,現在広く利用できる。この検査は簡便かつ迅速で,これらの病原体に関しては,喀痰のグラム染色および培養よりも感度および特異度が高い。レジオネラ(Legionella)肺炎のリスク(例,重症,外来での抗菌薬治療の失敗,胸水の存在,アルコール乱用,最近の旅行)がある患者は,尿中レジオネラ(Legionella)抗原検査を受けるべきであり,この抗原は治療開始後長期間尿中に残存するが,検査で検出できるのはL. pneumophilaの血清群1のみ(症例の70%)である。

肺炎球菌抗原検査は,重症の患者;外来での抗菌薬治療が失敗した患者;または胸水,大量のアルコール乱用,重度の肝疾患がある患者,もしくは無脾患者に推奨される。抗菌薬療法開始前に十分な喀痰検体または血液培養が得られなかった患者では,この検査は特に有用である。陽性の結果は抗菌薬療法の調整に利用できるが,抗菌薬に対する感受性を示すものではない。

現在のパンデミック中に肺炎が認められる患者には,気道分泌物(上咽頭検体が望ましい)を用いた逆転写PCR(RT-PCR)によるCOVID-19の検査が推奨される。

血清プロカルシトニンは,細菌感染を感染または炎症の他の原因と鑑別するのに役立つことがある。しかしながら,市中肺炎において血清プロカルシトニン値を抗菌薬療法を開始するかどうかの基準として用いることは推奨されていない。臨床判断とともに,下気道感染症における抗菌薬の早期中止の指針として用いることはできる。

市中肺炎の予後

短期死亡率は疾患の重症度に関連する。外来治療の対象となる患者における死亡率は1%未満である。入院患者における死亡率は8%である。死因には,肺炎そのもの,敗血症症候群への進行,または基礎にある併存疾患の増悪などがある。肺炎による入院患者では,退院後1年間の死亡リスクが上昇する。

死亡率は病原体によってある程度変わる。死亡率はグラム陰性細菌およびCA-MRSAの場合に最も高い。しかしながら,これらの病原体は市中肺炎の原因として比較的頻度が低いため,肺炎球菌(S. pneumoniae)が市中肺炎患者における最多の死因である。Mycoplasmaのような非定型病原体による肺炎は予後良好である。抗菌薬による初期の経験的治療に反応しない患者,および治療レジメンがガイドラインに沿っていない患者で,より死亡率が高い。

市中肺炎の治療

  • 治療場所決定のためのリスク層別化

  • 抗菌薬

  • インフルエンザまたは水痘に対し抗ウイルス薬

  • 支持療法

リスク層別化

リスク予測尺度(risk prediction rule)によるリスク層別化は,死亡リスク推定に用いられ,さらには入院に関する判断を助ける指標となる。これらの予測尺度は,外来で安全に治療しうる患者,および合併症リスクが高いため入院を必要とする患者の同定に使用されている(市中肺炎のリスク層別化の表を参照)。しかしながら,アドヒアランスの可能性や自己ケアの能力,経口摂取を維持できるかどうかなど,トリアージの決定に影響を及ぼす多くの因子が考慮されていないため,これらの尺度は臨床判断に取って代わるものではなく,補足的に利用すべきである。

以下の患者は集中治療室(ICU)への入室が必要である:

  • 機械的人工換気を必要とする患者

  • 大量輸液に反応しない低血圧(収縮期血圧 ≤ 90mmHg)がある患者

ICU入室を考慮すべきその他の基準には以下のものがあり,このうち3つ以上に当てはまる場合は特に強く考慮すべきである:

  • 輸液を必要とする低血圧

  • 呼吸数 > 30/分

  • PaO2/吸入気酸素分画(FIO2) < 250

  • 多葉性の肺炎

  • 錯乱

  • 血中尿素窒素(BUN) > 19.6mg/dL(> 7mmol/L)

  • 白血球数 < 4000/μL(< 4 × 109/L)

  • 血小板数 < 100,000/μL(< 100 × 109/L)

  • 体温 < 36℃

Pneumonia Severity Index(PSI)は最もよく研究され妥当性が確認されている予測尺度である。しかしながら,PSIは複雑で,複数の臨床検査を必要とするため,臨床での使用にはCURB-65などのより簡便な尺度が推奨される。このような予測尺度の利用により,比較的軽症である患者の不必要な入院の減少につながっている。

CURB-65では以下の危険因子1つにつき1点加算される:

  • 錯乱(Confusion)

  • 尿毒症(Uremia,BUN ≥ 19mg/dL[6.8mmol/L])

  • 呼吸数(Respiratory rate) > 30回/分

  • 収縮期血圧(Blood pressure) < 90mmHg,または拡張期血圧 ≤ 60mmHg

  • 年齢 ≥ 65

スコアは以下のように用いる:

  • 0または1点:死亡リスク < 3%。通常外来治療が適切である。

  • 2点:死亡リスクは9%。入院を考慮すべきである。

  • ≥ 3点:死亡リスクは15~40%。入院が適応となり,特に4または5点の場合,ICU入室を考慮すべきである。

BUN測定が容易に行えない臨床状況では,代わりに CRB-65スコアを用いることができる。CRB-65スコアの使用法はCURB-65の場合と同様であり,0点:外来治療が適切である;1~2点:入院を考慮すべきである;≥ 3点:ICU入室を考慮すべきである。

表&コラム
表&コラム

抗菌薬

抗菌薬療法は市中肺炎の治療の中心である。適切な治療のためには,可及的速やかに,できれば発症後4時間以内に抗菌薬の経験的投与を開始する。病原体の同定は困難で時間がかかるため,抗菌薬の経験的投与レジメンの選択は,可能性の高い病原体および疾患の重症度に基づいて行う。多くの専門家団体によってコンセンサスガイドラインが開発されており,広く使用されているものの1つを成人における市中肺炎の表で詳述している(Infectious Diseases Society of America Clinical Guideline on Community-Acquired Pneumoniaも参照)。ガイドラインは,地域の感受性のパターン,償還医薬品集,および個々の患者の状況を考慮して利用すべきである。後に病原体が同定されれば,薬剤感受性試験の結果が抗菌薬を変更する上での指針となりうる。オマダサイクリン(omadacycline)およびレファムリン(lefamulin)を考慮することができ,特に通常推奨される選択肢が適切でない状況において考慮することができる。

小児患者の治療法は,年齢,ワクチン接種歴,および外来治療か入院治療かによって異なる。

小児の外来治療の内容は,年齢によって決まる:

  • < 5歳:アモキシシリンまたはアモキシシリン/クラブラン酸が通常選択すべき薬剤である。疫学的に非定型病原体が原因として示唆され,臨床所見が一致していれば,代わりにマクロライド系薬剤(例,アジスロマイシン,クラリスロマイシン)を使用してもよい。臨床的特徴からウイルス性肺炎が強く示唆される場合,抗菌薬を使用しないよう提言している専門家もいる。

  • 5歳以上:アモキシシリンまたは(特に非定型病原体が除外できない場合)アモキシシリンとマクロライド系薬剤の併用。アモキシシリン/クラブラン酸は代替手段である。原因が非定型病原体と考えられる場合,代わりにマクロライド系薬剤を単独投与してもよい。

小児の入院治療では,抗菌薬療法のスペクトルは広くなる傾向があり,患児のワクチン接種歴に依存する:

  • ワクチン接種(肺炎球菌[S. pneumoniae]およびインフルエンザ菌[H. influenzae]b型に対する)が完了している場合:アンピシリンまたはベンジルペニシリン(代替手段としてセフトリアキソンまたはセフォタキシム)。MRSAが疑われる場合,バンコマイシンまたはクリンダマイシンを追加する。非定型病原体が除外できない場合,マクロライド系薬剤を追加する。

  • ワクチン接種が完了していない場合:セフトリアキソンまたはセフォタキシム(代替手段としてレボフロキサシン)。MRSAが疑われる場合,バンコマイシンまたはクリンダマイシンを追加する。非定型病原体が除外できない場合,マクロライド系薬剤を追加する。

詳細はClinical Practice Guidelines by the Pediatric Infectious Diseases Society and the Infectious Diseases Society of Americaで述べられている。

経験的治療により,90%の細菌性肺炎の患者は改善する。改善は,咳嗽および呼吸困難の減少,解熱,胸痛の緩和,および白血球数の減少によって示される。改善しない場合,以下を疑うべきである:

  • まれな微生物

  • 治療に使用された抗菌薬への耐性

  • 膿胸

  • 第2の病原体の同時感染または重複感染

  • 閉塞性の気管支内病変

  • 免疫抑制

  • 播種を伴う転移性の感染巣(肺炎球菌感染症の場合)

  • 治療の不遵守(外来治療の場合)

  • 誤診(すなわち,急性過敏性肺炎などの非感染性の原因)

通常の治療が不成功だった場合,呼吸器疾患および/または感染症専門医へのコンサルテーションが適応となる。

抗ウイルス療法は,特定のウイルス性肺炎に適応となる場合がある。小児,成人ともRSウイルス性肺炎に対しルーチンにリバビリンが使用されることはないが,24カ月未満で特にリスクが高い患児に使用される場合がある。

インフルエンザの場合,インフルエンザ感染症を発症した患者において,オセルタミビル75mgの1日2回経口投与,またはザナミビル10mgの1日2回吸入を発症から48時間以内に開始し5日間継続投与することで,症状の持続時間および重症度が低減する。あるいは,発症から48時間以内に,40~79kgの患者にはバロキサビル40mgの単回投与,80kg以上の患者には80mgの単回投与を行ってもよい。インフルエンザ感染症が確認された入院患者においては,発症後48時間経過してもこれらの治療が有益であることを複数の観察研究が示唆している。

アシクロビル(成人では10mg/kgを8時間毎に静注,小児では250~500mg/体表面積m2を8時間毎に静注)が,水痘ウイルスによる肺感染に対して推奨される。

純粋なウイルス性肺炎も存在するものの,細菌の重複感染が多く,肺炎球菌(S. pneumoniae),インフルエンザ菌(H. influenzae),および黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する抗菌薬が必要となる。

肺炎の臨床所見が予想通りに消失した患者では,フォローアップのX線は一般に推奨されない。X線上の異常の消失は,臨床所見の消失に数週間遅れることがある。肺炎症状が消失しないか,経時的に悪化する患者では,胸部X線を考慮すべきである。

表&コラム
表&コラム

支持療法

支持療法には,補液,解熱薬(高熱に対して必要に応じて),鎮痛薬,および低酸素血症の患者に対する酸素投与などがある。血栓性疾患に対する予防および早期離床は,肺炎による入院患者の転帰を改善する。喫煙者には禁煙カウンセリングも行うべきである。

医療ケア関連肺炎

医療ケア関連肺炎という肺炎のカテゴリーは,院内肺炎のための2016 Infectious Diseases Society of America guidelinesで肺炎の別のカテゴリーとして削除された。医療ケア関連肺炎は,介護施設またはその他の長期療養施設の居住者,透析センターや点滴センターへの通院者など,医療施設と最近接触があった市中患者に発生する肺炎を含む。このカテゴリーは,抗菌薬耐性菌のリスクが高い患者を特定するために設定された。しかし,2016年のIDSAのガイドラインによると,医療ケア関連肺炎患者の多くは,抗菌薬耐性菌に感染していないというエビデンスが増えていることが判明した。むしろ,これらの患者における抗菌薬耐性菌のリスクは,市中肺炎の患者で検証された危険因子に基づくと考えられる。

市中肺炎の予防

市中肺炎の中にはワクチン接種で予防できるものがある。肺炎球菌ワクチンの接種は,65歳以上の全ての健康成人と,慢性疾患がある,易感染状態にある,もしくは無脾症である,または髄膜炎のリスクが高い19~64歳の成人に推奨される。いくつかの肺炎球菌ワクチンが利用できる:

  • 20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)は,単独ワクチンとして推奨されている。

  • 代わりに,15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)と,その後1年以上空けて接種する23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)を併用することもできる。易感染性患者など特定の高リスク患者では,この2つのワクチンの接種間隔を8週間以上に短縮することができる。

  • 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)の一連の接種が生後2カ月から2歳までの小児に推奨されている。侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが高い2~18歳の小児には,肺炎球菌PPSV23の追加接種が推奨される。

両方の肺炎球菌ワクチンの全適応を示したリストはCDCのウェブサイトで閲覧可能である。CDCのウェブサイトには,インフルエンザ菌(H. influenzae)b型(Hib)ワクチン< 2歳の患者の場合),水痘ワクチン< 18カ月の患者およびその後の追加接種の場合),ならびにインフルエンザワクチン( ≥ 6カ月の全員,特に重篤なインフルエンザ関連合併症を発症するリスクがある場合は毎年)など,その他のワクチンに対する推奨も記載されている。リスクの高い集団には,65歳以上の人,特定の慢性疾患(糖尿病,喘息,心疾患など)がある人,妊婦,および幼児などが含まれる。

インフルエンザワクチンの接種を受けていない高リスク患者およびインフルエンザ患者との家庭内接触者には,オセルタミビル75mgを1日1回またはザナミビル10mgを1日1回,2週間にわたり経口で投与できる。曝露から48時間以内にこれらの抗ウイルス薬を開始すれば,インフルエンザを予防できる可能性がある(ただしオセルタミビルについては耐性が報告されている)。

禁煙により肺炎の発生リスクを低減できる。

要点

  • 市中肺炎は米国および世界における主要な死因である。

  • よくみられる症候には,咳嗽,発熱,悪寒,疲労,呼吸困難,振戦,喀痰産生,および胸膜性胸痛などがある。

  • リスクが軽度または中等度の肺炎患者では,基礎にある病原体を同定する検査は行わずに,抗菌薬の経験的投与により治療する。

  • リスク評価用のツールを用いて高リスクであるとされた患者は入院させる。

  • 肺塞栓症などの別の診断を考慮するべきであり,肺炎様症状および徴候が非典型的であれば特に注意が必要である。

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