Haemophilus属細菌による感染症

(Haemophilus感染症)

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;
Maria T. Vazquez-Pertejo, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center
レビュー/改訂 2022年 4月
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グラム陰性細菌であるHaemophilus属細菌は,菌血症,髄膜炎,肺炎,副鼻腔炎,中耳炎,蜂窩織炎,喉頭蓋炎など,数多くの軽度および重篤な感染症を引き起こす。診断は培養および血清型別検査による。治療は抗菌薬による。

多くのHaemophilus属細菌は上気道の常在菌叢の一部であり,疾患を引き起こすことはまれである。病原性株は飛沫の吸入または直接接触を介して上気道に侵入する。免疫のない集団では急速に拡大する。小児(特に男性,黒人,およびアメリカ先住民)は重篤感染症のリスクが最も高い。過密な居住環境や託児所の環境は,免疫不全状態,無脾症,および鎌状赤血球症と同様に,感染の素因となる。

Haemophilus属にはいくつかの病原性菌種があり,その中でも最も頻度が高いものがインフルエンザ菌(H. influenzae)で,6つの莢膜血清型(a~f)と莢膜をもたない多数の無莢膜型(nontypeable)菌株がある。インフルエンザ菌()b型(Hib)結合型ワクチンの導入以前は,重篤な侵襲性感染例の大半がb型によるものであった。

Haemophilus属細菌による疾患

インフルエンザ菌(H. influenzae)は,髄膜炎菌血症化膿性関節炎肺炎気管気管支炎中耳炎結膜炎副鼻腔炎喉頭蓋炎など,数多くの小児期感染症の原因菌である。これらの感染症は,心内膜炎および尿路感染症と同様に成人にも起こりうるが,その頻度ははるかに低い。これらの疾患については,本マニュアルの別の箇所に記載されている。

インフルエンザ菌(H. influenzae)の分類不能型菌株は,主に粘膜感染症(例,中耳炎,副鼻腔炎,結膜炎,気管支炎)を起こす。ときに,莢膜をもたない菌株が小児において侵襲性感染症を引き起こすが,成人ではこれらの菌株が重篤なインフルエンザ菌(H. influenzae)感染症の最大で半数を占めている可能性がある。

インフルエンザ菌(H. influenzae)の生物型aegyptius(かつてはH. aegyptiusと呼ばれていた)は,粘液膿性の結膜炎やブラジル紫斑熱を引き起こすことがある。H. ducreyi軟性下疳を引き起こす。パラインフルエンザ菌(H. parainfluenzae)およびH. aphrophilusは,まれに菌血症,心内膜炎,および脳膿瘍を引き起こす。

ヘモフィルス感染症の診断

  • 培養

  • ときに血清型別検査

Haemophilus属細菌による感染症の診断は血液および体液の培養による。侵襲性疾患に関連する菌株の血清型別を行うべきである。

ヘモフィルス感染症の治療

  • 感染部位と重症度に基づいて選択した種々の抗菌薬

Haemophilus属細菌による感染症の治療は感染の性質および部位に依存するが,侵襲性疾患には,β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬,フルオロキノロン系,第2および第3世代セファロスポリン系が使用される。Hib結合型ワクチンにより菌血症の発生率は著しく低下している。

重篤な状態の小児は入院させ,抗菌薬治療の開始後24時間は接触および空気感染隔離とする。

抗菌薬の選択は感染部位に強く依存し,感受性試験を必要とする;米国では多くの分離株がβ-ラクタマーゼを産生する(例,50%を超える株がアンピシリン耐性である)。

髄膜炎を含む侵襲性感染症にはセフォタキシムまたはセフトリアキソンが推奨される。さほど重篤でない感染症に対しては,一般に経口セファロスポリン系(セファレキシンなどの第1世代セファロスポリン系を除く),アジスロマイシンまたはその他のマクロライド系薬剤,アモキシシリン/クラブラン酸,オマダサイクリン(omadacycline),およびレファムリン(lefamulin)が効果的である。(具体的な推奨については,各疾患の項を参照のこと。)

セフォタキシムおよびセフトリアキソンは呼吸器のインフルエンザ菌(H. influenzae)を除菌するが,全身性感染症に使用される他の抗菌薬では確実に除菌できるとは限らない。したがって,セフォタキシムまたはセフトリアキソンによる治療を受けなかった全身性感染症の小児には,治療完了後から他の小児との接触再開までの間に直ちにリファンピシンを投与すべきである。

ヘモフィルス感染症の予防

Hib結合型ワクチンは,生後2カ月以上の小児に使用でき,侵襲性感染症(例,髄膜炎,喉頭蓋炎,菌血症)を99%減少させる。初回接種としては,ワクチン製剤に応じて,生後2,4,および6カ月時,または生後2および4カ月時に接種する。追加接種は生後12~15カ月時に適応となる。

家庭内の接触者はインフルエンザ菌(H. influenzae)の無症候性保菌者となりうる。予防接種を全くまたは部分的に受けていない4歳未満の家庭内接触者は感染のリスクがあり,ワクチン接種を受けるべきである。さらに,家族全員(妊婦は除く)がリファンピシン600mg(生後1カ月以上の小児では20mg/kg,生後1カ月未満の小児では10mg/kg),経口,1日1回,4日間の予防投与を受けるべきである。

保育所ないし保育施設の接触者は,60日以内に侵襲性感染症が2例以上発生した場合には予防処置を受けるべきである。症例が1例のみであった場合の予防処置の有益性は確立されていない。

要点

  • Haemophilus属のいくつかの菌種は病原性を有し,その中で最も頻度が高いものがインフルエンザ菌(H. influenzae)である。

  • インフルエンザ菌(H. influenzae)は,主に小児において,様々な粘膜感染症と頻度は低いが侵襲性感染症を引き起こす。

  • 抗菌薬の選択は感染部位に強く依存し,感受性試験を必要とする。

  • H. influenzae(Hib)結合型ワクチンは,ルーチンの小児期予防接種の一環として生後2カ月以上の小児に対して接種されており,侵襲性感染症を99%減少させている。

  • 濃厚接触者はインフルエンザ菌(H. influenzae)の無症候性保菌者となることがあるため,典型的にはリファンピシンを予防投与する。

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