禁煙

執筆者:Judith J. Prochaska, PhD, MPH, Stanford Prevention Research Center, Stanford University
レビュー/改訂 2020年 12月
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大半の喫煙者は禁煙したいと願い,それを試みているが,成功率は限られている。効果的な介入としては,禁煙カウンセリングとバレニクリン,ブプロピオン,ニコチン代替製品などの薬剤投与がある。

米国の喫煙者の約70%は,喫煙をやめることを望んでおり,少なくとも1回は禁煙を試みたことがあると言う。ニコチンの離脱症状は,禁煙の重大な障壁となりうる。

タバコおよびベイピングも参照のこと。)

ニコチン離脱症状

離脱症状はしばしば強力で,多くの喫煙者は,たとえ健康面のリスクを認識していても,禁煙することができない。禁煙は強い離脱症状を引き起こすことがあり,具体的にはタバコ中のニコチンに対する激しい渇望,不安,抑うつ気分,集中力の低下,易刺激性,不穏,不眠症,空腹感,頭痛,消化管障害,睡眠障害などが認められる。これらの症状は最初の3日間(禁煙を試みる人々の大半が喫煙を再開してしまう期間)が最悪で,大半の喫煙者では大部分の症状が2~4週間以内に治まるが,一部の症状(渇望など)は何カ月にもわたり持続することがある。体重増加がよくみられ,禁煙者は体重が平均4~5kg増加し,これが喫煙の再開につながるもう1つの理由である。禁煙後には,一過性の咳嗽,頭痛および便秘が発生することがある。

禁煙の予後

米国では毎年約2千万人の喫煙者(全喫煙者のほぼ半数)が,通常は突然かつ完全にタバコを断つ方法(cold turkey)やその他のエビデンスに基づかない方法で禁煙を試み,結果として数日,数週間,または数カ月で喫煙を再開している。大多数は喫煙再開と禁煙の間で一進一退を繰り返す。補助なしの禁煙の長期の成功率は約5~7%である。対照的に,エビデンスに基づく禁煙カウンセリングと推奨薬剤を利用した喫煙者では,1年間の成功率が最大20~30%である。

18歳未満の喫煙者は,大半が5年後には喫煙をやめていると考えており,40~50%が過去1年間に禁煙を試みたと報告する。しかしながら,縦断研究では,全体として毎日喫煙する高校生の73%が5~6年後も引き続き毎日喫煙していることが示されている。

介入

エビデンスに基づくカウンセリングおよび薬物治療は,ともにタバコ使用およびタバコ依存の治療に効果的であり,カウンセリングと薬物治療の併用は,どちらか単独での介入よりも効果的である。

喫煙には慢性疾患の特徴が数多くみられる。したがって,喫煙者,特に禁煙する準備ができていない喫煙者や禁煙を考えたことのない喫煙者を治療するためのエビデンスに基づく至適なアプローチは,以下に示す慢性疾患の管理と同じ原則を指針とするべきである:

  • 喫煙状況を継続的に評価およびモニタリングする

  • 患者毎にエビデンスに基づく異なる介入(または組合せ)を選択し,患者の過去の経験と治療に関する希望に沿って構築する

  • 完全な禁煙を達成できない患者には,完全な禁煙が最終目標であることを強調しながら,一時的な禁煙および減煙を勧める

減煙は禁煙に対する意欲を増進させる可能性があるが(特にニコチン代替療法と組み合わせた場合),1日の喫煙本数を減らすと,ニコチン摂取量を維持するためにタバコ1本当たりより多くの煙(ひいてはより多くの毒素)を吸引するようになる場合が多いため,喫煙本数を減らしても健康の改善につながらない可能性があることを喫煙者に思い出させるべきである。

催眠療法,鍼治療,レーザー,ハーブなどの禁煙に対する代替のアプローチについては,有効性が証明されておらず,ルーチンの利用は推奨できない。

エビデンスに基づくカウンセリング

カウンセリングの取組みは5つのAで表すことができる:

  • 受診のたびにタバコを使用しているかどうかを尋ね(Ask),その回答を記録する。

  • 全ての喫煙者に対し,タバコをやめるように,非判断的で各個人に合わせた明確かつ強い言葉で助言する(Advise)。

  • 今後30日以内に禁煙する意志が喫煙者にあるかどうかを評価し(Assess),今後30日以内に禁煙するつもりのない喫煙者には禁煙の便益を強調する。

  • 禁煙の試みに意欲的な喫煙者には,短時間のカウンセリングと薬物治療を行って支援する(Assist)。

  • 喫煙の再開を防ぐために,フォローアップの予定をできれば禁煙開始予定日から1週間以内に,そしてその後再度設定する(Arrange)。

禁煙に意欲的な喫煙者では,臨床医は患者と相談して禁煙開始日を可能であれば2週間以内に設定するとともに,減煙よりも完全にタバコを断つ方が効果的であることを強調すべきである。過去の禁煙体験を再検討することで,何が役立ち何が役立たなかったかを確認することができ,また喫煙の誘因や禁煙の妨げを事前に考慮に入れておくべきである。例えば,飲酒は喫煙再開との関連がみられるため,飲酒の制限または禁酒について話し合うべきである。さらに,家の中で他の人が喫煙していると,禁煙はさらに困難になるため,喫煙する配偶者および同居者は家の外で喫煙するか,一緒に禁煙することを奨励すべきである。臨床医は,禁煙の試みを支えるため,受診機会を増やし,支援を強化するべきである。

喫煙者の担当医が行う短時間のカウンセリングに加えて,カウンセリングプログラムも助けになりうる。それらのプログラムでは通常は認知行動療法が用いられ,様々な保健プログラムによって勧められている。成功率は自助的なプログラムよりも高い。米国の全ての州が電話での禁煙相談を行っており,そこでは禁煙を試みる人々にカウンセリングによる支援(およびときにニコチン代替療法)を提供している。米国内のどこからでも1-800-QUIT-NOW(1-800-784-8669)に無料で電話することができる。電話での禁煙相談は,少なくとも対面式のカウンセリングと同程度に効果的なようである。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)のウェブサイト(smokefree.gov)では,情報,各人に合わせた禁煙計画およびテキストベースの支援を提供している。

禁煙のための薬剤

禁煙に効果的かつ安全な薬剤としては,バレニクリン,ブプロピオン徐放錠,5種類のニコチン代替療法(ガム,トローチ,パッチ,吸入器,および鼻腔スプレー―禁煙のための薬剤の表を参照)などがある。ブプロピオンの作用機序は,脳内でのノルアドレナリンおよびドパミンの放出増加である。バレニクリンはニコチン性アセチルコリン受容体(α-4β-2サブユニット)に作用するが,部分作動薬としてニコチン様作用を示すととともに,部分拮抗薬としてニコチンの作用を遮断する。バレニクリンの作用は,ニコチンの離脱症状を緩和すること,および患者が喫煙してしまった場合にその快感作用を低下させることである。バレニクリンは禁煙に利用できる最も効果的な単剤療法である。

複数のニコチン代替製品の併用は,単独での使用時より効果的であり,バレニクリンと同等の効力を有する。例えば,ニコチンパッチと短時間作用型ニコチン代替製剤(例,トローチ,ガム,鼻腔スプレー,吸入器)の併用は単独療法よりも効果的である。組み合わせて使用した場合,ニコチンパッチはニコチン濃度を持続的に維持するのに役立つ一方,ガム,トローチ剤,吸入器,または鼻腔スプレーは,急激な渇望に応じて迅速にニコチン濃度を上昇させることを可能にする。ニコチン代替療法薬は,タバコ1本/日当たり約1mgを投与する。ニコチンパッチを使用する患者は,喫煙してしまった場合でも,パッチを貼ったままにしておくべきである。

喫煙者は,禁煙のためにニコチン製品を使用するとニコチン依存症が残るのではないかと心配することがあるが,そのような依存症が持続することはまれである。重要な点は,薬物への依存の可能性は,薬物が脳に到達する速度に関連しているということである。いずれのニコチン代替製品も,ニコチンが脳に到達する速さは喫煙(8~10秒)には遠く及ばないため,ニコチン代替製品の方が依存性が弱い。薬剤の選択では,医師が各薬剤に精通しているかどうか,喫煙者の好みと過去の経験(良くも悪くも),および禁忌の有無を参考にする。

効力は証明されているにもかかわらず,禁煙のために薬剤を使用する喫煙者は,禁煙を試みる喫煙者全体の25%未満である。喫煙者が禁煙を試みる際に禁煙のための薬剤を使用しない理由としては,保険の適用率の低さ,有害作用および喫煙とニコチン補充が同時に行われる状況の安全性に関する懸念,過去の禁煙の失敗による患者の気力の無さなどが挙げられる。

現在研究が進められている禁煙療法として,シチシン(cytisine),ブロモクリプチン,トピラマートなどの薬剤がある。ワクチン療法は研究されていたが効果がないことが判明している。

表&コラム
表&コラム

薬剤の安全性

ブプロピオンの禁忌として,痙攣発作および摂食症の既往や過去2週間以内のモノアミン酸化酵素阻害薬の使用歴などがある。

ブプロピオン徐放錠またはバレニクリンを使用した際に発生した重篤または臨床的に有意な精神神経有害事象の市販後報告には,行動変化,敵意,興奮,抑うつ気分,自殺念慮,自殺企図,および自殺既遂などが含まれる。バレニクリンまたはブプロピオン徐放錠により禁煙を試みる患者については,臨床医はこのような症状が現れていないか観察を行い,このような有害事象が現れた場合にはバレニクリンまたはブプロピオン徐放錠の使用を中止し,直ちに医療提供者と連絡を取るように助言すべきである。精神神経症状により治療を中止した場合,症状が消失するまで患者をモニタリングすべきである。それでもなお,喫煙のリスクは当該薬剤の服用によるリスクを大きく上回っているため,大半の専門家は大半の喫煙者にバレニクリンを推奨している。しかし,自殺リスクがある喫煙者ではバレニクリンの使用は避けることが妥当である。

バレニクリンを服用する患者の中には,アルコールの影響の増大を報告する人もいる。バレニクリンが影響するかどうかが分かるまでは,飲酒量を減らすよう患者に指示を与える。

特定の心血管リスクがある喫煙者(心筋梗塞の発症後2週間以内,重篤な不整脈がある,または重篤な狭心症を有する患者)には,ニコチン代替療法は慎重に用いるべきであるが,大半のデータはそのような治療が安全であることを示唆している。ニコチンガムは顎関節症候群の喫煙者では禁忌であり,ニコチンパッチは重度の局所感作がみられる喫煙者では禁忌である。

安全性上の懸念がある,効力に関するデータが不十分である,またはその両方を理由として,以下の集団では禁煙のための薬剤の使用は推奨されない:

  • 妊娠中の喫煙者

  • 軽度喫煙者(1日10本未満)

  • 青年(18歳未満)(習慣的なヘビースモーカーは例外と考えられる)

  • 無煙タバコの使用者

電子タバコと禁煙

電子タバコはニコチン送達の一形態であり,一部の装置は燃焼式タバコと同程度の速さでニコチンを脳に送達すると考えられている。

一部の臨床医は,電子タバコをニコチン代替製品の一種とみなして禁煙での使用に検討することを提案している。しかしながら,米国科学アカデミー(National Academies of Sciences)は,禁煙用の装置としての電子タバコの有効性について十分なエビデンスはないと結論付けている。また,一部の電子タバコ装置から吸い込まれるニコチンは,タバコの喫煙の場合と同じくらい急速に脳に到達するため,有害な曝露は燃焼式タバコに伴うものより少ないものの,電子タバコにも同様に依存してしまう可能性があることも懸念されている。二重使用(電子タバコを使用しながら燃焼式タバコの使用を継続すること)も一般的であり,二重使用において電子タバコがもたらす健康上の便益は証明されていない。対照的に,米国食品医薬品局の承認を得たニコチン代替療法は,禁煙を補助するのに有効であることが示されており,さらに以下のような有益性がある:

  • 副作用が少なく軽い

  • 依存を誘発する可能性が低い

  • 若者における乱用の可能性や,若者が燃焼式タバコ製品の使用に移行するエビデンスがない

エビデンスに基づくアプローチで最近禁煙に失敗した患者が,電子タバコをどうしても試したい場合は,臨床医は,燃焼式タバコから電子タバコに完全に切り替えることに焦点を当て,支援を行い,患者の努力を促すべきである。(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine [Health and Medicine Division]: Public health consequences of e-cigarettesからの電子タバコについての情報も参照のこと。)

小児の禁煙

小児に対するカウンセリングのアプローチは,成人の場合と同様であるが,18歳未満の喫煙者には禁煙のための薬剤は推奨されない。(Centers for Disease Control and Prevention — Youth Tobacco Preventionも参照のこと。)

小児には10歳までにタバコ使用に関するスクリーニングを行うべきである。小児の親には,タバコ煙がない家庭環境を維持するように,また喫煙者にならないでほしいという期待を児に伝えるように助言すべきである。喫煙を取り入れた映画や若者向けのビデオゲームは避けるべきである。

喫煙する小児に対しては,タバコ使用に対する認識を確立させる,禁煙の動機を与える,禁煙に向けた準備を行う,禁煙を継続するための方策を示すなどの認知行動療法がニコチン依存症を治療する上で効果的である。

紙巻タバコ以外のタバコ製品の禁煙

無煙タバコの使用者に対する禁煙カウンセリングは,紙巻タバコの場合と同様に,効果的であることが示されている。しかしながら,薬剤については無煙タバコの使用者で効果的であるとは証明されていない。

パイプおよび葉巻による喫煙者に対する禁煙治療の有効性は十分には確認されていない。また,同時に紙巻タバコの喫煙もあるか否かと煙を肺まで吸引しているか否かが禁煙に影響を及ぼすことがある。

要点

  • 大半の喫煙者は禁煙したいと願い,毎年喫煙者のほぼ半数が24時間禁煙を試みているが,1年間禁煙を継続する人は10%未満である。

  • エビデンスに基づく禁煙法は1年間の禁煙成功率を約5%から20%~30%に高める。

  • エビデンスに基づくカウンセリング法には,医師によるカウンセリングや支援プログラムへの紹介などが含まれる。

  • 禁煙に関心のある全ての患者には,禁忌(例,妊娠,18歳未満,軽度喫煙者,無煙タバコ使用者)がない限り,薬物療法(例,バレニクリン,ニコチン代替療法の組合せ)が推奨される。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention — Youth Tobacco Prevention: Fact sheets, infographics, and other resources for teachers, coaches, parents, and others involved in anti-smoking, youth education

  2. Smokefree.gov: The National Cancer Institute (NCI) resource to help reduce smoking rates in the US, particularly among certain populations, by providing cessation information, a tailored quit plan, and text-based support

  3. The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: Health and Medicine Division: Public health consequences of e-cigarettes: A 2010 review of the evidence of the health effects related to the use of electronic nicotine delivery systems

  4. Rx for Change Clinician-Assisted Tobacco Cessation: A tobacco cessation training program for health professional students and providers for assisting patients with quitting

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