慢性閉塞性肺疾患(COPD)

(慢性閉塞性気管支炎;肺気腫)

執筆者:Robert A. Wise, MD, Johns Hopkins Asthma and Allergy Center
レビュー/改訂 2022年 6月
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慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例では体重減少,気胸,頻回の急性代償不全,右心不全,急性または慢性呼吸不全などを合併することがある。診断は病歴,身体診察,胸部X線,および肺機能検査に基づく。治療は気管支拡張薬,コルチコステロイド,また必要があれば酸素および抗菌薬を投与する。進行例では,肺容量減少術か肺移植が選択される。COPDの生存率は気流制限の重症度および増悪の頻度に関連する。

COPDは以下の要素で構成される:

  • 慢性閉塞性気管支炎(臨床的定義)

  • 気腫(病理学的または放射線学的定義)

患者の多くは両方の特徴をもつ。

慢性閉塞性気管支炎は,気流閉塞(airflow obstruction)を伴う慢性の気管支炎である。慢性気管支炎は,湿性咳嗽がほぼ毎日みられる週が全体で少なくとも3カ月続き,かつそのような年が2年以上連続している場合と定義されている。慢性気管支炎は,スパイロメトリーにより気流閉塞の存在が判明すれば,慢性閉塞性気管支炎となる。慢性の喘息性気管支炎は,類似かつ重複する病態であり,慢性の湿性咳嗽,喘鳴,および部分的に可逆的な気流閉塞によって特徴づけられ,主に喘息の病歴のある喫煙者に生じる。一部の症例では,慢性閉塞性気管支炎と慢性の喘息性気管支炎の区別は不明瞭であり,ときに喘息-COPDオーバーラップ(ACO)と呼ばれることがある。

肺気腫は,肺実質の破壊であり,弾性収縮力の喪失ならびに肺胞中隔および気道開存のための牽引力の喪失を招き,その結果気道虚脱の傾向が強まる。それに続いて肺の過膨張,気流制限,エアトラッピングが起こる。気腔が拡大し,やがてブレブまたはブラが発生することもある。小さな気道の閉塞は,気腫に先立って現れる最も初期の病変であると考えられている。

COPDの疫学

米国では,約2400万人に気流制限がみられ,そのうち約1600万人はCOPDと診断されている。COPDは主要な死因であり,米国での年間死亡者数は150,000人を超えている(1)。有病率,発生率,および死亡率は年齢が高くなるとともに上昇する。有病率は女性の方が高いが,全死亡率は男女で同程度である。COPDは,α1-アンチトリプシン欠乏症(α1- antiprotease inhibitor deficiency)とは無関係に,家族集積性があるようである。

COPDは,喫煙の増加と感染症による死亡率の低下により,世界的に増加しつつある。一部の地域では,バイオマス燃料(木材,牧草,その他の有機物など)の広範な利用もCOPDの有病率に寄与している。COPDによる死亡率は,医療サービスの提供が十分でない国の方が,医療へのアクセスがより容易な国よりも高くなる場合がある。2019年には世界で323万人がCOPDにより死亡しており,COPDは死因の第3位である。

COVID-19のパンデミックは,COPD患者に特に大きなリスクをもたらしている。COPDとCOVID-19を合併した患者の死亡率は15%であったのに対し,COPDを合併していない患者の死亡率は4%であった(2)。COVID-19に感染したCOPD患者の入院率は,感染していない患者の2倍であった。しかし全体としては,COVID-19はCOPDによる入院の世界的な減少に関連がある(3)。この理由は不明であるが,呼吸器感染症に対する予防措置を強化した結果,他のウイルス感染症への曝露が減少したことを反映していると考えられている(3)。さらに,パンデミック中に入院が減少したのは,COPDの急性増悪などの医療上の緊急事態にある患者が,COVID-19への感染を恐れて救急外来を受診しなかったためと推測されている(4)。

疫学に関する参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: National Center for Health Statistics: Leading Causes of Death.Updated January 22, 2022.

  2. 2.Meza D, Khuder B, Bailey JI, et al: Mortality from COVID-19 in patients with COPD: A US study in the N3C Data Enclave.Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 16:2323–2326, 2021.doi: 10.2147/COPD.S318000

  3. 3.Alqahtani JS, Oyelade T, Aldhahir AM, et al: Reduction in hospitalised COPD exacerbations during COVID-19: A systematic review and meta-analysis.PLoS One 2021 Aug 3;16(8):e0255659, 2021.doi: 10.1371/journal.pone.0255659

  4. 4.Wong LE, Hawkins JE, Langness S, et al: Where are all the patients?Addressing Covid-19 fear to encourage sick patients to seek emergency care.NEJM Catal Innov Care Deliv May 14, 2020.

COPDの病因

COPDには主に2つの原因がある:

  • 喫煙(および頻度は低くなるがその他の吸入曝露)

  • 遺伝因子

吸入曝露

あらゆる吸入曝露のうち,大半の国において喫煙が第一の危険因子となっているが,臨床的に明らかなCOPDを発症するのは喫煙者の約15%のみである;40 pack-year以上の曝露歴は強い予測因子である。屋内で調理や暖房に火を使うことが一般的な国々では,屋内での調理や暖房による煙が重要な原因因子である。喫煙者で,すでに気道反応性(メサコリン吸入への感受性亢進により定義される)が認められる場合には,たとえ臨床的に喘息がなくても,反応性がない喫煙者と比べてCOPDを発症するリスクが高い。

低体重,小児期の呼吸器疾患,ならびにタバコの受動喫煙,大気汚染,および職業性塵埃(例,鉱物塵または綿塵)または吸入化学物質(例,カドミウム)への曝露は,COPDのリスクを高めるが,喫煙に比べれば重要性は低い。

遺伝因子

原因となる最も明確な遺伝性疾患は,α1-アンチトリプシン欠乏症で,これは非喫煙者における肺気腫の重要な原因であり,喫煙者においては疾患への感受性を著しく高める。

30以上のアレルが特定の集団でCOPDまたは肺機能低下と関連することが判明しているが,α1-アンチトリプシンと同程度に重大であると示されているものはない。

COPDの病態生理

様々な要因が気流制限やCOPDのその他の合併症を引き起こす。

炎症

吸入曝露は気道および肺胞における炎症反応の誘因となるが,遺伝的感受性を有する人々においては,それがCOPDの発症につながる。その過程にはプロテアーゼ活性の増大とアンチプロテアーゼ活性の減少が介在すると考えられている。好中球エラスターゼ,マトリックスメタロプロテアーゼ,およびカテプシンなどの肺プロテアーゼは,正常な組織修復過程においてエラスチンや結合組織を分解する。その活性は,正常では,α1-アンチトリプシン,気道上皮由来の分泌型白血球プロテアーゼインヒビター,エラフィン,およびマトリックスメタロプロテアーゼ組織インヒビターなどのアンチプロテアーゼにより均衡が保たれる。COPD患者では,炎症過程の一部として,活性化された好中球および他の炎症細胞がプロテアーゼを放出し,プロテアーゼ活性がアンチプロテアーゼ活性を上回り,その結果,組織の破壊および粘液の過分泌が生じる。

好中球およびマクロファージの活性化はまた,フリーラジカル,スーパーオキシドアニオン,および過酸化水素の蓄積にもつながり,それがアンチプロテアーゼを阻害して気管支収縮,粘膜浮腫,および粘液過分泌を引き起こす。好中球誘発性の酸化傷害,線維化誘導神経ペプチド(profibrotic neuropeptide[例,ボンベシン])の放出,および血管内皮増殖因子の濃度低下は,アポトーシスによる肺実質破壊に寄与している可能性がある。

疾患重症度が増すとともにCOPDの炎症は悪化し,重症(進行)例では,禁煙したとしても炎症は完全には消失しない。この慢性炎症はコルチコステロイドに反応しないようである(特に紙巻タバコの喫煙を継続している患者において)(1)。

感染

呼吸器感染症(COPD患者は感受性が高い)は肺破壊の進行を拡大させる。

細菌,特にインフルエンザ菌は,約30%のCOPD患者の下気道に定着する。より重症例(例,入院歴のある患者)では,緑膿菌または他のグラム陰性細菌の定着がよくみられる。喫煙および気流閉塞が下気道の粘液クリアランスの障害につながる場合があり,それが感染の素因となる。繰り返す感染が炎症による負荷を増大し,それが疾患の進行を速める。しかしながら,抗菌薬の長期使用が,COPDの進行を遅らせるというエビデンスはない。

気流制限

COPDの主要な病態生理学的特徴は,気道の狭小化/閉塞,弾性収縮力の喪失,またはその両方に起因する気流制限である。

気道の狭小化/閉塞は,炎症による粘液分泌過多,粘液栓子,粘膜浮腫,気管支攣縮,気管支周囲線維化,末梢気道のリモデリング,あるいはこれらの機序が組み合わさることにより生じる。肺胞中隔が破壊され,肺実質の気道への付着が弱くなることにより,呼気時の気道閉塞が助長される。

拡大した肺胞腔は,ときに癒合してブラ(直径1cm以上の気腔と定義される)となる。局所的に重度の気腫が生じた領域では,ブラ内は完全な空洞となるか,紐状の肺組織が内部を走行した状態となる;ときに一側胸郭全体をブラが占めることもある。これらの変化は弾性収縮力の喪失および肺の過膨張につながる。

気道抵抗の増大は,呼吸仕事量を増大させる。肺の過膨張は,気道抵抗を低下させるものの,やはり呼吸仕事量を増大させる。呼吸仕事量の増大は,低酸素症および高炭酸ガス血症を伴う肺胞低換気につながることがあるが,低酸素症および高炭酸ガス血症は換気血流(V/Q)不均衡によっても引き起こされうる。

合併症

気流制限およびときに生じる呼吸機能不全に加え,以下のような合併症がみられる:

  • 肺高血圧症

  • 呼吸器感染症

  • 体重減少およびその他の併存症

慢性低酸素血症は肺血管の緊張を高め,びまん性に発生した場合は,肺高血圧症肺性心を引き起こす。肺胞中隔の破壊による肺毛細血管床の破壊により,肺血管圧の上昇が助長されると考えられる。

COPD患者では,ウイルス性または細菌性呼吸器感染症がよくみられ,急性増悪の原因の大きな割合を占める。現在のところ,急性細菌感染の原因は,慢性的に定着した細菌の増殖過多ではなく新しい細菌株の獲得によると考えられている。

体重が減少する可能性があり,これはおそらくカロリー摂取量の不足および腫瘍壊死因子(TNF)αの血中濃度上昇の結果である。炎症性サイトカインの増加および低酸素血症の存在下でカロリー消費量が増えることがあるため,この体重減少はカロリー消費量と栄養摂取との不均衡に起因する可能性がある。

QOLおよび/または生存率に悪影響を与えるその他の併存疾患または合併症として,骨粗鬆症うつ病不安冠動脈疾患肺癌を始めとするがん,筋萎縮,胃食道逆流などがある。これらの疾患がどの程度までCOPD,喫煙,およびそれに伴う全身性炎症の結果であるかは不明である。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Pascoe S, Barnes N, Brusselle G, et al: Blood eosinophils and treatment response with triple and dual combination therapy in chronic obstructive pulmonary disease: analysis of the IMPACT trial.Lancet Respir Med 7(9):745–756 2019.doi: 10.1016/S2213-2600(19)30190-0

COPDの症状と徴候

COPDは何年もかけて発生および進行する。患者の多くはタバコ20本/日以上の喫煙を20年以上続けている。

  • 通常は湿性咳嗽が最初の症状であり,40代から50代の喫煙者に発生する。

  • 進行性,持続性,労作性,または呼吸器感染時に増悪する呼吸困難が,患者が50代後半から60代の頃に現れる。

喫煙を継続し,生涯におけるタバコへの曝露が多い患者では,通常は症状の進行が速い。起床時の頭痛は,さらに進行した症例でみられ,夜間の高炭酸ガス血症または低酸素血症を示唆する。

COPDの徴候には,喘鳴,呼気相の延長,心音および肺音の減弱として現れる肺の過膨張,および胸郭の前後径の増大(樽状胸)などがある。進行した肺気腫患者は,体重が減少し,活動低下,低酸素症,または全身性の炎症メディエーター(TNF-αなど)放出に起因する筋萎縮を経験する。

進行例の徴候には,口すぼめ呼吸,呼吸補助筋の使用,吸気時における下部胸郭の奇異性の内側への動き(Hoover徴候),およびチアノーゼなどがある。肺性心の徴候には,頸静脈怒張,肺動脈成分の亢進を伴うII音の分裂,三尖弁閉鎖不全の雑音,および末梢浮腫などがある。COPDでは肺が過膨張しているため,傍胸骨拍動はまれである。

自然気胸(おそらくブラの破裂と関連する)が起こることもあり,肺の状態が突然悪化したCOPD患者ではこれを疑うべきである。

症状は,どのような活動で呼吸困難が起きるかに応じてグレードに分類することができる(mMRC Questionnaireを用いた息切れの評価の表を参照)。

表&コラム

急性増悪

急性増悪はCOPDの経過中に散発的に起こり,その予兆は症状の重症化である。増悪の具体的な原因の特定はほぼ常に不可能であるが,しばしばウイルス性上気道感染症,急性の細菌性気管支炎,または呼吸器刺激物への曝露が原因とされる。COPDが進行するにつれて,急性増悪はより頻回になる傾向があり,平均で年1~3回ほどとなる。

COPDの診断

  • 胸部画像検査

  • 肺機能検査

診断は病歴,身体診察,および胸部画像所見により示唆され,肺機能検査で確定される。同様の症状は,喘息心不全,および気管支拡張症によっても起こりうる(COPDの鑑別診断の表を参照)。COPDと喘息はときに容易に混同され,重複することもある(気管支喘息COPDオーバーラップ)。

表&コラム
表&コラム

気流制限の要素がある全身性疾患はCOPDを示唆する;例えば,HIV感染症,静注薬物の乱用(特にコカインおよびアンフェタミン類),サルコイドーシスシェーグレン症候群閉塞性細気管支炎リンパ脈管筋腫症,好酸球性肉芽腫などがある。COPDと間質性肺疾患の鑑別は,間質性肺疾患においては胸部画像検査で間質の陰影が増加し,肺機能検査で閉塞性換気障害ではなく拘束性換気障害を示すことにより可能である。中にはCOPDおよび間質性肺疾患が併存する(気腫合併肺線維症[CPFE])例もあり,この場合肺気量は比較的保たれているが,ガス交換能が重度に障害されている。

肺機能検査

COPDが疑われる患者では,気流制限の確認,その重症度および可逆性の定量化,ならびにCOPDと他疾患との鑑別のために肺機能検査を行うべきである。(一部の専門家は,喫煙歴のある全ての患者に対して肺機能検査によるスクリーニングを推奨している。)肺機能検査は,進行のフォローアップや治療に対する反応のモニタリングにも有用である。主な診断検査項目は以下の通りである:

  • FEV1:最大吸気に続く努力呼気で,最初の1秒間に呼出される気量

  • 努力肺活量(FVC):最大努力で呼出した全気量

  • フローボリューム曲線:努力最大呼気および吸気を行う間に,スパイロメトリーで気流および気量を同時に記録したもの

FEV1,FVC,およびFEV1/FVCの比の低下は,気流制限の明確な指標である。フローボリューム曲線は,呼気時に凹形のパターンを示す(フローボリューム曲線の図を参照)。

COPDが発生してから症状が現れるまでの経過には,基本的に以下の2つのパターンがある:

  • 1つ目は,成人期早期の肺機能は正常で,後になってFEV1の減少率のより急速な上昇がみられる(約 ≥ 60mL/年)という経過である。

  • 2つ目は,成人期早期から肺機能が障害され,しばしば喘息やその他の小児呼吸器疾患が関連しているという経過である。このような患者では,FEV1は加齢に伴う正常な減少率(約30mL/年)を示しながら,COPDが発症することがある。

この2つ目の経過は,概念的には役立つものの,患者ごとに多様な軌跡をたどる可能性がある(1)。FEV1がおよそ1L未満まで低下すると,患者は日常生活動作で呼吸困難を生じるようになる(ただし,呼吸困難は気流制限の程度よりも動的過膨張[労作時の不完全な呼出による進行性の過膨張]の程度に密接に関連する)。FEV1がおよそ0.8L未満に低下すると,低酸素血症,高炭酸ガス血症,および肺性心のリスクが生じる。

FEV1およびFVCは,診察室でのスパイロメトリーで容易に測定できる。正常を表す基準値は患者の年齢,性別,および身長により決定される。人種および/または民族に基づいて値を調整するか否かについては議論がある(Racial Issues in Pulmonary Medicine: Pulse Oximetry and Pulmonary Function Testingも参照)。FEV1/FVCが0.70未満のCOPD患者における気流制限の重症度は,気管支拡張薬投与後のFEV1に基づいて分類できる(2):

  • 軽症:予測値の80%以上

  • 中等症:予測値の50~79%

  • 重症:予測値の30~49%

  • 非常に重症:予測値の30%未満

追加の肺機能検査は,肺容量減少術の前など,特定の状況でのみ必要となる。その他の検査異常としては以下ものがある:

  • 全肺気量の増加

  • 機能的残気量の増加

  • 残気量の増加

  • 肺活量の減少

  • 1回呼吸法(single breath)による肺拡散能(DLCO)の低下

全肺気量,機能的残気量,および残気量はCOPDでは増加するが,拘束性肺疾患では減少するため,これらの測定値はCOPDと拘束性肺疾患の鑑別に役立つ。

DLCOの低下は非特異的であり,間質性肺疾患など肺血管床を侵す他の疾患でも低下するが,喘息ではDLCOが正常または高値となるため,肺気腫を喘息と鑑別するのに役に立つ可能性がある。

画像検査

胸部X線では特徴的所見を認めることがある。肺気腫の患者では,横隔膜の平坦化として現れる肺過膨張(すなわち,胸骨と横隔膜前方のなす角が側面像で正常の45°に対し,90°を超える),肺門部の血管の急峻な先細り(tapering),およびブラ(すなわち,弓状の毛髪のように細い線に囲まれた > 1cmのX線透過像)などの変化がみられる。その他の典型的所見としては,胸骨後方の気腔の拡大や幅の狭い心陰影などがある。主に肺底部に生じる気腫性変化は,α1-アンチトリプシン欠乏症を示唆する。肺は正常のように見えるか,または肺実質の喪失に伴う透過性の上昇がみられる。慢性閉塞性気管支炎の患者では,胸部X線は正常か,または気管支壁肥厚の結果として両側肺底部に気管支血管影の増加がみられる場合がある。

肺門部の突出は肺動脈中枢部の拡大を示唆し,それは肺高血圧症を意味している可能性がある。肺性心で生じる右室拡大は,肺の過膨張により認識できないこともあれば,心陰影の胸骨後腔への侵入として示されるか,または過去の胸部X線写真と比べて心陰影の横幅が広がることによって示されることもある。

胸部CTでは,胸部X線では明らかではない異常が示される場合があり,肺炎,塵肺症,肺癌などの併存疾患または合併症が示唆されることがある。CTは肺気腫の程度と分布の評価に有用であり,これらは視覚的スコア,または肺密度の分布を分析することによって推定される。COPD患者でCT撮影が適応となるのは,肺容量減少術のために評価を行う場合,胸部X線で明確でなく除外もできない併存症ないし合併症が疑われる場合,肺癌が疑われる場合,肺癌スクリーニングを行う場合などである。肺動脈径が上行大動脈径より拡大している場合は,肺高血圧症が示唆される(3)。

補助検査

α1-アンチトリプシン欠乏症を検出するため,50歳未満で症状があるCOPD患者と,年齢を問わず非喫煙者でCOPDを発症した患者では,α1-アンチトリプシン値を測定すべきである。α1-アンチトリプシン欠乏症を示唆するその他の指標としては,若年でのCOPDまたは原因不明の肝疾患の家族歴,下葉に分布する気腫,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性の血管炎を合併したCOPDなどがある。α1-アンチトリプシンの測定値が低ければ,α1-アンチトリプシン表現型判定のための遺伝子検査により診断を確定すべきである。

心電図検査は,呼吸困難の原因として心疾患を除外する目的でしばしば施行されるが,進行した肺気腫の典型例では,肺の過膨張による立位心を伴ったびまん性のQRS波低電位,および右房拡大によるP波の増高またはPベクトルの右軸偏位を認める。右室肥大の所見としては,V1誘導でRまたはR波がS波と同高またはS波より高い,V6誘導でR波がS波より低い,右脚ブロックを伴わない >110°の右軸偏位,これらの所見の組合せなどがある。多源性心房頻拍は,COPDに随伴することのある不整脈であるが,これはP波の多形性およびPR間隔の変動を伴った頻拍性不整脈として出現する。

心エコー検査は,ときに右室機能および肺高血圧症の評価に有用であるが,COPDの患者ではエアトラッピングがあるため技術的に困難である。心エコー検査は,左室疾患または心臓弁膜症の併存が疑われる場合に,最もよく利用される。

ヘモグロビンおよびヘマトクリットはCOPDの評価において診断的価値はほとんどないが,慢性低酸素血症のある患者では,赤血球増多症(ヘマトクリット > 48%)を示すことがある。貧血(COPD以外の原因による)のある患者では,不相応に激しい呼吸困難がみられる。白血球分画が参考になる場合がある。好酸球増多が吸入コルチコステロイドへの反応を予測することを示すエビデンスが増えている。

血清電解質分析の重要性は低いが,慢性の高炭酸ガス血症があれば,重炭酸濃度の上昇を認めることがある。静脈血ガスは急性または慢性高炭酸ガス血症の診断に有用である。

増悪の評価

急性増悪の患者では通常,咳嗽,喀痰,呼吸困難,および呼吸仕事量の増加,またパルスオキシメトリー上の酸素飽和度の低下,発汗,頻脈,不安,およびチアノーゼなどが複合してみられる。しかしながら,二酸化炭素の滞留を伴う増悪患者は,嗜眠または傾眠状態といった,非常に異なる容態を示すことがある。

入院を必要とする全ての急性増悪患者で,低酸素血症および高炭酸ガス血症を定量化するための検査を行うべきである。低酸素血症を伴わずに高炭酸ガス血症がみられることがある。

PaO2 < 50mmHgもしくはPaCO2 > 50mmHgまたは呼吸性アシデミア(pH < 7.35)の患者で静脈血二酸化炭素分圧(PvCO2)> 55mmHg がみられれば,急性呼吸不全と定義される。急性呼吸不全がなくとも,慢性的にこのレベルのPaO2やPaCO2の値を示す患者もいる。

胸部X線はしばしば肺炎または気胸を確認するために行われる。極めてまれではあるが,長期的にコルチコステロイドの全身投与を受けている患者では,浸潤影がアスペルギルス肺炎を意味することがある。

黄色または緑色の喀痰は,喀痰中の好中球を示す信頼できる指標であり,細菌の定着または感染を示唆する。入院患者では通常培養を行うが,外来患者では通常は必ずしも必要ではない。外来患者の検体のグラム染色では,しばしばグラム陽性双球菌(肺炎球菌[Streptococcus pneumoniae]),グラム陰性桿菌(インフルエンザ菌[H. influenzae]),またはその両方の微生物が混在した好中球像が通常みられる。ただし,外来患者では通常,喀痰の培養および鏡検は必要ではない。その他の中咽頭の常在菌,例えばMoraxellaBranhamellacatarrhalisも,ときに増悪を引き起こす。入院患者では,培養により,耐性を示すグラム陰性菌(例,Pseudomonas属),またはまれにブドウ球菌[Staphylococcus]属がみられることもある。インフルエンザのシーズン中は,インフルエンザの迅速検査がノイラミニダーゼ阻害薬による治療の指針となり,RSウイルス(RSV),ライノウイルス,およびメタニューモウイルスに対する呼吸器ウイルスパネルにより抗菌薬療法を調整できる場合がある。

血清C反応性タンパク(CRP)は,増悪中の抗菌薬の使用の指針として有用であり,有害所見を認めることなく抗菌薬の使用を減らすことができる(4, 5)。

診断に関する参考文献

  1. 1.Lange P, Celli B, Agusti A, et al: Lung-function trajectories leading to chronic obstructive pulmonary disease.N Engl J Med 373(2):111–122, 2015.

  2. 2.Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD): Diagnosis and initial assessment.2022 Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD.

  3. 3.Iyer AS, Wells JM, Vishin S, et al: CT scan-measured pulmonary artery to aorta ratio and echocardiography for detecting pulmonary hypertension in severe COPD.Chest 145(4):824–832, 2014.

  4. 4.Butler CC, Gillespie D, White P, et al: C-Reactive protein testing to guide antibiotic prescribing for COPD exacerbations.N Engl J Med 381(2):111–120, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1803185

  5. 5.Prins HJ, Duijkers R, van der Valk P, et al: CRP-guided antibiotic treatment in acute exacerbations of COPD in hospital admissions.Eur Respir J 53(5):1802014, 2019.doi: 10.1183/13993003.02014-2018

COPDの予後

気道閉塞の重症度からCOPD患者の生存率が予測できる。FEV1が予測値の35~55%の場合,5年死亡率は40%である。FEV 1が予測値の35%未満の場合,5年死亡率は55%である(1)。

より正確な死亡リスクの予想は,BMI(B),気流閉塞の程度(O:obstruction,FEV1),呼吸困難の程度(D:dyspnea,Modified British Medical Research Council[mMRC]Questionnaireで測定),および運動耐容量(E:exercise capacity,6分間歩行試験で測定)を同時に測定することで可能であり,これはBODE指数と呼ばれる。また,高齢,心疾患,貧血,安静時頻脈,高炭酸ガス血症,および低酸素血症は,生存率低下を予測する一方で,気管支拡張薬に対する有意な反応は,生存率改善を予測する。入院が必要な急性増悪患者における死亡の危険因子には,高齢,PaCO2高値,および維持療法のための経口コルチコステロイドの使用などがある。(BODE指数の計算方法の詳細はMedical Criteriaで参照可能である。)

説明のつかない進行性の体重減少または重度の機能低下がある患者(例,更衣,入浴,または食事などの自己管理を行う際に呼吸困難を経験する患者)は,切迫した死亡のリスクが高い。COPDにおける死亡は,喫煙をやめた患者ではこの基礎疾患の進行ではなく,併発疾患に起因する場合がある。死亡は一般に,急性呼吸不全,肺炎,肺癌,心疾患,または肺塞栓による。

医学計算ツール(学習用)

予後に関する参考文献

  1. 1.Almagro P, Martinez-Camblor P, Soriano JB, et al: Finding the best thresholds of FEV1 and dyspnea to predict 5-year survival in COPD patients: the COCOMICS study.PLoS One 9(2):e89866, 2014. doi: 10.1371/journal.pone.0089866

COPDの治療

安定期COPDの治療およびCOPDの急性増悪の治療も参照のこと。)

  • 禁煙

  • 吸入気管支拡張薬,コルチコステロイド,またはその両方

  • 支持療法(例,酸素療法,呼吸リハビリテーション)

COPDの管理には,慢性安定期の治療ならびに増悪の予防および治療がある。長期にわたる重症COPDの一般的な合併症である肺性心の治療については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

禁煙は,COPDの治療において極めて重要である。

慢性安定期COPDの治療は,増悪を予防し,肺および身体の機能を改善することを目標とする。主に短時間作用型β作動薬により症状を急速に緩和させ,吸入コルチコステロイド,長時間作用型β作動薬,長時間作用型抗コリン薬,またはこれらの併用により増悪を減少させる(COPDの初期治療の表を参照)。

呼吸リハビリテーションには,監督下に行う体系化された運動訓練,栄養カウンセリングおよび自己管理の指導などがある。

酸素療法は,選択された患者にのみ適応となる。

増悪の治療では,十分な酸素化および正常に近い血液pHを確実に保ち,気道閉塞を改善し,原因を治療する。

要点

  • 先進国では,感受性のある患者における喫煙が慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主な要因である。

  • COPDの診断および同様の特徴を有する他の疾患(例,喘息,心不全)との鑑別は,まず症状(特に経過),発症年齢,危険因子,およびルーチン検査の結果(例,胸部X線,肺機能検査)などの基本的臨床情報に基づいて行う。

  • FEV1,FVC,およびFEV1/FVCの比の低下は,特徴的所見である。

  • 症状および増悪のリスクに基づいて患者を4群のうちの1つに分類し,この分類を指針として薬物治療を行う。

  • 主に短時間作用型β作動薬により症状を急速に緩和させ,吸入コルチコステロイド,長時間作用型β作動薬,長時間作用型抗コリン薬,またはこれらの併用により増悪を減少させる。

  • 多様な手段で禁煙を奨励する。

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