不安症の概要

執筆者:John W. Barnhill, MD, New York-Presbyterian Hospital
レビュー/改訂 2023年 8月
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不安症(anxiety disorder)は,持続的かつ過剰な恐怖および不安と,患者がこれらの感情を緩和するために採用する機能障害を伴う行動変化を特徴とする。不安症は,恐怖,不安,および関連する行動変化を誘発する具体的な対象または状況に基づいて互いに鑑別される。

恐怖や不安は誰もが日常的に経験するものである。

恐怖とは,直ちに認識可能な外部からの脅威(例,侵入者,凍結した路面でスピンする車)に対する情動的,身体的,および行動的な反応である。

不安とは,神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態であり,その原因はあまり明確ではない。脅威が生じる厳密な時期と不安との間に強い結びつきはなく,不安は脅威の前に予期される場合もあれば,脅威が去った後に持続する場合や,確認可能な脅威なしに生じる場合もある。

人はしばしば恐怖と不安の両方を,身体(例,発汗,悪心)および行動(例,回避,怒り)の変化として経験する。多くの場合,人は不安または恐怖を抱いていることを明確に認識せずに,それらの身体的変化や行動変化には気づいている。

適応不安は,何かの準備,練習,およびリハーサルを行う意欲を高めるのに役立つ可能性があり,また危険となりうる状況で適切な注意を払うことを促せる可能性もある。しかしながら,不安が機能障害と過度の苦痛を引き起こしている場合には,その状態は精神疾患である不適応とみなされる。

不安症は他のあらゆるクラスの精神疾患よりも高い頻度でみられ,約3分の1の人が生涯のいずれかの時点で不安症の基準を満たす(1,2)。しかしながら,不安症は過小診断される傾向があり,自殺念慮および自殺企図と関連している可能性がある。

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition, Text Revision(DSM-5-TR)には,不安症群の様々な疾患が典型的な発症年齢の順に記載されている(3):

分離不安場面緘黙は小児期にみられる傾向があるが,上記の他の疾患は一般に成人期に発生する。

患者が著しい不安を訴えている場合は,物質・医薬品誘発性不安症および他の医学的状態による不安症を常に考慮すべきである。

顕著な不安で発症することが多いその他の疾患としては,急性ストレス症適応反応症心的外傷後ストレス症(PTSD)などがある。これらは心的外傷体験やストレスに満ちた体験から生じると考えられるため,DSM-5-TRでは別の疾患群として分類されている。

不安症は他の医学的状態および精神疾患と併存する傾向が高い。抑うつ症物質使用症パーソナリティ症,および他の不安症が特によくみられる併存症であり,同様に心血管疾患,喘息,片頭痛,および関節炎もよくみられる。不安症は他の精神医学的併存症に先行することが多いため,不安症を早期から効果的に治療することで,それらの併存症の発生を予防または軽減できる。

総論の参考文献

  1. 1.Bandelow B, Michaelis S: Epidemiology of anxiety disorders in the 21st century.Dialogues Clin Neurosci 17(3):327-335, 2015.doi: 10.31887/DCNS.2015.17.3/bbandelow

  2. 2.Penninx BW, Pine DS, Holmes EA, et al: Anxiety disorders.Lancet 97(10277):914-927, 2021.doi: 10.1016/S0140-6736(21)00359-7

  3. 3.Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition, Text Revision (DSM-5-TR).American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, pp 215-262.

不安症の病因

不安症には単一の遺伝子や心理的原因はないが,典型的な生物心理社会的因子との関連で発生するとみられている。不安症は家族内で受け継がれる傾向があり,それは少なくとも2つの機序を介して起こる(1):

  • 小児期の「行動抑制(behavioral inhibition)」という形質は,ある程度遺伝するようであり,この形質は青年期の不安症のリスク増加と関連している。

  • 社会的恐怖および回避は,親をモデルとして,あるいは小児期の虐待や身体疾患(例,喘息)などの早期の心的外傷体験を通じて,小児に伝播する可能性がある。それらの体験および遺伝的脆弱性により,一部の小児はストレスに対する自身の身体的および感情的反応に対して異常に注意を向けるようになり,それがパニック症社交不安症につながるという仮説が提唱されている。

多くの人々が不安症を発症するが,先行する誘因は同定できない。例えば,ヘビ恐怖症を有する人の大半はヘビに咬まれたことがなく,特徴的な心的外傷体験も報告しない。不安は,重要な人間関係の破綻や生命を脅かす災害への曝露など,成人期における環境ストレス因および社会的ストレス因に対する反応として生じる可能性もあるが,そのようなストレス因を経験する人の大半が不安症を発症しない。

不安症の発生には複数の神経伝達物質が関与する。2つの主要な神経伝達物質であるGABAとグルタミン酸は,セロトニン,ノルアドレナリン,ドパミンなどの他の神経伝達物質と同様に重要な役割を果たしている。これらの神経伝達物質は薬剤の選択に重要な影響を及ぼす。

一部の身体疾患は不安の直接的な原因となることがある。具体的には,喘息不整脈慢性閉塞性肺疾患(COPD)心不全甲状腺機能亢進症クッシング症候群褐色細胞腫などがある。

一部の身体疾患の治療に使用される薬剤も,症状として不安を引き起こす可能性がある。具体的には以下のものがある:

  • 喘息(サルブタモール,コルチコステロイド,テオフィリン)

  • 注意欠如多動症(アンフェタミン類およびその他の刺激薬)

  • 甲状腺機能亢進症(レボチロキシン,リオチロニン)

  • 季節性アレルギー(抗ヒスタミン薬および鼻閉改善薬)

  • 痙攣性疾患(フェニトイン)

  • パーキンソン病(レボドパ)

さらに,カフェイン,コカインMDMA(エクスタシー)など,様々な物質や違法薬物も不安を直接引き起こす可能性がある。リラックス効果を得るために一般に使用される一部の薬物も不安を引き起こす可能性がある。大麻(マリファナ)は,直接的に,またはフェンシクリジン(PCP)などの混ぜ物を介して,一部の人に不安を引き起こす。アルコールからの離脱や鎮静薬および他の一部の薬物からの離脱も不安につながる可能性がある。

COVID-19に関連した不安

COVID-19パンデミックには,非感染者における抑うつ症および不安の発生率の急上昇との関連が認められた(2)。このような心理的反応は根底にある問題の悪化であった可能性があるが,メディア報道,経済的困窮,将来の不確実性,(自分自身や愛する人が)感染することへの恐怖,慣れ親しんだ支援(例,友人,雇用)の喪失,および行動制限(例,マスク,ソーシャルディスタンシング)によって症状が悪化することが多い。

症候性のCOVID-19も不安の増大と関連している(3)。この不安増大の誘因には,生理的なもの(例,息切れ),心理的なもの(例,死に対する差し迫った恐怖),社会的なもの(例,愛する人との分離),および薬理学的なもの(例,COVID-19の治療にはコルチコステロイドがしばしば使用される)がある。さらに,COVID-19は精神神経症状(例,不安,気分変化,神経筋障害)に直接つながる宿主免疫応答を誘導するとの仮説も提唱されており,それらの精神神経反応は急性のこともあれば,long COVIDとして知られる症候群の一部であることもある。(COVID-19に関連した精神神経症状も参照のこと。)

病因論に関する参考文献

  1. 1.Juruena MF, Eror F, Cleare AJ, et al: The role of early life stress in HPA axis and anxiety.Adv Exp Med Biol 1191:141-153, 2020.doi: 10.1007/978-981-32-9705-0_9

  2. 2.Shafran R, Rachman S, Whittal M, et al: Fear and anxiety in COVID-19: Preexisting anxiety disorders. Cogn Behav Pract 28(4):459-467, 2021.doi:10.1016/j.cbpra.2021.03.003

  3. 3.Troyer EA, Kohn JN, Hong S: Are we facing a crashing wave of neuropsychiatric sequelae of COVID-19?Neuropsychiatric symptoms and potential immunologic mechanisms.Brain Behav Immun 87:34-39, 2020.doi: 10.1016/j.bbi.2020.04.027

不安症の症状と徴候

不安症は,その持続性(6カ月以上),過剰さ,消耗性,および不快さの点で通常の不安や正常な不安と異なる傾向がある。

不安症は以下のような様々な身体症状を引き起こす可能性がある(1):

  • 消化管:悪心,嘔吐,下痢

  • 肺:息切れ,窒息

  • 自律神経系:めまい,失神,発汗,ホットフラッシュ,コールドフラッシュ

  • 心臓:動悸,心拍数増加

  • 筋骨格:筋緊張,胸痛または胸部圧迫感

パニック日記ないしworry diaryは症状を記録するための有用なツールとなりうるが,その理由は,不安に関する回顧的な報告は曖昧になる場合があることと,治療戦略がしばしば詳細に依存することの両方である。

徴候と症状に関する参考文献

  1. 1.Craske MG, Stein MB: Anxiety.Lancet 388:3048-3059, 2016.doi: 10.1016/S0140-6736(16)30381-6

不安症の診断

  • Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition, Text Revision(DSM-5-TR)の診断基準

具体的な不安症の診断は,DSM-5-TRに従って,その特徴的な症状と徴候に基づいて行う。一般に,以下に該当する場合に不安症が疑われることがある(1):

  • 不安が非常に苦痛である。

  • 不安が機能を妨げている。

  • 不安が数日以内に自然に消失しない。

  • 他の原因が同定されない。

不安症を診断する際には,特定の医学的状態(例,喘息,甲状腺機能亢進症),物質,または薬剤に起因する不安を除外することが重要である(2)。さらに医師は,身体疾患または物質が存在する場合には,それらが実際に不安に関与している程度を評価する必要がある。全ての精神医学的評価でそうであるように,正確な診断には入念な病歴聴取が極めて重要である。

患者が不安症の基準を満たし,その症状は薬剤または違法薬物/物質の直接的な生理学的影響によって最もよく説明できると医師が結論した場合,その患者は物質・医薬品誘発性不安症とみなされる。同様に,著明な不安が他の医学的状態の直接的な生理学的結果であると考えられる場合,患者は他の医学的状態による不安症と診断されることがある。

不安と関連する医学的状態を同定するのに臨床検査が役立つことはあるが,ほぼ全ての精神疾患でそうであるように,不安症に対する臨床検査は存在しない。診断を下す前に臨床判断が必要である。特徴的な症状および経過を明らかにすることに加えて,その臨床状況が臨床的に有意な苦痛および/または機能障害を引き起こす閾値に達しているかどうかも評価する必要がある。

以下の3つの重要な質問に対する回答から,様々な不安症をしばしば鑑別することができる:

  • どのような状況が恐怖や不安を引き起こすか。

  • どのような思考が不安と関連しているか。

  • どのような回避戦略を用いているか。

文化的因子

文化は,不安症を含む全ての精神疾患の発現,概念化,および治療に影響を及ぼす(3, 4)。精神医学的評価の過程では,不安症状が周囲の政治的,経済的,および法的制度のほか,移民ステータス,性的指向,社会経済的地位,宗教,スピリチュアリティ,および家族構成に関連する特定の問題からどのような影響を受けているかを調べることが重要である。

患者は他の誰か,ましてや社会経済的に恵まれた別の集団に属しているように見える医師と不安について話し合うことに対して,恐怖を感じたり,恥ずかしく思ったり,気が進まなかったりすることがある。同様に,「よい患者」になりたいと考える人でも,主治医は多忙であるので,最も重要な身体的な問題以外にまで対処してもらうことはできないと考える場合,精神的な問題について率直に話をしない可能性がある。

個人または集団によって苦痛を表現する言葉が異なることを考慮することは,医師にとって有用である。例えば,多くの国の人々は,うつ病心的外傷後ストレス症(PTSD)全般不安症などの疾患に対する具体的な精神医学的基準に一致する症状を説明するのではなく,「考えすぎ」という言葉で済ませてしまう(5)。

患者が問題の原因を何だと思っているかを尋ねることも有用になる可能性がある。全ての患者が医学的なモデルを完全に信じているわけではなく,うまく質問してみると,自分(またはその近親者)の症状が宗教的原因やその他の神秘的な原因(例,「邪視[evil eye」)」によって引き起こされたと信じていることを認める患者も多い。

このような情報を引き出すことは,患者医師間の協力関係の改善につながり,患者とその主訴の両方に対する理解が深まり,患者がより率直になって,アドヒアランスが向上していく可能性が高まる。

診断に関する参考文献

  1. 1.Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition,Text Revision (DSM-5-TR).American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, pp 215-221.

  2. 2.Craske MG, Stein MB: Anxiety.Lancet 388:3048-3059, 2016.doi: 10.1016/S0140-6736(16)30381-6

  3. 3.Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition, Text Revision (DSM-5-TR), Cultural Concepts  of Distress.American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, pp 872-880.

  4. 4.Lewis-Fernández R, Aggarwal NK, Lam PC, et al: Feasibility, acceptability and clinical utility of the Cultural Formulation Interview: Mixed-methods results from the DSM-5 international field trial.Br J Psychiatry 210(4):290-297, 2017.doi: 10.1192/bjp.bp.116.193862

  5. 5.Kaiser BN , Haroz EE, Kohrt BA, et al: "Thinking too much": A systematic review of a common idiom of distress.Soc Sci Med 147:170-183, 2015.doi: 10.1016/j.socscimed.2015.10.044

不安症の治療

  • 心理教育

  • リラクゼーション法

  • 認知行動療法(CBT)などの精神療法

  • 薬物療法(ベンゾジアゼピン系薬剤,選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])

不安症を治療する際には,以下の一般原則を考慮することが重要である:

  • 不安症の管理には様々な介入が効果的である。

  • 大半の患者はプライマリケアでうまく管理できる。

  • 不安症および関連する併存症を正確に同定することが極めて重要である。

  • 不安の一因となりうる併存症(例,喘息)を治療する。

  • 併存する物質使用症は,一般に不安症と同時に治療すべきである。その物質は多くの場合,不安の軽減を目的としても使用されていることと,離脱がさらなる不安を誘発する可能性があることを認識しておくべきである。

  • 運動および睡眠を十分に確保することや(1),カフェインの摂取量を制限することなど,生活習慣の改善によって不安症状が有意に軽減することもある。

  • 治療に関する推奨は,患者の希望および精神医療専門家へのアクセスに影響される。

精神療法と薬物療法は,大半の不安症に対して効果的であり,特に併用した場合に効果が高くなる(2, 3)。

心理教育およびリラクゼーション法

典型的には心理教育が不安症の治療の基本となる。ときに当惑させられる一連の症状や行動が1つの診断まで概念化される過程を理解することで,患者が解放されたように感じる可能性がある。また教育により,不快に感じることもある治療を患者に受け入れさせるのに役立つ認知構造が構築される。

治療の早期にリラクゼーション法を指導すべきである。この種の手法が有用となる理由は,不安症の基礎には恐怖と不安の両方があるからであり,また,障害を引き起こしている思考や感情が治療によって一時的に強化される可能性があるためである。不安をコントロールするツールがなければ,多くの患者が治療を遵守しない。リラクゼーション法としては,筋弛緩,呼吸管理,ヨガ,催眠法,瞑想などがあるが,具体的なアプローチを決定する上では患者の希望が重要となる。リラクゼーション法は,簡単に説明した上で,宿題として「処方」することができる。医師が定期的に熱意をもって手順(例,ゆっくりとした安定した呼吸)を実演して見せれば,最大限のアドヒアランスおよび有効性が得られる可能性が高まる。

精神療法

様々な精神療法は,大半の精神疾患に対して同等の効力がある。この同等性には,いわゆる非特異的因子が関連しているようであり,そのような因子としては,精神療法士の個人的特徴や,患者が効果的に対話療法に参加し,合意された診療および薬剤のアドヒアランスを維持できるようにする前向きな治療風土などがある。

認知行動療法(CBT)は,不安症に対する心理社会的治療の中で最もエビデンスが確かなものである(4)。心理教育およびリラクゼーション法をCBTの早期に導入すべきである。

CBTには,認知再構成法曝露療法の両方が含まれる。認知再構成法は,不安症の患者は危険を過大評価(大惨事化)し,危険に対処する自身の能力を過小評価するという認識をもつことから始まる。これらの不正確な思考と先行する誘因は,治療中に明らかになる。多くの場合,不安のパターンを誘因,行動,および不安の特徴的なサイクルとして整然と整理することが可能である。このサイクルが明らかになるにつれて,自身の不正確な思考を認識し,それに立ち向かうように患者を指導する(認知再構成法)。

CBTでは不安症の行動的要素にも焦点が置かれる。典型的には,不安症の患者は認識した危険に対して「闘うか逃げるか(fight-or-flight)」反応で対応する。著しい不安がある患者の中には,しばしば恐怖症に対抗する反応(counter-phobic response)(例,著明な社交不安を有する行為者)でその不安と「戦う」ことができる者もいるが,大半は回避で対応する。曝露療法では,患者の回避行動を同定した上で,恐怖をもたらす誘因に安全な状態で曝露する機会を患者に与え,それを徐々に強化していくことで,患者の感受性を徐々に低下させることを目的とする。

不安症の治療に用いられるその他の精神療法では,CBT,リラクゼーション,およびマインドフルネスの諸側面を,役立つとみられる他の戦略と組み合わせたものである。具体的な治療法としては,マインドフルネスストレス低減療法,催眠法,panic-focused psychodynamic psychotherapy,対人関係療法,支持的精神療法などがある:

  • マインドフルネスストレス低減療法(mindfulness-based stress reduction)は,グループが8週連続でミーティングを行う標準化されたプログラムであり,各セッションではsitting and walking meditation,ヨガ,マインドフルネスリラクゼーションなどが行われる。また,2.5時間のセッションで実践された原則を強化するために,連日の自宅練習が設定されることもある(5)。マインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy)では,これらのマインドフルネスの要素を心理教育や認知再構成法などのCBTの手法と組み合わせる。

  • 催眠法(hypnosis)は,精神的な不安と身体的なストレス(筋緊張,呼吸数および心拍数の増加,発汗など)との相互作用を管理する方法を教示するために用いられる。精神的な不安と身体的なストレスは互いに強め合う傾向があり,一方で催眠法により安全で快適な場所にいることを想像するよう促し,ストレスをうまく管理する方法を視覚化することで,対処技能を教示しながら不安症状を迅速に軽減することができる(6)。

  • Panic-focused psychodynamic psychotherapyは,構造化された期間限定の精神療法であり,他の介入と特徴を共有するが,セッションではパニック発作のストレス因,感情,および感情的意味に焦点が置かれる傾向がある(7)。

  • 対人関係療法(interpersonal psychotherapy:IPT)は,現在の問題および対人関係に対処する構造化された期間限定の精神療法である。IPTでは,人間関係の衝突,生活の変化,悲嘆または喪失,人間関係の問題という4つの領域のうち1つまたは複数に焦点を置く。IPTは抑うつ症の治療に用いられることが最も多いが,いくつかの不安症に対しても忍容性が高く,効果的であると考えられている(8)。CBTが認知と行動に焦点を置くのに対して,IPTは対人関係の状況に関連して生じる感情に焦点を置く。

  • 支持的精神療法(supportive psychotherapy)は,共感,妥当性確認,および非判断的な傾聴を通じて,患者の健全な防衛と健全な行動を支援することを目的とする。支持的手法は治療同盟を改善させ,治療のアドヒアランス不良を減少させる傾向がある。支持的精神療法は,それ自体が治療となる場合もあれば,他の精神療法の基本的要素になる場合もある。

薬物療法

薬物療法は典型的には不安症の管理に役立ち,特に上記の精神療法のいずれかと併用した場合に有用性が高まる。抗うつ薬とベンゾジアゼピン系薬剤は,最も強固なエビデンスがある2つの薬物クラスであるが,非ベンゾジアゼピン系抗不安薬(ブスピロンなど)と非定型抗精神病薬にも一定の役割がある(9)。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は一般に,その効力と安全性プロファイルに基づき第一選択の治療と判断される。これらの「抗うつ薬」により,併存する抑うつ症の有無にかかわらず,不安症の症状に対処するものである。

SSRI抗うつ薬は一般に,有害作用を最小限に抑えるために可能な最低量から開始する。不安のある患者は身体的な変化に対して感受性が高いことがあり,早期に有害作用を経験すると治療を中止することがある。患者が開始量に耐えられるようになったら,治療量まで,あるいは治療効果が得られるまで抗うつ薬を徐々に増量することができる。臨床効果は得られる時期は一定でないが,6週間以上かかることが多い。

セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI),特にデュロキセチンとベンラファキシンにも,不安症の治療薬として安全性および効力が示されている。

ベンゾジアゼピン系薬剤は,不安を速やかに緩和する目的で使用されることがあるが,依存を引き起こしたり,血中濃度を上げる必要性から長期使用のリスク-ベネフィット比が制限されたりする可能性がある(10)。しばしば抗うつ薬および精神療法と併用される。ベンゾジアゼピン系薬剤は,不安症状が改善したら漸減できる場合が多い。

併存症の治療

物質使用症やその他の精神疾患が併存する場合は,それらも適切に管理しなければならない。

併存する物質使用症は多くの場合,自発的には報告されない(11)。不安症の患者は,しばしば自己治療としてアルコール,マリファナ,ベンゾジアゼピン類などの物質を使用する。患者は医師が実行可能な代替の治療手段をもっていると信頼するまで,それらの物質を中止したがらないことがある。自己治療はしばしば悪循環に陥る。例えば,飲酒によって不安が速やかに軽減しても,続いてリバウンド不安が生じることで,自己治療の必要性が高まることがある。

併存する双極症によって管理上で特異的な問題が生じることがある。双極症患者の多くは最初に誤診されるが,これは特に躁期より抑うつ期の方がはるかに長いことが多いためである。抗うつ薬による治療は,うつ病を合併した不安症に対して適切な第1選択の治療法となりうる。しかしながら,不安と双極症の両方を有する患者では,同じ薬剤を選択することで,不安と易刺激性の増強からなる躁エピソードが誘発される可能性がある。双極症が見逃されると,不適切な治療が何十年にもわたって続けられる可能性がある。

併存する身体疾患の管理も困難になることがある。例えば,喘息は生理学的に不安を引き起こす可能性があるが,喘息治療に使用される一部の薬剤もまた同様である。不安は喘息増悪の一因となる可能性があり,喘息増悪への恐れは回避行動(例,活動性の低下,アドヒアランス不良)につながり,それが喘息を増悪させて,生活の質の低下につながる可能性がある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Chellappa SL, Aeschbach D: Sleep and anxiety: From mechanisms to interventions.Sleep Med Rev61:101583, 2022.doi: 10.1016/j.smrv.2021.101583

  2. 2.Bandelow B, Michaelis S, Wedekind D: Treatment of anxiety disorders.Dialogues Clin Neurosci 19(2):93-107, 2017.doi: 10.31887/DCNS.2017.19.2/bbandelow

  3. 3.Cuijpers P, Sijbrandij M, Koole SL, et al: Adding psychotherapy to antidepressant medication in depression and anxiety disorders: a meta-analysis.World Psychiatry, 13(1), 56-67, 2014.doi: 10.1002/wps.20089

  4. 4.Szuhany KL, Simon NM: Anxiety disorders: A review.JAMA 328(24):2431-2445, 2022.doi: 10.1001/jama.2022.22744

  5. 5.Haller H, Breilmann P, Schröter, M. et al: A systematic review and meta-analysis of acceptance- and mindfulness-based interventions for DSM-5 anxiety disorders. Sci Rep 11(1):20385, 2021. doi: 10.1038/s41598-021-99882-w

  6. 6. Valentine KE, Milling LS, Clark LJ, et al: The efficacy of hypnosis as a treatment for anxiety: A meta-analysis.Int J Clin Exp Hyposis 67(3)336-363, 2019.doi: 10.1080/00207144.2019.1613863

  7. 7.Barber JP, Milrod B, Gallop R, et al: Processes of therapeutic change: Results from the Cornell-Penn Study of Psychotherapies for Panic Disorder.J Couns Psychol 67(2):222-231, 2020.doi: 10.1037/cou0000417

  8. 8.Markowitz JC, Milrod B, Luyten P, et al: Mentalizing in interpersonal psychotherapy.Am J Psychother 72(4):95-100.2019.doi: 10.1176/appi.psychotherapy.20190021

  9. 9.Slee A, Nazareth I, Bondaronek P, et al: Pharmacological treatments for generalised anxiety disorder: A systematic review and network meta-analysis.Lancet 2019393(10173):768-777. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31793-8

  10. 10.Balon R, Starcevic V: Role of benzodiazepines in anxiety disorders.Adv Exp Med Biol 1191:367-388, 2020.doi: 10.1007/978-981-32-9705-0_20

  11. 11.Anker JJ, Kushner MG: Co-occurring alcohol use disorder and anxiety: Bridging psychiatric, psychological, and neurobiological perspectives.Alcohol Res 40(1):arcr.v40.1.03, 2019.doi: 10.35946/arcr.v40.1.03

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