COVID-19に関連した精神神経症状

執筆者:Juebin Huang, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2023年 8月
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COVID-19は,基本的には急性呼吸症候群であるが,脳や末梢神経系を含む複数の臓器および器官系の機能障害を引き起こすこともある。

COVID-19は以下のように分類することができる:

  • 急性COVID-19:発症後最初の4週間

  • 亜急性COVID-19:急性COVID-19発症の4週間後から12週間後までにみられる症状および異常

  • 慢性COVID-19(post-COVID-19):急性COVID-19の発症から12週間以上持続し,他の診断で説明できない症状および異常

Long COVIDは,感染初期(通常は軽症期)から4週間以上経過して持続しているか発生した症状,徴候,および病態と幅広く定義される,一般的に使用される用語である。

COVID-19の神経症状や精神神経症状が広く報告されており,それらは急性期および/または回復期に発生する可能性があり,回復期を長期化させる可能性がある。

COVID-19に関連した精神神経症状の病態生理

急性期

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は嗅球に侵入する。この侵入が嗅覚および味覚の変化の原因である可能性があるが,このウイルスが中枢神経系の他の部位に直接感染するかどうかは不明である。

COVID-19の精神神経症状は,脳への直接感染の結果ではなく,二次的な現象である可能性があり,考えられる機序として以下のものがある:

  • 重症例でよくみられる因子および集中治療中に発生する合併症(例,低酸素症,電解質異常,肝および腎機能障害)に続発する脳症

  • ウイルスにより誘導される免疫反応および自己免疫

  • 血管内皮損傷や過剰炎症状態,凝固障害など,COVID-19特異的に発生しうる特定の合併症

重症の急性COVID-19は,しばしば全身性の低酸素血症や,ときに低酸素性脳症を引き起こし,認知および記憶の障害,人格変化,運動障害など,よく知られた精神神経症状や続発症が数多くみられる。ときに脳症の残存が長期化し,ときに症状が完全に消失しないこともある。

原因にかかわらず,重篤化するとせん妄や興奮などの精神神経系の合併症のリスクが増大する。特にリスクが高いのは,集中治療室(ICU)に収容されている高齢患者で基礎疾患として脳血管疾患,心不全,または高血圧がある場合である。このリスクは,COVID-19など特定の疾患に特異的な因子ではなく,重症疾患とICU管理に共通する因子によるものである。そのような因子としては,全身性の低灌流,鎮静薬やその他の薬物の長期使用,概日リズムおよび睡眠-覚醒サイクルの乱れ,代謝障害(例,電解質異常),敗血症などがある。高齢患者が普段の環境や家族・友人の支援から引き離されると,明らかな認知症の有無にかかわらず,特に影響を受けやすくなる。

ウイルスにより誘導される免疫反応および自己免疫もCOVID-19の発生機序に関与している可能性がある。重症COVID-19では多くの患者が炎症性サイトカインの急増を伴う過剰炎症状態(サイトカインストーム)を経験する。外来抗原が自己抗原に類似する分子擬態(molecular mimicry)がCOVID-19に関連した神経精神医学的合併症の潜在的機序である自己免疫反応を誘発する可能性がある。

COVID-19に特異的な合併症には,以下のようないくつかの因子が関連している可能性がある:

  • アンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体とSARS-CoV-2の相互作用:SARS-CoV-2はこの相互作用を介して細胞内に侵入するが,この相互作用によって血管内皮細胞が損傷することで,脳に影響を及ぼしうる微小血管障害を引き起こされる可能性があると考えられている。ACE-2受容体は末梢および中枢神経系のニューロンにも広く分布している。

  • SARS-CoV-2による脳実質および血管の変化:これらの変化は,血液脳関門および血液髄液関門の損傷につながり,その結果としてニューロン,支持細胞,および脳血管構造に炎症が生じる可能性がある。

  • 脳を含む複数の臓器に影響を及ぼす重度の全身性炎症状態:この状態は多くの場合,重症COVID-19に起因する。

  • COVID-19による血栓形成傾向:この影響は脳血管の血栓症につながって,急性虚血性脳卒中を引き起こす可能性がある。

慢性期

急性期からの回復後,一部の患者は最初の感染から数カ月が経過して様々な精神神経症状の持続や新たな出現を報告する。重篤化したCOVID-19からの回復後にみられる思考,記憶,および集中の問題(いわゆるbrain fog)は,低酸素症,デコンディショニング,または心的外傷後ストレス症(PTSD)に起因したものである可能性がある。しかしながら,軽症COVID-19からの回復後にもbrain fogが報告されており,他の因子も寄与している可能性が示唆される(1)。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Graham EL, Clark JR, Orban ZS, et al: Persistent neurologic symptoms and cognitive dysfunction in non-hospitalized Covid-19 “long haulers.” Ann Clin Transl Neurol 8 (5): 1073–1085, 2021.doi: 10.1002/acn3.51350

COVID-19に関連した精神神経症状の症状と徴候

COVID-19の入院患者の約80%で神経症状が報告されている(1)。ある大規模な後ろ向きコホート研究では,COVID-19による入院後6カ月間には,特に重症患者において,神経学的および精神医学的合併症の発生率がかなり高かったことが報告された(2)。COVID-19では自律神経失調(体位性起立性低血圧などの自律神経失調症)も発生する可能性があり,これは慢性期により多くみられる。

急性期の精神神経症状

COVID-19の急性神経系合併症は,頭痛,めまい,筋肉痛,疲労などの非特異的な神経症状として現れることがある。COVID-19に特異的な症状として,嗅覚障害(嗅覚脱失)と味覚障害(味覚脱失)がある。重篤化した患者では,せん妄がよくみられ,注意,認知,および意識レベルの変動を引き起こすほか,興奮または傾眠が優勢となることもある。

COVID-19の頻度は低いがより重度の神経系合併症として,急性虚血性脳卒中,頭蓋内出血,髄膜炎,脳炎,痙攣発作などが発生する可能性もある。ギラン-バレー症候群(GBS)などの神経筋疾患が報告されているが,COVID-19パンデミック中のGBSの全体的な発生率はベースラインのそれと変わらないようである。しかしながら,この種の疾患の誘因となりうる他の感染症(例,インフルエンザ)の発生数がパンデミック中に減少していたことから,COVID-19は他の感染症よりリスクを増大させている可能性がある。

虚血性または出血性脳卒中,低酸素・無酸素による傷害,可逆性後頭葉白質脳症(PRES),急性播種性脊髄炎など,急性COVID-19のより重度の合併症は,広範なリハビリテーションを必要とする長期または永続的な神経脱落症状につながる可能性がある(1)。(PRESは,急性または亜急性のclinical-radiologic syndromeであり,頭痛,精神状態変化,痙攣発作,視覚障害など様々な神経症状と,血管原性浮腫を反映する頭頂後頭部の特徴的な信号変化パターン[MRIで示される]を特徴とする。)また,急性COVID-19または神経筋遮断薬の使用に起因して生じる急性かつ重症のミオパチーおよび末梢神経障害が,数週間から数カ月間持続する残遺症状を引き起こす可能性がある。

回復後および慢性期の精神神経症状

回復期にはCOVID後症候群の一部として,多くの患者(例,一部の症例集積研究では80%,加えて入院しなかった患者も含まれる)が慢性の倦怠感,びまん性の筋肉痛,非回復性睡眠(nonrestorative sleep)など,複数の持続的な精神神経症状を報告する(3)。認知障害はbrain fogなどの変動を伴って生じる場合があり,それらは集中,記憶,受容性言語,および/または遂行機能の問題として現れる。これらの神経および認知症状はlong COVIDの主要な特徴であり,しばしば日常生活動作に大きな影響を及ぼす。

片頭痛様頭痛(しばしば従来の鎮痛薬に反応しない)やしびれおよびピリピリ感もよくみられる。味覚障害と嗅覚障害は他の症状が消失した後も持続することがある。

気分症の症状(主に不安および抑うつ)がよくみられ,COVID-19から回復した患者ではインフルエンザやその他の重篤な気道感染症から回復した患者と比較して,これらがより多くみられる(2)。

患者はPTSDのリスクも高く,侵入的な記憶により体験が繰り返し想起され,しばしば悪夢につながるが,PTSDが存在する場合,気分症と不安症の併発の診断は困難となる(4)。

最近のシステマティックレビューとメタアナリシスでは,long COVID患者における持続的な精神神経症状の統合有病率は以下の通りであった(5):

  • 睡眠障害:27.4%

  • 疲労:24.4%

  • 客観的な認知障害:20.2%

  • 不安:19.1%

  • PTSD:15.7%

  • 自覚的な認知障害:15.3%

  • 抑うつ:12.9%

  • 異嗅症:11.4%

  • 異味症:7.4%

  • 頭痛:6.6%

  • 感覚運動障害:5.5%

  • 浮動性めまい:2.9%(5)

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Liotta EM, Batra A, Clark JR, et al; Frequent neurologic manifestations and encephalopathy-associated morbidity in Covid-19 patients.Ann Clin Transl Neurol 7 (11):2221–2230, 2020. doi: 10.1002/acn3.51210

  2. 2.Taquet M, Geddes JR, Husain M, et al: 6-Month neurological and psychiatric outcomes in 236379 survivors of COVID-19: A retrospective cohort study using electronic health records.Lancet Psychiatry 8:416–427, 2021.doi: 10.1016/S2215-0366(21)00084-5

  3. 3.Graham EL, Clark JR, Orban ZS, et al: Persistent neurologic symptoms and cognitive dysfunction in non-hospitalized Covid-19 “long haulers.” Ann Clin Transl Neurol 8 (5): 1073–1085, 2021.doi: 10.1002/acn3.51350

  4. 4.Kubota T, Kuroda N, Sone D.Neuropsychiatric aspects of long COVID: A comprehensive review.Psychiatry Clin Neurosci 77 (2):84–93, 2023.doi: 10.1111/pcn.13508 Epub 2022 Dec 12.

  5. 5.Badenoch JB, Rengasamy ER, Watson C et al Persistent neuropsychiatric symptoms after COVID-19: A systematic review and meta-analysis.Brain Commun 4(1):fcab297, 2021.doi: 10.1093/braincomms/fcab297

COVID-19に関連した精神神経症状の診断

  • 臨床的評価

  • 他の原因疾患の検査

局所神経脱落症状がみられる場合のほか,おそらくは精神神経症状の原因として急性COVID-19が疑われる場合にも,脳MRIの適応となる。

急性COVID-19の罹患中または回復後に精神神経症状がみられた場合は,他の診断(例,代謝性疾患,中枢神経系の感染症および器質的疾患,精神疾患)を除外するため,適切な臨床検査も行う必要がある。

COVID-19患者における特定の気分症(例,うつ病)および不安症の診断基準は,他の人々に対するものと同じである。急性COVID-19からの回復後に認知障害がみられる場合は,神経心理学的検査が認知障害の特定と重症度の評価に役立つ可能性がある。標準的なスクリーニングツールを用いて,不安,抑うつ,睡眠障害,PTSD,自律神経失調症,および疲労がある患者を同定すべきである。

COVID-19に関連した精神神経症状の治療

  • 支持療法

  • ときに抗うつ薬

COVID-19の精神神経学的後遺症の大半には,支持療法が主な介入となる。Long COVID患者における併存疾患の至適管理を目指した包括的な集学的アプローチが重要である。

抑うつまたは不安がみられる患者については,治療法の比較試験が十分に実施されていない。しかしながら,一部のセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)およびセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は抗炎症作用を有しているため,これらの薬剤はCOVID-19に伴う炎症状態とそれに併存する抑うつ症を改善するという仮説が提唱されている。

COVID-19に関連した精神神経症状の予後

COVID-19の精神神経学的後遺症からの回復の期間および程度は不明である。長期追跡による前向き研究が必要である。

要点

  • COVID-19の入院患者では,急性期および回復期に精神神経症状がみられる可能性が高い。

  • COVID-19の急性期には,危篤患者でせん妄と興奮または傾眠がみられることがある。

  • COVID-19からの回復後には,多くの患者が持続的な精神神経症状(long COVID)を報告するが,具体的な症状としては,睡眠障害,疲労,記憶障害,認知障害,頭痛,しびれやピリピリ感,嗅覚脱失などがある。

  • 認知障害を特定し,その重症度を測定するのに神経心理学的検査が役立つことがある。

  • 急性期の精神神経症状がみられる患者とCOVID-19から回復した患者では,適切な画像検査および臨床検査で他の診断を除外する。

  • 支持療法と必要に応じた抗うつ薬で治療を行うとともに,包括的な集学的アプローチを用いてlong COVID患者の併存症を管理する。

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