小児および青年におけるヒト免疫不全ウイルス（HIV）感染症

小児で最も多いHIVの感染経路は以下のものです。

• 出産前または出産中の感染している母親

• 出生後の授乳

乳児のHIV感染症はほぼ必ず母親から感染したものです。米国ではHIV感染症の小児の95％以上が母親から感染しており、出産前または周産期のいずれかに感染しています（垂直感染または母子感染と呼ばれます）。現在HIV感染症にかかっているその他の小児と青年は、ほとんどが性行為から感染しており、まれに性的虐待による場合もあります。

血液および血液製剤のスクリーニングに関する安全対策が改善したことから、近年では血液および血液製剤の使用による感染は、米国、カナダ、西欧ではほぼなくなっています。

米国におけるHIV感染女性の出産件数については、専門家も把握していませんが、米国疾病予防管理センター（CDC）は年間約3000～5000人と推定しています。抗レトロウイルス療法を行わなければ、これらの女性の25～33％で新生児にHIV感染症が起きることになります。感染は、しばしば分娩時に起こります。

感染のリスクは、母親が以下の状態のときに最も高くなります。

• 妊娠中または授乳中にHIVに感染した

• HIV感染症のために重症の状態にある

• 体内のウイルス量が多い

しかし、米国では感染率が1991年の約25％から2019年の1％以下へと顕著に低下しました。母子感染が減少した理由は、感染している妊婦に対して、妊娠中および分娩中に集中的に検査と治療を行う努力が行われているためです。

このウイルスは母乳で感染する可能性もあります。出生時に感染していなかった乳児がHIVに感染している母親の母乳を飲むと、約12～14％がHIVに感染します。ほとんどの感染は生後数週間から数カ月の間に起こりますが、それ以降も感染が起こることがあります。授乳による感染は、体内のウイルスが多い母親で起こる可能性が高く、これには乳児への授乳期に感染した母親などが含まれます。

青年におけるHIVの感染経路は以下の通りで、成人と同じです。

• 無防備な性的接触

• 汚染された注射針の共用

無防備な性行為をしている場合、すべての青年でHIV感染のリスクが高まります。また、薬物を注射する際に、汚染された注射針を共用する際もリスクが増大します。

非常にまれに、感染した血液が皮膚について感染したという報告がありますが、このような例のほとんどでは、皮膚の表面にすり傷やただれによって損傷した部分がありました。唾液もウイルスを含んでいる可能性がありますが、せきやキス、かみつきから感染に至った事例は知られていません。

HIVは、以下のものを介しては感染しません。

• 食べもの

• 水

• 同じ家庭用品（衣類、家具、ドアノブなど）への接触

• 家庭、職場、または学校での社会的接触

米国やその他の高所得国では、HIV感染症の小児の大半が抗レトロウイルス療法を受けています。しかし、小児が治療を受けない場合には、以下のようなHIV感染症の一般的症状がみられます。

• 成長遅延および成熟の遅れ

• 体の数カ所のリンパ節の腫れ

• 繰り返す細菌感染症

• 繰り返し起きる下痢

• 肺感染症

• 脾臓または肝臓の腫大

• 口の真菌感染症（鵞口瘡）

• 貧血

• 心臓の異常

• 肝炎

• 日和見感染症

ときには、中耳感染症（中耳炎）、副鼻腔炎、血液中細菌が感染した状態（菌血症）、肺炎などの細菌感染症が、治療を受けていない小児で繰り返し発生することもあります。例えば、HIV感染症の治療を受けていない小児の約3分の1では、せきと呼吸困難を伴う肺の炎症（リンパ球性間質性肺炎）が発生します。免疫機能が低下するにつれて、ほかにも様々な症状と合併症が現れます。

HIV感染症の乳児や幼児がエイズと呼ばれる重症の病気を発症した場合、一般的に少なくとも1度はニューモシスチス肺炎を発症します（免疫機能が低下している人の肺炎を参照）。この重篤な日和見感染症は、早ければ生後4～6週で起こる可能性がありますが、ほとんどの場合、出生前または出生時にHIVに感染した乳児では生後3～6カ月で発生します。治療を受けていないHIV感染症の小児の半数以上が、いずれこの肺炎を発症します。このニューモシスチス肺炎は、エイズにかかっている小児や成人の主な死亡原因の1つです。

HIV感染症の治療を受けない場合、かなりの数の小児で脳障害が次第に進行していき、歩行や会話など発達のマイルストーンを達成できなかったり、達成が遅れたりします。このような小児は、知的障害があり、体の大きさに比べて頭が小さい場合があります。治療を受けていない小児では、最大20％が社会的能力と言語能力、および筋肉の制御能力を徐々に失い、部分的な麻痺や、足がふらふらする、筋肉が少しこわばるなどの症状がみられます。

貧血（赤血球数の減少）はHIV感染症の治療を受けていない場合によくみられ、そのせいで小児は弱々しくなり、疲れやすくなります。さらに、治療を受けていない小児の約20％で、心臓の拍動が速くなるか不規則になったり、心不全などの心臓の異常が起こります。

また、肝臓の炎症（肝炎）や腎臓の炎症（腎炎）もよくみられます。エイズ患者の小児ではがんはまれですが、非ホジキンリンパ腫や脳のリンパ腫はエイズに感染していない小児に比べて発生率がやや高い傾向があります。エイズに関連したがんで、皮膚や内臓に影響を与えるカポジ肉腫は、HIV感染症の成人ではよくみられますが、HIV感染症の小児では非常にまれです。

抗レトロウイルス療法により、小児に現れるHIV感染症の症状が大きく変わりました。抗レトロウイルス療法は非常に効果的で、HIV感染症を慢性疾患として管理することを可能にします。HIV感染症の小児に対して抗レトロウイルス療法を行えば、HIV感染症の症状は通常現れません。細菌性肺炎および他の細菌感染症（菌血症や反復性中耳炎など）は、HIV感染症の小児ではやや起こる頻度が高いですが、日和見感染症および発育不全の発生はまれです。

抗レトロウイルス療法により脳や脊髄の病気の影響は明らかに軽減していますが、治療を受けたHIV感染症の小児の行動、発達、認知の問題は発生率が上昇しているようです。これらの問題の原因が、HIV感染症自体にあるのか、HIVの治療で使用される薬剤にあるのか、HIV感染症の小児でよくみられる他の生物学的、心理学的、社会的要因にあるのかは、分かっていません。

抗レトロウイルス療法によって、小児も成人も長年生きられるようになったため、HIV感染症の長期的な合併症が発生する人も増えています。このような合併症としては、肥満、心疾患、糖尿病、腎疾患などがあります。これらの合併症には、HIV感染症自体と特定の抗レトロウイルス薬の影響の両方が関連しているようです。

青年期に感染したHIV感染症の症状は成人期に感染した場合と同様です（成人におけるHIV感染症の症状を参照）。

小児におけるHIV感染症の診断は、定期的な出生前スクリーニングの血液検査で妊婦のHIV感染症を発見することから始まります。女性には、新たなHIVの感染を検出するために、妊娠中の初期と第3トリメスター【訳注：日本でいう妊娠後期にほぼ相当】にHIV感染症の検査を行うべきです。

母親が病院の陣痛・分娩室にいる間に、血液または唾液でHIVの迅速検査を行うことができます。それらの検査は数分から数時間で結果が出ます。

生後18カ月未満のすべての小児では、成人に対して行われる標準的な血液検査であるHIV抗体または抗原検査は役に立ちません。その理由は、HIV感染症の母親から生まれた乳児の血液には、乳児自身がHIVに感染していない場合でも、胎盤を通過したHIV抗体がほぼ必ず存在するためです。

生後18カ月未満の小児でHIV感染症の診断を確定するには、核酸検査と呼ばれる特別な血液検査を行います。核酸検査で小児の血液中にHIVの遺伝物質（DNAまたはRNA）が検出されれば、HIV感染の診断が確定します。

核酸検査による血液検査は頻繁に行う必要があり、一般的には生後2週、生後約1カ月と、生後4～6カ月の間に行います。このように頻繁に検査を行うことで、HIV感染症の乳児の大半を生後6カ月までに発見することができます。HIVを発症するリスクが非常に高い乳児の場合には、さらに頻繁に検査を受ける必要があります。

以下の状態の母親から生まれたこの年齢層のすべての小児は検査を受けるべきです。

• HIV感染症を患っている

• HIV感染リスクがある

生後18カ月以降の小児および青年では、成人におけるHIV感染症診断のための血液検査と同じ検査が用いられます。通常は、HIV抗体と抗原を確認するための血液検査が行われます。（抗体とは、異物による攻撃から体を守るために免疫系によってつくられるタンパク質のことで、抗原は体の免疫系の反応を誘発する物質です［微生物などの抗原またはそれに対する抗体を検出するための検査を参照］。）

HIV感染症と診断されたら、医師は3～4カ月毎に定期的に血液検査を行い、CD4陽性リンパ球の数（CD4陽性細胞数）と、血液中のウイルス粒子の数（ウイルス量）をモニタリングします。

リンパ球とは白血球の一種です。CD4陽性リンパ球の数はHIV感染症が悪化すると減少します。CD4陽性細胞数が低いと、小児は重篤な感染症や、特定のがんなどHIV感染症の他の合併症を発症する可能性が高くなります。

ウイルス量はHIV感染症が悪化すると増加します。ウイルス量は、その後の数年間にCD4陽性細胞数がどの程度の速度で低下するかを予測する上で有用です。

CD4陽性細胞数とウイルス量は、どの程度早急に抗レトロウイルス薬の使用を始めるべきか、治療で得られると思われる効果、感染症の合併を予防するために他の薬剤が必要かどうかを医師が判断するのに役立ちます。

HIVに感染したすべての小児に対して、できるだけ早く、理想的には診断から1～2週間以内に抗レトロウイルス療法を行うべきです。小児の治療は、成人に使用される抗レトロウイルス薬とおおむね同じもので行われます（ヒト免疫不全ウイルス（HIV）感染症の抗レトロウイルス治療を参照）。しかし、液剤がないなどの理由から、比較的年長の小児や青年と成人に使用される薬剤のすべてを幼児に使用できるわけではありません。

抗レトロウイルス療法は個々の小児に合わせて修正されますが、典型的には以下のもので構成されます。

• 2つの核酸系逆転写酵素阻害薬（NRTI）と次のいずれか

• インテグラーゼ阻害薬またはプロテアーゼ阻害薬

ときに、非核酸系逆転写酵素阻害薬が2つのNRTIと併用されます。

一般的に、小児にも成人と同じ副作用が起こりますが、出現する確率はずっと低いのが通常です。それでも薬剤の副作用により治療が制限されることがあります。

医師は血液中のウイルス量と小児のCD4陽性細胞数を定期的に測定して治療の有効性をチェックします（小児におけるHIV感染の診断を参照）。医師は定期的に他のいくつかの検査を行い、青年期の女子には妊娠検査を行います。

血液中のウイルスの数が増えていたら、ウイルスがその薬剤に対する抵抗性（耐性）をもつようになったか、または小児が薬剤を飲んでいない可能性があり、いずれの場合も薬剤を変える必要があるかもしれません。小児の状況をモニタリングするため、医師は3～4カ月間隔で小児を診察し、血液検査を行います。他の種類の血液検査と尿検査が6～12カ月間隔で行われます。

治療遵守（アドヒアランス）とは、薬剤を指示通りに服用することを指します。処方された抗レトロウイルス療法の服薬スケジュールを遵守することが極めて大切です。小児の抗レトロウイルス薬の服用回数が処方されたものより少ない場合、小児の体内のHIVは1つ以上の薬剤に対して恒久的な耐性を急速に獲得する可能性があります。複雑な投薬計画を遵守し続けることは親や小児にとって難しいことがあり、このことが治療の有効性を限定的にしています。投薬計画を単純にし、治療の遵守率を向上させるため、3種類以上の薬剤を含有する錠剤を与える場合もあります。そのような錠剤は、服用も1日1～2回で済むことがあります。液剤も現在では味がよくなっており、これにより治療遵守が改善します。

抗レトロウイルス療法の遵守は、比較的若年の小児よりも青年の方が難しい場合があります。青年では、糖尿病や喘息などの他の慢性疾患でも治療計画の遵守が困難です（小児の慢性的な健康の問題も参照）。青年は、友達と同じようにしていたいと望み、病気によって他者と距離があるように感じる可能性があります。治療をさぼったり、やめたりすることは、青年にとっては自分が病気であるということを否定する手段である場合があります。青年の治療を複雑にし、遵守率を低下させる他の問題としては以下のものがあります。

• 低い自尊心

• 無秩序で統一性のない生活習慣

• 病気によってのけ者にされることの恐怖

• ときに家族の支援の欠如

また、青年は、体の調子が悪くないときになぜ薬剤が必要であるかを理解できないことや、副作用を強く心配する場合もあります。

小児科医療チームとの頻繁な連絡にもかかわらず、出生時から感染している青年は、自分のHIV感染症をおそれたり否定したりする場合や、医療ケアチームが提供した情報を信用しない場合があります。医療ケアチームは、薬剤を服用する必要性に関して支援のシステムが整っていない青年に対し、直接的に必要性を突きつけるのではなく、青年が実務的な事項（例えばどのように日和見感染を予防するかや、どのように生殖医療支援や住居、良好な学校生活についての情報を得るのか）に焦点を合わせる手助けをすることもあります（成人ケアへの移行を参照）。

ニューモシスチス肺炎を予防するため、医師はHIV感染症の小児に対して、CD4陽性細胞数がどの程度少ないかと年齢に応じて、トリメトプリム/スルファメトキサゾール配合剤を処方します。HIV感染症の女性から生まれたすべての乳児には、生後4～6週目から検査で感染が明らかになるまでトリメトプリム/スルファメトキサゾール配合剤を投与します。副作用のためにトリメトプリム/スルファメトキサゾールに耐えられない小児には、ジアフェニルスルホン、アトバコン、またはペンタミジンを投与します。

免疫機能がひどく低下している小児には、年齢とCD4陽性細胞数に応じて、マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス感染症を予防するためにアジスロマイシンかクラリスロマイシンを投与します。代替の薬剤としてリファブチンがあります。

ほぼすべてのHIV感染症の小児は、小児を対象とする定期予防接種を受けるべきで、これには以下のものが含まれます。

• ジフテリア・破傷風・百日ぜき混合ワクチン（DTaP）

• 不活化ポリオワクチン

• インフルエンザ（生ワクチンではなく不活化ワクチン）

• インフルエンザ菌

• 肺炎球菌

• A型肝炎【訳注：日本では任意接種です［2025年1月現在］】、B型肝炎

• ロタウイルスワクチン

• 髄膜炎菌結合型ワクチン

• 肺炎球菌ワクチン

• COVID-19

家族にも年1回の不活化または生インフルエンザワクチンの接種が推奨されます。

生きている細菌を含有する一部のワクチン（例、米国以外の一部の国で結核予防に使用されているBCG）、または生きているウイルスを含有する一部のワクチン（例、米国では使用できないが、世界の他の地域では依然として使用されている経口ポリオウイルス、水痘、麻疹・ムンプス［流行性耳下腺炎］・風疹）は、免疫系の機能が非常に低下しているHIV感染症の小児では、重度の病気や死に至る病気を引き起こす可能性があります。一方、免疫機能がひどくは低下していないHIV感染症の小児に対しては、麻疹・ムンプス（流行性耳下腺炎）・風疹混合生ワクチンと水痘生ワクチンのほか、世界の一部の地域では黄熱生ワクチンとデングウイルス生ワクチンが推奨されます。

ただし、HIVに感染している小児では、どの予防接種も有効性が低くなります。CD4陽性細胞数が非常に低いHIV感染症の小児は、ワクチンで予防可能な病気（麻疹［はしか］、破傷風、水痘など）に対し、その病気に対するワクチン接種を受けていたかどうかにかかわらず、病原体にさらされた場合にかかりやすいと考えられており、免疫グロブリンを静脈内投与されることがあります。世帯内の予防接種を受けていない人が麻疹ウイルスにさらされた場合は、免疫グロブリン製剤の静脈内投与または麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチンを直ちに接種することを考慮する必要があります。

小児が保育所や学校に通うようになったり、里親が必要になったりした場合には、そこで小児が感染症にさらされるリスクを医師に評価してもらうことができます。一般には、HIV感染症の小児を含めて、免疫機能が低下した小児が水痘などの感染症にかかるリスクの方が、その小児が他の小児にHIVを感染させてしまうリスクよりも大きくなります。ただし、HIVに感染している幼児の皮膚がただれて、じくじくした面が見えている場合や、かみつくなどの危険な行動をとるおそれがある場合は保育施設に行かせてはいけません。

またHIV感染症の小児には、健康状態が許す限り、健康な小児がその時期に行うであろう日常活動に参加させるべきです。他の小児とかかわることで社会性や自尊心が育ちます。HIV感染症にはよくないイメージがあること、学校および託児所で普遍的予防策を常用していること、他の小児には感染する可能性が極めて低いことを考慮すれば、両親と医師は別として、おそらく養護教諭以外には小児がHIVに感染していることを話す必要はありません。

小児の状態が悪化してきた場合は、できるだけ制約の少ない環境で治療を行うのが一番です。訪問看護や地域サービスが受けられるなら、入院せずに家庭で長く過ごせます。

感染した妊婦のための現在の予防治療は、新生児への感染のリスクを最小限にする上で極めて効果的です。HIVに感染している妊婦には、内服薬を用いた抗レトロウイルス療法を開始するべきです。抗レトロウイルス療法はHIV感染が診断されたら直ちに開始し、女性が指示された通りに治療法を遵守できる準備が整っているのが理想的です。HIVに感染している妊婦がすでに抗レトロウイルス療法を受けている場合は、妊娠期間中、それを継続すべきです。HIV感染女性は、妊娠を考えている場合でも抗レトロウイルス療法を継続すべきです。

母体への抗レトロウイルス療法に加え、ときに分娩時に母親に抗レトロウイルス薬のジドブジン（ZDV）も静脈内投与します。その後、HIVにさらされた新生児にもジドブジン（ZDV）を生後4～6週間は1日2回、経口投与します（HIVに感染するリスクが高い特定の新生児には、抗ウイルス薬を追加することもあります）。このように、母子共に治療を行うことで、感染率は25％～1％以下にまで低下します。また、陣痛が始まる前に帝王切開で分娩することでも、新生児がHIVに感染するリスクを低下させる可能性があります。感染症が抗レトロウイルス療法で良好にコントロールされていない女性では、帝王切開による分娩が推奨される場合があります。分娩後も、すべてのHIV感染女性に対して抗レトロウイルス療法が継続されます。

HIVは授乳期間中に母乳を介して伝播する可能性があるため、母乳を与えるかどうかの判断は、必ず医療従事者とのカウンセリングや意思決定の話し合いをした後に下すべきです。

低栄養と汚染された水や人工乳による感染症のリスクが高く、また安全な乳児用人工乳を妥当な価格で入手できない国では、HIV感染のリスクよりも、母乳哺育のメリットの方が大きくなる場合があります。そのような国では、医学的な管理下で、HIVに感染している母親は少なくとも生後12カ月間は母乳による授乳を続けることができ、その後は速やかに離乳食に移行します。このような場合、しばしば乳児に対して授乳期間を通して抗レトロウイルス療法が行われます。

HIV感染症の母親には、絶対に母乳バンクに母乳を寄付しないよう助言されるべきです。

またHIV感染症の母親は、乳児に与える食べものを咀嚼してはいけません。

個々の小児がHIVに感染しているかどうか分からない場合もあるため、すべての学校や託児所は、鼻血などの事故の処理や、血液で汚れた場所の掃除や殺菌に関して、特別な対策を講じるべきです。

掃除を行う職員は、皮膚が血液に接触しないよう気をつけるべきです。普段からゴム手袋を使用できるようにしておき、手袋を外したら手を洗います。

血液で汚れた場所は、家庭用の漂白剤を水で10～100倍に薄めたものを新しく用意して、洗浄・殺菌する必要があります。

これらの対策は普遍的予防策と呼ばれ、HIVに感染した小児だけではなく、すべての小児について、また血液に関わるあらゆる状況で遵守するものです。

青年での予防策は成人での予防策と同じです。すべての青年がHIV検査を受けられるようにし、HIVはどのように感染するかを教え、また感染の予防策、例えば高リスクの行動（汚染された注射針の共用など）や性交を控えることや安全な性行為を実践することについて教える必要があります。

HIVにさらされる前に抗レトロウイルス薬を使用することで、HIV感染のリスクを減らすことができます。このような予防的治療は曝露前予防（PrEP）と呼ばれます。

曝露前予防は、毎日薬剤を服用する場合に最も高い効果が得られますが、そうすると費用が高くなる可能性があるため、曝露前予防はHIVに感染していない人のうち、HIV感染者のセックスパートナーがいる人や、男性と性行為をする男性、トランスジェンダーの人など、感染リスクが高い人に対して最もよく推奨されます。リスクがある年長の青年も曝露前予防の対象になりますが、機密保持や費用の問題が成人の場合より複雑になります。

曝露前予防を行っている人も、常にコンドームを使用し、注射針の共用をしないなど、他の感染症に対する予防策を講じる必要があります。