関節症状を有する患者の評価

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2022年 2月
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筋骨格系疾患の中には,主として関節を侵し,関節炎を引き起こすものがある。そのほかにも,主として骨を侵すもの(例,骨折骨パジェット病腫瘍),筋肉または他の関節外軟部組織を侵すもの(例,リウマチ性多発筋痛症筋炎),関節周囲軟部組織を侵すもの(例,滑液包炎腱炎捻挫)がある。関節炎の原因としては,感染症や自己免疫疾患結晶誘発性炎症,軽微な炎症を伴う軟骨および骨疾患(例,変形性関節症)など,非常に多くの可能性がある。関節炎は,単一の関節(単関節炎)または複数の関節(多関節炎)を対称性または非対称性に侵し,脊椎を侵す場合もある。

病歴

医師は関節症状だけでなく,全身症状と関節外症状にも注意を向けるべきである。以下を含む多くの症状や臨床所見が様々な関節疾患と関連している可能性があり,特異的な全身性疾患を診断する上で手がかりになることもある:

  • 発熱

  • 悪寒

  • 倦怠感

  • 体重減少

  • レイノー現象

  • 発疹

  • 粘膜潰瘍

  • 眼の充血または眼痛

  • 光線過敏症

  • 異常感覚

  • 消化管症状

  • 心肺症状

痛みは関節疾患の最も一般的な症状である(単関節および単関節周囲の痛みおよび複数の関節の痛みを参照)。病歴の聴取では,痛みの性質,部位,重症度,痛みが増悪または軽減する要因,および期間(初発または再発)に目を向けるべきである。医師は,痛みが増すのは関節を動かし始めるときか,長時間使用した後かと,痛みが起床時からあるか,日中に出現するかを確認する必要がある。表層の構造から生じる痛みは通常,より深部の構造から生じる痛みよりも速やかに限局的となる。遠位の小関節で生じる痛みは,近位の大関節で生じる痛みよりも限局的である傾向が強い。関節痛は,関節外の構造や他の関節からの関連痛である場合がある。関節炎ではうずく痛みが生じることが多い一方,神経障害では刺すような深部の痛みや表在性の灼熱痛が生じることが多い。

こわばりは関節を動かしにくい状態をいうが,患者にとっては,筋力低下,疲労,または一定の運動制限を指すこともある。医師は,関節を動かせないことと,痛みのせいで関節を動かそうとしないことを区別する必要がある。こわばりの特徴は,以下に記すように,原因を示唆することがある:

  • 一定時間の安静の後に関節を動かそうとする際に関節の動きに伴って起こる不快感は,リウマチ性疾患で生じる。

  • こわばりは,関節の炎症の重症度が増すにつれてより重度になり長引く。

  • Theater sign(数時間座った後にゆっくり歩かざるを得なくなる,膝関節または股関節の短時間のこわばり)は変形性関節症で一般的にみられる。

  • 1時間以上続く末梢関節の朝のこわばりは,関節リウマチ乾癬性関節炎,またはウイルス性の慢性関節炎など,関節に起きた炎症の重要な初期症状である場合がある。

  • 腰部では,1時間を超えて続き,体動で軽減する朝のこわばりは,脊椎炎を反映していることがある。

疲労は,休みたいという欲求であり消耗を反映している。それは,筋力低下,動けないこと,および動きに伴う痛みのために動きたがらないこととは異なる。疲労は,全身性炎症性疾患や他の疾患の活動性を反映していることがある。疲労と眠気の鑑別を試みるべきである。

不安定性(関節の座屈[buckling])は,関節内部の障害や靱帯など関節を安定させる関節周囲組織の脆弱性を示唆し,それらは診察時に負荷試験によって評価する。座屈は膝関節で最もよく起こる。

表&コラム
表&コラム

身体診察

障害のある関節を個々に視診および触診し,可動域を測定すべきである。多関節性疾患では,特定の非関節性の徴候(例,発熱,消耗,発疹)は,全身性疾患を反映している可能性がある。

紅斑,腫脹,変形,および皮膚の擦過傷または穿刺傷とともに,関節の安静肢位に注意する。障害のある関節を障害のない反対側の関節または検者の関節と比較する。

関節を愛護的に触診し,圧痛,熱感,および腫脹の有無とその部位に注意する。圧痛が関節裂隙に沿っているか,または腱付着部もしくは滑液包部にあるかの判定が特に重要である。正常の陥凹または間隙を満たす柔らかい腫瘤,膨隆,または組織(関節液貯留または滑膜増殖を示す)がないか注意する。腫脹した関節を触診すると,ときに関節液貯留,滑膜肥厚,および関節包または骨の膨隆を鑑別できることがある。小関節(例,肩鎖関節,脛腓関節,橈尺関節,胸鎖関節)が,当初は隣接する大関節から生じると考えられた痛みの原因であることがある。骨の膨隆(しばしば骨棘に起因する)に注意する。

自動関節可動域(患者が関節を動かすことのできる最大域)を最初に評価する;制限があれば,機械的異常ばかりではなく,筋力低下,痛み,またはこわばりを反映していることがある。次に他動関節可動域(検者が関節を動かすことができる最大域)を評価する;他動的な可動域制限は,一般的に筋力低下または痛みよりむしろ機械的異常(例,瘢痕,腫脹,変形)を反映している。炎症を起こしている関節(例,感染症または痛風のため)を自動的および他動的に動かすと,非常に痛むことがある。

その関節の運動もしくは触診で痛みを再現できない場合は,関連痛の可能性が示唆される。

関節障害のパターンに注意すべきである。多関節の対称性の障害は全身性疾患(例,関節リウマチ)で一般的である一方,単関節(1つの関節が侵される場合)または非対称性の少関節(4カ所以下の関節が侵される場合)の障害は変形性関節症乾癬性関節炎でより一般的である。末梢の小関節は通常関節リウマチで侵されることが多く,より大きな関節および脊椎は脊椎関節症で侵されることが多い。しかし,完全な障害パターンは疾患早期には明白でないことがある。

クレピタス(捻髪音),すなわち損傷した関節構造の運動によって生じる触知ないし聴取可能な,きしむような音に注意する。クレピタスは表面が粗くなった関節軟骨または腱により生じる可能性があるが,クレピタスが生じる動作を特定すべきであり,その動作から関係している構造が示唆される場合がある。

それぞれの関節で特異的な所見を検索すべきである。身体診察の詳細については,以下に示す関節毎に考察している:

検査

臨床検査および画像検査では,しばしば病歴および身体診察よりも得られる情報が少ない。一部の患者では必要な検査もあるが,詳細な検査は必要ではないことが多い。検査としては以下のものがある:

ときに骨,滑膜,その他の組織の生検が行われる。

血液検査

血液検査は病歴および診察所見に基づいて選択すべきである。一部の検査は特異的ではないものの,以下に挙げるように,特定の全身性リウマチ性疾患の可能性を裏付けたり否定したりするのに役立つ可能性がある:

白血球数,赤血球沈降速度(赤沈),C反応性タンパク(CRP)などの検査は,関節炎が感染症またはその他の全身性疾患による炎症性のものであるかどうかの確認に役立つことがあるが,これらの検査は特異度,感度ともにあまり高くはない。例えば,赤沈の亢進またはC反応性タンパク(CRP)値の上昇は関節の炎症を示唆するか,あるいは関節以外で炎症を引き起こす多くの病態(例,感染症,がん)に起因している場合がある。また,そのようなマーカーは全ての炎症性疾患で上昇するとは限らない可能性もある。

画像検査

画像検査は不要であることが多い。特に単純X線は主に骨の異常を明らかにするが,大半の関節疾患は骨を主に侵すものではない。しかし画像検査は,比較的限局性で説明のつかない持続性または重度の関節異常および特に脊椎異常の初期評価に役立つことがある;画像検査により原発性もしくは転移性の腫瘍,骨髄炎,骨梗塞,(石灰性腱炎でみられるような)関節周辺の石灰化,または身体診察で見落とされることがある深部構造のその他の変化が明らかになることがある。慢性の関節リウマチ痛風,または変形性関節症が疑われる場合,びらん,嚢胞,および骨棘を伴う関節腔の狭小化がみられることがある。ピロリン酸カルシウム関節炎(偽痛風)では,関節内の軟骨にピロリン酸カルシウムの沈着がみられることがある。

筋骨格系の画像検査としては,単純X線を最初に施行されることが多いが,単純X線はMRI,CT,超音波検査より(特に発症後早期の段階では)感度が低い。MRIは,単純X線では描出されない骨折に対する最も正確な検査であり,特に股関節および骨盤の骨折と膝関節の軟部組織や関節内部の障害に対して有効である。CTは,MRIが禁忌または利用できない場合に有用である。超音波検査,関節造影,および骨シンチグラフィーは,特定の条件下で役立つ場合がある。

関節穿刺

関節穿刺とは,関節に針を刺入して関節液を吸引する手技である。液の貯留がある状況で関節穿刺を正しく行えば,通常は関節液を吸引できる。関節液の検査は,感染の除外,結晶誘発性関節炎の診断,および関節液貯留の原因特定において最も精度の高い方法である。この手技は,単一の関節に急性または原因不明の液貯留がある全ての患者と,複数の関節に原因不明の液貯留がある患者で適応となる。

関節穿刺は厳密な無菌操作で行う。感染や発疹がある部位を刺入部位にするのは禁忌である。穿刺を行う前に検体採取の準備を済ませておくべきである。リドカインおよび/またはジフルオロエタンのスプレーによる局所麻酔を用いることが多い。神経,動脈,および静脈(通常は関節の屈側面にある)を避けるために,多くの関節ではその伸側面に穿刺する。できるだけ多くの体液を採取すべきである。特異的な解剖学的ランドマークを活用する(肩関節肘関節,および膝関節の関節穿刺の図を参照)。超音波ガイドは関節穿刺が成功する可能性を高めることが示されている。

関節液の検査

ベッドサイドで,色や透明度など,関節液の肉眼的な特徴を評価する。

肉眼的な特徴によって,多くの貯留液を暫定的に,非炎症性,炎症性,または感染性に分類できる(関節液の分類の表を参照)。貯留液は出血性のこともある。各種の貯留液は特定の関節疾患を示唆する(関節液の分類に基づく鑑別診断の表を参照)。いわゆる非炎症性貯留液は,しばしば軽度の炎症を伴っているが,変形性関節症などの疾患を示唆していることが多く,その場合の炎症は重度でない。

表&コラム
表&コラム

関節液を検体として行われる一般的な臨床検査としては,細胞数測定,白血球分画,グラム染色培養(感染症が懸念される場合),細胞や結晶を調べる湿潤標本による鏡検(wet drop examination)などがある。しかし,多くの場合,選択すべき検査は疑われている疾患により異なる。

表&コラム
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痛風ピロリン酸カルシウム関節炎,その他の結晶誘発性関節症の診断を確定するには,滑液の湿潤標本(wet drop preparation)(関節液1滴のみでよい)に対して偏光を用いる顕微鏡検査を行って結晶を検出する必要がある。光源の上に偏光板を置き,標本と検者の眼の間に別の偏光板を置くと,高輝度の白い複屈折性結晶を視認できるようになる。鋭敏色板を挿入することで,補償された偏光を得られるが,標準的な光学顕微鏡に適用可能な市販の顕微鏡キットでもそのようになっている。

最も一般的にみられる結晶は,痛風の診断根拠となるもの(尿酸一ナトリウム,負の複屈折性を示す針状結晶)と,ピロリン酸カルシウム関節炎の診断根拠となるもの(ピロリン酸カルシウム,正の複屈折性を示すか複屈折性を示さない菱形または桿状の結晶)である。結晶が湿潤標本(wet drop)で非定型に見える場合は,それほど一般的ではない結晶(コレステロール,液状脂質の結晶,シュウ酸塩,クリオグロブリン)とアーチファクト(例,沈着したコルチコステロイド結晶)を考慮すべきである。

そのほかに特異的な診断につながったり示唆したりすることある関節液所見として,以下のものがある:

  • 特異的な微生物(グラム染色または抗酸菌染色により同定可能)

  • 骨髄片または脂肪小滴(骨折による)

  • アミロイドの断片(コンゴレッド染色により同定可能)

  • 鎌状赤血球(鎌状赤血球の異常ヘモグロビン症[sickle cell hemoglobinopathy]により生じる)

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