異常出血は血液凝固系の障害,血小板障害,または血管障害により生じる。凝固障害には,後天性のものと遺伝性のものがある。
後天性凝固障害の主要な原因は以下のものである:
播種性血管内凝固症候群(DIC)
肝疾患
重度の肝疾患(例,肝硬変,劇症肝炎,急性妊娠性脂肪肝)では,凝固因子の生成が損なわれることにより,止血が妨げられる場合がある。凝固因子は全て肝臓(肝細胞および肝類洞内皮細胞)で産生されるため,重度の肝疾患になると,プロトロンビン時間(PT)と部分トロンボプラスチン時間(PTT)の両方が延長する。(PTの検査結果は一般にINR[国際標準化比]で報告される。)ときには,非代償性肝疾患によっても,肝臓のα2-アンチプラスミン合成低下のために過度の線溶と出血が生じる。
最も一般的な遺伝性止血障害は次のものである:
フォン・ヴィレブランド病(VWD)
最も一般的な遺伝性凝固障害は次のものである:
凝固障害の検査
凝固障害が疑われる患者では,以下の臨床検査から開始する必要がある:
プロトロンビン時間(PT)および部分トロンボプラスチン時間(PTT)
血小板数を含めた血算
末梢血塗抹標本
これらの検査の結果により診断の可能性が絞られ,さらなる検査の指針が得られる。
正常な結果
初期検査で正常であれば,多くの出血性疾患が除外される。主に以下が除外される:
フォン・ヴィレブランド病はよくみられる疾患であり,付随する第VIII因子の欠乏は,PTTを延長するのに不十分である場合が多い。初期検査の結果が正常であるが,出血の徴候または症状および家族歴を有する患者では,血漿フォン・ヴィレブランド因子(VWF)抗原,リストセチン補因子活性(VWFの大マルチマーの間接的な検査),VWFマルチマーのパターン,および第VIII因子濃度を測定することで,VWDについて検査すべきである。
遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu症候群とも呼ばれる)は血管奇形の遺伝性疾患である。本疾患の患者では,顔面,唇,口腔および鼻粘膜,ならびに指趾先端に,赤色から紫色を呈する毛細血管拡張の小病変がみられる。 鼻粘膜や消化管から繰り返す出血がみられることがあり,また,動静脈奇形の他の合併症により重篤な状態となる可能性もある。
血小板減少症
血小板減少症が認められる場合は,末梢血塗抹標本により原因が示唆されることが多い。
血液塗抹標本が正常な場合,HIV感染について検査すべきである。HIV検査が陰性で,妊娠しておらず,かつ血小板破壊を引き起こすことが知られている薬剤を服用していない場合,免疫性血小板減少症(ITP)の可能性が高い。
血液塗抹標本で溶血の徴候(血液塗抹標本の破砕赤血球,ヘモグロビン値低下)がみられる場合,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)または溶血性尿毒症症候群(HUS)が疑われる。「古典的」HUSは,志賀毒素様の毒素による出血性大腸炎の患者にみられ,いくつかのEscherichia coli血清型による感染で発生する。「非定型」のHUSが,補体代替経路の先天異常がある人にまれに生じる。TTPおよびHUSでは,クームス試験が陰性である。
血算および末梢血塗抹標本で他の血球減少症または異常白血球が認められる場合,複数の細胞系列に影響を及ぼす血液学的異常が疑われる。その場合の診断には骨髄穿刺および骨髄生検が必要である。
血小板およびPTが正常なPTTの延長
血小板およびPTが正常でPTTが延長している場合,血友病AまたはBが示唆される。第VIIIおよびIX因子の測定が適応となる。PTTを特異的に延長する阻害因子としては,第VIII因子に対する自己抗体およびタンパク質-リン脂質複合体に対する抗体(ループスアンチコアグラント)が挙げられる。正常な血漿と1:1の比率で混合してもPTT延長が是正されない場合は,これらの阻害因子のいずれかを疑う。
血小板およびPTTが正常なPTの延長
血小板およびPTTが正常でPTが延長している場合,第VII因子の欠乏が示唆される。先天的な第VII因子欠乏症はまれである;ただし,第VII因子の血漿中半減期は短いため,ワルファリン抗凝固療法を開始する患者や初期の肝疾患の患者では,第VII因子の濃度は他のビタミンK依存性の凝固因子よりも急速に低下する。
血小板減少症を伴うPTおよびPTTの延長
血小板減少症を伴うPTおよびPTTの延長では,DICが示唆され,特に産科合併症,敗血症,悪性腫瘍,またはショックを認める患者に多い。
Dダイマー(またはフィブリン分解産物)濃度の上昇および連続検査における血漿フィブリノーゲン濃度の低下の所見により確定する。