血友病

執筆者:Joel L. Moake, MD, Baylor College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 9月 | 修正済み 2022年 1月
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血友病はよくみられる遺伝性出血性疾患で,第VIII因子または第IX因子のいずれかの凝固因子の欠乏に起因する。因子の欠乏の度合いで出血の確率および重症度が決まる。通常は外傷の数時間以内に深部組織または関節内への出血が生じる。診断は,プロトロンビン時間および血小板数が正常かつ部分トロンボプラスチン時間の延長を認める患者で疑い,特異的因子の測定により確定する。治療には,急性出血が疑われる場合,確認された場合,または発生する可能性が高い場合(例,外科手術の前)の欠乏因子の補充療法がある。

凝固障害の概要も参照のこと。)

血友病患者の約80%を占める血友病A(第VIII因子欠乏症)は,血友病B(第IX因子欠乏症)と臨床症状およびスクリーニング検査の異常が同じである。いずれもX連鎖遺伝性疾患である。この2つを鑑別するには特異的因子の測定が必要である。

血友病の病因

血友病は,第VIII因子または第IX因子の遺伝子に変異,欠失,または逆位が生じることに起因する遺伝性疾患である。これらの遺伝子はX染色体上に位置するため,血友病は,ほぼ例外なく男性に現れる。血友病の男性の娘は絶対保因者であるが,息子は正常である。保因者の息子が血友病になる確率は50%で,娘が保因者になる確率も50%である。

血友病の病態生理

正常な止血(血液凝固経路の図を参照)には,正常な第VIII因子および第IX因子の濃度が30%を超えている必要がある。血友病の大半の患者は,濃度が5%未満である;重症例では濃度が極端に低い(1%未満)。血友病AおよびBにおける第VIII因子または第IX因子の機能レベル(活性)に加え,それによる出血の重症度は,第VIII因子または第IX因子における特異的な変異に応じて様々である。

血液凝固経路

保因者の濃度は通常約50%である;まれに,胎生初期に保因者の正常なX染色体にランダムな不活化が生じ,第VIII因子または第IX因子の濃度が30%未満になることもある。

1980年代初期に治療を受けた血友病患者の大半は,汚染された血漿または第VIII因子もしくは第IX因子製剤(効果的なウイルス不活性化薬が開発される前)が原因でHIVに感染した。ときに,HIV感染に続発する免疫性血小板減少症により,出血が悪化する患者もいる。

血友病の症状と徴候

血友病患者では組織内へ出血する(例,関節出血,筋肉血腫,後腹膜出血)。外傷の程度および第VIII因子または第IX因子の血漿中濃度に応じて,出血が急速に生じることも,緩徐に進行することもある。出血の開始とともに疼痛が生じることが多いが,ときに出血の他の徴候が現れる前に生じることもある。慢性または再発性の関節出血では,滑膜炎および関節症に至る可能性がある。頭部のごく軽微な打撲でも,頭蓋内出血を招く恐れがある。舌根部への出血は,生命を脅かす気道圧迫を起こすことがある。

軽症の血友病(因子濃度が正常値の5~25%)では,外科手術または抜歯後に過度の出血を起こす場合がある。

中等症の血友病(因子濃度が正常値の1~5%)では,通常,ごく軽微な外傷後に出血が起きる。

重症の血友病(第VIII因子または第IX因子濃度が正常値の1%未満)では,生涯を通じて重度の出血を起こし,通常は出生直後から始まる(例,出生直後の頭皮血腫または包皮環状切除後の過度の出血)。

血友病の診断

  • 血小板数,プロトロンビン時間(PT),部分トロンボプラスチン時間(PTT),第VIII因子,および第IX因子の測定

  • ときにフォン・ヴィレブランド因子の活性,抗原,およびマルチマー構成

再発性の出血症状,原因不明の関節出血,またはPTT延長が認められる患者では血友病を疑う。血友病が疑われる場合は,PTT,PT,血小板数,第VIII因子および第IX因子を測定する。血友病ではPTTが延長するが,PTおよび血小板数は正常である。

第VIIIおよびIX因子測定により,血友病の型および重症度が決定される。第VIII因子の濃度はフォン・ヴィレブランド病(VWD)でも低下することがあるため,新たに血友病Aと診断された患者で,特に重症度が軽症で,家族歴に男女ともに発症者がみられる場合は,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の活性,抗原,およびマルチマー構成を測定する。女性が血友病Aの真の保因者か否かの判定は,ときに第VIII因子濃度の測定により可能なことがある。同様に,第IX因子の濃度測定により血友病Bの保因者が同定されることが多い。

第VIII因子遺伝子を構成するDNAのPCR解析は,専門の検査機関で施行可能で,血友病A保因者か否かの診断,および血友病Aの出生前診断(第12週の絨毛採取または第16週の羊水穿刺による)に使用されることがある。これらの手技では,0.5~1%の流産のリスクがある。

第VIII因子または第IX因子補充療法を繰り返した後には,重症の血友病A患者の約30%および血友病B患者の約3%に第VIII因子または第IX因子の同種抗体(アロ抗体)が発現し,第VIII因子または第IX因子をさらに輸注しても凝固活性が阻害される。そのため,同種抗体の有無を調べるスクリーニング検査(例,患者血漿を同量の正常血漿と混合した直後にPTTの短縮の度合いを測定し,続いて1時間のインキュベーション後に再測定する)を実施すべきである(特に補充療法を必要とする待機手術の前)。同種抗体が存在する場合は,患者血漿の段階希釈により第VIII因子阻害の程度を測ることで同種抗体の力価が測定できる。

パール&ピットフォール

  • 第VIII因子濃度はフォン・ヴィレブランド病でも低下する場合があるため,新たに血友病Aと診断された患者では,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の活性,抗原,およびマルチマー構成を測定すること。

血友病の予防

家系内の保因者を特定して,遺伝カウンセリングを受けられるようにすべきである。

出血を予防するために,アスピリンおよび非ステロイド系抗炎症薬を避けるべきである(ともに血小板機能を阻害する)。抜歯およびその他の歯科手術が回避できるように,定期的な口腔ケアが欠かせない。薬剤は経口または静注で投与すべきである;筋注では血腫を引き起こす可能性がある。

血友病患者にはB型肝炎ワクチンを接種すべきである。

血友病の治療

  • 欠乏因子の補充

  • ときに抗線溶薬

症状により出血が示唆される場合は,たとえ診断検査が完了していなくとも,直ちに治療を開始すべきである。例えば,頭蓋内出血を示すと考えられる頭痛に対する治療は,CT完了前に開始すべきである。

欠乏因子の補充が主たる治療である。

血友病Aでは,以下の水準まで第VIII因子の濃度を一過性に上昇させるべきである:

  • 抜歯後の出血防止,または初期の関節出血の停止には,正常値の約30%まで

  • 関節または筋肉内の重度の出血がすでに明白であれば,正常値の50%まで

  • 大手術の前,または出血が頭蓋内,心臓内,もしくはそれ以外の生命を脅かす部位に認められる場合は,正常値の100%まで

その後は当初算出した投与量の50%で8~12時間毎に輸注を繰り返し,大手術後または生命を脅かす出血後の7~10日間にわたり50%を超えるトラフ濃度を保つべきである。第VIII因子を1単位/kg投与することで,第VIII因子の濃度が約2%上昇する。したがって,濃度を0%から50%に上昇させるためには約25単位/kgが必要である。

第VIII因子は,複数の供血者に由来する精製第VIII因子濃縮製剤として投与できる。この製剤はウイルス不活化工程を経ているが,パルボウイルスまたはA型肝炎ウイルスは,不活化工程により排除されない可能性がある。遺伝子組換え第VIII因子製剤は,ウイルスが含まれておらず,患者がすでにHIVまたはB型もしくはC型肝炎ウイルスに対して血清反応陽性でない限り,通常は望ましい。

血友病Bでは,精製または遺伝子組換えウイルス不活化製剤として,第IX因子が24時間毎に投与可能である。因子改善の目標濃度は,血友病Aの場合と同様である。ただし,第IX因子は第VIII因子よりも小さく,第VIII因子と比較して血管外の分布が大きいため,目標濃度を得るには投与量を血友病Aより多くしなければならない。

新鮮凍結血漿には第VIII因子および第IX因子が含まれている。ただし,重症の血友病患者では,血漿交換を行わない限り,通常は出血を予防またはコントロールできるレベルまで第VIII因子または第IX因子濃度を上げるに足る量の全血漿は投与できない。したがって,新鮮凍結血漿は,急速な補充療法が必要で,濃縮因子製剤が入手できないか,患者の凝固障害の原因が未解明の場合にのみ使用すべきである。

遺伝子組換え第VIII因子Fc領域融合タンパク質(1),遺伝子組換え第IX因子Fc領域融合タンパク質(2),ポリエチレングリコール(PEG)結合遺伝子組換え第VIII因子(3),およびペグ化第IX因子(4)は,いずれもin vivoの半減期が長く,血友病AおよびB患者の出血をコントロールすることが報告されていいる。

血友病Aに対しては,遺伝子組換えヒト化二重特異性モノクローナル抗体のエミシズマブがあり,これは第IX因子と第X因子の両方に結合し,それらをXase様の活性型複合体に連結することで第VIII因子を不必要にするもので,血友病Aの効果的な治療法となっている(5)。

血友病AまたはBの両方に対する臨床試験段階の新規治療薬として,フィツシランとコンシズマブ(6, 7)がある。フィツシランは,内因性の抗凝固タンパク質であるアンチトロンビンの産生をノックダウンする低分子干渉RNAである。コンシズマブは,別の内因性抗凝固タンパク質である組織因子経路インヒビター(TFPI)を阻害し,血友病AおよびBにおけるトロンビン産生を増加させるヒト化モノクローナル抗体である。

無害なウイルスを用いて第VIII因子または第IX因子の遺伝子を導入する遺伝子療法についても,血友病AまたはBの治療法として臨床試験が実施されている(8)。

VWFと第VIII因子はどちらも内皮細胞のWeibel-Palade小体の中に貯蔵されており,内皮細胞の刺激に反応して分泌される(9)。したがって,軽症または中等症の血友病Aに対しては,バソプレシン合成アナログのDDAVP(デアミノ-D-アルギニンバソプレシン,別名デスモプレシン)による患者内皮細胞のin vivo刺激が補助的な治療法となりうる。VWDの項に記載しているように,デスモプレシンは第VIII因子の濃度を一時的に上昇させることがある。デスモプレシンを治療に使用する際は,事前に患者の反応を検査しておくべきである。軽微な外傷後または待機的な歯科手術の前に使用することで,補充療法が不要になることもある。デスモプレシンは,軽症の血友病A(第VIII因子の基底値が5%以上)でデスモプレシンに対する反応性が認められる患者にのみ使用すべきである。

血友病AまたはBに対する補助的治療としては,線溶を抑制して抜歯後やその他の中咽頭粘膜外傷(例,舌裂傷)後の遅延性出血を予防する目的で,抗線溶薬(アミノカプロン酸2.5~4gの1日4回経口投与を1週間またはトラネキサム酸1.0~1.5gの1日3回または4回経口投与を1週間)も使用されることがある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Mahlangu J, Powell JS, Ragni MV, et al: Phase 3 study of recombinant factor VIII Fc fusion protein in severe hemophilia A.Blood 123:317–325, 2014.

  2. 2.Powell JS, Pasi KJ, Ragni MV, et al: Phase 3 study of recombinant factor IX Fc fusion protein in hemophilia B.N Engl J Med 369:2313–2323, 2013.

  3. 3.Konkle BA, Stasyshyn O, Chowdary P, et al: Pegylated, full-length, recombinant factor VIII for prophylactic and on-demand treatment of severe hemophilia A.Blood 126:1078–1085, 2015.

  4. 4.Collins PW, Young G, Knobe K, et al.Recombinant long-acting glycoPEGylated factor IX in hemophilia B: A multinational randomized phase 3 trial.Blood 124:3880–3886, 2014.

  5. 5.Nuto A, Yoshihashi K, Takeda M, et al: Anti-factor IXa/X bispecific antibody (ACE910): Hemostatic potency against ongoing bleeds in a hemophilia A model and the possibility of routine supplementation.J Thromb Haemost 12:206–213, 2014.

  6. 6.Sehgal A, Barros S, Ivanciu L, et al: An RNAi therapeutic targeting antithrombin to rebalance the coagulation system and promote hemostasis in hemophilia.Nat Med 21:492–497, 2015.

  7. 7.Chowdary P, Lethagen S, Friedrich U, et al: Safety and pharmacokinetics of anti-TFPI antibody (concizumab) in healthy volunteers and patients with hemophilia: A randomized first human dose trial.J Thromb Haemost 13:743–754, 2015.

  8. 8.George LA: Hemophilia gene therapy comes of age.Blood Adv 1:2591–2599, 2017.

  9. 9.Turner NA and Moake JL: Factor VIII is synthesized in human endothelial cells, packaged in Weibel-Palade bodies and secreted bound to ULVWF strings.PLoS ONE 10(10): e0140740, 2015.

要点

  • 血友病は,X連鎖潜性(劣性)の凝固障害である。

  • 血友病A(患者の約80%)は第VIII因子欠乏を伴い,血友病Bは第IX因子欠乏を伴う。

  • ごくわずかな外傷でも組織内へ出血する(例,関節出血,筋肉血腫,後腹膜出血);致死的な頭蓋内出血が生じることがある。

  • 部分トロンボプラスチン時間が延長するが,プロトロンビン時間および血小板数は正常であり,第VIII因子および第IX因子の測定で血友病の病型および重症度を判別できる。

  • 出血している患者または出血が予測される患者(例,手術前または抜歯前)には補充因子を投与し,その際は組換え製剤の使用が望ましい;用量は状況による。

  • 第VIII因子の点滴を繰り返し必要とする重症の血友病A患者の約30%では,第VIII因子に対する抗体が発現する。

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