加齢に伴う体の変化

執筆者:Richard G. Stefanacci, DO, MGH, MBA, Thomas Jefferson University, Jefferson College of Population Health
レビュー/改訂 2022年 5月 | 修正済み 2022年 12月
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加齢に伴い、個々の細胞やすべての臓器で変化が起こり、体が変化していきます。それにより機能面や外見が変化します。

老化の概要も参照のこと。)

細胞の老化

細胞が老化するにつれ、機能も衰えます。古い細胞は最終的に死滅しますが、これは体の正常な機能の一部です。

古い細胞が死ぬ理由の1つは、そうなるようにプログラムされているからです。細胞の遺伝子には、誘発されれば細胞死に至るような過程がプログラムされています。アポトーシスと呼ばれるこのプログラム死は、いわば細胞の自殺です。細胞の老化は1つの引き金になります。新しい細胞に場所を空けるために、古い細胞は死滅する必要があります。その他の引き金には、細胞数の過剰な増加や、細胞の損傷などがあります。

古い細胞が死ぬ理由は、細胞は限られた回数しか分裂できないからでもあります。この制限は遺伝子によりプログラムされています。細胞はそれ以上分裂できなくなると、膨張し、その後しばらくしてから死にます。細胞分裂を制限する仕組みとして、テロメアという構造が関与しています。テロメアは、細胞分裂の準備過程で細胞の遺伝物質を移動させるのに使用されます。細胞が分裂するたびに、テロメアは少しずつ短くなります。最終的に、テロメアがごく短くなり、細胞がそれ以上分裂できなくなります。細胞分裂が停止すると、それを老化と呼びます。

細胞の損傷が直接、細胞死の原因になることがあります。放射線、日光、化学療法薬などの有害物質により、細胞が損傷を受ける場合もあります。細胞は、自身の正常な活動で生成される副産物によっても損傷を受けます。フリーラジカルと呼ばれるこれらの副産物は、細胞がエネルギーを生産するときに放出されます。

知っていますか?

  • ほとんどの機能低下は通常、老化ではなく病気によって起こります。

臓器の老化

臓器がどの程度良好に機能するかは、そこに存在する細胞がいかにうまく機能するかに依存します。老化した細胞の機能はあまり良好ではありません。また、一部の臓器では、細胞が死滅しても置き換わらないため、細胞数が減少します。精巣、卵巣、肝臓、腎臓の細胞数は、体の老化とともに著しく減少します。細胞数が少なくなりすぎると、臓器は正常に機能しません。このように、ほとんどの臓器の機能は年齢とともに衰えます。しかし、すべての臓器が多数の細胞を失うわけではありません。脳はその一例です。健康な高齢者は多くの脳細胞を失わずにいます。脳細胞の顕著な減少が起こるのは、主に脳卒中を起こした人、またはアルツハイマー病もしくはパーキンソン病などの神経細胞が次第に失われていく病気(神経変性疾患)にかかった人です。

多くの場合、加齢の最初の徴候は筋骨格系に現れます。眼、続いて耳が中年期の初期に変化し始めます。体の内部の機能も大半は年齢とともに低下します。ほとんどの身体機能は30歳手前でピークに達し、その後、徐々にですが連続的に衰退し始めます。しかし、衰退するものの、たいていの機能は十分維持されます。なぜなら、ほとんどの臓器には最初、体が必要とするよりもずっと多くの余力(機能予備能)があるためです。例えば、肝臓の半分が破壊されたとしても、残りの組織で十分に正常な機能が維持できます。したがって、高齢期の機能低下の大半をもたらしているのは、通常は正常な老化現象ではなく病気です。

ほとんどの機能が十分に維持されていても、機能が低下すると、高齢者は激しい運動、環境の過度の温度変化、病気など、様々なストレスに対処しにくくなります。この衰えは薬の副作用を受けやすくなることを意味します。一部の臓器は、ストレスを受けると、他の臓器よりも機能不全が起こりやすくなります。このような臓器には、心臓、血管、泌尿器(腎臓など)、脳などがあります。

骨と関節

筋骨格系への加齢の影響も参照のこと。)

骨密度は低下していく傾向があります。骨密度の中等度の低下を骨減少症といい、骨密度の重度の低下(骨密度の低下による骨折の発生を含む)を骨粗しょう症といいます。骨粗しょう症になると、骨が弱くなり、骨折しやすくなります。女性では閉経後にエストロゲンの生成量が減るため、骨密度の低下が急激に進みます。骨の形成、破壊、再形成という体の正常な過程の中で、エストロゲンは骨が過剰に破壊されるのを防ぐ助けになります。

骨密度の低下の一因として、骨に強度を与えるカルシウム含有量の減少があります。食事から吸収されるカルシウムが少なくなるため、カルシウム量が減少するのです。また、体のカルシウム利用を助けるビタミンD量もわずかに減少します。特定の骨は他の骨より弱くなります。最も影響を受けやすい骨には、大腿骨の股関節側骨端、腕の骨の手首側の骨端(橈骨、尺骨)、脊椎の骨(椎骨)などがあります。

脊椎上部の椎骨の変化により、頭が前に傾き、のどを圧迫します。その結果、飲み込むことが困難になり、窒息しやすくなります。椎骨密度が低下し、その間の組織のクッション(椎間板)は体液を喪失して薄くなり、脊椎が短くなります。これにより、高齢者は背が低くなります。

長年動かしたことによる摩耗や亀裂が一因となり、関節軟骨が薄くなる傾向があります。関節の表面同士が以前のように滑り合わなくなり、関節がいくらか損傷を受けやすくなります。関節を長年使い続けたこと、またはけがを繰り返したことによる軟骨の損傷は、しばしば変形性関節症をもたらしますが、これは晩年に最もよくみられる病気の1つです。

関節同士を結合する靱帯や筋肉と骨を結合する腱では、弾性が低下しがちで、関節が固いまたはこわばった感じがするようになります。これらの組織もまた弱くなります。このように、ほとんどの人で柔軟性が失われていきます。靱帯や腱が断裂しやすくなる傾向があり、断裂した場合の治りが遅くなります。これらの変化が起きるのは、靱帯と腱を維持する細胞の活動性が低くなるためです。

筋肉と体脂肪

筋肉組織の量(筋肉量)と筋力の減少は30歳前後から始まり、生涯続く傾向があります。こうした減少は、運動不足や筋肉の発達を刺激する成長ホルモンとテストステロンの量が減少することが原因で生じます。また、速筋線維の方が遅筋線維より多く失われるため、筋肉は素早く収縮できなくなります。しかし、成人期において加齢の影響が原因で減少する筋肉量と筋力は約10~15%以下です。病気がなければ、その10~15%を超える損失の大半は定期的に運動することで防ぐことができます。これよりも重度の筋肉減少(サルコペニアといい、文字通り筋肉の喪失を意味します)は、加齢だけではなく、病気または過度の運動不足が原因で生じます。

ほとんどの高齢者には、必要な作業をするのに十分な筋肉量と筋力があります。高齢者にも優れた運動能力を維持している人は多くいます。こうした人々はスポーツで競い合い、元気に運動を楽しんでいます。しかし、どれほど壮健な人でも、加齢による衰えには気づきます。

知っていますか?

  • 高齢者が1日間、安静にしたときの筋肉量の減少を補うためには、最大2週間の運動が必要です。

筋肉を強くするための定期的な運動(レジスタンストレーニング)により、筋肉量と筋力の減少をある程度抑えたり、またはその進行を大幅に遅らせたりすることができます。筋肉を鍛える運動では、重力(腹筋運動または腕立て伏せ)、体重、またはゴムバンドの負荷に対抗して筋肉を収縮させます。このような運動を定期的に行えば、運動していなかった人でも筋肉量と筋力を増強することができます。反対に、運動をしないでいると、特に病気の間の床上安静の場合には、筋肉は大幅に衰えていきます。運動をしない間に、高齢者では若い人に比べ急速に筋肉量と筋力が減少します。例えば、1日間の床上安静で失われる筋肉量を補うために、最大2週間の運動が必要です。

75歳までに、体脂肪率は一般的に若い頃の2倍になります。体脂肪が多すぎると、糖尿病など健康上の問題が生じるリスクが増加することがあります。脂肪の分布も変化し、体幹の形が変わります。健康的な食事と定期的な運動は、高齢者の体脂肪増加を最小限に抑える助けになります。

眼への加齢の影響も参照のこと。)

加齢とともに、以下のような変化が起こります。

  • 水晶体が硬くなり、近くのものに焦点を合わせにくくなります。

  • 水晶体の密度が高くなり、薄暗い場所でものが見えにくくなります。

  • 光の変化に対する瞳孔の反応が遅くなります。

  • 水晶体が黄色くなり、色の感じ方が変化します。

  • 神経細胞が減少し、奥行きの認識力が衰えます。

  • 眼で生成される涙液が減り、眼の乾きを感じるようになります。

多くの場合、視力の変化が老化の最初の明らかな徴候です。

水晶体の変化により、以下のようなことが起こります。

  • 近くを見る視力(近見視力)の喪失:ほとんどの人は40代で、60センチメートルより近くのものを見るのが困難になっているのに気づきます。この視力の変化は老視と呼ばれ、水晶体の硬化により起こります。正常であれば、水晶体は眼の焦点を合わせるようにその形を変化させます。水晶体が硬くなると、近くのものに焦点を合わせることが困難になります。最終的に、ほぼ全員が老視になり、拡大老眼鏡が必要になります。遠くのものを見るのに眼鏡が必要な人は、遠近両用眼鏡または可変焦点レンズの眼鏡が必要になります。

  • より明るい光が必要:加齢に伴い、水晶体の透明性が低くなるため、薄暗い場所でものを見るのが困難になります。水晶体密度が高くなると、眼の後ろにある網膜に届く光が少なくなります。また、光を感じる細胞がある網膜の感受性が低くなります。そうすると、読書にはより明るい光が必要になります。平均的に、60歳の人が読書する場合は、20歳の人の3倍の光が必要です。

  • 色覚の変化:加齢に伴い水晶体が黄色みを帯びてくるため、色の感じ方が変わります。色が暗く見えるようになり、違う色のコントラストを見分けるのが難しくなります。青色はより灰色っぽく見え、青い印刷や背景が色あせて見えます。ほとんどの人にとって、これらの変化は大したことではありません。しかし、高齢者にとっては、青い背景上の黒い文字または青い文字が読みにくい場合があります。

光の変化に対する瞳孔の反応が遅くなります。瞳孔は周囲の明るさに応じて広がったり狭まったりして、入ってくる光の量を調節します。瞳孔の反応が遅くなった高齢者が暗い部屋に入ると、最初のうちはものが見えなくなります。また、照明の明るい場所に入ったときにも一時的に眼が見えなくなります。また、高齢者はまぶしさにも敏感になります。ただし、まぶしさに対する感受性の増加は、多くの場合、水晶体の一部に出た濁り、または白内障のためです。

知っていますか?

  • 60歳の人のほとんどは、読書に20歳の人の3倍の光が必要です。

陰影や色調など、細部を見分けるのがより困難になります。その理由はおそらく、眼から脳へ視覚信号を伝える神経細胞の減少によるものです。この変化が奥行きの認識の仕方に影響を及ぼし、距離の判断を難しくします。

高齢者では、視野の中で動く小さな黒い点が増加することがあります。 飛蚊と呼ばれるこれらの小さな点は、正常な液体が眼の中で固まったものです。飛蚊症は視野を著しく妨げるものではありません。その数が急に増えないかぎり、心配する必要はありません。

眼は乾きやすくなります。この変化は、眼の表面を滑らかな状態に保つ液体を生産する細胞が減少することにより起こります。涙の生成量が減少することがあります。

眼の外観がいくつか変化します。

  • 白眼の部分(強膜)が黄ばんだり、または茶色に変色したりします。この変化は、長年にわたり紫外線、風、ほこりにさらされた結果として起こります。

  • 特に皮膚の色が濃い人で、白眼に不規則な色のしみが現れます。

  • 灰白色の環(老人環)が眼の表面に現れます。環はカルシウムとコレステロールでできています。視力に影響を及ぼすことはありません。

  • 眼の周りの筋肉が弱くなり腱が伸びるため、眼球から下まぶたが垂れます。外反というこの状態は眼球の潤滑を妨げ、ドライアイの一因となります。

  • 眼の周りの脂肪量の減少により、眼が頭部に陥入したようにみえます。

耳、鼻、のどへの加齢の影響も参照のこと。)

聴覚の変化の大部分はおそらく生涯にわたる騒音への曝露と加齢によります(難聴も参照)。長期間大きな騒音にさらされると、徐々に聴力が損なわれます。とはいえ、大きな騒音への曝露に関係なく、年齢とともにいくぶんかの聴覚の変化が起こります。

耳垢(耳あか)が詰まっていれば簡単に取り除くことができるため、それが難聴の原因になっていないかどうかを確かめるために受診することが重要です。

加齢とともに、高音がより聞き取りにくくなります。この変化は加齢性難聴(老人性難聴)と考えられます。例えば、バイオリンの音の明るい響きがくぐもって聞こえるようになります。

知っていますか?

  • 会話の理解に支障がある高齢者には、大きな声で話すより子音をはっきりと話す方が役立ちます。

  • 高齢者では、特に高音の聞き取りが困難です。

老人性難聴になって最ももどかしく感じられるのは、言葉を理解しにくくなることです。結果的に高齢者には、他者の言葉がもごもごと口ごもっているように思えます。より大きな声で話した場合でも、高齢者は相手の言葉をなかなか理解できません。その理由は、ほとんどの子音(k、t、s、p、chなどの音)は高音であり、子音が言葉を識別するのを助ける音であるためです。母音は音が低いため、聞き取るのが容易です。したがって、高齢者には「Tell me exactly what you want to keep(取っておきたいものを正確に教えてください)」が、「Ell me exaly wha you wan oo ee」などと聞こえることがあります。高齢者の聞き取りを助けるためには、周囲の人は単に大きな声で話すより、子音をはっきりと発音する必要があります。またほとんどの場合、女性や子どもの声の方が高いため、男性の話を理解するよりも女性や子どもの話を理解することの方が難しくなります。徐々に低音の聞き取りも難しくなります。

騒々しい場所または大勢がいるところでは周囲の雑音が多いため、多くの高齢者は聞き取りに支障をきたします。

耳の中から太い毛が生え出ることがあります。

口と鼻

口と歯への加齢の影響および耳、鼻、のどへの加齢の影響も参照のこと。)

概して人は50代になると、味覚や嗅覚が徐々に衰え始めます。どちらも、食べものの風味を十分楽しむのに必要な感覚です。舌は5種類の基本の味、すなわち甘味、酸味、苦味、塩味、うまみしか識別できません(うまみは一般にmeaty[肉のような味]またはsavory[食欲をそそる味]と表現されます)。より微妙で複雑な風味(ラズベリーなど)を区別するには嗅覚が必要です。

年齢とともに、舌にある味蕾の感受性が鈍くなります。この変化は苦味や酸味よりも甘味と塩味に影響を及ぼします。鼻粘膜が薄くなって乾き、鼻の神経終末が変性するため、嗅覚が減退します。しかし、変化はわずかで、通常は微妙な匂いにのみ影響を及ぼします。これらの変化により、多くの食べものが苦く感じられる傾向があり、匂いの少ない食べものでは味が薄く感じることもあります。

生産される唾液の減少が一因となって、口腔乾燥(口の中の乾燥)をよく感じるようになります。口腔乾燥はさらに味覚を衰えさせます。

年齢とともに、歯肉がわずかに退縮します。その結果、歯の下部が食物片や細菌にさらされます。また、歯のエナメル質がすり減る傾向にあります。これらの変化と口腔乾燥により、う蝕になりやすく、歯が失われやすくなります。

加齢に伴い、鼻は長く大きくなり、先が垂れ下がる傾向があります。

鼻腔、上唇、あごに太い毛が生えることがあります。

皮膚

皮膚への加齢の影響も参照のこと。)

皮膚は薄くなり、弾力を失い、乾燥し、細かいしわがよります。しかし、しわや肌荒れ、しみには、長年にわたり日光にさらされてきたことが大きく関与しています。日光にさらされないようにしてきた人は、多くの場合、同年代の人より若くみえます。

コラーゲン(皮膚を強くする丈夫な繊維状の組織)とエラスチン(皮膚に弾力性を与える)が化学的に変化し、柔軟性が失われることが一因となって皮膚が変化し、また高齢者の体ではコラーゲンとエラスチンの生成も減少します。その結果、皮膚が裂けやすくなります。

また、皮下脂肪の層が薄くなります。この層は皮膚のクッションとして働き、皮膚を保護し、支える助けになります。また、皮下脂肪には体の熱を逃がさないという働きもあります。この層が薄くなると、しわができやすくなり、寒さに弱くなります。

皮膚に分布する神経終末の数が減ります。その結果、痛み、温度、圧力に対する感受性が鈍くなり、けがをしやすくなります。

汗腺や血管の数が少なくなり、皮膚の深層部の血流が減少します。その結果、体の内側から表面まで血管を通して熱が移動しにくくなります。体内から逃げる熱が少なくなるため、体が冷えにくくなります。したがって、熱中症など高温に伴う病気のリスクが増加します。また、血流が減少すると、皮膚の治癒が遅れる傾向があります。

色素産生細胞(メラノサイト)の数が減少します。その結果、日光などの紫外線(UV)から皮膚を護る効果が小さくなります。日光にさらされてきた皮膚に大きくて茶色い斑点(しみ)が現れますが、これはおそらく老廃物を取り除く皮膚の能力が衰えたためです。

日光を浴びたときにビタミンDを形成する皮膚の能力が低くなります。したがって、ビタミンD欠乏症のリスクが増加します。

脳と神経系

神経系への加齢の影響も参照のこと。)

一般的に脳の神経細胞の数が減少します。しかし、脳は以下のようにしてこの減少を部分的に補うことができます。

  • 細胞が失われると、残っている神経細胞間に新しい結合がつくられます。

  • 脳のいくつかの領域では、高齢期でも新しい神経細胞がつくられることがあります。

  • 脳にはほとんどの活動に必要な数を超える細胞があります(余剰性と呼ばれる特性)。

脳内でメッセージを送るのに関与する化学物質の量は減少していく傾向がありますが、増加するものもあります。神経細胞はこのような化学的なメッセージを受け取る受容体の一部を失います。脳への血流が減少します。これらの加齢に伴う変化により、脳の機能がわずかに低下します。高齢者は反応や作業がいくらか遅くなることがありますが、時間があれば正確に行うことができます。語彙、短期記憶、新しいことを覚える能力、言葉を思い出す能力など、一部の精神機能が70歳以降わずかに低下します。

60歳を過ぎる頃から、脊髄の細胞数が減り始めます。通常、この変化は力または感覚には影響を及ぼしません。

知っていますか?

  • 脳には、加齢に伴う神経細胞の減少を補う手段があります。

年齢を重ねるにつれて、神経が信号を伝える速度も落ちていきます。この変化は小さいため、通常、人はこれに気づきません。また、神経の自己修復が遅く不完全になります。したがって、神経損傷のある高齢者では、感覚や力が低下します。

心臓と血管

心臓と血管への加齢の影響も参照のこと。)

心臓と血管が硬くなります。心臓に血液が送り込まれる速さが遅くなります。動脈が硬くなり、多くの血液が送り出されたときに拡張しにくくなります。したがって、血圧が上昇する傾向があります。

このような変化はありますが、健常な高齢者の心機能は良好です。若い人と高齢者の心臓の差が明らかになるのは、心臓が激しく働き、多くの血液を送り出さなければならない場合、例えば運動時または病気のときだけです。高齢者の心臓は若い人のように速く打ったり、または多くの血液を速く送り出したりすることはできません。そのため、高齢の運動選手は若い選手と同じようには運動ができません。しかし、定期的な有酸素運動によって、高齢者の運動能力は向上します。

肺と呼吸筋

呼吸器系への加齢の影響も参照のこと。)

呼吸で使われる筋肉は肋骨の間にある筋肉と横隔膜ですが、これらは弱くなる傾向にあります。空気の袋(肺胞)の数と肺毛細血管が減少します。したがって、吸い込んだ空気から取り込まれる酸素がやや減少します。肺の弾力性が低下します。喫煙しない人または肺疾患のない人では、これらの変化が日常生活に影響を及ぼすことはありませんが、運動が困難になる可能性があります。酸素が薄い高地での呼吸も困難になります。

微生物を含む異物を気道から取り除く細胞の能力が低下し、それが一因となって、感染に対する肺の抵抗力が低下します。せきも肺をきれいにする助けになりますが、これも弱くなりがちです。

消化器系

消化器系への加齢の影響も参照のこと。)

体の大部分と比較して、消化器系は全体的に加齢の影響を受けません。食道の筋肉の収縮力は弱くなりますが、食道を通過する食べものの動きは影響を受けません。食べものが胃から出ていく速度はわずかに遅くなり、胃の弾力性が弱くなるため多くの食べものが入らなくなります。これらの変化はわずかであるため、ほとんどの人はそれに気づきません。

ある種の変化は、一部の人に問題を起こします。消化管で、ミルクの消化に必要な酵素であるラクターゼ(乳糖分解酵素)の生成量が減少します。その結果、高齢者は乳製品の不耐症(乳糖不耐症)を発症しやすくなります。乳糖不耐症の人は、乳製品を摂取した後に、膨満感、ガスまたは下痢が生じることがあります。

便が大腸を通過する速度がわずかに遅くなります。これにより、人によっては便秘になります。

肝細胞の減少により、肝臓が小さくなる傾向があります。通過する血流が減少し、薬や他の物質の代謝を助ける肝酵素の働きが弱くなります。その結果、薬や他の物質を体外に排出するのを助ける肝臓の能力がやや低下します。薬の影響(意図した効果と意図しない作用の両方)が長く続くようになります。

腎臓と尿路

尿路への加齢の影響も参照のこと。)

細胞数の減少により、腎臓は小さくなる傾向があります。腎臓の血流が少なくなり、30歳前後から血液ろ過率の低下が始まります。年が経つにつれ、血中の老廃物の除去能力が低下します。水分が過剰に排出されるのに対し塩分の排出はわずかで、脱水になりやすくなります。しかし、たいていは体が必要とする十分な機能を維持しています。

ある種の尿路の変化により、排尿調節が困難になる場合があります。

  • 膀胱が貯めておける尿の最大容量が減少します。したがって、高齢者は頻繁な排尿が必要になります。

  • 排尿の必要性の有無にかかわらず、膀胱の筋肉が予期せず収縮することがあります(過活動膀胱)。

  • 膀胱の筋肉が弱くなります。その結果、膀胱を完全に空にすることができず、排尿後も尿が膀胱に残ります。

  • 排尿を調節する筋肉(尿道括約筋)がしっかりと閉じなくなり、尿漏れを防げなくなります。したがって、高齢者は排尿を我慢できなくなります。

これらの変化が、年齢とともに尿失禁(排尿をコントロールできない状態)が多くなる一因になります。

女性では、尿道(排尿時に尿が通る管)が短くなり、その内層が薄くなります。閉経に伴って生じるエストロゲンの減少が、尿路のこれらの変化に関与している可能性があります。

男性では、前立腺が大きくなる傾向があります。多くの男性で、肥大した前立腺により、尿の通過を妨げられ膀胱を完全に空にすることができなくなります。その結果、高齢男性では尿の勢いが弱まり、排尿までに時間がかかり、排尿終了時に尿がポタポタと滴り、頻尿になります。また、膀胱が満杯になっていても排尿できなくなる(尿閉と呼ばれます)こともよく起こります。この病気は、直ちに治療が必要です。

生殖器

女性

女性生殖器系への加齢の影響も参照のこと。)

性ホルモン濃度に対する加齢の影響は、男性より女性の方が明らかです。女性にみられるこうした影響のほとんどは、閉経と関連しています。閉経すると、女性ホルモン(特にエストロゲン)が劇的に減少し、月経が永久になくなり、妊娠ができなくなります。女性ホルモン濃度の低下により卵巣と子宮が小さくなります。腟の組織が薄くなって乾燥し、弾力を失っていきます(萎縮性腟炎と呼ばれる状態)。このような変化がひどい場合は、かゆみ、出血、性交痛、強い尿意(尿意切迫)が生じることがあります。

乳房は張りを失い、線維化が進み、垂れ下がりがちです。これらの変化によって、乳房のしこりを発見するのが困難になります。

閉経時に始まるいくつかの変化(性ホルモンの減少、腟の乾燥など)が性行為を妨げます。しかし、ほとんどの女性にとって、加齢は性行為の楽しみを大きく損なうものではありません。妊娠を心配する必要がなくなるため、性行為が充実し、その楽しみが高まることがあります。

知っていますか?

  • 加齢により乳房が変化するため、がんを示唆するしこりの発見が困難になります。

男性

男性生殖器系への加齢の影響も参照のこと。)

男性では、性ホルモン量の変化はそれほど突然ではありません。男性ホルモン(テストステロン)の量が減少する結果、精子が減少して性欲(リビドー)が減退しますが、減少の速度は緩やかです。陰茎への血流が減少する傾向がありますが、ほとんどの男性は一生、勃起とオルガスムが起こります。しかし、勃起は長続きせず、あまり硬化せず、または持続させるにはさらなる刺激が必要です。次の勃起までに時間を要すようになります。加齢とともに勃起障害(インポテンス)が多くなりますが、病気に起因することが多く、通常は血管が侵される病気(血管疾患など)または糖尿病が原因です。

内分泌系

内分泌系への加齢の影響も参照のこと。)

内分泌腺で生成されるいくつかのホルモンの量と活性が低下します。

  • 成長ホルモンが減少し、それにより筋肉量が減少します。

  • アルドステロンが減少し、脱水が起こりやすくなります。このホルモンは、塩分と水分を保持するように体に信号を送っています。

  • 血糖値をコントロールする助けになるインスリンの効果が低下し、また生成されるインスリン量が減少します。インスリンによって血中の糖が細胞に取り込まれ、そこで糖がエネルギーに変換されます。上述のようなインスリンの変化は、たくさんの食事をとった後に血糖値が上がり、正常に戻るまで長時間かかることを意味します。

ほとんどの人では、内分泌系の変化が、目に見える健康状態への影響として現れることはありません。しかし一部の人では、その変化によって健康上のリスクが高まります。例えば、インスリンの変化により2型糖尿病のリスクが増加します。したがって、インスリンの作用を増強する運動や食事が、加齢とともにますます重要になります。

造血系

血球を生産する活発な骨髄の量が減少します。それに伴い、血球の生産量も減少します。しかし、骨髄は通常、十分な血球を生涯にわたって生産することができます。問題が起こるのは、血球の必要性が著しく増加したとき、例えば貧血もしくは感染症が発生したり、または出血が生じた場合です。このような場合に、骨髄は体の必要に応じて血球の生産を増加させることができません。

免疫系

免疫系細胞の働きが遅くなります。免疫系の細胞は、細菌やその他の感染性微生物などの異物のほか、おそらくはがん細胞も認識して破壊します。この免疫系機能の低下によって、加齢に伴ういくつかの徴候を部分的に説明できます。

  • がんが高齢者によくみられる。

  • 高齢者ではワクチンがより効きにくくなる傾向がある。しかし、インフルエンザ、肺炎、帯状疱疹のワクチンの接種は重要であり、いくらかの効果がみられる。

  • 肺炎やインフルエンザなどいくつかの感染症が高齢者によくみられ、死に至ることも増える。

  • アレルギー症状が重くならない。

免疫系の反応が遅くなるため、自己免疫疾患は少なくなります。

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