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網膜芽細胞腫

執筆者:Kee Kiat Yeo, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 修正済み 2024年 6月
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やさしくわかる病気事典
網膜芽細胞腫は、眼の奥にあって光を感じる部位である網膜に発生するがんです。

本ページのリソース

  • 網膜芽細胞腫は遺伝子の変異によって発生する可能性があります。

  • 瞳孔が白くなったり、斜視がみられたりすることがあり、ときに視覚障害がみられることもあります。

  • 医師は、麻酔を施し、特殊な器具を用いて眼を調べることで、網膜芽細胞腫と診断できることがよくあります。

  • 治療では、手術、化学療法、ときには放射線療法が行われます。

小児がんの概要も参照のこと。)

網膜芽細胞腫は小児がんの約2%を占めます。このがんは2歳未満の小児に最も多くみられます。網膜芽細胞腫は小児にのみ発生します。

網膜芽細胞腫は、眼の発達を制御する特定の遺伝子の変異によって発生します。この変異は親から受け継がれる(遺伝する)ことがあります。また、胎児のごく初期の発生段階で自然に(遺伝ではなく)変異が起こることもあります。

その変異が遺伝する場合、同じ変異が患児の子どもにも受け継がれる可能性があります。片方の親にその変異がある場合、変異を受け継いだ子どもが生まれる確率は50%です。その変異が遺伝した場合、その変異をもつ大半の小児が網膜芽細胞腫を発症します。両眼に網膜芽細胞腫が発生した小児の場合はすべて遺伝性です。片眼だけに発生した小児の場合、15%が遺伝性です。

ほかには、胎児発生の後期になってから変異が起こったり、眼の細胞のみに変異が発生したりする場合があります。このような場合では、変異は遺伝せず、子どもに受け継がれることはありません。

網膜もうまく構造こうぞう

一般的に網膜芽細胞腫は眼から転移しませんが、ときおり視神経(眼から脳に通じる神経)を通って脳に転移することがあります。網膜芽細胞腫が骨髄や骨といった他の場所に広がる(転移する)こともまれにあります。

網膜芽細胞腫の症状

網膜芽細胞腫の症状には、白色瞳孔や寄り目(斜視)などがあります。

網膜芽細胞腫もうまくがさいぼうしゅがある乳児にゅうじ<...
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白しろい瞳孔どうこう(白色しろいろ瞳孔どうこう)は網膜芽細胞腫もうまくがさいぼうしゅの症状しょうじょうです。
By permission of the publisher.From Scott I, Warman R, Murray T: Atlas of Ophthalmology.Edited by RK Parrish II and TG Murray.Philadelphia, Current Medicine, 2000.

網膜芽細胞腫が大きくなると視力障害が生じることがありますが、それ以外の症状はあまり現れません。

このがんが広がっている場合の症状には、頭痛、食欲不振、患部の骨の痛み、嘔吐などがあります。

網膜芽細胞腫の診断

  • 小児に麻酔を施して行う、特殊な器具による眼の診察

  • 超音波検査、CT検査、MRI検査のほか、ときに光干渉断層撮影

  • 場合により骨シンチグラフィー、骨髄検査、腰椎穿刺

網膜芽細胞腫が疑われる場合、小児に全身麻酔を施し、意識がない状態で両眼を調べます。水晶体と虹彩の先の網膜を調べるために、光と特別なレンズ(倒像検眼鏡による眼底検査)が必要です。この検査は網膜芽細胞腫の診断に不可欠ですが、慎重に行わなくてはならない時間のかかる検査です。年少の小児は検査中にじっとしていられないため、全身麻酔が必要になります。

眼の超音波検査、CT検査MRI検査でも、このがんを特定できます。これらの検査は、がんが脳に転移していないかどうかを判断するためにも役立ちます。ときに行われる別の画像検査として、光干渉断層撮影があります。

医師は、髄液のサンプル中にがん細胞がないかを調べるために、腰椎穿刺も行うことがあります。髄液中にがん細胞が検出されれば、がんが脳に転移している証拠となります。

網膜芽細胞腫は骨や骨髄に転移するおそれがあるため、骨の痛みやその他の症状がみられる小児に対して骨シンチグラフィーを行ったり、骨髄のサンプルを採取して調べたりすることがあります。

網膜芽細胞腫の小児は遺伝専門医の診察を受けて、遺伝子検査を受ける必要があります。遺伝専門医は、他の家族にリスクがあるかどうか、他の検査が必要かどうかについて助言することができます。一般的には、小児に遺伝性の網膜芽細胞腫遺伝子が認められた場合、その親や兄弟姉妹も変異遺伝子がないか検査を受けるべきです。変異遺伝子を有する兄弟姉妹は、年齢とがんの発生リスクに基づいて定めた間隔で、網膜芽細胞腫の有無を調べる眼の検査を受ける必要があります。

遺伝子検査が利用できない場合、網膜芽細胞腫を患った親や兄弟姉妹がいる小児はすべて、同様の眼の検査を定期的に受けるべきです。網膜芽細胞腫がある小児の家族の成人も眼の検査を受ける必要があります。成人に網膜芽細胞腫が発生することはありませんが、網膜芽細胞腫の原因となる遺伝子は、網膜細胞腫と呼ばれる良性の(がんではない)眼腫瘍を引き起こすこともあります。

網膜芽細胞腫の治療

  • 手術による眼の摘出

  • 化学療法

  • 放射線療法、レーザー、凍結療法

がん治療の原則がんの手術も参照のこと。)

網膜芽細胞腫があるのが片側の眼だけで、その眼にほとんど、またはまったく視力がない場合には、通常、視神経の一部とともに眼球全体を摘出します。

がんが両眼にある場合、医師は両眼を摘出することなくがんを治療することで少しでも視力が保たれるよう努めますが、ときに最も重度の眼を摘出することもあります。治療選択肢には、眼に血液を供給する主要な動脈から化学療法薬を直接注入する方法(動注化学療法と呼ばれます)、放射線療法、レーザー、凍結療法のほか、非常に小さながんに対しては密封小線源治療(放射性物質を含むパッチを貼る治療)があります。

経口または静脈内投与する化学療法の組合せ(カルボプラチンとエトポシドとビンクリスチン、シクロホスファミドとビンクリスチンなど)を用いて、片眼の大きな腫瘍の縮小、両眼の腫瘍の縮小、眼を超えて広がっているがんの治療、初期治療後に再発したがんの治療を行うことがあります。化学療法は、通常単独ではこのがんを治癒できないため、他の治療選択肢と併用します。

眼に放射線療法を行うと、白内障、視力低下、慢性的なドライアイ、眼の周辺組織がやせるなど、重篤な影響が出ます。顔面の骨が正常に発達せず、外見が損なわれることがあります。その上、放射線療法を受けた部分に二次がんが発生するリスクが高まります。

治療後には、がんの再発または二次がんの発生のリスクがあるため、小児がんの治療を専門とする医師(小児腫瘍医)と眼科医が小児のモニタリングを継続する必要があります。

網膜芽細胞腫の予後(経過の見通し)

治療を行えば、網膜を越えて広がっていない網膜芽細胞腫の小児患者の90%以上が治癒します。がんが広がっている小児では予後が不良です。

治療しなければ、網膜芽細胞腫は大半の小児患者で2年以内に死に至ります。

遺伝性の網膜芽細胞腫の小児患者では、軟部肉腫、黒色腫骨肉腫などの二次がんが発生するリスクが高くなります。二次がんの約半数は、放射線療法を行った部分に発生します。網膜芽細胞腫の発生から30年以内に二次がんが発生する割合は約70%です。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国がん協会:あなたの子どもががんと診断されたら(If Your Child Is Diagnosed With Cancer):がんになった小児の親や家族向けの情報源で、診断直後に生じる問題や疑問にどう対処するかについて情報を提供している

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