ウィルムス腫瘍

(腎芽腫)

執筆者:Kee Kiat Yeo, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2024年 6月
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やさしくわかる病気事典

ウィルムス腫瘍は、主に幼児に発生する特殊な種類の腎臓がんです。

  • ウィルムス腫瘍の原因は不明ですが、この腫瘍の発生リスクを高める遺伝子異常があると考えられる小児もいます。

  • 通常は腹部にしこりがあり、さらに腹痛、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐がみられることがあります。

  • 画像検査により、しこりの性質と大きさが調べられます。

  • 治療では、手術、化学療法、ときには放射線療法が行われます。

小児がんの概要も参照のこと。)

ウィルムス腫瘍が発生するのはたいてい5歳未満の小児ですが、ときに5歳以上の小児に発生することもあります。成人に発生することは非常にまれです。全体の約5%で、ウィルムス腫瘍が左右の腎臓に同時にできます。

ウィルムス腫瘍の原因は不明ですが、なかには特定の遺伝子の欠失やその他の遺伝的異常が関与していると考えられるものもあります。大半のウィルムス腫瘍患者には、このがんがある家族はいません。

ウィルムス腫瘍は、特定の先天異常(特に腎臓、性器、尿路)のある小児の一部、および両眼の虹彩がないか、体の片側が過剰に発育している小児に発生します。こうした先天異常は、知的障害と同様に、遺伝子の異常により起こることがあります。しかし、ウィルムス腫瘍の小児患者の大半では、目に見える異常は認められません。

ウィルムス腫瘍の症状

ウィルムス腫瘍で最もよくみられる症状は、痛みを伴わない腹部のしこりです。腹部が膨らむことがあります。急に小児のおむつのサイズを大きくする必要が生じて、親が膨らみに気づくことがあります。

あまり多くありませんが、小児に腹痛、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐がみられることがあります。一部の小児に血尿がみられます。

腎臓は血圧の制御に関わっているため、ウィルムス腫瘍によって高血圧になる場合があります。

ウィルムス腫瘍は体の他の部位に転移することがあり、特に肺への転移がよくみられます。肺が侵された場合、せきや息切れが起こることがあります。

ウィルムス腫瘍の診断

  • 腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査

  • 多くの場合、診断時に手術による腫瘍の切除

たいていの場合、親が小児の腹部にしこりがあることに気づいて診察を受けた際に、ウィルムス腫瘍であると分かります。定期的な診察で医師がこのしこりに触れて気づくこともあります。

ウィルムス腫瘍が疑われる場合は、いくつかの画像検査が行われます。腹部の超音波検査により、しこりの性質と大きさが調べられます。腹部のCT検査MRI検査は、腫瘍が周辺のリンパ節や肝臓に転移しているかどうかや、もう一方の腎臓に腫瘍がないかを医師が判断するためにも役立ちます。

医師は胸部のCT検査も行い、腫瘍が肺に転移していないか判断します。

大半の小児で、画像検査の結果に基づいて、腫瘍がある腎臓の一部または全部を切除する手術(腎部分切除術または腎摘出術)が行われます。その後、医師は腫瘍を検査してウィルムス腫瘍であることを確認します。

手術中に、医師は周辺にあるリンパ節を切除して、がん細胞がないか調べます。リンパ節にがんが転移している場合は、転移していないがんの場合と異なる治療が必要になる可能性があります。

ウィルムス腫瘍の治療

  • 手術と化学療法

  • 場合により放射線療法

がん治療の原則がんの手術も参照のこと。)

ウィルムス腫瘍の治療選択肢は、小児が治療を受ける地域によって異なります。北米では、医師はまず腫瘍のある腎臓を摘出してから、その小児に化学療法を行います。欧州では、医師はまず小児に化学療法を行い、その後腫瘍を切除します。どちらの地域でも、すべての小児に対して手術後に化学療法(アクチノマイシンDとビンクリスチンが最も一般的で、ときにドキソルビシン)を行い、一部の小児には放射線療法を行います。

まれに、2歳未満の小児に小さな腫瘍が認められる場合、手術のみで治癒することがあります。

手術の際にはもう片方の腎臓に腫瘍がないかどうかも確認します。

まれに、腫瘍が極めて大きく最初は切除できない場合や、腫瘍が両方の腎臓にみられる場合があります。そのような場合には、まず化学療法で腫瘍を小さくしてから、腫瘍が切除されます。

腫瘍がかなり広がっている場合には、放射線療法も行われます。

ウィルムス腫瘍の予後(経過の見通し)

一般に、ウィルムス腫瘍は治癒の可能性が非常に高いです。

腫瘍が腎臓にとどまっている場合、約85~95%の患児が完治します。腫瘍が腎臓以外に転移している場合でも、治癒率は60~90%で、この値は検査でがん細胞がどの程度異常に見えるかに応じて異なります。

通常、以下に該当する患児では、治療の結果がよくなります。

  • 年齢が低い

  • 腫瘍を顕微鏡で検査したときにがん細胞が異常に見える程度が低い

  • 転移していない

  • 特定の遺伝子異常がみられない

ウィルムス腫瘍は再発することがあり、再発が起こるのは一般的には診断から2年以内です。がんが再発しても、根治する可能性があります。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国がん協会:あなたの子どもががんと診断されたら(If Your Child Is Diagnosed With Cancer):がんになった小児の親や家族向けの情報源で、診断直後に生じる問題や疑問にどう対処するかについて情報を提供している

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