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黒色腫

(悪性黒色腫)

執筆者:Vinod E. Nambudiri, MD, MBA, EdM, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2024年 1月
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やさしくわかる病気事典

黒色腫(メラノーマとも呼ばれます)は、色素を作り出す皮膚細胞(メラノサイト)から発生する皮膚がんです。

本ページのリソース

  • 黒色腫は、正常な皮膚から発生する場合もあれば、すでにあったほくろから発生する場合があります。

  • 皮膚に様々な色の斑点を伴う平坦または隆起した褐色の不規則な皮疹、あるいは黒または灰色の硬い隆起が現れます。

  • 黒色腫の診断を下すには、生検を行います。

  • 黒色腫を切除します。

  • 腫瘍が広がっている場合は、化学療法と放射線療法を行いますが、根治させるのは困難です。

メラノサイトは、皮膚にあり、色素を作り出して皮膚に特有の色をもたらす細胞です。日光がメラノサイトを刺激すると、メラニンという皮膚の色を濃くする色素がたくさん作られ、黒色腫の発生リスクが高まります。

2023年には、米国で約97,610例の黒色腫症例が新たに発生し、約7990人が死亡すると推定されています。米国では、黒色腫が全皮膚がんに占める割合は2%未満ですが、皮膚がんによる死亡例の大半の原因になっています。

黒色腫は通常は正常な皮膚に発生し、たいていの場合は日光のあたる部分に、色素沈着を伴う新しい小さな腫瘍として始まります。黒色腫の約3分の1は、元からあったほくろに発生します。黒色腫は、眼の周囲や内部、口の中、陰部や肛門部、脳の内部、および爪床に発生することもあります。

黒色腫は離れた部位に転移しやすく、転移した先でも増殖を続けて組織を破壊します。

黒色腫の最も一般的なタイプは次の2種類です。

  • 表在拡大型黒色腫:このタイプは黒色腫全体の70%を占め、多くは女性の脚と男性の体幹に発生します。腫瘍細胞では一般的にBRAF遺伝子に変異がみられます。

  • 結節型黒色腫:このタイプは黒色腫全体の15~30%を占め、全身のあらゆる部位に発生し、急速に増殖します。

黒色腫の危険因子

黒色腫の危険因としては以下のものがあります。

  • 日光曝露(主に水疱が生じる日焼けの繰り返し)

  • 紫外線A波(UVA)による日焼けの繰り返し、またはソラレンという薬剤と紫外線A波を併用する治療(PUVA)の反復

  • 皮膚がんの既往歴(別の黒色腫または他の種類の皮膚がん)

  • 家族に黒色腫の人がいる

  • 色の薄い皮膚、そばかす

  • 色素をもつ多数のほくろまたは異型母斑の存在(特に6個以上ある場合)

  • 免疫機能の低下

  • 大きな先天性色素性母斑(先天性巨大母斑)

  • BRCA2BRAFなどの特定の遺伝子の変異

  • 高齢である

黒色腫を発症した人では、新たな黒色腫が発生するリスクが高くなります。

異型母斑
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この異型母斑には、境界が不規則で複数の色が混ざっているという特徴がみられます。
DR P.MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

黒色腫は皮膚の色が濃い人では比較的少ないです。皮膚の色が濃い人に黒色腫ができる場合は、しばしば爪床や手のひら、足の裏に発生します。

小児期に黒色腫を発症することは非常にまれです。しかし、先天性色素性母斑は皮膚の濃い色の斑で、ほくろやあざのように、出生時から存在します。例えば大きさが約20センチメートルを超えるほど大きい場合、先天性色素性母斑は悪性黒色腫の危険因子です。

先天性色素性母斑
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先天性色素性母斑(先天性巨大母斑)は、大きい場合、悪性黒色腫の危険因子です。この画像の母斑は約20センチメートルよりも大きく、縁が不規則な形で、複数の色が混ざっています。
Image courtesy of Carl Washington, MD, and Mona Saraiya, MD, MPH, via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

黒色腫は妊娠中にも発生しますが、妊娠によってほくろが黒色腫になる可能性が高まるわけではありません。妊娠中にはしばしばほくろの大きさが変わったり、色が濃くなったりします。

すべての人が、黒色腫のABCDEについて知り、自分のほくろに悪性の変化がみられないか確認する必要があります。

表在ひょうざい拡大かくだい...
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この写真しゃしんには、表在ひょうざい拡大かくだい型かた黒色腫こくしょくしゅの不規則ふきそくな境界きょうかいが写うつっています。
Image provided by Gregory L.Wells, MD.

黒色腫の症状

黒色腫の外観は様々です。小さな黒い斑点を伴う、平坦で不規則な形をした褐色の皮疹として現れる場合もあれば、赤色、白色、黒色、または青色の斑点を伴う、隆起した褐色の皮疹として現れる場合もあります。ときに黒色腫は、赤色、黒色、または灰色の硬い隆起として現れる場合もあります。

最大10%の黒色腫は色素を作りません。それらは無色素性黒色腫と呼ばれるもので、色はピンク色、赤色、またはやや明るい褐色で、外観は良性腫瘍や黒色腫以外の皮膚がんのように見えることがあります。

黒色腫の診断

  • 生検

新しくほくろができた、またはすでにあるほくろが大きくなる(特に縁が不規則な形になる)、色が濃くなる、炎症を起こす、点状に変色した、出血している、かゆみ、圧痛、痛みがある、などの変化をみせた場合は、悪性黒色腫について警戒すべき徴候であり、黒色腫のABCDEも同様です。このような所見がみられる場合、医師は黒色腫を疑って生検を行います。

黒色腫のABCDE

以下のものは黒色腫のABCDEとして知られる警戒すべき徴候です。

  • A(Asymmetry) = 非対称性:非対称的(不規則)な外観(ほくろの両半分が同じではない)

  • B(Border) = 境界:不規則な境界(境界が周囲の皮膚と混ざっているように見えたり、円形や楕円形ではなかったりする)

  • C(Color) = 色:元からあるほくろが変色した。特に、周囲の皮膚に褐色、黒色、赤色、白色、青色の色素が広がったか、患者の他のほくろと比べて色が大きく異なるか、濃い

  • D(Diameter) = 直径:幅が約6ミリメートルを超え、鉛筆の端に付いた消しゴムと同じくらいの大きさである

  • E(Evolution) = 変化:30歳以上の人で新しいほくろが現れたか、ほくろが変化した

生検では、病変が小さければ全体を切除しますが、大きければ一部のみを切除します。そのサンプルを顕微鏡で調べて黒色腫かどうかを判断し、もし黒色腫であった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。生検で腫瘍が黒色腫であり、それが完全に切除されていないことが示された場合は、その後に完全に切除します。腫瘍が黒色腫なら、医師が治療方針を決定する上で役立つ場合があることから、しばしば遺伝子変異の検査が行われます。

生検用に切除される色の濃い腫瘍の大半は、黒色腫ではなくただのほくろです。にもかかわらず、がんを1つ大きくさせるよりは、無害なほくろを多数切除する方が選ばれます。一部には、単なるほくろでも黒色腫でもなく、その中間のようなものもあります。それらは異型母斑と呼ばれ、後に黒色腫に変化するものもあります。

異型母斑と黒色腫を見分けるのに有用な道具はほかにもあります。そのような道具として偏光フィルターやダーモスコープなどがあり、腫瘍をより詳細に評価するのに役立ちます。

黒色腫の治療

  • 腫瘍の切除

  • 場合によってイミキモド、凍結療法、または放射線療法

  • 転移を起こした腫瘍に対しては、免疫療法、分子標的療法、化学療法、または放射線療法

黒色腫の手術では、腫瘍とその周囲の皮膚組織を腫瘍の縁から1センチメートル程度余分に切除します(ときにモース顕微鏡手術を行うこともあります)。

黒色腫最も浅い層にとどまっている場合(表皮を越える浸潤がない場合のことで、上皮内黒色腫と呼ばれます)や、手術ができない場合(健康状態が非常に悪い場合など)、または患者が手術を受けないことを選んだ場合(黒色腫が美容上重要な部分にある場合など)は、イミキモドクリームによる治療や極度の低温で黒色腫を破壊する治療(凍結手術)が用いられます。

知っていますか?

  • 早期に診断されれば、浅い黒色腫は手術でほぼ100%根治させることができます。

転移した黒色腫

黒色腫が離れた部位に転移している場合は、一般に手術は選択肢から外れますが、ときに、がんが限局している領域(例えば、転移がみられるリンパ節)を外科的に切除することもあります。

新しい免疫療法薬であるペムブロリズマブやニボルマブを使用すると、がん細胞を破壊する免疫系の能力を高めることができます。この種の薬剤は、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)という、がん細胞の表面にあるタンパク質の作用を阻害することから、PD-1阻害薬と呼ばれています。このタンパク質はがん細胞を免疫系の作用から保護しています。PD-1阻害薬によってこのタンパク質が阻害されると、免疫系はがん細胞を攻撃し、殺すことができるようになります。PD-1阻害薬は転移性黒色腫に対する非常に有効な治療法となりつつあります。イピリムマブは別の免疫療法薬であり、ある種の白血球を活性化し、がん細胞を攻撃させて、生存を改善します。ニボルマブイピリムマブの併用がしばしば最善の治療法になります。ニボルマブは、レラトリマブ(relatlimab)と呼ばれる別の免疫療法薬と併用することもできます。

分子標的療法では、がん細胞に固有の生物学的機構を攻撃する薬剤を使用します。分子標的療法では、特定の遺伝子変異を有するがん細胞にのみ存在する特定の分子を薬剤で攻撃します。この種の薬剤の使用により、一部のがん患者で生存率の向上が得られています。あるクラスの薬剤は、BRAF遺伝子の変異がある細胞を標的とします。それらの薬剤としては、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、ベムラフェニブなどがあります。免疫療法で治療できない患者には、分子標的療法を併用することができます。

ダカルバジンやテモゾロミドなどの化学療法薬については、生存期間を延長する効果が証明されていませんが、ほかに治療選択肢がない患者では、転移を起こした黒色腫の治療にときに用いられます。

放射線療法は、黒色腫が完全に切除できない部位に発生した場合や、最初に切除した部位に再発した場合、脳に転移している場合に用いられることがあります。

このほかにも研究段階の治療法が複数あり、体を刺激して黒色腫細胞を攻撃させる他の薬剤やワクチンなどがあります。

黒色腫の予後(経過の見通し)

黒色腫は素早く転移し、診断から数カ月以内に死に至ることもあります。皮膚内で黒色腫が増殖している範囲が浅いほど、手術で根治できる可能性が高くなります。初期段階の、最も浅い黒色腫であれば、手術でほぼ100%が治ります。しかし、皮膚の中に約1ミリメートルを超えて浸潤している黒色腫の場合、リンパ管や血管へ転移する可能性が高くなります。

黒色腫が離れた部位に転移すると、5年生存率は約35%になります。余命が9カ月より短い場合もあります。しかし、病気の経過は非常に多様であり、免疫系の防御能力によっても変わってきます。黒色腫が転移しても、見かけ上健康な状態で数年生存する人もいます。

黒色腫の予防

黒色腫は日光に長期間さらされることで引き起こされるため、幼児期から以下の予防策を講じることが、このがんの予防に役立つ可能性があります。

  • 日光を避ける:例えば、屋外では日陰に入る、午前10時から午後4時まで(日光が最も強くなる時間帯)の屋外活動を減らす、日光浴や日焼けマシーンの利用を控える(特に青年と若い成人)

  • 保護効果の高い衣類を着用する:例えば長袖のシャツ、ズボン、つばの広い帽子

  • 日焼け止めを使用する:紫外線防御指数(SPF)30以上で紫外線A波とB波に対する防御効果のあるものを指示通りに使用し、2時間毎に、また泳いだ後と汗をかいた後にも塗り直す(ただし、日光を浴びる時間を増やすことを目的に日焼け止めを使用してはならない)

これらの対策をとることで黒色腫の発生や黒色腫による死亡のリスクを減らせるかどうかは、明確には分かっていません。しかし、日焼けマシーンの使用、特に若年者による使用は、黒色腫のリスクを確かに高めるとみられています。

黒色腫を発症した人は、さらに別の黒色腫が発生するリスクが高くなります。そのため、そのような人は皮膚の診察を定期的に受ける必要があります。

ほくろが多い人も、全身の皮膚の診察を年1回以上の頻度で受けるようにします。元からあるほくろの変化を発見し、黒色腫を示唆する特徴を見つけることのできるように本人を指導することもあります。危険因子がない人については、毎年行う皮膚の診察で黒色腫による死者数を減らせるかどうかは分かっていません。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 黒色腫研究財団(Melanoma Research Foundation):様々な種類の黒色腫、最新の研究、および臨床試験に関する情報

  2. 米国がん協会:皮膚黒色腫(American Cancer Society: Melanoma Skin Cancer):検出、予防、治療選択肢、その他の資源を含めた黒色腫に関する情報

  3. 皮膚がん財団:黒色腫の概要(The Skin Cancer Foundation: Melanoma Overview):検出、予防、治療選択肢、その他の資源を含めた黒色腫に関する情報

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