末梢神経系の概要

執筆者:Michael Rubin, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center
レビュー/改訂 2022年 4月
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末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。

末梢神経系には以下のものが含まれます。

  • 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経(脳神経

  • 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む)

  • 体中に分布している1000億個以上の神経細胞

脳を使って筋肉を動かす

筋肉の動きは通常、脳と筋肉の間で神経を介して信号が伝達されることによって起こります。筋肉を動かそう(例えば、本を手に取る)と意識的に決めたときなどは、筋肉を動かすための刺激が脳から発せられます。

あるいは、筋肉を動かす刺激が感覚に端を発する場合もあります。例えば、痛みや温度変化は、皮膚の中にある神経の特殊な末端部分(感覚受容器)によって感知されます。この感覚情報は脳に送られ、脳はそれにどう反応するかを指示する司令を筋肉に送ります。このタイプの情報交換には、2つの複雑な神経伝達経路が関わっています。

  • 脳に向かう感覚神経の伝達経路

  • 筋肉に向かう運動神経の伝達経路

  1. 皮膚の感覚受容器は、痛みや温度変化を感知すると信号を発する(この信号は最終的に脳に届く)。

  2. その信号はまず、1本の感覚神経に沿って脊髄まで伝わる。

  3. ここで信号は、感覚神経と脊髄の神経細胞との間のシナプス(2つの神経細胞同士の接合部)を通過する。

  4. 信号は、その脊髄の神経細胞から脊髄の反対側に送られる。

  5. 信号は脊髄に沿って脳に向かって上っていき、脳幹を通過して、脳の深部にある感覚情報処理の中枢である視床に到達する。

  6. 信号は、視床のシナプスを通過して、大脳の感覚皮質(感覚受容器からの情報を受け取って解釈する領域)につながる神経線維に伝わる。

  7. 感覚皮質が信号を受け取る。その結果、この人が何らかの動作を起こそうと決めた場合は、運動皮質(随意運動を計画、制御、実行する領域)から新たな信号が発せられる。

  8. この信号を伝える神経は脳の底部で体の反対側に移る。

  9. そして信号は脊髄に沿って下行していく。

  10. 信号は続いて、脊髄内で、脊髄の神経線維と運動神経との間にあるシナプスを通過する。

  11. 脊髄から出た信号は運動神経に沿って進んでいく。

  12. 信号は神経筋接合部(神経が筋肉と接続している部分)で運動神経から筋肉の運動終板にある受容器まで進み、そこで信号が筋肉を刺激することにより、実際に筋肉が収縮する。

強い感覚が突然生じた場合(とがった石を踏んだとき、とても熱いコーヒーを口にしたときなど)には、信号が脊髄に伝わり、脳を介することなく直接、運動神経に戻ることがあります。これにより筋肉が瞬時に反応して、痛みを引き起こしているものから直ちに離れることができます。この反応を脊髄反射といいます。

それぞれの末梢神経は以下の部分から構成され、このいずれが損傷を受けても、末梢神経の機能障害が生じます。

  • 軸索(信号が伝わる部分)

  • 神経細胞の細胞体

  • 髄鞘(軸索を包んでいる膜で、電気ケーブルを包んでいる絶縁体のような働きをして、神経の信号が伝わる速さを高めている)

髄鞘の損傷は脱髄と呼ばれ、ギラン-バレー症候群などでみられます。

神経細胞の典型的な構造

神経細胞(ニューロン)は、大きな細胞本体と複数の神経線維でできていて、神経線維としては、信号を送るための長くのびた1本の突起(軸索)と、信号を受け取るための多数の枝(樹状突起)があります。軸索から送られて来た信号は、シナプス(2つの神経細胞同士の接合部のこと)を通過して別の細胞の樹状突起に伝わります。

大きな軸索は、脳と脊髄では乏突起膠細胞に、末梢神経系ではシュワン細胞にそれぞれ包まれています。これらの細胞の膜はミエリンと呼ばれる脂肪(リポタンパク質)でできていて、この膜が軸索に何層にもしっかりと巻きついて、髄鞘と呼ばれる構造物を作っています。髄鞘は、ちょうど電気ケーブルを包んでいる絶縁体のようなものです。髄鞘がある神経では、髄鞘がない神経より神経信号がずっと速く伝わります。

神経線維しんけいせんい絶縁ぜつえんする組織そしき

のう内外ないがいのほとんどの神経線維しんけいせんいは、脂肪しぼう(リポタンパクしつ)でできたなんそうもの組織そしき(ミエリンといいます)につつまれています。それらのそうつくられた組織そしき髄鞘ずいしょうといいます。髄鞘ずいしょう電気でんきケーブルをつつんでいる絶縁体ぜつえんたいのような役割やくわりたしていて、このはたらきによって、神経しんけい信号しんごう電気でんきインパルス)が神経線維しんけいせんい沿ってはやくかつ正確せいかくつたえられます。髄鞘ずいしょう損傷そんしょうすると(脱髄だつずいといいます)、信号しんごう神経しんけい正常せいじょうつたわらなくなります。

末梢神経疾患では以下のものが侵されます。

  • 1つの神経(単神経障害

  • それぞれ別の領域にある2つ以上の末梢神経(多発性単神経障害

  • 全身にわたる多数の神経、ただし通常は体の両側のほぼ同じ領域にある神経(多発神経障害

  • 脊髄神経根(脊髄神経が脊髄と接続している部分)

  • 神経叢(神経線維が網目状に集まった部分で、そこで複数の脊髄神経から伸びた神経線維が並び替えられ、体の特定の領域に向かうように再編成される)

  • 神経筋接合部(神経と筋肉の接続部)

筋肉の運動を刺激する運動神経が損傷すると、筋力の低下または麻痺が生じます。(痛み、温度、振動などの)感覚情報を伝える感覚神経が損傷すると、異常な感覚や感覚の消失が起こります。

原因

末梢神経疾患には、遺伝性のものもあれば、後天性のもの(毒性物質への曝露、けが、感染症、代謝性疾患、炎症性疾患などによるもの)もあります。

末梢神経疾患に類似することがある疾患

特定の疾患では、末梢神経だけでなく、筋肉の運動を制御している脊髄や脳の神経細胞にも進行性の変性が起こります(運動ニューロン疾患)。運動ニューロン疾患は末梢神経疾患に類似することがありますが、後者は脊髄や脳の神経細胞ではなく、脳と脊髄以外の神経細胞が侵される疾患です。運動ニューロン疾患には、ウイルスによって引き起こされるもの(ポリオウイルスなど)、遺伝するもの、明らかな原因が知られていないもの(筋萎縮性側索硬化症など)があります。

神経筋接合部疾患は、末梢神経疾患とは異なりますが、筋力低下などの同様の症状が生じることがあります。神経筋接合部は、末梢神経線維の末端が筋膜上の特別な部位につながる場所です。神経線維は、化学伝達物質(神経伝達物質)を放出し、これが神経筋接合部を介して神経シグナルを送り、筋肉を収縮させます。神経筋接合部疾患には以下のものが含まれます。

ノビチョクはロシアで開発され、暗殺目的で使用されています。クラーレは手術中に筋肉を弛緩させるのに役立つほか、毒矢の先端に塗って対象を麻痺させ殺傷する目的で使用されています。

神経ではなく筋肉を侵す疾患も(末梢神経疾患と同様に)筋力低下を引き起こします。筋肉の病気は以下のように分類できます。

医師は検査を行って、筋力低下の原因が筋肉、神経筋接合部、神経のいずれの疾患であるかを判断します。

診断

  • 医師による評価

  • ときに筋電図検査と神経伝導検査、画像検査、または生検

  • 遺伝性ニューロパチーが疑われる場合は遺伝子検査

末梢神経疾患を診断する際、医師は患者に以下のような質問をします。

  • 症状はいつ始まったか

  • 最初に現れた症状は何か

  • 時間の経過とともに症状に変化があったか

  • 体のどの部位に症状があるか

  • 症状を軽減または増悪させる因子は何か

医師は可能性のある原因について探るため、感染症またはその他の病気にかかったことがあるか、毒性物質にさらされたことがあるか、家族に同様の症状をもつ人がいるかなどの質問をします。これらの情報は症状の原因を探る手がかりになります。

医師による徹底的な身体診察と神経学的診察は、原因の特定に役立ちます。神経学的診察では以下の点が評価されます。

  • 感覚―患者が刺激を正常に感じることができるか、ピリピリ感などの異常感覚がないか

  • 筋力

  • 反射

  • 脳神経

診察で得られる所見により、可能性のある原因が示唆されたり、必要な検査の指針が立てられたりします。

以下のような検査が行われます。

  • 筋電図検査と神経伝導検査:問題が神経、神経筋接合部、筋肉のいずれにあるのかを判断するのに役立ちます。

  • 画像検査:脳神経または脊髄に影響を及ぼす異常(腫瘍など)がないか確認し、同じ症状を引き起こす他の異常を否定します。

  • 筋肉と神経の生検:問題の種類(神経が脱髄しているのか、炎症を起こしているのかなど)を特定します。

  • 遺伝性ニューロパチーが疑われる場合は、遺伝子検査(異常な遺伝子を検出するための血液検査)を行うこともあります。

治療

  • 可能であれば原因の治療

  • 症状の緩和

  • ときに、理学療法、作業療法、言語療法

症状を引き起こしている病気がある場合、可能であればその治療を行います。それ以外の場合、医師は症状の緩和に重点を置きます。

複数の分野の医療従事者で構成されるチームがケアにあたることは、患者が身体障害の進行に対処する上での助けとなります。このチームは以下のメンバーで構成されます。

  • 理学療法士は、患者が筋肉を使い続けられるよう支援します。

  • 作業療法士は、患者が日常生活を送る上で役立つ補助器具(歩行を補助する器具など)についてアドバイスします。

  • 言語療法士は、患者が意思疎通できるよう支援します。

  • 嚥下困難や呼吸困難などの特定の症状に対処する専門家も参加します。

余命を短縮する末梢神経疾患の場合、患者、家族、介護者は医療従事者と対話の場を設け、患者が治療に関する決定をする能力がなくなったときにどうするかということを率直に話し合っておくべきです。最善のアプローチは、患者が治療に関する意思決定ができなくなった場合に備えて、治療に関する患者の希望を書いた法的文書(事前指示書と呼ばれます)を作成しておくことです。

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