脂質代謝異常症は遺伝性代謝疾患です。遺伝性疾患は、それらの病気を引き起こす遺伝子の異常が親からその子どもに受け継がれることで発生します。
遺伝性疾患には様々な種類があります。多くの遺伝性代謝疾患では、患児の両親がともに異常な遺伝子のコピーを1つずつもっています。この病気は基本的に(潜性[劣性])遺伝子の異常なコピーが2つそろわなければ発生しないため、両親は通常、この病気をもっていません。
脂質とは脂肪のことで、体にとって重要なエネルギー源です。体は蓄えた脂肪を分解したり再合成したりすることで、エネルギーの需要と食べた分とのバランスを常に保っています。脂肪の分解(代謝)とその後の処理には、特定の酵素群が関与していますが、それらの酵素に異常があると、その酵素によって分解されるはずの脂肪が分解されずに蓄積します。そのような物質が長年かけて蓄積していくと、多くの臓器に有害な影響が生じます。リピドーシスは、脂肪の蓄積によって起こる疾患の総称です。
脂肪性物質の蓄積は、次のような病気を引き起こすことがあります。
今挙げた酵素とは別の酵素の異常によって、脂肪をエネルギーに正常に変換できなくなる病気もあります。これを脂肪酸化異常症と呼びます。
多くのライソゾーム病でも脂質代謝に問題がみられます。
出生前から、医師が羊水穿刺または絨毛採取による出生前スクリーニング検査を行うことで、いくつかの脂質代謝異常症が診断されます。出生後には、ルーチン化された新生児スクリーニング検査や他の検査により一部の脂質代謝異常症が診断されます。
脂質代謝異常症の治療は、血液や組織に蓄積する脂肪性物質の種類によって異なります。
脳腱黄色腫症
この病気は、コレステロールの代謝産物であるコレスタノールが組織に蓄積することで発生します。この病気は、やがて協調運動障害、認知症、白内障、早発性の冠動脈疾患、腱の脂肪性増殖(黄色腫)の発生につながります。日常生活に支障をきたす症状がしばしば青年期に現れます。
© Springer Science+Business Media
早期にケノジオール(chenodiol、ケノデオキシコール酸)という薬剤の使用を開始すれば、病気の進行を予防するのに役立ちますが、すでに生じた障害を元に戻すことはできません。スタチン系薬剤は血液中の脂質濃度を低下させるため、この種の薬剤が投与されることもあります。
シトステロール血症
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders[NORD]):希少疾患の一覧や支援団体、臨床試験に関する資料などの希少疾患に関する情報が親および家族向けに提供されています。
遺伝性疾患・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center[GARD]):希少疾患および遺伝性疾患に関する情報が分かりやすく提供されています。