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ビル関連疾患

執筆者:Carrie A. Redlich, MD, MPH, Yale Occupational and Environmental Medicine Program Yale School of Medicine;
Efia S. James, MD, MPH, Bergen New Bridge Medical Center;Brian Linde, MD, MPH, Yale Occ and Env Medicine Program
レビュー/改訂 2023年 11月
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ビル関連疾患は、建物内の物質にさらされることが原因で肺やその他の部位が侵される病気です。

  • ビル関連疾患は一般には、換気が不十分な建物内の物質にさらされることが原因で発生します。

  • 症状は様々ですが、鼻水や鼻づまり、呼吸器症状、眼の刺激感、頭痛、皮膚の異常、集中力の低下、発熱などがみられます。

  • 診断過程には通常、建物の環境(ビル環境)の評価と、曝露と症状の発生との関係の評価が含まれます。

  • 治療では、建物内の空気質を改善することと、場合により曝露を回避することが中心になります。

環境性および職業性肺疾患の概要も参照のこと。)

先進国の人は、人生の90%以上(1日約22時間)を屋内で過ごします。屋内環境に関連する症状および疾患はよくみられ、健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。症状が屋内環境に関連する場合はそれを認識することが重要であり、そうすることで可能であれば曝露を低減または排除することができます。

ビル関連疾患とは、特定のビル環境や屋内環境に関連して発生する多様な疾患群を指します。一般的にみられるビル環境としては、オフィス、学校、飲食店、娯楽施設、医療施設などがあります。行われて間もない改装、家具の入れ替え、または建築が曝露源になる可能性があります。明確な原因を特定できる場合もありますが、1回の曝露で症状や疾患が引き起こされることはまれであるため、原因を特定できないことも多くあります。大半のビル関連疾患には、複数の種類の曝露と不十分な換気が複合的に関連しています。

換気では、屋内の空気を屋外の空気と交換することで、快適な環境を作ります。換気が不十分であると、粉塵、カビ、アレルゲン、タバコの副流煙、洗剤、香水、揮発性有機化合物、その他の化学物質など、屋内の汚染物質が蓄積する可能性があります。屋外の大気汚染物質、感染性病原体、およびバイオエアロゾルも屋内曝露の一因になることがあります。

換気に関連した問題に加えて、温度と湿度も屋内環境の質における重要な要素です。じめじめした屋内環境や、漏水や洪水などによる過度の湿気は、ビル関連症状やビル関連疾患の最も一般的な原因の1つであるカビなどの微生物の増殖を促します。

ビル関連疾患には、以下のものがあります。

  • 特異的なもの

  • 非特異的なもの

特異的なビル関連疾患

特異的なビル関連疾患とは、特定のビル環境または屋内環境とのつながりが証明されているビル関連疾患のことです。この種の疾患の重症度は様々です。例えば以下のものがあります。

非特異的なビル関連症状

ビル関連症状とは、特定の屋内環境に関連して発生するものの、定義可能な単一の疾患に容易に分類することができない症状のことを指します。ある建物内にいる人々に集団発生する病気に対して、かつてはシックハウス症候群という用語が使用されてきましたが、この用語はビル関連症状という用語に取って代わられています。ビル関連疾患の症状は、一般的なものであることが多く、次のようなものが考えられます。

  • 目のかゆみ、ヒリヒリ感、ドライアイ、涙目

  • 鼻水または鼻づまり

  • のどの痛みまたは締めつけられる感じ

  • せきと胸部の圧迫感

  • かゆみを伴う皮膚の乾燥や原因不明の発疹

  • 頭痛、嗜眠、または集中力の低下

ビル関連疾患の診断

  • 病歴聴取と医師による評価

  • 建物または職場の評価

病歴聴取と臨床的評価

ビル関連疾患の診断は、患者の曝露歴と病歴聴取で得られた所見(症状の発症、タイミング、進行など)に基づいて下されます。薬剤使用、受診回数、および欠勤日数の増加が確認されます。

特定の建物や環境の中にいることとの関連が認められ、その環境から離れると改善する症状がある場合、その症状は重要な手がかりになります。喘息過敏性肺炎など、特定の疾患がないか評価する必要があります。

医師は患者に、自身の仕事と頻繁に訪れる職場以外の環境について、空間の広さ、労働者の数、換気状況、業務内容、潜在的な曝露源(粉塵、化学物質、ガス、洗剤、カビ、微生物など)などの点を含めて説明するよう求めます。医師はまた、症状の発症や悪化と一致していたかもしれない職場や業務工程の変化についても尋ねます。常にみられるとは限りませんが、同じ建物の中にいるほかの人にも同様の症状がみられる場合は、その症状がビル関連疾患の手がかりになることがあります。

建物または職場の評価

医師が建物または職場を評価することが、ビル関連疾患やビル関連症状の要因の特定に役立つことがあります。そのような評価は、水の浸入、カビ、粉塵、臭い、極端な温度などの潜在的な曝露の特定のほか、換気や新鮮な空気の取込みを含めた屋内環境の全体的な質の把握にも役立ちます。屋内環境に関する情報は、雇用主、過去の環境モニタリング報告、建物の使用歴(例えば、事務作業、小売業、製造業)、保守歴、改修歴、その他の利用者などから得られます。

カビなどの場合、空気中や物の表面の広範囲に及ぶサンプル採取は一般には必要なく、しばしば多額の費用がかかります。大半のビル関連疾患には、複数の曝露と不十分な換気が複合的に関連しています。

ビル関連疾患の治療

  • 診断された病態の治療

  • ビルの改善

それがビル関連疾患かどうかにかかわらず、診断された病態に応じた治療が行われます。必要に応じて、症状を緩和するための治療が行われます。例えば、熱を下げるための薬剤や、喘息を治療するための薬剤(気道を拡げる気管支拡張薬など)が処方されることがあります。

ビル関連症状やビル関連疾患を管理する上では、曝露の軽減とビル換気の最適化が中心的な対策になります。

米国では、環境保護庁(EPA)、疾病予防管理センター国立労働安全衛生研究所(CDC-NIOSH)、および各州の公衆衛生局のウェブサイトから、屋内の空気質に関して信頼できるガイダンスを入手することができます。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国環境保護庁(US Environmental Protection Agency):屋内空気汚染:医療専門職のための入門2022年10月27日。

  2. 米国環境保護庁(US Environmental Protection Agency):屋内の空気質。2023年8月1日。

  3. Wells R:米国疾病予防管理センター:NIOSHサイエンスブログ:屋内環境の質を評価するための多面的アプローチ。2009年4月9日。

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