腎臓に発生する腫瘍のうち、充実性の腫瘍(内部が組織で詰まっているもの)の大半ががんであるのに対して、内部に液体だけが詰まった腫瘍(嚢胞[のうほう])は多くが良性の(がんではない)腫瘍です。腎臓がんの大半は腎細胞がんと呼ばれるものです。ウィルムス腫瘍と呼ばれる別の種類の腎臓がんもあり、これは主に小児でみられます。
腎臓がんでは、血尿やわき腹(側腹部)の痛み、発熱などがみられます。
最も多いケースとしては、別の理由で行われた画像検査の際にがんが偶然発見されます。
診断はCT検査またはMRI検査によって下されます。
腎臓の摘出により生存率が高まり、がんが転移していなければ根治することもあります。
腎臓がんは成人のがんの約2~3%を占め、患者数は男性が女性の約1.5倍です。毎年、約76,080人が腎臓がんを新たに発症し、約13,780人が腎臓がんで死亡します(2021年の推定値)。また喫煙者では、腎臓がんの発生率が非喫煙者の約2倍高くなっています。その他の危険因子としては、毒性化学物質(アスベスト、カドミウム、皮革なめし剤、石油製品など)への曝露と肥満などがあります。また、透析を受けており嚢胞性腎疾患が生じている人や特定の遺伝性の病気(特にフォン・ヒッペル-リンドウ病[VHL]や結節性硬化症複合体)がある人も、腎臓がんのリスクが高くなっています。通常は50~70歳で発症します。
腎臓がんの症状
がんが他の臓器に広がる(転移する)か、極めて大きくなるまで症状が現れないことがあります。最初に現れる症状としては血尿が最も一般的ですが、血液の量がごくわずかなために顕微鏡で調べないと発見できない場合もあります。一方で、肉眼で分かるほどに尿が赤くなる場合もあります。血尿に次いで多くみられる症状は、側腹部(肋骨と腰の間)の痛み、発熱、体重減少です。まれに、医師が腹部の触診中に、腫れや腫瘤(しゅりゅう)を見つけ、腎臓がんの発見につながることがあります。そのほかに腎臓がんでみられる非特異的な症状として、疲労、体重減少、早期満腹感(少量の食事で満腹感を覚えること)などがあります。
赤血球の数が異常に増加して、赤血球増多症になることがあります。これは、腫瘍のある腎臓や腫瘍自体からエリスロポエチンと呼ばれるホルモンが分泌され、このホルモンの血中濃度が高まった結果、骨髄が刺激されて赤血球の生産量が増加するためです。赤血球数が増加しても症状が現れない場合もあれば、頭痛、疲労、めまい、視覚障害などがみられる場合もあります。一方、尿中への出血が徐々に生じることによって、腎臓がんから赤血球数の減少(貧血)につながる場合もあります。貧血が起きると、疲労しやすくなったり、めまいを起こしたりします。血液中のカルシウム濃度が上昇する場合もあり(高カルシウム血症)、筋力低下、疲労、反応の鈍化、便秘などがみられるようになります。血圧が上昇する場合もありますが、高血圧による症状がみられるとは限りません。
腎臓がんの診断
CTまたはMRI検査
ときに手術
ほとんどの腎臓がんは、高血圧などの別の問題に対して実施された画像検査(CT検査や超音波検査など)の際に偶然発見されています。症状から腎臓がんが疑われる場合には、診断を確定させるためにCT検査またはMRI検査が行われます。最初に超音波検査や排泄性尿路造影検査が行われることもありますが、診断の確定にはCTまたはMRI検査が必要です。
がんと診断された場合は、その他の画像検査(胸部X線検査、骨シンチグラフィー、頭部または胸部のCT検査など)と血液検査も行われ、転移の有無や転移した部位が調べられます。ただし、転移したばかりの病巣は発見できない場合があります。ときに、診断を確定するための手術が必要になることがあります。まれに、診断を確定するために、医師は腎臓の腫瘤の生検か、転移が懸念される体内の他の部分の生検を勧めることがあります。
腎臓がんの予後(経過の見通し)
予後(経過の見通し)には多くの要因が関係していますが、小さながんが腎臓にとどまっている場合の5年生存率は90%を超えています。がんが広がると、予後は非常に悪くなります。このような状況では、多くの場合、がんの広がりを抑えることと、痛みの緩和と快適さの向上が治療の目標になります(致死的な病気で生じる症状を参照)。その場合は、他の終末期の問題と同様に、事前指示書の作成など、終末期への対応を計画すること(終末期の法的または倫理的な課題を参照)が不可欠です。
腎臓がんの治療
手術
がんが腎臓の外に広がっていなければ、手術で腎臓を摘出することによって、ある程度の割合で治癒が見込まれます。あるいは、腫瘍組織とその周辺部の正常組織だけを切除して、腎臓の残りの部分を温存する手術法もあります。腎臓の腫瘤が非常に小さい(3センチメートル未満)か、病状が非常に重くて手術に耐えられない場合は、積極的サーベイランス(綿密なモニタリング)やアブレーション(放射線科医が腫瘤を焼くか凍結する手術)が選択肢となることがあります。
がんが腎静脈や大静脈(心臓につながる太い静脈)などの周辺部位に広がっていても、リンパ節や腎臓から離れた部位に転移していない場合には、手術による治癒の可能性が残されます。ただし、腎臓がんは早い段階で転移する傾向があり、特に肺への転移が多く、症状が現れる前にすでに転移している場合もあります。離れた部位に転移した腎臓がんの病巣は転移してすぐの時点では発見できない場合もあるため、発見できた腎臓がんの病巣を手術ですべて取り除いた後に、転移が明らかになることもあります。
手術で治癒が望めない場合は、他の治療法を用いることもできますが、その場合に治癒が得られることはまれです。一部の種類のがんでは、免疫系の機能を高めてがんを破壊させる治療法で病変を縮小し、生存期間を延ばすことができる場合があります(免疫療法を参照)。腎臓がんに対してときに使用される従来の免疫療法薬には、インターロイキン2やインターフェロンアルファ2bなどがあります。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる新しい免疫療法薬は、がん細胞上のPD-L1と呼ばれる分子(「チェックポイント」)を阻害します。PD-L1の作用により、がんは免疫系による検出(とその後の攻撃)を回避する手段を獲得することができます。免疫チェックポイント阻害薬を含めた多剤併用療法が可能になっています。それらは転移のある患者や、外科的切除後にがんの再発リスクが中程度か高いと判断された患者にとって、選択すべき治療法とされることがよくあります。
そのほかにも、腎臓がんの治療にはスニチニブ、ソラフェニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、ベバシズマブ、パゾパニブ、レンバチニブ、テムシロリムス、エベロリムスなどの薬が用いられることもあります。これらの薬を使用する治療法は、腫瘍に影響を及ぼす一連の分子の働きを変えることから、分子標的療法と呼ばれています。
他のインターロイキンの様々な組合せ、サリドマイド、さらには腎臓がんの組織から分離した細胞を原料として作られるワクチンなども研究されています。これらの治療法は、遠隔転移を起こした腎臓がんの治療に役立つ可能性がありますが、小さな効果しか得られないのが通常です。まれに(1%未満)、がんが発生した腎臓を摘出することで、体内の別の部位に転移した腫瘍が縮小することがあります。しかし、すでに遠隔転移を起こしている場合に、腫瘍の縮小がわずかに期待されるというだけでは、腎臓の摘出手術を行う理由として十分ではありません。ただし、広がったがんに対する全体的治療計画の一環として、他の治療とともに摘出手術が行われることはあります。