膵臓がん

執筆者:Minhhuyen Nguyen, MD, Fox Chase Cancer Center, Temple University
レビュー/改訂 2021年 3月
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やさしくわかる病気事典
  • 膵臓がんの危険因子としては、喫煙、慢性膵炎、男性であること、黒人であることがあるほか、長期の糖尿病も危険因子である可能性があります。

  • 典型的な症状は、腹痛、体重減少、黄疸、嘔吐などです。

  • 診断では、CT検査またはMRI検査に続いて超音波内視鏡検査を行います。

  • 膵臓がんは通常、死に至ります。

  • がんが転移していなければ、手術で根治できる可能性があります。

膵臓は上腹部にある臓器です。消化管に分泌される消化液を分泌しています。膵臓では、血糖の調節を助けるインスリンも分泌されます。膵臓の悪性腫瘍(がん)の約95%が腺がんです。腺がんは通常、膵管の粘膜にある腺細胞から発生します。そのほとんどが膵頭部、つまり小腸の最初の部分(十二指腸)に最も近い部分に発生します。

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米国では膵臓の腺がんが増加しており、年間57,600人が発症すると推定され、約47,050人が死亡しています。腺がんが50歳未満で発生することは通常ありません。診断時の平均年齢は55歳です。

膵臓がんの危険因子には以下のものがあります。

この腫瘍は、男性でほぼ2倍多くみられます。膵臓の腺がんは、喫煙者では非喫煙者の2~3倍多くみられます。同様に慢性膵炎の人もリスクが高くなります。膵臓がんの血縁者がいる人は、リスクが高い可能性があります。長期の糖尿病は危険因子である可能性があります。アルコールやカフェインの摂取は、危険因子ではないと考えられています。

まれなタイプの膵臓がん

膵臓の嚢胞腺がんはまれな膵臓がんで、嚢胞腺腫と呼ばれる液体の詰まった良性(がんではない)腫瘍から発生します。しばしば上腹部痛を起こし、腫瘍が大きくなって腹壁ごしに触診で分かるほどになる場合もあります。診断は通常、腹部の特殊なCT検査やMRI検査によって下されます。このがんで、手術をする前に腫瘍が転移している人はわずか20%です。このため嚢胞腺がんの予後は腺がんと比べてはるかに良好です。がんが転移しておらず、膵臓を手術で全摘出した場合の5年生存率は65%です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は、膵臓に発生するまれな種類の腫瘍で、主膵管の拡張、粘液の過剰分泌、繰り返し再発する膵炎、ときおり生じる痛みを特徴とします。CT検査やときに他の画像検査により診断が下されます。この種の腫瘍はがんに進行する可能性がありますが、診断検査ではこの腫瘍が良性か悪性か区別がつかないため、この腫瘍が疑われる場合は、すべての患者に手術を行うのが診断と治療における最善の方法となります。手術を受けた場合、良性腫瘍での5年生存率は95%を超えています。悪性腫瘍であった場合は、5年生存率は50~75%です。

膵臓がんの症状

膵体部や膵尾部(膵臓の中央部と十二指腸から遠い部分)の腺がんは、一般的にはがんが大きくなるまで症状が出ません。このため診断がついた時点では90%のケースですでに膵臓以外の部位に腫瘍が転移しています。最終的には、ほとんどの人で上腹部に重度の痛みが現れ、背中にも痛みを感じることがあります。体を前屈させたり、胎児のような姿勢をとることで痛みが軽減することがあります。体重減少がよくみられます。

膵臓がんの合併症

膵頭部にできた腫瘍により、胆汁(肝臓が分泌する消化液)が小腸に流れ込むのが妨げられることがあります( see page 胆嚢と胆管)。このため、胆汁の流れが妨げられることにより生じた黄疸(皮膚と白眼部分の黄色への変色)が典型的な初期症状となります。黄疸は全身のかゆみを伴い、これは胆汁酸塩の結晶が皮膚の下に沈着することで生じます。膵頭部のがんによって胃の内容物の小腸への流れが妨げられたり(幽門閉塞)、がんによって小腸が閉塞を起こしたりすると、嘔吐が起こることがあります。

膵体部や膵尾部に腺がんがあると、脾臓(血球を生成、監視、貯蔵、破壊する臓器)から流れる静脈が閉塞し、脾臓が腫大することがあります(脾腫)。閉塞により食道や胃の周囲の静脈に腫れや蛇行(静脈瘤)が起こることもあり、食道にできたものは食道静脈瘤と呼ばれます。このような静脈瘤が破裂すると、特に食道静脈瘤の場合は、大出血が生じます。

膵臓の特定の細胞は、血糖値の調節に不可欠なホルモンであるインスリンを分泌します。インスリンが不足すると、糖尿病になります。そのため、膵臓のがん細胞が正常な膵臓細胞と置き換わることによって、25~50%の人が糖尿病になり、頻繁な大量の排尿や強いのどの渇きなど、高血糖の症状が現れます。

膵臓がんでは、膵臓による消化酵素の分泌も妨げられ、食べものの分解と栄養素の吸収に問題が生じることがあります(吸収不良)。この吸収不良により、腹部膨満とガスの発生、水様性下痢、脂っぽい下痢、悪臭を放つ下痢がみられ、体重減少とビタミン欠乏症に至ります。

膵臓がんの診断

  • CT検査またはMRI/MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)検査に続けて超音波内視鏡検査

  • ときに生検

膵体部と膵尾部にできた腫瘍は、早期に診断することは困難です。これらのがんでは後期にならなければ症状が現れず、身体診察や血液検査では正常な場合が多いためです。膵臓の腺がんが疑われる場合に望ましい検査は、CT検査やMRCP検査という特殊なMRI検査(MRI検査を参照)です。通常は、これらの画像検査に続けて超音波内視鏡検査(先端に小型の超音波装置[プローブ]が付いた内視鏡を口から胃や小腸の最初の部分まで通します)を行います。その検査中には、内視鏡を通して組織のサンプルを採取することができます(生検)。

膵臓がんの診断を確定するには、医師がCTや超音波検査でがんの位置を確認しながら、皮膚から針を刺して膵臓の組織サンプルを採取し、それを顕微鏡で調べます(生検)。しかし、この方法では腫瘍を見逃すことがあります。膵臓から転移した肝臓がんを探す場合も、生検サンプルを採取するために同じアプローチが選択されることがあります。これらの検査の結果が正常でも、腺がんが強く疑われる場合には、手術を行って膵臓を評価することがあります。

このほかに内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査( see figure 内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査について理解する)も行われることがあります。また、血液検査も行われます。

膵臓がんの予後(経過の見通し)

膵臓の腺がんは、発見される前に体の他の部分へ転移していることが多いため、膵臓がんの予後は非常に悪くなります。膵臓の腺がん患者の診断後の5年生存率は2%未満です。

膵臓がんの治療

  • 手術

  • 化学療法や放射線療法

  • 痛み止め

手術は治癒を期待できる唯一の治療法ですが、手術を行えるのは、がんが広がっていない場合だけです。しかし、大半の症例では、診断がついた時点ですでに腫瘍が広がっています。手術をする場合は、膵臓だけを切除するか、膵臓と十二指腸(小腸の最初の部分)の一部を切除します。通常は化学療法と放射線療法も行います。これらの治療を受けた場合、約40%の人が2年以上生存し、25%の人が5年以上生存します。

胆汁の流れが妨げられている場合は、肝臓や胆嚢(たんのう)からの胆汁が流れる胆管の下部にステント(筒状の器具)を留置すると、一時的に流れが改善されることがあります。代替の治療方法として、流れが妨げられている部分を迂回する通路を手術で形成することもあります。例えば小腸に閉塞が生じた場合は、胃と閉塞部より下部の小腸をつないで迂回路を設けます。これらの処置でかゆみが軽減されない場合は、コレスチラミンを経口投与することがあります。

軽度の痛みはアスピリンやアセトアミノフェンで緩和できる場合があります。ほとんどの場合、コデイン、オキシコドン、モルヒネなどのより強力な鎮痛薬が必要になります。重度の痛みがある患者では、神経に鎮痛薬を注射して痛みの感覚を遮断することで、痛みを緩和することができます。

膵臓の消化酵素の不足は経口酵素製剤で治療できます。糖尿病が発生した場合には、インスリン治療が必要になることがあります。

膵臓の腺がんではほとんどの場合死に至るため、医師は通常、患者と家族、他の医療従事者と終末期のケアについてよく話し合っておきます(終末期の治療選択肢を参照)。

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